マーダーホリックパラダイス

アーケロン

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24.学校のロッカーに没収!

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 小島和哉は、一人で教室の様子を眺めていた。
 隣の席で、男子生徒同士がゲームの話をしている。女子たちは近年の日韓関係の悪化など我関せずといった感じで、韓流スターの話に夢中だ。
 いつものように学校内は平和だった。自分たちと同じ歳くらいの少女が変態男の慰め物になっていたなど、夢にも思っていないだろう。
 奈緒は相変わらずだった。友人たちと笑いながら言葉を交わしているが、心ここにあらずといった感じだ。
 美登里の正体がひとつわかるごとに、彼女の顔が暗くなっていく。
 肩を叩かれた。田中勇作が意味ありげに笑っている。
「なんだよ、気持ち悪いなぁ」
「おまえさあ、最近、隣のクラスの蛇尾とよく一緒にいるよなぁ」
「なんだ、気づいてたのか?」
「そりゃ、気づくだろ。みんな噂してるぞ」
 そりゃ、そうだろう。
「なんて噂してんだ? まさか、俺と蛇尾が付き合ってるなんて話になってんじゃねえだろうな。はっきりいっておく。断じて違う、絶対違う、百パーセントない」
「そうなのか?」
「おまえはそんな噂信じてたのか?」
「そうなら面白いなあって思ってたのさ」
「ばかばかしい。まあ、榛原の頼みでちょっとした調べ物をしているんだが、行き違いで蛇尾が加わることになっちまったんだよ」
「なんだよ、調べ物って」
「おまえも手伝ってくれるのか? じゃあ、教えてやる」
「面倒そうだからいいや」
 こいつ、いい勘してやがる。
「蛇尾がどうしてこの学校に転校してきたのか、おまえ知ってるか?」勇作が目の前の奈緒の席に座った。
「前の学校で揉めたんだろ」
「知ってたのか」
「知りはしないけど、想像はつくさ」
「あいつ、聖マリア女学院にいたんだってな。そこで中学の時からずっとトップだったらしい」
 県下でも一、二を争うミッション系の進学校だ。転校早々椿野を破って学年トップになるだけのことはある。
「あいつ、前の学校で教室に催涙スプレー撒きまくって、自主退学させられたらしい」
「なんでそんなことしたんだ?」
「さあな。今度聞いておいてくれよ」
 突拍子もないことをしそうな女だが、理由もなく他人に迷惑をかけることはしないと思うが。
「今日あたり、おまえん家で例のゲームをやろうぜ」
「あ、今はだめなんだ」
「どうして?」
 田中勇作がちらっと周囲に目をやった。
「昨日、家に刑事が来たんだ。この前、公園で高校生が首吊って自殺したの、知ってるだろ? そいつ、俺の家に何度も電話してたらしいんだ。留守電にぶっ殺すぞとか吹きこんでいたの、そいつらしいんだよ。豊商の生徒だってよ」
「豊商だって?」思わず腰を浮かしかけた。
「豊商がどうかしたのか?」
「いや。それでおまえ、豊商に知り合いなんていたっけ?」
「いねえよ。そいつ、江木っていうんだけど、名前も聞いたことない、知らない奴だった。中学も全然別だったし、接点なんてまったくないんだ」
「なんでそんな奴が留守電にぶっ殺すとかメッセージを残したんだよ」
「知らねえよ。それで、変な事件に巻き込まれるとまずいからって、しばらく親が帰るまでばあちゃんの家にいるように言われてるんだ」
 奇妙な話だ。しかし、自殺した江木という男も美登里も、豊島商業に通っていた。それに、拷問されて殺されたあの少女も……。
 美登里が自分の同級生をドールにしてひどい目にあわせたと、あのレミという女が言っていた。何か関連はあるのか。
 椿野菜々美が友人と談笑しながら教室に戻ってきた。女子の連れションか、などと想像しているのがばれたらまた袋叩きにされてしまう。
「あ、そうだ。椿野の奴、昨日、他校の男に告られたんだってよ」
「へえ。まあ、結果はわかるよ。面識もない男に告白されてオーケーするような女じゃないから」
「おまえの想像と、ちょっと違うな」
「もしかして、お友達になりましょうレベルのオーケーだったとか?」
「一緒にいた関本が、問答無用で追っ払ったらしい。椿野が相手に何か言う前にな。空手の構えまでして相手を威嚇したらしいぞ」
「相手はそんなにしつこい男だったのか?」
「普通の優男だったらしいけど、関本がすげえ剣幕で怒っていたんだとよ」
「何があったんだ?」
「さあな」
 あいつらはいつも一緒にいる。あの二人こそ、運命共同体だ。関本朱里がいつも椿野菜々美の傍にいるので、学校の男子たちもうっかり告白できないのかもしれない。
「関本ももう少し大人しくなれば、すげえもてると思うのに、勿体ないよな。それともあいつら、できてんじゃねえのか?」
「それはいいや」
 傍で聞き耳を立てていた女子グループが、こちらを睨みつけている。勇作は首を竦めると、逃げるように和哉の傍から離れていった。

 授業が終わった。教科書をカバンに放り込んでいると、奈緒が振り向いた。
「蛇尾さんが、後で学食に来てくれって」
「あいつの家に行くんじゃなかったのか?」
「私、今日は用があるのよ。慈愛寮で夜店を出すんだけど、朱里と椿野さんと三人で手伝いに行くの。だから、途中で抜けるね」
 残念だ。豪華なデザートを食い損ねた。
「美登里、見つけないほうがいいのかな……」
「まだそんなこと言ってんのか? 捜索は継続するって決めたんだろ? いいかげん、腹を括れよ」
「うん……」
 昨晩ダイナマイトに乗り込んだことは、奈緒には内緒にしている。沙耶にも口止めしておいた。
 ホームルームが始まったので、奈緒が前を向いた。
 あのUSBは結局、和哉が管理することになった。自宅に戻った後、動画を何度も再生した。何度も観たい映像ではなかったが、何か手掛かりになるキーワードを探すためだ。しかし、これといった情報はあの動画からは得られなかった。
 死体がどこかに捨てられ発見されていれば、検索でヒットするはずだ。未成年の女、拷問、遺体遺棄。昨夜、キーワードとなりそうな単語を適当にパソコンに打ち込み、検索をかけた。そして、日本で少女がこんなに殺されているのかと知って驚いた。
 奈緒より先に教室を出て学食に向かった。いつもの席に、沙耶が座っていた。ちょうど奈緒もやってきた。
 席に着くと、和哉がスマートフォンをテーブルに置いた。
「これだ」
 先月、県境の林道で全裸の少女の遺体が発見されていた。被害者は豊島商業高校二年の田辺笑子、十七歳。
「被害者の名前で検索して、顔写真がどこかにアップされていないか調べた。見つけたのがこれだ」
 和哉が別のページを開き、二人に見せた。
「動画に映っていた女の子ね」沙耶がスマートフォンを見ながら頷いている。
「あと、先日公園で首を吊って自殺した江木っていう高校生。こいつも豊商なんだ。それに、美登里も豊商に通っていた」
 奈緒が目を見開いた。
「美登里が? どうしてそんなことがわかったの?」
「それはまあ……あれだ……偶然わかった」
 和哉が沙耶をチラッと見た。ちょっとくらいフォローしろよ。
「それで、どうするの?」眼力が通じたのか、沙耶がその場を誤魔化すように口を開いた。
「豊商でこの子や江木や美登里のことについて聞いて回る。関係者にあたっていけば、何か糸口に行き当たるかもしれない」
「くじ引きみたいね」
「仕方ないだろ。他にとっかかりとなる情報がない」
「やっぱり、美登里も関わっているのかな……?」
 奈緒が消えそうな声で呟くように言った。美登里は殺人動画が保存されたUSBを自分のポーチの中に隠し持っていた。覚せい剤と一緒に。関わりを疑わないわけにはいかないが、奈緒にダイレクトに言葉で言うことはためらわれた。
「おまえ、これから用があるんだろ? 今から俺と蛇尾で豊商にいってくる」
 沙耶が黙って頷いた。ごめんねと言って、奈緒が沙耶の前で両手を合わせた。
「とにかく、この先は危険な目に合うかもしれない。スカルと関わることになるし、殺人事件も絡んでいる。攫われることになるかもしれない」
 奈緒が青い顔で小さく頷く。
「GPSでお互いの位置を確認できるようにしておこう」
「そんなもの、どこにあるの?」
「簡単だよ。スマホにアプリをダウンロードするだけだ」
「そんなの、嫌よ」と奈緒。
「私もよ。自分のプライバシーがすべて小島君に筒抜けになるなんて、裸を晒しているようなものよ」
そこまで言うか。しかし、彼女たちが反対することはわかっていた。
「じゃあ、これを持っておけ。俺に知られたくない場所に行くときは、家においておけばいい」
 二センチ四方の小さなブラスチック容器をふたつ、テーブルに置いた。
「GPSだよ。通販で手に入る」
「わざわざ買ったの?」
「普段使用しているものだ。性能は保障するよ」
「こんなもの、何に使ってるのよ」
 奈緒がGPSを手の上に乗せて、重さを確かめるように手を上下させている。
「妹に持たせている。こっちを学生カバンに、こっちを塾のカバンに入れてある。可愛い妹を守るためにな」
「よく桃ちゃんがオーケーしたわね」
「もちろん内緒だよ」
 二人の動きが止まった。
「桃ちゃん、知らないの?」
「当たり前だ」
「やめなさい、馬鹿!」
 奈緒が怒鳴った。
「ど、どうして? 自分の妹だぞ」
「相手が妹でもプライバシーは守んないといけないの! あんた、自分のしていることが異常だとは思わないの?」
「しかし、犯罪者に誘拐されたらどうするんだよ」
「そういう問題じゃない! あんた、きもい!」
「きもい?」
「久しぶりに全身がぞくっとしたわ。なかなかいないわよ、小島君のような変態キャラ」沙耶の目がさらに薄く冷たくなっている。
「とにかく、これは預かっとく」
「じゃあ、いつもカバンに入れて持ち歩くようにしてくれ。一つを蛇尾に渡して……」
「学校のロッカーに没収!」
 奈緒に睨まれ、和哉は「はい……」としか言えなかった。
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