失禁カウンセラー・マニア

たちばなさとし

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音読の声と、肛門の声 瀬戸 真琴(せと まこと)

33 響き渡る不協和音

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 瀬戸 真琴は、教室の前に立っていた。

 手には、好きな短編小説のページを開いたままの文庫本。
 視線はページに落としていても、足の先から震えが伝わっていた。

 ――高校1年。真琴は文芸部所属。話すのは苦手。人前に出ることも、極端に緊張する。
 だが、顧問に落ち着いた声を買われ、部活の読書会で「朗読当番」を任されていた。

 その日は、いつもと違う事が起こった。
 朝、同じ班の女子生徒に声をかけられたのだ。

「真琴ちゃん、喉乾かない?ハーブティー持ってきたから、飲む?」

 爽やかな笑顔。よく話す子だったので、敵意なんて思いもしなかった。

「あ……ありがとう」

 笑顔を返し、差し出されたカップを受け取った。
 淡い色の温かいハーブティーは、やや独特な香りがした。
 けれど、「緊張をやわらげる効果がある」と言われれば、真琴にとっては救いに思えた。

 ――放課後の部活の読書会、朗読開始から3分。

 下腹部に異変が訪れる。

(……え? なに、これ……)

 腹の奥がきゅう、と収縮する。
 全身の力が一気に抜けていくような、冷たい汗が額を伝う。

 しかし教室は静まり返り、皆が真琴の声に耳を傾けている。

「……その日、私はまだ……自分が、どうしても……っ」

 読んでいた文章に、声がかすれる。
 お腹の中で、強い波が来ている。
 止めたい、止めたい、止めたい——。

(なんで、今? どうして、こんな、こと……)

 読もうとするたび、息とともに腹に力が入る。
 その瞬間――。

 ぶぅっ……

 信じられない音が、教室に響いた。


 一拍、沈黙。

「……え、今のって……」

 ざわざわ、と教室内がざわつき始めた。
 真琴の身体は固まっていた。動けない。声も出ない。
 そして――。

 さらに大きな音とともに、制御が崩れた。

 下着の中で決壊する感覚。熱く、重く、湿っていく感触。
 目の前のページが歪んで見えた。

(だめだ……もう無理……)

 担任が慌てて駆け寄り、誰かが「保健室!」と叫んでいた。

 けれど、真琴の耳には何も入ってこなかった。

 周囲の笑い声、驚いた顔、目をそらすクラスメイト。
 すべてが心を深くえぐっていった。

 それから数日、真琴は登校できなかった。

 「朗読中にうんちを漏らした子」
 そう呼ばれているのではという妄想が、頭から離れなかった。

 そして、母に連れられて訪れた先――。
 それが、排泄トラウマに特化したカウンセラー、翔太のもとだった。
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