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37 決着
しおりを挟む白い空間が、静寂に包まれる。
私が他人の体を奪っているという罪悪感を失ったせいなのか、体が浮き上がろうとする感覚はかなり弱くなっていた。
やっぱり、精神状態が強く影響するらしい。
オリヴィアが忌々しげに舌打ちする。
私をにらみつける彼女は、まるで悪魔のよう。
「やはりすべてリディーアの仕業か」
リディーア?
女神様のこと?
女神様が、何か……。
「この世界から私の魂に適合する体がどんどんなくなっていったのも。ようやく合う体を見つけたかと思えば、憎きリディーアの祝福を受けた聖女だったのも。ただの聖女のはずが肉体だけでなく魂にまで神力を持ち、時空渡りの力すら持っていたのも、すべては……!」
何を言っているの?
適合する体が、なくなっていった?
もしかして、私の体だけなく「おかあさま」の体すら、奪ったものだった……?
この人は一体何度体を取り換えているの!?
――人間じゃない。
こんなことをできる人が、人間であるはずがない。
「体が二度仮死状態になれば、私の魂を徐々に蝕んでいった忌々しいリディーアの神力は完全に消える。神にも近い聖女の体は、偽物であるお前の魂をひと月もしないうちにはじき出すはずだった。そうでなくても、私が簡単に追い出せるはずだったのだがなぁ」
最後の日記を読んだ瞬間、この人の魂が私の中に入ってきた。
ということは、交換日記をすることで私と彼女になんらかの「つながり」ができたか、あるいは日記が道しるべになったのか。
いずれにしろ、日記は私の様子を探りつつ、私が自然に死なない場合に備えてのものだったのだろう。
情報を小出しにして何度もやりとりするように仕向け、ついでに唯一頼れる存在であるルシアンを疑わせて私の心が弱るようにした。
「はっ……どうりで聖女の体に適合率が高いわけだ。一度適合率の低い適当な魂で試すべきだったな。まさか私が殺したはずの聖女の魂が日本に逃げていたとは」
聖女の体が私の魂をはじき出すどころか、徐々に馴染んで神力を取り戻していったのは、もともと私の体だったから。
やっぱり私が、オリヴィアだった。
織江の体があんなにも弱かったのは……おそらく聖女の魂に体が耐えられなかったんだろう。
体と魂の適合率というのも、高くはなかったのだと思う。
「あぁ、すべてが忌々しい。リディーアもお前もルシアンも不快極まりない。だが未熟なお前など私の敵ではない。……消えるがいい」
彼女が私に向かって手を伸ばす。
先ほどとは違って、体が浮き上がるというよりは強制的に上へと吸い出されるような感覚があった。
「くっ、あぁ……っ!」
「消えろ、消えろ!」
だめだ、このままだと負けてしまいそう。
私を支えるルシアンの力も弱まっている。
『オリヴィア』
私を呼ぶルシアンの声がまた聞こえる。
もしかして、私を排除するために力を割いたせいで音声遮断の力が消えた?
『オリヴィア……行くな』
初めて聞く、苦しそうなルシアンの声。
『生きるといったでしょう。オリヴィアとして生きると。自分の人生を生きたいと』
そうだ、私は。
今度こそ生きるって決めたんだ。
もう借り物の人生だと後ろめたく思う必要もない。堂々と生きていきたい!
そう強く願うと、また少し持ち直した。
『オリヴィア。一瞬でいい、耐えてください。そして私と息を合わせるんです。その女を、追い出します』
よくわからないまま、うなずく。
それが通じたのか、私を支える感触がふっと消えた。
再び吸い出されそうになる。
「くぅっ……!」
「その体は私のものだ! 戻ったら、手始めにルシアンをなぶり殺してやるわ!」
その言葉に、怒りが全身を支配する。
「そんな……こと、させない。消えるのはあなただ!」
力の使い方なんてわからない。
でも、ただ願った。
ここから出て行けと。
彼女の顔が苦痛に歪む。
「くっ、生意気な、……!?」
そして彼女がふわりと宙に浮いた。
「なに!? ルシアン、よくも……!」
「この体は、私、聖女オリヴィアのもの。偽物は出て行って!」
とにかく、出て行けとひたすら念じる。
彼女の体がどんどんと浮いていった。
「おのれぇぇ……! 憎きリディーアの娘めがぁぁ……!」
その言葉を最後に。
彼女は「空」に吸い込まれ、消えた。
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