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女はリサとだけ名乗った。プロフィールを尋ねると二十五歳だと答えたが、三十前くらいに見える。裏社会に生きるベテランの風俗嬢らしく、スマートな身体に貫録が漂っている。
「中学のときから立ちんぼうを始めたわ。最初は公園で、通りかかる男が声をかけてくれるのを待っていたの。胸やあそこを触らせて金もらってたけど、最後までしなかった。その頃はまだ男知らなかったし。初めての相手は見知らぬオヤジ。中学を卒業する前くらいだったかな。友達は学校の先輩とか地元の不良にあげちゃうことが多かったけど、私はオヤジに売ったの。五万で」
タバコある? リサがけだるそうな目で奈緒美を見た。セーラムライトの箱を差し出すと、一本取り出し口に咥えたので、ライターの火を差し出してやった。
「処女を捨てた後は、街に出て出会い系サイトで男誘って援交。でも、すぐ親にばれて、即家出。友達の部屋に泊めてもらったり、ネット喫茶に泊まったりしながら身体を売り続けたの」
「でも、中学生が夜の街に出て危なくなかった? 中年男に身体売るって、命がけでしょ?」
「殺されかけたこともあったわ。やり終わっても金払わない奴に金払えってつかみかかっていったら首絞められて、目が覚めると床で寝てたり。そんなこと、しょっちゅうだった。中学の時は三人に一人はやり逃げされた。でも、ケツ持ちできてから楽になった」
「どんな人だったの? やくざ?」
「組とはつながりはあるけど、組員じゃなくただの不良、チンピラ。未成年者にやくざは関わりたがらないから。やくざってバカじゃないもん。そのケツ持ちが援デリの打ち子やってて、出会い系サイトで客の男集めていたの。ピンはねされるけど、それからはやり逃げされなくなったし、危ない目にもあわなくなった。客の男に会う前に、ハリが待ち合わせ場所にいって男が危なくないか確認してくれるから。お金稼いでマンションでも買おうって思ってたけど、すぐにホストなんかに貢いじゃったから、全然貯金なんてできなかった。友達は薬に手を出してたわ。エスやって男とはまると最高らしいけど、私はやらなかった」
奈緒美は相槌を打ちながら女を観察した。荒れた肌に充血した目。顔色もよくない。本当に薬をやっていないのかどうかはわからないが、酒で肝臓が弱っているのは間違いない。
「モデル募集にだまされてのこのこやってきてAVに落とされる子、問題になってるでしょ? そんなのは幸せなほう。稼ぐだけ稼いで別の人生選べるし。AVに行くのは顔のいい子だけ。そうじゃない子は、最後は私のような裏風俗で働くしかない。身体売り始めるとね、もうやめられなくなるのよ」
「あなたは普段、どんな男を相手にしているの?」
「若い時は金持ってるサラリーマンが主な客だったわ。妻子持ち家持ちは安全だから、余裕だった。でも今は競争激しいし、私は底辺だから」
「でも、桃香ちゃんから、あなたは結構稼いでいるって聞いたわ」
リサが、意味ありげにほほ笑んだ。
「あの子と一緒。変態の客を相手にしてるからよ。お尻の穴を舐めたがったり、逆に舐めて欲しがったり、おしっこを見せて欲しいといわれたり。オムツの中で放尿してくれってのも多いわね。そんなオプションで稼いでいるの。痛いの嫌だからSMはやらないけど、スカトロはお金次第ね。でも、可愛いものよ。生贄になったりするよりはずっとまし」
「生贄って?」
「組関係者が誰か男を殺すとき、心中に見せかけることがあるの。生贄って、心中に見せかけて男と一緒に殺される女の子のこと。知り合いが何人も生贄になって殺されたわ。わけあり男が不良女と心中しても、警察はまともに捜査しないの。やくざはそのあたりの事情に詳しいから、生贄に使われる子って結構多いの。噂だけどね」
「ひどい話」
「突然、行方不明になる子もいるわ。女の子をいたぶりたい変態の中国人に売られるの。いたぶられてバラバラにされて殺されるの。生贄には親とかきょうだいと完全に切れてて行方不明になってもわからない子が選ばれる。私はまだ親に連絡しているから助かってるのかもね。していなければ、私も生贄になっていたかも」
まるで都市伝説のような、信じられない話だ。リサの話をどこまで信用できるか、奈緒美にはわからない。話の裏を取りようがないのだから。しかし、ヤクザの世界に詳しい一輝に確認すればそれらしい記事は書ける。
「田島仁志って、知ってる? 今世間で騒がれている死刑囚」
リサの顔が少し得意げになった。
「ええ」
「どう思う?」
「どうって、女の子二人も殺してるんだから、死刑になって当然だわ」
「あたし、あの男、相手したことあるの」
「ほんと?」
「事件が大きく報道されて思い出したんだけど、見覚えのある男だったから。世間では変態扱いされているけど、あっちのほうはノーマルだったわ。でも、人を殺すようには見えなかったわね」
「たしかに命がけね、あなたのお仕事って。場合によっては、あなたが犠牲になっていたかもしれないわね」
「それなんだけどねえ……」
リサが身を乗り出して顔を寄せてきた。
「被害者の女の子のどっちだか忘れたけど、あたしの友達に殺された女の子の知り合いがいるの。彼女が言うには、殺された子、とても慎重な子だったんだって。知り合ったばかりの素性のわからない男を、自分の部屋に連れていくような子じゃないって。まして、それほどいい男でもないのに部屋に連れ込んで、金取らないで生でやらせるなんて、信じられないわ。あたしの場合、部屋に呼ぶのはお気に入りのホストとパパと彼氏だけよ」
「どういうこと?」
「不自然すぎるわよ。なんか、裏がありそう」
確かの彼女の言う通りだ。性を売り物にしている女たちは、商売抜きでそう軽々しく男に身体を与えたりはしない。商売抜きなら、普通の女よりむしろ彼女たちのほうが身持ちが固い場合も多い。
宮崎恵美と小木尚子。ふたりには、田島を部屋に連れ込む理由があったのだ。
「中学のときから立ちんぼうを始めたわ。最初は公園で、通りかかる男が声をかけてくれるのを待っていたの。胸やあそこを触らせて金もらってたけど、最後までしなかった。その頃はまだ男知らなかったし。初めての相手は見知らぬオヤジ。中学を卒業する前くらいだったかな。友達は学校の先輩とか地元の不良にあげちゃうことが多かったけど、私はオヤジに売ったの。五万で」
タバコある? リサがけだるそうな目で奈緒美を見た。セーラムライトの箱を差し出すと、一本取り出し口に咥えたので、ライターの火を差し出してやった。
「処女を捨てた後は、街に出て出会い系サイトで男誘って援交。でも、すぐ親にばれて、即家出。友達の部屋に泊めてもらったり、ネット喫茶に泊まったりしながら身体を売り続けたの」
「でも、中学生が夜の街に出て危なくなかった? 中年男に身体売るって、命がけでしょ?」
「殺されかけたこともあったわ。やり終わっても金払わない奴に金払えってつかみかかっていったら首絞められて、目が覚めると床で寝てたり。そんなこと、しょっちゅうだった。中学の時は三人に一人はやり逃げされた。でも、ケツ持ちできてから楽になった」
「どんな人だったの? やくざ?」
「組とはつながりはあるけど、組員じゃなくただの不良、チンピラ。未成年者にやくざは関わりたがらないから。やくざってバカじゃないもん。そのケツ持ちが援デリの打ち子やってて、出会い系サイトで客の男集めていたの。ピンはねされるけど、それからはやり逃げされなくなったし、危ない目にもあわなくなった。客の男に会う前に、ハリが待ち合わせ場所にいって男が危なくないか確認してくれるから。お金稼いでマンションでも買おうって思ってたけど、すぐにホストなんかに貢いじゃったから、全然貯金なんてできなかった。友達は薬に手を出してたわ。エスやって男とはまると最高らしいけど、私はやらなかった」
奈緒美は相槌を打ちながら女を観察した。荒れた肌に充血した目。顔色もよくない。本当に薬をやっていないのかどうかはわからないが、酒で肝臓が弱っているのは間違いない。
「モデル募集にだまされてのこのこやってきてAVに落とされる子、問題になってるでしょ? そんなのは幸せなほう。稼ぐだけ稼いで別の人生選べるし。AVに行くのは顔のいい子だけ。そうじゃない子は、最後は私のような裏風俗で働くしかない。身体売り始めるとね、もうやめられなくなるのよ」
「あなたは普段、どんな男を相手にしているの?」
「若い時は金持ってるサラリーマンが主な客だったわ。妻子持ち家持ちは安全だから、余裕だった。でも今は競争激しいし、私は底辺だから」
「でも、桃香ちゃんから、あなたは結構稼いでいるって聞いたわ」
リサが、意味ありげにほほ笑んだ。
「あの子と一緒。変態の客を相手にしてるからよ。お尻の穴を舐めたがったり、逆に舐めて欲しがったり、おしっこを見せて欲しいといわれたり。オムツの中で放尿してくれってのも多いわね。そんなオプションで稼いでいるの。痛いの嫌だからSMはやらないけど、スカトロはお金次第ね。でも、可愛いものよ。生贄になったりするよりはずっとまし」
「生贄って?」
「組関係者が誰か男を殺すとき、心中に見せかけることがあるの。生贄って、心中に見せかけて男と一緒に殺される女の子のこと。知り合いが何人も生贄になって殺されたわ。わけあり男が不良女と心中しても、警察はまともに捜査しないの。やくざはそのあたりの事情に詳しいから、生贄に使われる子って結構多いの。噂だけどね」
「ひどい話」
「突然、行方不明になる子もいるわ。女の子をいたぶりたい変態の中国人に売られるの。いたぶられてバラバラにされて殺されるの。生贄には親とかきょうだいと完全に切れてて行方不明になってもわからない子が選ばれる。私はまだ親に連絡しているから助かってるのかもね。していなければ、私も生贄になっていたかも」
まるで都市伝説のような、信じられない話だ。リサの話をどこまで信用できるか、奈緒美にはわからない。話の裏を取りようがないのだから。しかし、ヤクザの世界に詳しい一輝に確認すればそれらしい記事は書ける。
「田島仁志って、知ってる? 今世間で騒がれている死刑囚」
リサの顔が少し得意げになった。
「ええ」
「どう思う?」
「どうって、女の子二人も殺してるんだから、死刑になって当然だわ」
「あたし、あの男、相手したことあるの」
「ほんと?」
「事件が大きく報道されて思い出したんだけど、見覚えのある男だったから。世間では変態扱いされているけど、あっちのほうはノーマルだったわ。でも、人を殺すようには見えなかったわね」
「たしかに命がけね、あなたのお仕事って。場合によっては、あなたが犠牲になっていたかもしれないわね」
「それなんだけどねえ……」
リサが身を乗り出して顔を寄せてきた。
「被害者の女の子のどっちだか忘れたけど、あたしの友達に殺された女の子の知り合いがいるの。彼女が言うには、殺された子、とても慎重な子だったんだって。知り合ったばかりの素性のわからない男を、自分の部屋に連れていくような子じゃないって。まして、それほどいい男でもないのに部屋に連れ込んで、金取らないで生でやらせるなんて、信じられないわ。あたしの場合、部屋に呼ぶのはお気に入りのホストとパパと彼氏だけよ」
「どういうこと?」
「不自然すぎるわよ。なんか、裏がありそう」
確かの彼女の言う通りだ。性を売り物にしている女たちは、商売抜きでそう軽々しく男に身体を与えたりはしない。商売抜きなら、普通の女よりむしろ彼女たちのほうが身持ちが固い場合も多い。
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