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鬼雨ノ正体
浅草
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藤と玖賀は傘をさして、浅草を練り歩く。依然、雨脚は変わらない。酷く、強くなる一方だった。
「誰も歩いてないな」
藤は遠くを見る。いつもなら浅草は人で溢れかえっている時間帯だ。不気味な雨のせいか、昼間だと言うのに人っ子一人も歩いていなかった。空はどんよりとした灰色の雲で覆われているため、夜のように暗い。街灯の灯りは点いていなかった。
「私は気軽に歩けていいのだがな」
玖賀は鬼の姿で堂々と浅草を歩いていた。人混みもなく静かだからか、街を歩いても平気なようだ。
「あれは……」
ぼんやりと人影が見える。
「この雨の中、出歩く人がいるとは……怪しいな」
藤は警戒しながら近づいた。
「ああ、そうだな」
玖賀も藤と同じように警戒をしている。
「見たことある……」
どこか、見覚えがある人影。近づけば、和傘をさした深浦さんがいた。
「やあ、藤。君たちも鬼雨の調査かい?」
深浦は藤に笑いかける。
「ええ、駆り出されました」
藤は軽く笑い、立ち止まった。玖賀は気にくわなさそうに、藤の隣に立ち止まる。
「なんだろうね、この雨は」
深浦は手をお椀状にして、赤く染まった雨水を手のひらに溜めた。
「なんでしょうね、僕も玖賀もサッパリわかりません」
藤は首を傾げる。玖賀は異能を使ったが何も言わないし、ただただ襲われ損だ。
「陰陽寮じゃ、大騒ぎだよ。神様の罰とまで騒いでいる奴らもいる」
深浦はどこか楽しげに見えた。その感情に藤は違和感を覚える。
「神様……?」
深浦の口から出てくると思わなかった。陰陽寮に配属しているならば、異能の所為にするはずなのに。神様だなんて、迷信じみた反応をする人とは思わなかった。
「ああ、天から恵みの雨が血のように赤いんだ。神の御技と思っても仕方がないだろう」
玖賀といると普通の感覚が狂わされる。陰陽寮でも神様の仕業と思うぐらい異能が力を持ち始めたということか。
玖賀の異能は、光流の館から逃げた晩以来見ていない。藤は陰陽寮に玖賀が雷雨を引き起こしたことを報告していなかった。
「それじゃあ、私はもう行くね。用事があって街を歩いていたんだ」
深浦は話を切り上げるように、和傘を藤と玖賀に向けた。
「呼び止めてすみません、できるだけ早く原因を突き止めます」
藤は上司でもある深浦に向かって頭を下げる。玖賀は頭を下げず深浦を見ていた。
「調査がんばってね」
深浦は振り返ることなく、血の雨が降り注ぐ闇へと消えた。
「鬼雨を降らせているのはあいつだぞ」
深浦が見えなくなった時点で、玖賀はぼそりと呟いた。
「珍しいな、玖賀が空気を読むなんて。可笑しな雨が降るのも仕方がない」
藤は冗談交じりに笑った。前までの玖賀なら本人を目の前にして言っていたはず。ある程度、藤との生活で道徳を取り戻したのかもしれない。
「私じゃないと言っているだろう」
玖賀は不機嫌そうに怒る。
「わかってるって」
こうした反応が返ってくることを藤はわかっていた。
「でも、どうして陰陽師が異能を持っているんだ?」
異能を持てるのはセンチネルという種属だけ。陰陽師は持てない。
「そりゃ、鬼と契約したに決まってる」
玖賀はフンと鼻を鳴らして言った。
「鬼と契約? そうすれば異能になれるのか。僕が異能を持ったら何の異能を持てるんだろう?」
藤は腕を組んで考えた。
「藤はそもそも異能を持てないだろう」
玖賀は軽く溜め息をつく。
「深浦さんは陰陽師でも……いや、違うな。僕のような陰陽師じゃないって言っていた」
藤は過去を思い返す。正義感が強く、陰陽寮のために力を発揮したいと思う人だ。それなのになぜ、こんなことを……。
「ますます怪しくなってくるな」
玖賀は完全に深浦を疑っていた。だが、藤は可能性を少しでも下げたい。苦手とはいえ、同じ組織の仲間を疑いたくはなかった。
「じゃあ、誰が何のために異能を深浦さんに渡したんだろう?」
「誰も歩いてないな」
藤は遠くを見る。いつもなら浅草は人で溢れかえっている時間帯だ。不気味な雨のせいか、昼間だと言うのに人っ子一人も歩いていなかった。空はどんよりとした灰色の雲で覆われているため、夜のように暗い。街灯の灯りは点いていなかった。
「私は気軽に歩けていいのだがな」
玖賀は鬼の姿で堂々と浅草を歩いていた。人混みもなく静かだからか、街を歩いても平気なようだ。
「あれは……」
ぼんやりと人影が見える。
「この雨の中、出歩く人がいるとは……怪しいな」
藤は警戒しながら近づいた。
「ああ、そうだな」
玖賀も藤と同じように警戒をしている。
「見たことある……」
どこか、見覚えがある人影。近づけば、和傘をさした深浦さんがいた。
「やあ、藤。君たちも鬼雨の調査かい?」
深浦は藤に笑いかける。
「ええ、駆り出されました」
藤は軽く笑い、立ち止まった。玖賀は気にくわなさそうに、藤の隣に立ち止まる。
「なんだろうね、この雨は」
深浦は手をお椀状にして、赤く染まった雨水を手のひらに溜めた。
「なんでしょうね、僕も玖賀もサッパリわかりません」
藤は首を傾げる。玖賀は異能を使ったが何も言わないし、ただただ襲われ損だ。
「陰陽寮じゃ、大騒ぎだよ。神様の罰とまで騒いでいる奴らもいる」
深浦はどこか楽しげに見えた。その感情に藤は違和感を覚える。
「神様……?」
深浦の口から出てくると思わなかった。陰陽寮に配属しているならば、異能の所為にするはずなのに。神様だなんて、迷信じみた反応をする人とは思わなかった。
「ああ、天から恵みの雨が血のように赤いんだ。神の御技と思っても仕方がないだろう」
玖賀といると普通の感覚が狂わされる。陰陽寮でも神様の仕業と思うぐらい異能が力を持ち始めたということか。
玖賀の異能は、光流の館から逃げた晩以来見ていない。藤は陰陽寮に玖賀が雷雨を引き起こしたことを報告していなかった。
「それじゃあ、私はもう行くね。用事があって街を歩いていたんだ」
深浦は話を切り上げるように、和傘を藤と玖賀に向けた。
「呼び止めてすみません、できるだけ早く原因を突き止めます」
藤は上司でもある深浦に向かって頭を下げる。玖賀は頭を下げず深浦を見ていた。
「調査がんばってね」
深浦は振り返ることなく、血の雨が降り注ぐ闇へと消えた。
「鬼雨を降らせているのはあいつだぞ」
深浦が見えなくなった時点で、玖賀はぼそりと呟いた。
「珍しいな、玖賀が空気を読むなんて。可笑しな雨が降るのも仕方がない」
藤は冗談交じりに笑った。前までの玖賀なら本人を目の前にして言っていたはず。ある程度、藤との生活で道徳を取り戻したのかもしれない。
「私じゃないと言っているだろう」
玖賀は不機嫌そうに怒る。
「わかってるって」
こうした反応が返ってくることを藤はわかっていた。
「でも、どうして陰陽師が異能を持っているんだ?」
異能を持てるのはセンチネルという種属だけ。陰陽師は持てない。
「そりゃ、鬼と契約したに決まってる」
玖賀はフンと鼻を鳴らして言った。
「鬼と契約? そうすれば異能になれるのか。僕が異能を持ったら何の異能を持てるんだろう?」
藤は腕を組んで考えた。
「藤はそもそも異能を持てないだろう」
玖賀は軽く溜め息をつく。
「深浦さんは陰陽師でも……いや、違うな。僕のような陰陽師じゃないって言っていた」
藤は過去を思い返す。正義感が強く、陰陽寮のために力を発揮したいと思う人だ。それなのになぜ、こんなことを……。
「ますます怪しくなってくるな」
玖賀は完全に深浦を疑っていた。だが、藤は可能性を少しでも下げたい。苦手とはいえ、同じ組織の仲間を疑いたくはなかった。
「じゃあ、誰が何のために異能を深浦さんに渡したんだろう?」
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