マーダーホリックパラダイス

アーケロン

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25.ナンパじゃないのよ

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 明るく染めた髪。
 下着が見えそうなくらい短いスカート。
 学習教材が入っているとは思えない、せんべいのように薄い学生カバン。
「自由そうな学校ね」
 皮肉なのか、沙耶が目の前を通り過ぎた騒がしい女子高生のグループを、ゴミでも見るような眼で見ている。
 豊島商業高校。
 三割の生徒が卒業までに中退する、最底辺の県立高校。美登里が通っていた高校。
 そして、先月殺された田辺笑子と自殺した江木が通っていた高校だ。
 はじけるように笑う女子生徒たちを見ていると、急に気が重くなってきた。
 この学校の女子生徒が何者かに連れ去られ、拷問された挙句に殺された。そして、あの事件には石田組と柏葉真治、それに不良グループのスカルが関わっている。
 どこか、現実離れしている。
「で、どうするの?」沙耶が、不安そうな声で聞いてきた。
「とにかく、田辺笑子を知っている生徒を探し出して話を聞こう」
「美登里を知ってる生徒でしょ?」
「おそらく、美登里のことを詳しく知っている生徒はいないよ。すぐに学校辞めてるし、学校辞めて一年近く経ってるしな。とりあえず、今は田辺笑子の知り合いを探すしかない。あんな動画を持っていたんだ。美登里と田辺笑子との間に、何かつながりがあるはずなんだ」
「二人の関連性を探り当てれば、美登里がどこにいるかわかるっていうの?」
「うまくいけばな」
「頼りないわね」
「しょうがないだろ。他に探しようもないんだから。とにかく、情報を得るために、少しでも関連があるものなら当たっていこう」
「まあ、そうかもね。あなたもたまにはまともなことを言うのね」
 相変わらずの減らず口だが、動くのは口ばかり。沙耶はまったく動こうとしない。仕方ないので和哉が校門を出てくる女の子に声をかけた。田辺笑子のことを知っている女子生徒は何人もいたが、仲がよかった友人にはなかなかめぐりあえなかった。
「あなた、自分の好みで声をかけてないかしら」
 沙耶が冷たい目を向けてくる。
「そ、そんなわけないだろ」
「あなた、さっきから初心そうな女の子ばかりに声をかけているじゃない。あんなのがタイプなのかしら」
 いつもの調子で沙耶が詰め寄ってくる。
「田辺笑子は不良だったのだから、それらしい生徒に声をかけないといけないんじゃないかしら。ナンパじゃないのよ」
「文句があるなら自分で声をかけたらどうだ。たまにはおまえも働け」
「そのときが来たらね」
 そのときっていつ来るんだよ、まったく。
 しかし、確かに、ある程度真面目そうな女の子を選んで声をかけていたのは事実だった。
「ああいうのはどうかしら?」
 沙耶が三人組みの女子生徒を見た。確かにひと癖もふた癖もありそうな、派手な女子生徒だった。
「で、誰が?」
 沙耶が和哉を見ている。ため息をついて彼女たちに近寄っていった。苦手な人種だが仕方ない。
「あのお、ちょっと」
 和哉に声をかけられた三人が同時に振り返った。
「はあ?」
 はあ、はねえだろ。
「なんか用?」
 綺麗に描かれた女の子の眉が、疑心暗鬼に歪んでいる。
「あのさ、田辺笑子さんについて少し聞きたいんだけど」
 三人の目つきが変わった。
「誰、あんた?」
「いやあ、俺はその……」
 振り返って沙耶を見たが、彼女は他人の振りをしている。
「まあ、彼氏みたいな……」
「はあ?」
「たぶん、この学校の友達には内緒にしていたと思うんだけど」
「ださ」
 三人の女子生徒が大笑いした。ここは我慢だ。
「で、彼女が死んじゃってショックだったんだけど、俺、考えてみれば彼女のことよく知らなくってさ。それで、彼女がどんな女の子だったのか、聞きにきたんだ」
「じゃあ、知らないほうがいいよ」
「どうして?」
 言っちゃいなよ、と一人の女子が言った。
「あの子、エンコーしてたんだよ」
「エンコーって、バイシュンのこと?」
「そ、バイシュン。お金もらっておじさんとやるの。笑子って、そんなことなんとも思ってなかったから」
 さて、こんなとき、どんな顔をしていいものやら。
「それは……ショックだ……」
「でしょう?」また女の子たちが笑う。こいつらは屑だな。
「じゃあさ、この学校に塚崎美登里って女の子がいたと思うんだ。彼女の話によく出ていたんだけど、学校を辞めたんだって聞いてさ。今どこにいるか知ってるかな? 彼女から笑子の話を聞きたいんだ」
「塚崎美登里? なんで?」
「笑子の友達だったんだろ?」
 彼女たちがまた笑った。
「あんた、本当のこと何も聞いていなかったんだねえ。美登里はね、虐められていたの、笑子に。それで学校辞めたんだから」
「ええ? 本当?」
 女の子の一人が悪戯っぽい目を向けてきた。
「ねえ、笑子って、どんな感じで殺されてたの? 学校じゃ、詳しいこと教えてくんないしさ。彼氏だったら知ってんでしょ?」
 こいつら、屑だ。こいつらの前じゃ、あの蛇尾沙耶も女神に見える。
「ネットに載ってたけど、全裸にされて道に転がされていたんでしょ?」
「ああ。ひどい拷問を受けていたらしいんだ」
「拷問?」
「さんざんいたぶられた後、殺されたらしいんだ」
「やっぱり、やばいことに関わっていたんだ」
「やばいことって?」
 三人が視線を交わしながら意味ありげに笑っている。
「あの子ね、たぶん、エス、やってた」
「エスって、覚せい剤のこと?」
「そうよ。あんた、わかんなかった?」
「それは……知らなかった……」
「夜に街で会ったことあるんだけど、やばいくらいに弾けてたからさあ」
 美登里は大量の覚せい剤を持っていた。田辺笑子に覚せい剤を与えていたのは美登里に間違いない。
「この前、ここの江木って生徒が自殺したの、知ってるでしょ?」
「そりゃあね」
「笑子や美登里って子と関わりがあったんじゃないかな」
 三人が含み笑いした。
「何か知ってるのかい?」
「まあ、あんたにとってはショックかもしんないけど、江木は笑子を狙っていたんだよ。一発やってやるって、ダチ公に話してたし。一年の時は口も聞いたことなかったのに、夏休み明けくらいから急に喋るようになってさ。なんか、恋人みたいに乳繰り合っていたし。ありゃ、やられてるよ」
「江木って人、もしかしてスカルのメンバーじゃなかったのかい?」
「よく知ってるじゃん。下っ端のくせして、いつも自分がスカルのメンバーだって自慢してたよ」
「柏葉真治って知ってる? スカルのリーダーなんだけど、笑子の死にあいつが関わっているらしいんだ。それについて何か知らないかな」
 柏葉の名前を聞いた途端、三人が真顔に変わった。
「塚崎美登里は柏葉真治と一緒にいるはずなんだよ。どこにいるか、心当たりはないかい?」
 女の子たちは黙って首を横に振った。柏葉の名を聞いてから、彼女たちの態度が別人のように変わった。

 おそらく、美登里は生贄を柏葉に届ける役目を負わされていた。いや、自分から積極的に生贄を選んで連れていっていたのかもしれない。そして、田辺笑子は美登里によって生贄にされた。自殺した江木は、柏葉真治に指示されて美登里に手を貸していた可能性がある。
 和哉の言葉に、沙耶が顔をしかめた。
「気に入らない奴を、地獄に送り込んでいたんだ」
「もしかして、榛原さんも狙われていたのかしら。生贄にされそうになっていたとか」
「いや、それは違う。美登里は虐められていたんだ。学校でな。だから復讐をしたんだ。奈緒のことを罠にかけるとか、そんなことは考えていなかったはずだ」
「そんなの、わからないじゃない。榛原さんの知らないところで、美登里が彼女のことを恨んでいたのかもしれないわ」
「じゃあ、本人に直接聞けばいい」
「どういう意味?」
「美登里は、次の土曜日に奈緒の家にやって来る。男と一緒にな」
「どういうこと?」沙耶の声が、ぴんと張り詰めていた。
「美登里と奈緒との約束を思い出せよ。土曜日にあいつの両親がいなくなることを、美登里は知っているんだ。家に泊まりにこないか美登里を誘ったっていっていただろ?」
「そんな約束、美登里にとっては今更どうだっていいことじゃないかしら」
「いや、そうじゃない。美登里はあの時、誰かに追われ、覚せい剤とUSBを奈緒に預けたんだ。だから、それを回収しに来る」
 沙耶が目の覚めたような顔をした。この女が驚いて表情を変えるとは珍しい。
「やくざや警察に追われているんだったら、どこか遠くに逃げちゃってるんじゃないのかしら?」
「さっきの女たちと話して、柏葉真治って奴のことがなんとなくわかった気がする。柏葉はよほど有名らしいな。奴は逃げたりなんかしない。逃げることを恥と考える輩だよ。きっと奈緒のところにやってくる」
 もしかしたら、奈緒を拉致するかもしれない。ポーチを調べられたことには気づいているはずだ。覚せい剤も見つかっていると察しているだろうし、USBの中身も見られていると思っているだろう。しかも、USBがまだ警察に渡っていないことも知っている。あんなものが公表されれば世間が大騒ぎになっているはずだからだ。
 今USBを回収すれば、事件を隠蔽できると柏葉は思っているはずだ。
 きっと奈緒の前に姿を現す。
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