シュガーポットに食べかけの子守唄

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6章

アリスの戦い方

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1.
ミズキを抱き抱え、僕は湖の上空を飛ぶ。空を飛ぶのは船に比べて格段にスピードが出るし、ミズキの身体は軽かった。
アマネの時とは違って、ミズキは僕が両腕で抱える形になっている。つまりは身体が密着していて、ミズキ自身も僕の首に腕を回してしがみついているわけで、なんなら彼女の顔が僕の眼前にある。彼女の身体は柔らかいし、鼻先に当たりそうな彼女の長いまつ毛に僕は思わず緊張してしまう。
こんなに身を寄せあっても、彼女は嫌な顔をしたりはしない。むしろ、熱くすら感じる彼女の体温は僕への好意で成り立っている気がした。
でも、ミズキは彼氏いるんだよなあ。あえて意識しないようにしているのに、ことあるごとにその事実が頭を通過していく。ミズキの彼氏ってどんな人なんだろうなあ。負ける気しかしないんだよなあ…。
ミズキは長くて密度の高いまつ毛の下にある目を伏せていて、どこを見ているのか分からなかったが、彼女が意地でも僕の顔を見ようとしないのが、何となく照れからきているのだろうということは分かった。この部分だけ切り抜けば、僕らは付き合っていてもおかしくないような気もするのに、なんだか悔しい。
そうやって悔しがる気持ちの一方で、何となく別の意味で彼女をこれ以上好きになりたくないと思う自分がいた。
伏せ目がちの長いまつげに縁取られた瞳。僕は何故か、その目を長い時間見つめることが出来ずにいる。
何故なのだろう。僕が抱く彼女への感情は恋ではないのか。それとも、恋だと認識したくないのか。脳がそれ以上を考えようとすると、いつも拒絶するように痛みを発するのだ。
「…そういえば、言うタイミングを逃しちゃってたんだけど、アスカにまたこんな翼が生えたんだね。大きなコウモリみたいで、前にも増してかっこいい!推せる!」
「推せるってアイドルじゃないんだから」
前にも増してなんて、今このタイミングで言われると照れくさい。僕はちょっと得意げになってしまうが、鼻の穴が広がったりしないように平静を装いながら笑みを作る。
どうにも彼女の褒め言葉だけはすんなりと受け入れられてしまうものだから、褒められた子供のようなリアクションを返してしまいがちだ。気を付けないと。僕だってこれでも一応はスマートな男性を目指しているのだ。
「化け物みたいでいい感じ?」
「モンスターはかっこいいんだよ!」
茶化すように笑うと、ミズキは少し興奮したように声を大きくする。
この調子なら、僕に目玉や口や手が増えて、もっと醜い化け物になっても、彼女はかっこいいと言ってくれそうだ。
「この翼、実はミズキが生み出したコウモリくんなんだよ」
僕の翼は彼女との別れ際にコウモリがくれたものだ。もちもちと、まるまるとしたあの可愛らしいコウモリが、僕にこうして力をくれている。会えないのが今も寂しい。
僕の話を聞いていたミズキは僕の腕に抱かれたまま僕を見上げて目を開いたが、それは驚きとかではなく、閃きのようなニュアンスが見て取れた。
「そうだったんだ!コウモリくんがアスカの力になれたらいいなって思っていたから、言われてみるとちょっと納得しちゃったかも。どこに旅立ってしまったのかなって思ってたんだけど、ずっとコウモリくんはアスカの傍にいたんだね」
彼女の水色の瞳がどこか懐かしむように弧を描く。そうやって聞くと、あのコウモリはなるべくして僕の翼になったのかもしれない。
「あのもちもちしてて、ちょっとふてぶてしいコウモリくんに会えないのは寂しいけどね」
「んー…でも、私が作ったコウモリでしょ?多分、元の形に戻そうと思えば戻せる気がする。今やったら落ちちゃうけどね」
ミズキの言葉に僕は衝撃を受ける。それが顔に出ていたのか、ミズキは口を開けて笑った。
いや、でも言われてみればそれもそうだ。生みの親が目の前にいるのだ。会おうと思えばいつでもまた会えるのかもしれない。
今は帽子屋やら作者やらの対策でそれどころではないが、僕がいつか現実に帰る前にはもう一度くらい顔を見たいものだ。
「あっ、そうだ!私、自分の配役も分かって、見た目も変わったでしょ?だから、ちょっと強くなったんだよ!」
思い出したようにミズキが手を叩く。
「強く?能力が?」
飛行したまま尋ねると、ミズキはこくこくと頷く。
「そうなんだ。紙と絵の具が必要なくなって、ペンだけあれば空中でも描けるようになったの!だから、もう大荷物しないでも、描いたものを生み出せるよ。こんな感じで!」
そう言ってミズキがポケットからペンを取り出し、サラサラとそれを宙に走らせる。少ない線で素早く描かれた林檎がその場で生成され、彼女の手の中に現れる。
絵の具も紙もないまま描かれた林檎は今まで通りの可愛らしいフォルムをしているが、色は今までの中でも特に美しいグラデーションで描かれていて、繊細な色合いだ。
「凄い!前にも増して綺麗になったね!」
「結局、配役はアリスだったから髪の毛くらいしか、身体に変化はなかったのは残念なんだけどね」
手を叩いて感動を表したいところだが、今ここで手を叩いたらミズキが落ちてしまう。それでも、僕の感想が嬉しかったのかミズキは照れたように笑った。
ジャバウォックである僕の能力が想像力に依存した武器の生成と火力だ。そう考えると、アリスとして成長した彼女の能力も、やはり発想やイメージに依存した創造なのかもしれない。だとすれば、画材をほとんど介さずに出てくる彼女の創造物のクオリティは必然と上がってくるのだろう。彼女の念願の身体的特徴はなかったようだが、能力だけで言えばチート級だ。
そもそも、ここは夢の世界。アリスと、この世界にいる人々は気持ちや希望を持ち寄ってここにいる。想像力はこの世界では何よりも大事なものであることは間違いないだろう。
「アスカがいない間に、フロージィさんや双子ちゃんたちにアリスがどういう風にこの世界を創ったのかを詳しく聞けて…今の私にはその時の記憶はないけど、筆も使わずに頭で思い描いたものを創れたって聞いたの。なら、アスカと同じで、頭の中でしっかり思い描けばできるのかなって練習したんだ」
僕の腕の中でミズキはそう言うと、微笑んだまま再び目を伏せた。
「フロージィさんの言葉通りなら、記憶は私が強く願えばいつでも返ってくるんだよね。でも、今から三月兎さんやチェシャ猫さんを助けに行くから、その後にした方がいいのか悩んでる。思い出せたら、この世界を造り変えられるくらいの能力が戻るのかもしれないけど…あくまで可能性だし」
僕は進行方向を見つめたまま彼女の話に唸る。
確かに難しい話だ。記憶を思い出せば、この世界で最盛期だった彼女の力が手に入るのかもしれない。
しかし、忘れていた数年分の記憶を、それも自分にとって辛い記憶ばかりを吸収しなくてはならないのだ。それによる彼女の心の負担は間違いなく大きい。
「…せっかくタイミングが選べるんだから、今すぐでなくても良いような気がする。あくまで僕の意見だから、ミズキが決めるものだけど、帽子屋の能力についてはまだまだ分からないことだらけだから、出来たらミズキのバックアップがあると、僕は嬉しいかな…」
せっかく彼女が腹をくくろうとしてくれているのを引き止めるようで申し訳ないが、僕の口から出たのは全部本音だった。
今から僕らは、イディオットを殺す未来がほぼ確定している帽子屋を止めに行くのだ。その未来を事前に知った上で対策を練っても、現段階に至るまでに未来の変更は難しいのだと思う。
それに立ち向かうにあたって、ミズキがいるならば力を貸して欲しい。不安定な最高火力より、安定した彼女の力の方が、僕の気持ちだけで言えば安心感があった。
ミズキは僕を見上げ、困ったように眉根を寄せて笑った。
「そっか…うん。なら、実際に帽子屋さんがどう動くのかを見て、最終手段として必要なら思い出す方向にしてみようかな。とりあえずは、落ち着くまでこのままで」
「うん、その方が僕は助かる。ありがとう」
僕も笑って礼を述べると、彼女ははにかんだまま僕が向いている進行方向へと視線を戻した。
「ジャッジさんも大丈夫かな…ルイス・キャロルって不思議の国のアリスの原作者の名前だけど、誰なんだろう」
ミズキの疑問は最もだ。僕もそれについては色々考えた。
「僕の憶測でしかないんだけど、作者って配役があったりしないのかな」
「作者?」
僕の疑問にミズキは首を傾げる。そんな彼女に僕は話を続けた。
「まず、作者について話す前に聞いておきたい疑問なんだけど、そもそもミズキは実際にこの世界に人を閉じ込めているような感覚や、閉じたままの門の開き方は知っているの?」
この世界から帰るための門はフロージィの城の裏手にあるのだと言う。僕はまだ実際に見たことがないが、前に城に滞在していた時にフロージィが「別に隠してるわけではないので、いつでも見せることは出来る」と言っていた。双子がそばに居たので、それは間違いないだろう。
「ミズキが門を開ける力を持っているのだとしたら、いつでも開けるんじゃないかなって思ったんだけど」
「分からない…記憶がないからなのかもしれないけど。でも、よく考えるとおかしくない?」
「おかしい?」
ミズキの言うことが理解できずに僕は顔をしかめる。ミズキは僕の顔を見ないまま、口元に片手を当てて宙を仰いだ。
「フロージィさんの話では、この世界には最初はお茶会広場しかなかったはずでしょう?なのに、門は後から出来たフロージィさんの城の裏手にある。傍に双子ちゃんがいたから、彼女の言葉に偽りはないはずだけど…なんか、アスカが話していたフロージィさんと三月兎さんの食い違う証言に良く似てると思わない?」
そこまで言われて、僕は目を丸くする。確かにおかしな話だ。お茶会広場しかなかったのであれば、門はその傍にあってもおかしくはない。
「私の眠ったままの記憶の中に、もしかしたら誰も帰したくないからって私が門を移動させた歴史があるのかもしれないけど…そもそも、私だったらこの世界をこんな風に創るのかなって最近思うの。私、すごく人見知りだから、本音を言えば仲良しの人以外はいない方が気楽。なのに、わざわざ知らない人を閉じ込めたりするのかな…」
「ミズキが知らない人を閉じ込めるのに違和感は、僕も感じてたんだ」
彼女に僕は深く頷く。そう、ずっと感じていたんだ。彼女と旅をしてきて、僕と2人きりの楽園を強く望んでいたミズキ。彼女がアリスであり、閉じた世界を自在に操れるならば、何故こんなに大勢を世界に閉じ込めたんだろうか。
当時のミズキの考えを実現するとしたら、僕以外の人々を帰して2人きりになるほうが、よほど楽園に近づいたのではないか。
僕が恐れるアマネも、彼女が恐れる他者も、全て断絶してしまえば、僕だってわざわざアマネに立ち向かう必要もなかった。僕が立ち上がらなかったら、彼女も一緒に旅をする必要もなかった。あの狭い楽園はそこで完結したはずだ。
「帰りたい人がいるなら、門を開いて帰せばいい。帰してしまえば、この世界で眠り鼠と三月兎は対立しなかった。そもそも、門を開くだけで世界が消失するという話にも根拠がないんだ。アリスが創ったのに、そのアリスであるミズキがそうするようには考えられなくて…わざわざ、諍いが起きるように創られている気がする」
ずっと1人で考えていたことを打ち明けると、ミズキも肯定するように頷いた。
「おかしいよね…記憶がなくとも、昔の自分がさすがにそんな悪意に満ちたことはしないと思いたいんだけど…」
「うん、僕もそう思うんだ。そこで、もし作者という配役が仮にいたとして、能力はまだ分からないけれど、アマネが1度だけルイス・キャロルを名乗る人物に会ったことがあると言っていて、その人物は『面白いお話を作っている』と話していたそうだ」
面白いお話。それが何を指すのか分からない。だけど、唯一その言葉から分かることがある。
僕の話を聞いたミズキはやや間を空けて呟いた。
「それって…少なくとも、その人から見て面白いと感じる話を作っているってことだよね」
「そうだと思う。作者が面白いと思うお話だ。アリスに関する不確かな情報を流したり、眠り鼠と三月兎が対立するように仕向けて、そこで起きる事象を見て面白がっている。何が目的か分からないけど、これだけ食い違う証言や事象は作者が関わってるんじゃないかなって。仮説だけどね」
あくまで仮説だが、そんなに有り得ない話ではないだろう。実際にアマネが会っているのだし、アマネは嘘を吐くタイプではない。
「だとしたら、帽子屋さんと作者さんとは和解するのは難しいのかな…」
ミズキが風にかき消されそうな声で言った。
旅の中で色んな人に出会った。皆それぞれに考えがあって、バラバラの思考で動いている。それでも、歩み寄れるのだと学んだつもりだが、帽子屋は難しい。その帽子屋を手伝うようにジャッジを攫ったルイス・キャロルはどうなのだろうか。僕はミズキの言葉に何も返せなかった。
ジャッジは無事であることを祈るしかないが、彼が意図としない時間停止の能力を持っているかぎり、捜索は他の人の何倍も困難を極めるし、命の危機があるとすれば予知で見えていたイディオットの方が濃厚だ。申しわけないが、今はイディオットを優先するしかない。
霧の濃い湖を渡り切り、村を越え、僕らは森の上空からイディオットの集落がある鉱山へと向かった。
船より早いとは言え、半日を要した。明け方から飛んできたのに、日は傾き始めた夕方だ。
燃えるように赤い夕日の中、集落に辿り着くと、いつもより忙しなく動く集落の人々の姿があった。ミズキを抱えたまま降り立つと、彼らは僕らに振り返る。
夕日の逆光で彼らの表情は見えない。ミズキには、僕はイディの集落では歓迎されない存在だと話してあったが、こうして彼女にその現場を見られてしまうと思うと、いつもとは違う緊張感があった。
1人、見知らぬ男性が僕に歩み寄ってくる。どの道、イディオットとチェルシーの場所を聞かなくてはならない。僕は身構えながら唾を飲み込んだ。
すると、目の前の男性は不意に僕の肩を掴む。何かと顔を上げると、逆光で見えなかった彼の表情が笑顔であることに遅れて気がついた。
「よう、ジャバウォック!眠り鼠とリーダーを和解させた上に、現実に帰れる見通しを立てたってリーダーから聞いたぜ!お手柄じゃねえか!」
何の話かと僕が面を食らっていると、傍にいた中年女性が彼に並ぶように寄ってきた。
「今までお騒がせジャバウォックだなんて言ってごめんなさいねえ。あなたのおかげよ」
「えっ、あ、はあ…」
もはやこの人たちの顔すら僕は覚えていないが、どうやらイディオットが帰って来てからの言動で、彼らの心境に大きな変化があったらしい。
使えない下っ端が大きな成果を出した、という感覚なのだろうか。口々に感謝を述べる彼らの言葉からは好意がありありと伝わってくるが、どことなく上から目線な発言のように感じられた。
敵視されたままも居心地が悪いが、こうもいきなり歓待を受けても、それはそれで正直なところ気持ちが悪かった。役に立つと認めた途端に手のひら返しする人間は大勢いるが、特に先輩風を吹かせるような発言は癇に障る。
厳密に言えば、僕は追放されてからもうこの集落の者ではないはずだ。僕はイディオットと個人的な付き合いをさせてもらっていただけ。なのに、イディオットと出した成果について、詳しく関わってもない別の人にとやかく言われるのは気分が悪かった。
「す、すみません…あっ、アスカは三月兎さんによ、用事があるので…道を空けて頂けませんか…?」
困惑している僕の隣からミズキが上ずった声で割って入ってきた。僕が抱いている不快感に気付いてくれたのかもしれないが、彼女からこうして間に入って貰うのは初めてのことで、僕は思わず目を丸くする。素直に嬉しかった。
僕の視線を追うように、集落の人たちも彼女を見る。ミズキと目が合った彼らは訝しげに目を細めた。
「その特徴…もしかして…」
そこまで言われて僕は焦る。そうだ、今のミズキはどこからどう見てもアリスだ。
また騒がれでもしたら話が長引くかもしれない。僕は慌てて彼女の手を引いて歩き出す。
「すみません!オットーさんに顔出して来ますね!」
即席の笑顔を貼り付けて、僕はミズキと共に集落内へと向かう。集落の人々に捕まらないよう、ミズキが転ばないよう気をつけながら、僕らは足早に歩く。
「間に入ってくれて、ありがとうね。助かった」
「へへ…」
歩きながら礼を述べると、ミズキは照れたように、それでもどこか得意げに笑って僕の手を握り返してくれた。
集落内は何故だか妙に祝賀ムードで、皆が皆ちょっとばかり浮かれた雰囲気があった。戦争が終わった…というか、冷戦のまま戦争が始まらなかったことを祝っているのだろうか。道すがら集落の人々が安心している声を聞いた。
誰も戦争などしないで済むなら、それがいいに越したことはない。それ故の浮かれ具合なら、今までストイックに戦争の準備を整えてきた彼らなら無理もないような気がした。
食堂を兼ねている広場に出ると、久しぶりに見る姿があった。
トゥルーだ。メアと一緒に何か話しているようだが、2人の表情は暗い。言い合いとまではいかないようだが、何か2人の意見がすれ違っているのは、遠目から見る仕草だけで分かった。
トゥルーとメアには前回、とても迷惑をかけてしまった。かけてしまったが…この集落で僕が気安く話しかけられるのはイディオットの他にあの2人しかいないし、他の人だと妙な歓待で話が進まなそうだ。
「ミズキ、ちょっと耳を貸して」
2人から離れた場所で、僕はミズキを数多ある脇道のうちの1つに引っ張り込む。トゥルーとメアのことをミズキに共有したかったのだが、あまり大きな声で話すべきではない。
僕は彼女の耳元で要点を掻い摘んで2人のことを話した。
前にとてもお世話になった人で、2人が現実に帰るか帰らないかで悩んでいる話。それを聞いたミズキは少し驚いたような顔をしてから、はにかんで笑った。
「…なんか、似てるね」
「何に?」
「私たちに。現実に帰る、帰らないって揉めちゃうのもだけど、私はちょっとだけトゥルーさんの気持ちが分かるかも」
そう言われて僕は目を丸くする。
似ていると言われれば、確かに多少は似ている気はする。僕はメアほど温厚でないと思うが。
「そしたら、今から2人に三月兎の居場所を尋ねるから、もしそういう話になったら、助け舟を出して貰えないかな」
僕はすでにトゥルーとの対話に失敗している。また失敗したら、深く傷つけてしまう可能性もあれば、トゥルーとメアの関係にさらなるヒビが入ってしまう可能性もなくはなかった。だから、僕にはない視点を持っているミズキにこそお願いしたかった。
ミズキは眉根を寄せて首を傾げたが、そのまま気の抜けた笑みを浮かべた。
「…私、話すの自体があまり上手くなくて自信ないけど…頑張ってみる!」
「ありがとう、心強いよ。多分、僕には分からないことも多いと思うから…」
ミズキがトゥルーとメアの関係を僕らと似ていると感じるのならば、彼女には少なからず共感出来ることがあるのだろう。きっと僕には今すぐには理解してあげられないもの。それをミズキなら分かるのかもしれない、と勝手な期待を寄せてしまうのは良くないだろう。
最低限、イディオットとチェルシーの居場所を聞き出せれば、それで充分だ。僕はミズキと手を繋いで、トゥルーとメアの元へと向かった。
僕らが廊下の影から出る頃には、トゥルーとメアは上手く話せなかったのか、メアがトゥルーに背を向けて立ち去ってしまうところだった。彼の背中にトゥルーは何か声を掛けたそうにしていたが、彼女は伸ばした手を下ろして下を向いてしまった。
大変声を掛けづらい状態になってしまったが、僕らものんびりしているわけにもいかない。僕は彼女に近づいていく。無駄に図体がでかくなったせいか、トゥルーはすぐに僕の姿に気付いてこちらを振り返った。
「…アスカ」
彼女は気まずそうに僕の名前を呼ぶと、肩にかかった長い髪の毛を両手でいじりながら目線だけで僕を見た。
僕は出来るだけ穏やかな表情に見えるようにトゥルーに笑いかけた。
「トゥルー、顔を見るのは久しぶりだね」
「ええ…この間は本当に…なんていうか、ごめんなさい」
以前よりも少し落ち着きを取り戻したのか、彼女も小さく笑う。それでも目元には濃いクマが浮かび上がっていて、彼女の安寧はまだ得られていないことは見た目だけでも十二分に伝わってきた。
トゥルーはメアについて僕が触れなかったので、あえて触れない方向で行くつもりなのか、僕の隣に立つミズキの方へ視線を投げる。トゥルーがにっこりと笑顔を作ると、ミズキは慌てて頭を下げた。
「アスカのお友達?綺麗な子ね。初めまして、トゥルーよ」
「きっ、き、綺麗なんて…恐れ多いです…。ミズキです、初めまして…」
褒められ慣れていない上に見知らぬ人と話すのにも慣れていないミズキには、なかなかハードルが高いのか今回も声が上ずって、なんならひっくり返りそうだ。それでも頑張って話そうとしてくれる彼女の姿は同時に微笑ましくも見えた。
本当ならもっとゆっくりと彼女たちの会話を聞いていたいが、今はそんな時間はない。申し訳ないが、横から声をかけさせて貰うことにした。
「僕たち、オットーさんとチェルシーさんを探していて…トゥルーは知らないかな?」
「オットーさん?さっきこの集落を出て、湖の向こう側に一度戻るって聞いたわよ」
「戻る?」
僕とミズキは思わず顔を見合わせる。
イディオットがこちらに帰ってきたのは、彼の命の危機を避けるためだ。そこまで彼はこの集落の人に話していなかったとしても、まだ回避しきれていないその危機にわざわざ近づくような真似を彼らがするだろうか。
僕らの様子を訝し気にトゥルーは見ていたが、少し考えるように首を捻って言葉を続けた。
「チェルシーさん、嫌な未来が見えていたけど回避できたからもう安心だよって話していたのを聞いたわ。その嫌な未来が何だったのか私は教えてもらえなかったけど…」
彼女の言葉に僕は思わず言葉を飲み込んだ。
一瞬だけ湧き上がる安堵。大きく息を吐き出したくなるような安心感と拍子抜けしたような気持ち。だが、本当にこれでいいのだろうかという疑念がすぐに湧き上がる。
こんなにも帽子屋が傍に来る可能性が高い状況を目の前にして、イディオットが死ぬ未来は回避できたということなのだろうか。それならば、確かにイディオットが城下街に戻ろうとしてもおかしくはない。
危機は去った。イディオットが死ぬ未来はもうチェルシーには見えていない。そうなのだろうが、何故だか妙に胸騒ぎがした。
帽子屋はもしかして補充までにまだ時間がかかるのだろうか。誰も人員を要さない唯一の配役なのに。
「私、アスカにお礼を言わないといけないと思って…だから、声をかけてくれてありがとう。オットーさんの話に寄れば、アスカがオットーさんと眠り鼠さんの橋渡しをして、和睦したそうね。正直…すごく安心した」
黙ったままの僕を前に、トゥルーは俯いて微笑んだ。その笑みからは疲れが読み取れる。
先ほどのメアとの様子を見れば、あまり良い方向に事が進んだようには見えない。それでお礼を言うほど、彼女の中では今まで何もかもが行き止まりだったのかもしれない。
「私が帰るのを嫌がって、誰も彼もが帰れなくなってしまうかもしれないってずっと思ってたから、まだ可能性の段階ではあるけど、帰りたい人だけが帰れるかもしれないって聞いて凄く嬉しかった。メアとずっと一緒にいたいけど、私はきっともうこんな状態じゃ現実でも上手くやっていけない。せめて、彼だけでも帰れるならって…」
「メアさんって、トゥルーさんの恋人でしたよね…?アスカから聞きました」
不意に隣にいたミズキが消えそうなほど小さな声を発した。それでもトゥルーはその声を聞き逃さずに顔を上げる。
トゥルーと目が合ったミズキが慌てたように目を泳がせたが、それでも視線だけで彼女を見たり、床を見たりとコミュニケーションを取ろうとする努力を必死でしているのが目に見えて分かった。
「あの…初対面の私が聞くのも変かもですが…メアさんはトゥルーさんがどうして帰りたくないのかとかってご存じなんでしょうか?」
「いいえ。詳しくは…でも、一応帰りたくないことは伝えたの。だから、あなただけで現実に帰ってって」
トゥルーの返答を聞きながら、僕は先ほどの二人の様子を思い出す。
メアは困ったように首を横に振って、何かを尋ねるように言葉を重ねていたように思う。それに大して、トゥルーは終始、彼の顔も見ずに俯いていた。
あれは、もしかすると彼女が対話を拒否したからなのかもしれない。
相手の真意を知らないまま、ずっと想っていた人から別れを告げられるのはどうしようもなく悲しい。ミズキと実際に離れ離れになった身からすると、僕はメアの方の気持ちはよく分かってしまう。
ミズキはトゥルーの話に顔を上げる。目を合わせることが何より苦手な彼女だが、何か思うことがあるのか、トゥルーの顔を真っすぐに見て言葉を紡ぐ。
「帰りたくない理由を話さないのは、相手を困らせないようにですか?」
「ええ、まあ…私、本当は現実でメアと再会できる確証がないのに、現実に帰るのが怖くて。そんなことを言って彼から嫌われたりするのも怖いし、困らせてしまうのも嫌なの。ワガママなだけって分かっているのよ」
ミズキの問いにトゥルーは困ったように自分の頬に手を当てて笑った。その様子に、ミズキは小さく笑った。
「分かります。せっかくここで仲良くなれたのに、現実に帰って会えなかったら、また現実で辛い目に合うんじゃないかって思いますよね。私もそう思います」
ミズキの笑顔にトゥルーが目を丸くした。思っていた回答と違ったのかもしれないが、その表情に嫌悪感はない。むしろ、安堵すら見えるような穏やかなそれだ。
ミズキはその様子を知ってか知らずか話を続けた。
「私もアスカと再会できるか分からなくて、それが怖くて現実に帰りたくないって彼と喧嘩したんです。私たちも最初はちゃんと話さなかったよね」
「あはは…その節は申し訳なく…」
僕に振り返る彼女に僕は苦笑いをする。そんな僕を意外そうな顔でトゥルーは振り返った。
「アスカとミズキちゃんが?」
「うん。僕はその時にちゃんと言葉をまとめられなくて、対話を拒否したんだ。言葉を上手くまとめてからって言い訳しながら黙って不貞腐れたりしてさ。でも、今はミズキが現実に帰るか帰らないかは、もっとゆっくり考えて決めたらいいと思ってる。僕の意見を押し付けるものではないし、お互いに幸せいられるなら世界なんてどこでもいいと思うしさ」
誤魔化したってどうしようもないので、僕はそのままミズキと間にあったことを話した。
僕とミズキが今こうしてお互いの方向性が違っていても、一緒に隣で笑い合っていられるのは、二人できちんと話せたからだと思う。
話せなければ、互いの関係性に落としどころなんて永遠に来ない。ただ相手を疑って、疑心暗鬼になって、自己嫌悪が募るだけだ。
ミズキは僕の様子を面白そうに横目で見ていたが、再びトゥルーの方へと向き直る。かなり緊張は解けてきたのか、彼女の表情は最初ほど強張ってはいなかった。
「お互いのことを大事にしているなら、方向性の違いくらいは理由をしっかり話せば伝わるんじゃないかなって、今になってですけど私は思ってます。大事にしたいから話さないのも、嫌われたくないから言わないのも、全部すごく分かるんですけど…言わない方が相手を悲しませてしまうこともあるんじゃないかなって」
「そう…」
ミズキの話にトゥルーは俯いて黙り込む。しかし、その姿は前のような悲壮感はない。どちらかと言えば、考え込んでいる様子に近かった。
「ありがとう、少し気持ちが軽くなったわ。私も…もう少しメアと話せるように言葉をまとめてみる」
顔を上げて微笑むトゥルーに、ミズキは照れたように目を伏せて笑った。
「あっ、いえ、初対面で生意気なこと言っちゃってすみません!何か役に立ったら嬉しいです」
「いじらしいこと言ってくれるのね!アスカもこんな可愛い彼女なんかいつの間にか作っちゃってて、びっくりしたわ」
冗談めかしてトゥルーが笑う。ミズキが僕の彼女だという響きは正確ではない気もするが、否定したくなかったので、僕は曖昧に笑う。ミズキはどうなのか分からないが、彼女も首を傾げながら笑っていた。
今はトゥルーが冗談を言えるくらい前向きになってくれたことの方が大事だろう。
「引き留めてしまってごめんなさい。二人はオットーさんを探しに行くのよね?出発したのはそんなに前じゃないから、この坑道を抜けてまっすぐ村へと向かえば追いつけると思うわ」
「ありがとう!すぐ向かうよ」
トゥルーに礼を述べ、僕はミズキの片手を繋いだまま、もう片手で手を振った。僕らを見送るトゥルーの笑顔は、メアと離れたばかりの彼女と比べてかなり明るくなっていたように思う。
ミズキも彼女に頭を下げると、足早に僕の元へと走り寄って来た。
「ありがとう、ミズキがいなかったらトゥルーと気まずいままお別れになるところだった」
早歩きで出口へと向かいつつ、僕はミズキに笑う。
僕はきっとトゥルーには心の底から「分かる」と言えなかっただろう。最初にミズキが彼女に共感を示したから、きっと僕が言葉にするよりずっと説得力があったのだと思う。
しかし、ミズキにはそんな自覚はなかったようで、不思議そうに首を傾げた。
「そうかなあ?私はそんなにいいこと言ってなかったような気がするけど…」
「いいこと言ってたんだよ」
共感を示せる人間でも、口先だけと、心から言うのでは、やはり伝わり方は全く違うのだと思う。僕がアマネに共感を示して、彼が初めてその共感を受け入れた原理と同じなのではないだろうか。
人間も動物だ。どこかで相手に心を許せるものなのか、肌で感じる瞬間は絶対にあると思う。トゥルーに対して僕は心からの共感が示せなかったし、何より僕があの時にミズキを疑っていたから、賛同も出来なかった。
「トゥルーがあれだけ前向きになってくれたのは、ミズキがいてくれたからだよ。ありがとう」
「そうかなあ…でも、役に立ったなら良かった!」
再度礼を述べると、ミズキは照れたように目を逸らして笑った。
「とりあえず、急ごうか。オットーさんはもう死なないっていう話みたいだけど、どうしてそうなったまだ良く分からないからさ」
「うん!」
ミズキと一緒に鉱山を出ると、外は夕暮れから夕闇へと近づいていた。
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 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
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誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
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たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

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