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ep.1
しおりを挟む「あれが噂の英雄さんかぁ…」
「えらいべっぴんさんじゃねーの。」
どことなく下衆な目を向け、ガヤが耳打ちをしている。
もうこの光景は見飽きた。
どこの前線基地に来ても英雄様は有名な様だ。
そんな横を通り抜け、俺は彼女に歩み寄っていく。
「メネイ、今回の俺達の仕事内容の確認書類。」
「ありがとうございます。」
白い長髪をなびかせてこちらに身体を向ける彼女こそ、噂の英雄やら戦乙女と呼ばれている張本人メネイ・ワンである。
「危険度は結構高いけどメネイなら問題ないだろう。」
「そうですね。あなたのサポートがあれば問題ないかと。」
「お世辞はやめてくれよ。俺がいたところで役になんか立たない。」
俺が彼女のパートナーになって2ヶ月。
彼女の驚異的な戦闘力によりこのチームは前線をたらい回しにされる程の戦果を上げていた。
ANTHEMはバディと呼ばれる現場で戦う2人1組の戦闘員とオペレーター、サポーターの1チーム4人で任務に当たることを推奨している。
俺は2ヶ月前の大規模戦でバディを失ってしまい、今は途中招集で集められた彼女とバディを組んでいる。
成績優秀なバディと組めて鼻が高いのだが、かく言う俺、スメラギ・ソウマは弱い。悲しくなるほどに弱い。戦闘訓練の成績は悪くないのだが、実戦になるとまるで身体が言うことを聞かなくなるのだ。
「今回は市街地戦ですか…できるだけ取り回しやすい装備を用意してもらいますか……ソウマ?」
「ん?あぁ、そうだな。俺からアキトに伝えておく。メネイは任務時間まで休んでてくれ。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
彼女がいる限りこのチームが崩壊することはまずない。のだが…
『あんたは死神だよ。』
また仲間を失ってしまうかもしれない。俺が弱いから皆に傷を付けてしまうかもしれない。
その恐怖がずっと頭から離れない。
「もう10人目か…」
今回の任務も仲間が傷つかないよう祈ることになりそうだ。
*****
「お二人共、そこから2つ目のビルを右折したところで敵との交戦が予想されます、気をつけてください!」
インカムからオペレーターの報告が入る。
「ソウマ、私が中央を突破します。貴方は援護射撃を。」
「あぁ、わかった。」
予測通り、2つ目のビルを曲がったところで小規模な敵の群れと遭遇する。
群れの中央を装備した高電圧ブレードを振るい、切り裂いていく彼女に気を配りながら俺は指示通り彼女の背中を狙おうとする敵を1機ずつ撃ち抜いてゆく。
「敵残存勢力10%。その廃屋の中です!」
オペレーターの情報を聞き、目の前の廃屋に走ってゆくメネイに置いていかれないように俺も彼女の後を追う。
「武装中型です!気をつけてください!」
廃屋で待っていたのはさっき倒したEHSとは大きさの違う、さらに防具を強固にしたタイプだ。
「ソウマ、炸裂弾を。」
「了解!」
炸裂弾を装填し、敵の頭部に撃ち込む。
眼前で炸裂した弾丸に視界を奪われた敵にメネイは飛び込み頭部を切り飛ばした。
動力の供給源である頭部を破壊された武装中型EHSは活動を停止し、地面に倒れ込んだ。
「敵残存勢力0%、任務完了です、おつかれさまでした!」
「ふぅ…」
今回も無事に終えることができた。
俺は胸をなで下ろし、メネイに帰投の意志を伝えた。
「今回も素晴らしい援護でした。ありがとうございました。」
帰投中のヘリの中で彼女は感謝を伝えてきた。
普段機械のような彼女は、任務を終えると決まって俺に感謝をしてくる。
「お世辞でも嬉しいよ、ありがとう。」
褒められて悪い気はしないのだが、如何せん今までこと戦闘において賞賛された事がないので毎回反応に困ってしまう。
彼女曰く「貴方が思っているよりも貴方は強いです。」とのことらしいのだが、買い被りすぎだろう。
俺とバディになった人間は決まって殉職する。
そうしたことから俺に付けられたあだ名は『死神』。
そんな異名を付けられた所為で俺とバディを組んでくれる人間はいなかった。
途中招集で強制的にバディを組まされた彼女には本当に申し訳ないという気持ちから、せめて俺は彼女の希望には答えようと努力をしている。
「新装備の申請?」
「はい、今のブレードでは少し強引に力で押し切らないと切断できない時があります。なので刀身を改良したものを本部に要請できないでしょうか?」
「まあメネイからの要請なら本部は快諾するだろうな。でも支給まで時間がかかるぞ?」
「はい、承知の上です。」
「そうか。じゃあ俺から本部に申請しておくよ。」
「ありがとうございます。」
こうしてバディの頼みを聞くのも一応先輩としての役目であり、何より俺のせめてもの償いなのだ。
こんな『死神』と組まされたことへの。
もう仲間を失うのは懲り懲りだ。
俺だけが生き残るのは御免だ。
仲間の死を背負うには俺は弱すぎる。
「…もっと強くならないとな。」
呟いた俺は戦闘報告書も書かず、トレーニングルームへと向かった。
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