異世界転生したのに最底辺のおっさん、スキルが覚醒してアラサーから成り上がる〜スキル『シャドウマスター』で無双ライフを送ります〜

フユリカス

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21.同じ考え

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 ギルドの喧騒が、扉の外にまで聞こえてくる。
 昨日のマークとの再会のせいで、正直、気分が重かった。
 俺が村を出る少し前から俺に対する態度は酷くなっていたが、今はまるで別人のようだった。
 俺は、マークとの決闘に複雑な思いを抱えながら、ギルドの扉を開けた。

「遅ぇぞ! シェイド!」

 ギルドに入ると、入り口付近で待ち構えていたマークが大声で怒鳴った。
 その声は、ギルド内に響き渡り、周囲の冒険者たちの視線が集まる。
 俺はそんなマークを見て、皮肉交じりに言った。

「寝坊ばっかりだったマークが、ずいぶん早起きになったじゃないか。あまり眠れなかったか?」

「ああ、テメェをブチのめせると思うと楽しみでなぁ……!」

 こいつ……。
 俺は嫌な笑みを浮かべるマークに、小さくため息をついた。

「しばらく会わない間に、ずいぶんと悪い趣味になったもんだ」

「ふんっ、口の減らねぇヤツだ。すぐにその生意気な口を利けないようにしてやる。――訓練場は借りてある。付いて来い」

 マークはそう言うと、スタスタと歩き出した。
 俺はエリスとピシカに視線を向け、小さく頷いた。
 3人でマークの後をついていく。

 ギルドの裏手には、訓練場があった。
 街中にあるためか、それほど広くはなく、周囲を建物に囲まれている。
 俺は初めて訪れる王都の訓練場をキョロキョロと見回し、

「……これだけ大きなギルドなのに、人がいないんだな」

 と感想を漏らした。
 その言葉に、マークは鼻で笑って答えた。

「こんなとこを使うのは新人くらいなもんだからな。今回は貸し切りだから、俺たち以外はいねぇ」

「……そうか」

 俺はそれだけ言うと、訓練場の様子を改めて観察し始めた。
 壁には大小様々な武器が掛けられており、床には訓練用の藁人形が転がっている。
 空気は埃っぽく、かすかに汗の匂いが混じっていた。

「んで、武器は何使うんだ?」

 マークの問に、俺は答える。

「知ってるだろ? 俺はスキルで戦うからいらない」

「あぁ? あの黒い影に下手くそな踊りでもさせるつもりか?」

 マークは俺のスキルを嘲笑った。
 だが、俺はその安い挑発に乗ることなく、冷静に答えた。

「少し前の俺だったらそうかもな」

「シェイドさん……」

 エリスが心配そうに俺を見てくる。
 俺はエリスに微笑んで、

「エリス、大丈夫だ」

 と、安心させた。
 ピシカは黙って俺たちの様子を見ていた。

「シェイド、気付いてる?」

「ああ、問題ない。何かあっても必ず守る」

 ピシカに力強く答えると、満足そうに頷いた。

「おい、始めるぞ!」

 マークがそう言うと、訓練場の中央で向き合った。
 俺たちの間に緊張が走る。
 エリスとピシカは、訓練場の端で見守っていた。

「いくぞ!」

 マークが叫ぶと同時に、俺は影を地面に伸ばし、鞭のように操ってマークの足元を絡め取ろうとした。

「――チッ! 《シールドブロック》!」

 マークはそれを、盾のスキルで防御した。
 俺の影は盾に阻まれ、地面に叩きつけられる。

「おらァ! 《レイジスラッシュ》ッ!!」

 マークがその場で下から斬り上げると、赤い斬撃が地を這うように俺に向かってくる。
 俺は冷静にそれを観察し、

「――《シャドウブレイド》」

 と呟き、右手に漆黒の剣を創り出す。
 ……うん、完全に厨二病だな。
 たが、これこそがあの時俺の求めていたものだから、恥ずかしさよりも嬉しさのほうが強い。

「何ニヤニヤしてやがるッ!!」

「まあ……こっちにもいろいろあるんだよッ!」

 俺は《シャドウブレイド》でマークの斬撃を受け止めると、

 ズガガガガガガッ!!

 と、激しい音が訓練場に響き渡る。
 俺の剣はマークの斬撃を押し返す。
 だが――、

「――もらった!」

 マークは《レイジスラッシュ》と同時に距離を詰めており、剣を俺に向けて振り下ろす。
 その瞬間、

「――『シャドウ』」

 俺がそう呼ぶと、マークの横に突如として『シャドウ』が現れる。
 そして――、

「ぐふっ!?」

『シャドウ』は、迷うことなくマークの顔面に強烈なパンチを叩き込んだ。
 マークは衝撃で吹き飛ばされ、訓練場の壁に激突した。

「な、なんだそれは!?」

 マークは、驚きと痛みで顔を歪めた。
 俺はそんなマークに、涼しい顔で答える。

「知ってるだろ? 『シャドウ』だよ」

「あの時の木偶の坊が、こんな……!?」

 マークはまだ状況を理解できていないようだった。
 俺は追撃の手を緩めず、『シャドウ』にさらなる攻撃を指示する。
『シャドウ』は高速で移動し、マークに襲いかかった。
 マークは盾で防御しようとするが、『シャドウ』の攻撃は速すぎてまったく追いつかない。
 マークは防戦一方になり、次第に追い詰められていった。

「ぐぁ……ッ! ――ひ、卑怯だぞシェイド! スキルだけ使って!!」

「それが『シャドウマスター』の本当の力だ。文句があるなら、お前もスキルを使えばいい」

 マークの非難に俺が冷たく答えると、見るからに苛立ちを募らせた。

「――くっ……!!」

『シャドウ』が盾を弾き飛ばし、完全に無防備な状態になった。
 俺が勝負を決めようとしたその時――、

「――やれッ!」

 と、マークが叫んだ。
 すると、四方から《ファイアアロー》と弓矢が飛んできた。
 どうやら周りの建物からのようだ。

「――《シャドウバリア》!」

 俺は咄嗟にドーム型の影を展開し、飛んでくる《ファイアアロー》と矢をすべて防いだ。
 それを見たマークは、唖然と立ち尽くす。
 当然、俺はそんな隙を逃すつもりはないので、『シャドウ』にマークを掴ませ、目の前に投げ飛ばさせた。

「ぐぇッ!?」

 マークが地面に叩きつけられ、呻き声を上げる。
 俺は、《シャドウブレイド》の黒い剣先をマークの喉元に突きつけ、

「俺の勝ちだな」

 と、静かに宣言した。

「ぐっ……クソがッ!」

 マークは悔しそうに顔を歪め、仲間たちに抱えられる。

「これで終わったと思うなよ……ッ!!」

 と、捨て台詞を残し、その場を後にしようとする。
 俺はそんなマークの後ろから声を掛ける。

「お前の言った『スキルがすべてじゃない』ってやつだがな……それについては俺も同じ考えだよ。信じてもらえないかもしれんが」

 マークはそれには何も答えず、去っていった。

「シェイドさん、大丈夫ですか?」

 エリスが心配そうに駆け寄ってくる。

「ああ、大丈夫だ。心配かけてすまない」

 俺はそう言って、エリスに微笑む。

「さっすが、シェイド! 楽勝だったね! アイツラの企みにも気づいてたの?」

「ああ、ギルドで見かけた痩せ型の男がいなかったからな。これだけ周りが建物に囲まれてれば、何かしらあるだろうとは踏んでたよ」

「おー、さすが伊達に年は重ねてないねぇ」

「そこは、『経験』とでも言ってくれ」

 ピシカのからかい半分の言葉に、俺は苦笑いする。

 とにかく、これで過去の因縁に決着をつけれればよかったが、マークのあの感じではまだ何かありそうだ。
 だが、俺はもうエリスやピシカと前に進むことに決めた。
 それを邪魔してくるのが旧友だとしても、俺は立ち止まるわけには行かない。

 俺はマークが去った方向を、じっと見続けた――。
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