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6.ある少女の失踪
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四谷が学食から出ていくのと入れ替わるように、奈緒が席に着いた。
「カズが四谷くんと話をするなんて珍しいね」
「そうでもねえよ。一年のとき同じクラスだったし」
「そうだったね。何を話してたの?」
「スネークテールのことだよ。あいつ、クラスの女子と揉めてるんだってな」
「まあね」
「それで、なんだよ、話って」
奈緒の顔から笑みが消えた。意外に真剣そうな彼女の表情に、思わず襟を正した。
「美登里が突然いなくなったの。消えたのよ」
美登里。もちろん、初めて聞く名前だ。和哉の知り合いでもない。
「私、児童養護施設でボランティアしてるでしょ? そこで知り合って仲良くなった女の子なの」
彼女がボランティア活動に熱心なのは知っていたが、児童養護施設に出入りしていたとは知らなかった。
「誘拐されたってことか? なら、警察の仕事だろ。幼児誘拐は重罪だぞ」
「幼児じゃない。私たちと同じ歳よ」
名前は塚崎美登里。両親からの虐待が原因で、中学に入ってすぐに施設に保護された少女らしい。
「彼女と一緒に駅前のモールのフードコートで食事をしていたんだけど、急に立ち上がって私から離れていったの。どうしたのかなって思ってたら彼女の後を怖そうな男の人達が追いかけていったの。私、すぐに追いかけたんだけど見失っちゃって、彼女が帰ってくるのをその場でずっと待っていたんだけど、戻ってこなくって。家に帰って施設に連絡したら、少し前に退所したっていうの。高校も中退していたのよ。私と友達になれてすごく嬉しいっていってくれてたのに、学校辞めたことも退所したことも教えてくれていなかったのよ」
「携帯電話とかスマホは持ってるんだろ?」
「もちろん、連絡したわ。でも、つながらないの」
「どこに住んでいるか、施設の人は教えてくれなかったのか?」
「何度もお願いしたんだけど、教えられないって」
個人情報保護法か。住所や連絡先を簡単には聞き出せない世の中になっている。
「どこの学校に通っていたんだ?」
奈緒が首を横に振った。「聞いてない、ていうか、教えてくれなかった」
それはありうる。県でも有数の進学校に通っている奈緒に、自分の学校を知られるのが恥ずかしかったのだろう。
「そのとき、フードコートでどんな話をしていたんだ?」
「たわいもないことよ。私の学校のこととか、彼女の友達の話とか。あと、私の両親が旅行に行く話とか……。家に誰もいなくなるから土曜日に泊まりにおいでって誘ってあげたんだけど、来そうにないわね」
和哉の後ろを見て、奈緒が表情を変えた。振り向くと、そこに立っていたのは、あの蛇尾沙耶だった。
いつの間に背後を取っていたのか。
「その話、詳しく聞かせて」
彼女はテーブルから椅子を引き出し、まるでそこで待ち合わせをしていたかのように二人の前に腰を下ろした。
「なんだよ。今日はおまえのせいで酷い目にあったんだぞ」
「酷い目にあったのは私のせいじゃない。あの程度のことで冷たくされたのは、あなたに女子たちからの信頼がなかったからよ」
くそ、当たっているかも。本当に頭にくることを言う。
「とにかく、あっちに行っていてくれ。おまえとは関係ねえ話をしているんだ」
「人探しでしょ? メンバーは多いほうがいいわ。それに、あなただけじゃ頼りにならないわ。榛原さんがかわいそうよ」
「あのなあ」
確かに、変わった女だ。碌に言葉をかわしたこともない男子にここまでずけずけとものが言える女も珍しい。
「蛇尾さん、私の名前、知ってるの?」
「もちろんよ。あなただって私の名前、知ってるんでしょ?」
「そりゃ……」有名人だから、と奈緒が心の中でつぶやく声が聞こえてきそうだ。
「名前だけじゃないわ。あなたが大島君と幼馴染だってことも知ってるわ」
「小島だよ」ついでに俺の名前も覚えておいてくれ。
奈緒がどこかほっとした表情に変わった。仲間が増えたことが心強いのか、やはり和哉だけでは心細かったのか。
「これを忘れていったの」
奈緒がカバンから黒のポーチを取り出してテーブルの上に置いた。美登里のものだという。
「中身を調べよう」
「待って」制したのは沙耶だった。
「女の子の持ち物を男の子が探るなんて卑猥よ」
「おまえは卑猥って言葉が好きだな」
「先に私と榛原さんで確認するわ」
「大丈夫。別に変なもの、入っていなかったから」と奈緒。
「変なものって?」
テーブルの下から、奈緒が足を蹴ってきた。
奈緒が、美登里のポーチの中身をテーブルにおいていく。化粧品とボールペンが二本。中に入っていたのはそれだけだった。
空になったポーチを手に取った。ふっくらしたデザインのポーチだった。
「どうしたらいいと思う?」
「まずは、彼女の住所を訪ねるべきよ」沙耶が真っ先に口を開いた。なんとなく、この女が張り切っているように思える。
「でも、住所は教えられないって」
「その施設に行って、塚崎って子と仲のよかった友達を探しましょう。彼女の住んでいるところを知っている人がいるかもしれないわ」
さっそく行きましょう。そういって、沙耶が真っ先に立ち上がった。
「待てよ。俺はこのあと用事があるんだ」
「用事って?」奈緒が聞いてきた。
「勇作の家でゲーム。施設には明日いこう」
「くだらないわ」沙耶が吐き捨てるように言った。「どうせいやらしいゲームなんでしょ?」
この女は、俺のことをなんでも知っていやがる。
「カズが四谷くんと話をするなんて珍しいね」
「そうでもねえよ。一年のとき同じクラスだったし」
「そうだったね。何を話してたの?」
「スネークテールのことだよ。あいつ、クラスの女子と揉めてるんだってな」
「まあね」
「それで、なんだよ、話って」
奈緒の顔から笑みが消えた。意外に真剣そうな彼女の表情に、思わず襟を正した。
「美登里が突然いなくなったの。消えたのよ」
美登里。もちろん、初めて聞く名前だ。和哉の知り合いでもない。
「私、児童養護施設でボランティアしてるでしょ? そこで知り合って仲良くなった女の子なの」
彼女がボランティア活動に熱心なのは知っていたが、児童養護施設に出入りしていたとは知らなかった。
「誘拐されたってことか? なら、警察の仕事だろ。幼児誘拐は重罪だぞ」
「幼児じゃない。私たちと同じ歳よ」
名前は塚崎美登里。両親からの虐待が原因で、中学に入ってすぐに施設に保護された少女らしい。
「彼女と一緒に駅前のモールのフードコートで食事をしていたんだけど、急に立ち上がって私から離れていったの。どうしたのかなって思ってたら彼女の後を怖そうな男の人達が追いかけていったの。私、すぐに追いかけたんだけど見失っちゃって、彼女が帰ってくるのをその場でずっと待っていたんだけど、戻ってこなくって。家に帰って施設に連絡したら、少し前に退所したっていうの。高校も中退していたのよ。私と友達になれてすごく嬉しいっていってくれてたのに、学校辞めたことも退所したことも教えてくれていなかったのよ」
「携帯電話とかスマホは持ってるんだろ?」
「もちろん、連絡したわ。でも、つながらないの」
「どこに住んでいるか、施設の人は教えてくれなかったのか?」
「何度もお願いしたんだけど、教えられないって」
個人情報保護法か。住所や連絡先を簡単には聞き出せない世の中になっている。
「どこの学校に通っていたんだ?」
奈緒が首を横に振った。「聞いてない、ていうか、教えてくれなかった」
それはありうる。県でも有数の進学校に通っている奈緒に、自分の学校を知られるのが恥ずかしかったのだろう。
「そのとき、フードコートでどんな話をしていたんだ?」
「たわいもないことよ。私の学校のこととか、彼女の友達の話とか。あと、私の両親が旅行に行く話とか……。家に誰もいなくなるから土曜日に泊まりにおいでって誘ってあげたんだけど、来そうにないわね」
和哉の後ろを見て、奈緒が表情を変えた。振り向くと、そこに立っていたのは、あの蛇尾沙耶だった。
いつの間に背後を取っていたのか。
「その話、詳しく聞かせて」
彼女はテーブルから椅子を引き出し、まるでそこで待ち合わせをしていたかのように二人の前に腰を下ろした。
「なんだよ。今日はおまえのせいで酷い目にあったんだぞ」
「酷い目にあったのは私のせいじゃない。あの程度のことで冷たくされたのは、あなたに女子たちからの信頼がなかったからよ」
くそ、当たっているかも。本当に頭にくることを言う。
「とにかく、あっちに行っていてくれ。おまえとは関係ねえ話をしているんだ」
「人探しでしょ? メンバーは多いほうがいいわ。それに、あなただけじゃ頼りにならないわ。榛原さんがかわいそうよ」
「あのなあ」
確かに、変わった女だ。碌に言葉をかわしたこともない男子にここまでずけずけとものが言える女も珍しい。
「蛇尾さん、私の名前、知ってるの?」
「もちろんよ。あなただって私の名前、知ってるんでしょ?」
「そりゃ……」有名人だから、と奈緒が心の中でつぶやく声が聞こえてきそうだ。
「名前だけじゃないわ。あなたが大島君と幼馴染だってことも知ってるわ」
「小島だよ」ついでに俺の名前も覚えておいてくれ。
奈緒がどこかほっとした表情に変わった。仲間が増えたことが心強いのか、やはり和哉だけでは心細かったのか。
「これを忘れていったの」
奈緒がカバンから黒のポーチを取り出してテーブルの上に置いた。美登里のものだという。
「中身を調べよう」
「待って」制したのは沙耶だった。
「女の子の持ち物を男の子が探るなんて卑猥よ」
「おまえは卑猥って言葉が好きだな」
「先に私と榛原さんで確認するわ」
「大丈夫。別に変なもの、入っていなかったから」と奈緒。
「変なものって?」
テーブルの下から、奈緒が足を蹴ってきた。
奈緒が、美登里のポーチの中身をテーブルにおいていく。化粧品とボールペンが二本。中に入っていたのはそれだけだった。
空になったポーチを手に取った。ふっくらしたデザインのポーチだった。
「どうしたらいいと思う?」
「まずは、彼女の住所を訪ねるべきよ」沙耶が真っ先に口を開いた。なんとなく、この女が張り切っているように思える。
「でも、住所は教えられないって」
「その施設に行って、塚崎って子と仲のよかった友達を探しましょう。彼女の住んでいるところを知っている人がいるかもしれないわ」
さっそく行きましょう。そういって、沙耶が真っ先に立ち上がった。
「待てよ。俺はこのあと用事があるんだ」
「用事って?」奈緒が聞いてきた。
「勇作の家でゲーム。施設には明日いこう」
「くだらないわ」沙耶が吐き捨てるように言った。「どうせいやらしいゲームなんでしょ?」
この女は、俺のことをなんでも知っていやがる。
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