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第2話 能力検査

【語り部:五味空気】(10)――「貴方はいつ、どこで、この男に撃たれたっていうんですか」

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「……うん?」
 なんとはなしに三件目の写真を眺めていると、あることに気がついた。
 五人分の死体。
 二月の深夜。
 肺が凍ってしまいそうなほどの冷え込み。
 頭の中がざわつく。
 この中の一人の顔に、どうして見覚えがあるのだろう。
「なにか思い出しましたか?」
 さすがに目敏い。少女は射抜くような瞳で訊いてきた。
「いや、なんでも――うっぐ!」
 適当に誤魔化そうとした途端、凄まじい威力で首を絞められた。ああくそ、そうだった。俺には首に枷をはめられているんだ、嘘なんて吐けるはずがない。
「げほっ……、ごめん、今のなし」
 首の拘束が緩くなったところで、左手を顔の前で垂直に立て、謝罪のポーズをとる。じと目でこちらを見遣る少女の言いたいことは、声に出さずともひしひし伝わってきていた。
「こいつらには見覚えがある。俺はこいつに、撃たれたことがある」
 正確に言えば、見覚えがあるのは一人の男の顔だった。
 原形を留めていない死体の中で唯一、五体満足の男――そいつは、今朝方みた夢の中で俺を殺した男に違いなかった。今にも活動停止しそうな身体を引き摺って、銃を乱射したのだ。そのうちの一発が奇跡的に当たって、俺は死んだ。
「でもこれ、この間の写真だよね?」
「は?」
 少女は訝しげな表情を浮かべた。この間、という表現が通じていないのだろうか。
「ほら、君と俺とが初めて会った日のことだよ。この写真は、そのときのやつなんでしょ?」
 今の俺にある記憶はごく僅かだ。夢で再現される記憶があるとすれば、あの路地裏か、この地下牢以外には考えられない。俺が写真の男に見覚えがあるのは、恐らくそれが理由だ。記憶を失う直前に撃たれていて、それがフラッシュバックでもしたのだろう。
 そうだ、そうに決まっている。きっと少女は適当なことを言って、俺を試しているのだ。本当に記憶が持続しているのかどうかを。
「私の話、きちんと聞いていましたか? 三件目の写真――これは二月頃のものですよ。今から二ヶ月ほど前のことです」
 しかし少女は、本当に気味の悪いものを見るように言う。
「ドクターの話では、貴方の身体には背中の傷以外、傷跡のようなものは一切なかったそうです」
 傷跡はない。
 残るわけがない。
 だって、だっておれは――
「貴方はいつ、どこで、この男に撃たれたっていうんですか」
「俺は……でも、夢で、確かに……」
 あの感覚が、単なる夢で片づけられるようなものだっただろうか。いや、あれほどに生々しい映像が、痛みが、ただの夢だなんて、信じられるわけがない。あれは記憶のリプレイだ。確かに一度、俺はあの痛みを経験している。
 だけど、あの痛みが本物なのだとしたら。
 夢ではなく現実で起きたことなのだとしたら。
「――だとしたら俺は、一度死んでることになる」
 死んだはずなのに生きている。
 生きているのに死んだはず。
 じゃあ今、ここに居る俺はなんだ?
「俺は、誰なんだ……?」
 零れるようにして出た言葉に、少女は、そんなの私のほうこそ知りたいです、と、淡々と答えた。
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