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5.病的なくらい色白で背の低い男
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クラスの女子たちから向けられる視線が、なんとなく冷たく感じる。
気のせいだろう。
友人と言葉を交わしていた椿野菜々美の暖かな眼差しが、和哉と目が合った途端、戸惑ったように宙を彷徨った。
気のせいに決まっている。
前の席の奈緒が立ち上がるたびに後ろを振り返り、和哉を睨んで教科書で尻を隠した。
気のせいにしておこう。
また、ため息が出た。
あんな真偽も不確かないいかげんな言葉を、クラスの女子どもはすっかり信じ込んでしまっている。
いや……事実は事実だが……。
それとも、クラスの女子どもは日ごろから俺のことを変態だと思っていたのだろうか。
今日一日は、下を見て過ごしたほうがよさそうだ。
終業のホームルームが終わった。長かった一日だった。
帰り支度をしていると、前に座っている奈緒が突然振り向いた。両手で教科書を抱いて胸を隠している。本気で和哉に透視能力があると思っているらしい。そりゃ、ありゃいいけど。
「ねえ、カズ。話があるんだけど」
「なんだよ、説教か? 言っておくが、おまえの尻なんて見てねえぞ」
「そんなことじゃない。食堂で待ってて」
「話って?」
「別に告白とかじゃないから」
「わかってるよ。何の話なんだ?」
「だから食堂で待ってて。すぐに行くから」
そういうと席を立って、尻を隠さず教室から出て行った。
勇作の家には、四時くらいに行けばいい。時間はある。
教室を出て先に学生食堂に向かう。財布から小銭を出して自動販売機でカップ入りのコーヒーを買い、近くの席に座った。
一口啜る。コーヒーの苦味が、ぼやけかけていた頭をすっきりさせていく。
またため息。今日は散々な一日だった。
向こうのテーブルで、関本朱里と椿野菜々美が楽しそうに喋っていた。あの二人は本当に仲がいい。いつも一緒にいてよく話題が尽きないものだと、感心してしまう。
足音が聞こえてきた。奈緒かと思って振り向いたが、隣のクラスの四谷寛だった。
「やあ。数学、今回も満点だったんだね」四谷が自動販売機の前に立ってコインを機械に落とした。
「まあな」
四谷は病的なくらい色白で背の低い男だった。本当にどこか悪いんじゃないかと思うくらい弱々しく見えるので、ついつい心配になってしまう。
「おまえのクラスの蛇尾って、どんな奴なんだ?」
紙パック入りのコーヒーを買って立ち去ろうとした四谷が足を止めた。
「変わった子だよ」
「あいつのせいで今日は酷い目にあった」
「どうして?」
「クラス中に聞こえる声で、俺が女の子のお尻をいやらしい目で見てるって言い触らしやがった」
向こうのテーブルにいる二人の女子に目を向ける。
「見てたのかい?」
「女の子の後ろを歩いていれば、自然と目に入るだろう。ぷりっぷりっと揺れる尻がさ」
四谷が笑った。
「彼女、クラスの女子とも色々揉めてるみたいだしね」
「だろうな。あれじゃ、友達なんて出来ねえだろ」
「特に、関本さんとは仲が悪いんだ」
四谷が窓際のテーブルに座っている関本朱里を見た。たしかに関本朱里と蛇尾沙耶は気が合いそうにない。クラスの女子のリーダー的存在の関本朱里。蛇尾沙耶はそんなリーダーの言うことに理由もなく従おうとはしない性格なんだろう。
「じゃあ、用があるから、もういくよ」
「おまえ、部活なんてやってたか?」
「どうして?」
「こんな時間に学食の自販機に用があるのは、部活か居残りに決まってるだろ」
「部活じゃないんだけどね。ちょっとしたサークルだよ」
「へえ」
この男が学校のサークル活動に参加するとは意外だった。
「どんなサークルなんだ?」
「それは内緒だよ。活動内容も所属メンバーも秘密のサークルなんだ」
「いいね、それ。秘密結社みたいだな。もしかして、ベラマチュア尊師を崇拝する会なのか? あれ、学校で禁止になってるだろ?」
「そうかもね」
振り向くと、奈緒が後ろのテーブルに座って、こちらを見ていた。
気のせいだろう。
友人と言葉を交わしていた椿野菜々美の暖かな眼差しが、和哉と目が合った途端、戸惑ったように宙を彷徨った。
気のせいに決まっている。
前の席の奈緒が立ち上がるたびに後ろを振り返り、和哉を睨んで教科書で尻を隠した。
気のせいにしておこう。
また、ため息が出た。
あんな真偽も不確かないいかげんな言葉を、クラスの女子どもはすっかり信じ込んでしまっている。
いや……事実は事実だが……。
それとも、クラスの女子どもは日ごろから俺のことを変態だと思っていたのだろうか。
今日一日は、下を見て過ごしたほうがよさそうだ。
終業のホームルームが終わった。長かった一日だった。
帰り支度をしていると、前に座っている奈緒が突然振り向いた。両手で教科書を抱いて胸を隠している。本気で和哉に透視能力があると思っているらしい。そりゃ、ありゃいいけど。
「ねえ、カズ。話があるんだけど」
「なんだよ、説教か? 言っておくが、おまえの尻なんて見てねえぞ」
「そんなことじゃない。食堂で待ってて」
「話って?」
「別に告白とかじゃないから」
「わかってるよ。何の話なんだ?」
「だから食堂で待ってて。すぐに行くから」
そういうと席を立って、尻を隠さず教室から出て行った。
勇作の家には、四時くらいに行けばいい。時間はある。
教室を出て先に学生食堂に向かう。財布から小銭を出して自動販売機でカップ入りのコーヒーを買い、近くの席に座った。
一口啜る。コーヒーの苦味が、ぼやけかけていた頭をすっきりさせていく。
またため息。今日は散々な一日だった。
向こうのテーブルで、関本朱里と椿野菜々美が楽しそうに喋っていた。あの二人は本当に仲がいい。いつも一緒にいてよく話題が尽きないものだと、感心してしまう。
足音が聞こえてきた。奈緒かと思って振り向いたが、隣のクラスの四谷寛だった。
「やあ。数学、今回も満点だったんだね」四谷が自動販売機の前に立ってコインを機械に落とした。
「まあな」
四谷は病的なくらい色白で背の低い男だった。本当にどこか悪いんじゃないかと思うくらい弱々しく見えるので、ついつい心配になってしまう。
「おまえのクラスの蛇尾って、どんな奴なんだ?」
紙パック入りのコーヒーを買って立ち去ろうとした四谷が足を止めた。
「変わった子だよ」
「あいつのせいで今日は酷い目にあった」
「どうして?」
「クラス中に聞こえる声で、俺が女の子のお尻をいやらしい目で見てるって言い触らしやがった」
向こうのテーブルにいる二人の女子に目を向ける。
「見てたのかい?」
「女の子の後ろを歩いていれば、自然と目に入るだろう。ぷりっぷりっと揺れる尻がさ」
四谷が笑った。
「彼女、クラスの女子とも色々揉めてるみたいだしね」
「だろうな。あれじゃ、友達なんて出来ねえだろ」
「特に、関本さんとは仲が悪いんだ」
四谷が窓際のテーブルに座っている関本朱里を見た。たしかに関本朱里と蛇尾沙耶は気が合いそうにない。クラスの女子のリーダー的存在の関本朱里。蛇尾沙耶はそんなリーダーの言うことに理由もなく従おうとはしない性格なんだろう。
「じゃあ、用があるから、もういくよ」
「おまえ、部活なんてやってたか?」
「どうして?」
「こんな時間に学食の自販機に用があるのは、部活か居残りに決まってるだろ」
「部活じゃないんだけどね。ちょっとしたサークルだよ」
「へえ」
この男が学校のサークル活動に参加するとは意外だった。
「どんなサークルなんだ?」
「それは内緒だよ。活動内容も所属メンバーも秘密のサークルなんだ」
「いいね、それ。秘密結社みたいだな。もしかして、ベラマチュア尊師を崇拝する会なのか? あれ、学校で禁止になってるだろ?」
「そうかもね」
振り向くと、奈緒が後ろのテーブルに座って、こちらを見ていた。
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