マーダーホリックパラダイス

アーケロン

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23.不良たちの宴

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「美登里を探しているんだって?」
 グラスのモスコミュールを一口飲んでから、女が髪をかき上げた。バーテンが彼女のことをレミさんと呼んだ。
「どこにいるか知ってるんですか?」
「シンジと一緒にいるはずよ」
 シンジ。スカルのリーダー、柏葉真治のことか。
 周囲の男たちがお互い顔を見合わせて戸惑っている。レミの言葉が意外だったようだ。「シンジさんはどこにいるんです?」
 周囲が失笑した。
「本当に、何も知らないのね」
「美登里って人のことは直接知らないんですよ。友達の友達で、顔も見たことがない」
「シンジはどこかに隠れているわ。やくざに追われているの」
 またやくざが出てきたぞ。早くこんなところ引き上げて、家に帰ってアニメでも見たい。
 女がけだるそうな目を向けてきた。何かを企んでいそうな目だ。
「美登里って人とは、その……皆さんとのお付き合いは長いんですか?」
「あの子が高校中退する前だから、一年位かしら」
「どこの高校に通ってたんですか?」
「豊商」
 豊島商業高校か。
「美登里はね、豊商で自分を酷い目にあわせた同級生をドールにしたの」
「ドール?」
「美登里がどんな女なのか、知ってんの?」
「詳しくは知りません」
「美登里はね、シンジの指示で、盗品やエスを捌いていたの」
「そりゃ……やばそうですね」
「やばいわよ」
 周囲の男たちが、和哉とレミとのやり取りを黙って聞いている。さっきと比べ、ずいぶん行儀がいい。この女はグループのリーダー格のようだ。
「もしかして、ポーチをなくしたことで、彼女がひどい目にあわされたとか?」
「さあ。あの子、いつもそのポーチの中にブツを隠していたからね。結構な量を持っていたはずよ。でもね、問題はエスじゃないの。何かは言えないけど、とんでもないものを持ち出したのよ。それで、スカルや石田組に追われているの」
 殺人動画が保存されたUSBか。
「でも、シンジさんと一緒にいるんですよね? 仲間達を裏切って、美登里は酷い目に合わされないんですか?」
「シンジが庇ってんのよ」
 レミがモスコミュールを一口飲んで、タバコを銜えた。傍にいた男がライターを差し出してきて火をつけた。その話、本当ですか? バーテンが身を乗り出してきた。
「美登里は中学の時から不良だったの。施設育ちでね。親に虐待されていたらしいわ。母親の男はやくざ。中学の時から売春させられていたの」
 嫌な話だ。風俗で働かせるために、施設に預けている娘を引き取りに来る親がいる。先日奈緒が言っていたのを思い出した。
「母親の男が家にやってきて、それから美登里は変わったわ。たぶん、その男に犯られているわね。母親も娘に無関心のようだったし」
 女が、和哉のほうに体を傾けてきた。香水のにおいが強まった。この女は美登里のことに詳しいようだ。
 さっきから沙耶がずいぶん静かだと思っていたが、横でカウンターに突っ伏していた。酒に酔ったらしい。何をしにきたんだ、この女は。
「実はね、その母親の男ってのが死んだのよ。少し前にね。酔って川に落ちたことになってるけど、たぶん、シンジが殺したのよ」
 うん、マジで家に帰りたくなってきた。
「美登里の友達って奴に聞いたんですけど、女の子が乱暴される動画を見せてもらったらしいんですよ。何のことか知っていますか?」
「知ってるわよ」
「拷問されて殺された女の子もいるんですよね」
 和哉の言葉に、女の表情が変わった。やはり知っている。
「おいこら、調子に乗ってんじゃねえぞ」
 男の一人が詰め寄ってきて、和哉の肩を掴んだ。
 別の男が、沙耶の横に座った。カウンターに突っ伏していた沙耶が、慌てて体を起こし、横の男を睨んだ。どうやら、身体に触れられたらしい。
 怪しい雰囲気になってきた。男たちが、沙耶を狙っている。
「どうもありがとう。そろそろ帰ります」
 席を立つと、男たちが二人を囲んだ。
「いい女じゃん。置いていけよ」
 バーテンが和哉を鋭い目で見ている。レミが我関せずといった顔で、またタバコを吸い始めた。
「帰るわ」沙耶が不愉快そうな顔で席を立った。
「僕たち、明日早いので。じゃあ」沙耶の腕をつかんで出口に向かうと、体の大きな男が出口を塞いだ
「この女、ドールにちょうどいいな」
 男たちがにやつき始める。
「そこをどいて。警察を呼ぶわよ」
 沙耶の言葉を馬鹿にするように連中は笑った。ワルにとっては脅し文句でも何でもない。
「席に座れよ。もっと飲もうぜ」
「嫌よ。私は帰るの。今すぐこの店を出ていくの。誰にも邪魔はさせないわ」
「じゃあ、邪魔しちゃおうぜ」
 横から手が伸びてきて、沙耶の腕を掴んだ。沙耶がその手を払いのけたが、別の男が沙耶に抱きついた。
 沙耶が悲鳴を上げた。この女も悲鳴を上げることがあるのだ。沙耶が男の体を突き飛ばした。出口を塞いでいた男が沙耶に後ろから抱きついた。
 沙耶が相手の足を踏みつけたが、びくともしない。
 和哉は紙袋に手を入れ、木刀の柄を握った。引き抜いた木刀の先で、沙耶に抱きついてる男の脇腹を強く突いた。男が悲鳴を上げて沙耶を離し、床に倒れた。
「逃げろ」
 沙耶の背中を押す。彼女がドアを開けて店を飛び出していった。和哉が出入り口の前に立ち、木刀を中段に構えた。
「おまえ、俺たちにこんなマネしてただで済むと思ってるわけ?」
「そちらこそ、これ以上僕たちに関わらないほうがいいよ。さっきの女の子、本当に警察に連絡すると思うから。そうなったら、ここにも警官が殺到してくるよ」
「警察上等だ、こらぁ!」
 男がつかみかかってくる。和哉の胸ぐらをつかんだ。木刀で喉を突き上げると、そのまま仰け反って倒れた。男が喉を抑え、苦しそうに床を転がる。
 別の男が踏み出してきた。木刀を掴み取ろうと手を伸ばしてきたが、下がって手首に木刀を叩きつけ、一歩踏み出して鳩尾を木刀で突いた。倒れた男が、テーブルの脚に頭を打ち付けた。
「殺してやる」
 バーテンがナイフを手に持った。他の男たちが、距離をあける。まったく、この店の店員は接客態度がなっていない。
 和哉は短い木刀を上段に構えた。誘い。バーテンは、和哉の懐に飛び込みたいという誘惑に勝てないだろう。
 バーテンが踏み込んできてナイフを横に薙いだが、交わして手首に木刀を叩き込んだ。男の手を離れたナイフが床に落ち、レミの足元に転がっていく。顔を上げた男の額に思い切り木刀を叩き込んだ。額を割られたバーテンが床に蹲った。
「僕は今からここを出ていく。早く彼女を止めないと、本当にここに警察が殺到することになるからね。僕だって、警察は好きじゃないんだ」
 彼らに背を向けて店を飛び出す。階段を駆け上がり、ビルの外に出た。追いかけてくるものはいなかった。
「小島君……」
 小さく弱々しい声。沙耶が居酒屋の看板の陰から出てきた。
「おまえ、まだこんなところにいたのか」
「あなたがなかなか出てこないから見に来てあげたのよ。何をぐずぐずしていたの?」
「野暮用だよ。いくぞ」
 沙耶の手を掴んで、その場を駆け出した。柔らかくて暖かい手だった。何か言ってくるだろうと構えていたが、彼女は文句を言わなかった。
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