2 / 43
02 物騒な大神官
しおりを挟むあなたこそ誰ですか、なんて聞き返せる雰囲気ではない。
だいたい私は気が弱い。見ず知らずの男性、しかも冷たそうな美形相手にそんなに強気に出られるはずもない。
「お名前をお伺いしても?」
相変わらず冷たい笑みを浮かべて彼が言う。
誘拐でもされたのかと思ったけど、どうも違うみたい。
見知らぬ相手に自分の情報を与えるのは怖いけど、状況を把握するためにも仕方がない。
「私の名前は、桜井 織江……です」
「サクライ・オリエ……」
「織江が名で桜井が姓、です」
「……やはり、オリヴィアではないのか……」
彼が前髪をかき上げ、深くため息をつく。
「あの、状況を説明していただけませんか? ここはどこで、何が起きているのか、オリヴィアとは誰なのか……」
「……」
彼は鏡台の前に歩いて行って何かを手に取り、戻ってきた。
私に差し出したのは、手鏡。
私はおそるおそるそれを覗き込んで――愕然とした。
「だ、れ……?」
思わず声が漏れる。
鏡に映っているのは、自分じゃない。日本人ですらない。
ゆるく波打つ淡い金髪に、深い青色の瞳。日焼けとは無縁そうな白い肌に、ふんわりとした唇。
平凡だった顔は、かなりの美人になっていた。
この部屋に来るまでの間も、自分の体に大いに違和感を感じてはいた。
長い金髪に、いつもより高い視線。ガリガリだった腕は細いながらもほどよく女性的に肉がつき、揺れとは一切無縁だった胸もずっしりと重い。
何より、歩いても息切れしない。
だけど、信じられなかった。
自分が別人になっているなんて。
でもこうして鏡を見て、これ以上否定することなんてできない。
「あ、あの……私の姿、どうしてこうなっているのかご存じですか? どう見ても私じゃないんですけど」
「こちらが聞きたいところです。さて、あなたをどうしたものか」
白い手袋をはめた手で、口元を覆う。
そうすると、整った目元がさらに際立った。
私を見下ろすアイスブルーの瞳は、その色の名が表すとおり氷のように冷たい。そしてものすごく物騒な気配を感じる。
えっ、まさか私……殺される!?
「あなたの処遇を決めかねています。私に従うというのなら、状況を説明しましょう。その後も悪いようにはしません」
「わ、私がその提案を断ったら、こっ、ころっ、ころころ殺すんですか?」
「はぁ……あなたはオリヴィアとは真逆ですね。これでは選択肢を与えるだけ無駄かもしれません」
「ころころころ殺さないでください! なななんでも、なんでもしますぅ!」
「……ころころうるさいお嬢さん。少し黙っていただけますか」
彼の笑みが引きつって、さすがに黙る。
静寂の中、自分の心臓の音が聞こえるようだった。
「私も女神にお仕えする身。女性に酷いことをしたくはありません。ただ、あなたの身に起こっていることは、非常に重大なことなのです」
そう言って彼は私のすぐ横の背もたれに手を置く。
背筋が寒くなるような威圧感。
こんなに物騒な「女神にお仕えする人」がいていいものなの?
「私に、従いますか?」
見知らぬ場所。なぜか別人になっている自分。
理解できないこの状況下で、いかにも危なそうな人に無意味に逆らうことなんてできない。
私はこくこくとうなずいた。
「ありがとうございます。あなたが素直な方で助かりました」
彼がにっこりと笑う。
死ななくて済んだと思っていいのかな。
あーーもう、怖すぎるー!
120
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。
第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。
「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。
「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。
だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。
全43話+番外編です。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました
七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。
「お前は俺のものだろ?」
次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー!
※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。
※全60話程度で完結の予定です。
※いいね&お気に入り登録励みになります!
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました
さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。
裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。
「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。
恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……?
温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。
――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!?
胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる