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朝の九時。朝食を終え本を読んでいると、鉄扉の開く音が聞こえてきた。田島仁志は読みかけの本を閉じた
廊下の向こうから固い靴底が床を叩く音が近づいてくる。死刑囚たちが息を飲む気配が、独居房のドアの向こうから伝わってくる。刑務官の足音が聞こえると、死刑囚たちは自分の房の前を通り過ぎていくことを必死で願う。死刑が執行されるのは平日の早朝。死神が迎えに来る時間が過ぎ去るのを、囚人たちは息を潜めて待つしかない。死刑囚たちの怯えと殺気に満ちた、まさに死の時間帯だ。
もちろん、この時間に刑務官が来るからといって、誰かの刑が執行されるとは限らない。普段忙しい弁護士の中には、早朝に面会にくることも多い。いつお迎えがあっても不思議ではない長期収監死刑囚にとっては、早朝面会など迷惑この上ない。
収監されてまだ二年。しかも再審請求中である。自分が処刑されるのはまだ先だろう。朝のこの時間に足音が聞こえてきても、まだ恐れる必要はない。
しかし、足音は田島の房の前で止まった。視察口が開き、覗き込んでくる刑務官と目が合った。
ドアが開鍵される。囚人たちが息を呑んで様子を伺っている気配を感じる。開かれたドアから、三人の刑務官が無表情な顔で田島仁志を見た。
「四九三番、田島仁志、出房だ」
背中に嫌な汗が流れた。心臓が早鐘のように鼓動を始める。
「な、なんだよ?」まさか、執行なのか?
「面会だ。弁護士だよ」
やはりそうか。この拘置所には、長期間収監されている者も多い。そんな大先輩たちを飛び越えて、自分が先に処刑されるはずはない。それに、なんといっても俺は何もしていないのだ。
「まったく、迷惑な弁護士だな」
文句を言いながら、田島仁志はゆっくり立ち上がった。房に入ってきた刑務官が手錠をかける。ドアを出たとたん、両脇を刑務官が押さえ込んだ。ただならぬ気配に思わず身構えた。
いや、そんなはずはない。俺は無実なんだ。気を取り直して大きく息を吸う。
「心配しないでください。弁護士の面会です」
廊下に出ると、房のドアの向こうで耳を澄ましている死刑囚たちに声をかけた。
刑務官を両脇に従え、田島仁志は廊下を進んだ。鉄格子を抜けて面会室へと続く廊下を進む。
「こっちだ」
前を進む刑務官が、振り返って田島仁志を見た。
「面会室はこの先だろ」
「いや、向こうは今改装中で使えない。今朝はこっちなんだ」
刑務官が重厚な鉄の扉を開ける。この扉をくぐるのは、拘置所に収監されて以来、初めてのことだった。
十メートルほど廊下を歩き、閉じられたドアの前に立たされる。刑務官がドアを開いた。広い会議室に、刑務所長と警備隊長、二名の刑務官が立っていた。あと、背広を着た男がふたり、こちらを見ている。そのうちのひとりに見覚えがあった。確か検察官だ。
会議室には椅子もテーブルも何もなく、がらんとしていた。
「おい、どういうことだ、これは」田島仁志が気色ばった。
「法務大臣からの命令が出た。田島仁志。残念だが、お別れだ」
死刑執行命令書だといって、刑務所長が書類を突き出した。法務大臣のサインが赤鉛筆で書かれている。
執行……?
いや、そんなはずはない。
「うるせえ! 処刑なんかされてたまるか!」
いきなりふたりの刑務官に両脇を押さえられた。奥の扉が開き、いつも説教を垂れている教誨師が入ってきた。
急に、背筋に悪寒が走った。おさまりかけていた心臓の鼓動が、再び速度を速めた。
所長と検察官、もう一人の背広男が出て行った。教誨師がその後に続いた。
「さあ、来なさい」
警備隊長が声をかけ部屋を出た。両脇の刑務官に腕をつかまれるが、足が動かない。田島仁志は二人の刑務官に引きられように部屋を出た。先を歩く教誨師の読経が聞こえてきた。
「やめろ! 俺はどこにも行かないぞ!」
「立ち止まるな、早く歩け!」
必死に抵抗して足を踏ん張るが、三人の屈強な刑務官相手にどうすることもできない。野外に出る。二階建ての小さな建物が見えた。刑場だ。
「嫌だ!」
刑務官たちは暴れる田島を無言で引きずっていった。建物のドアをくぐる。七段ほどの小さな階段が、上と下に伸びていた。今立っているところが、中二階にあたる場所だった。
足が震えてきた。これから本当に刑が執行されるんだ。
「や、やめろ! 俺は何もやっていないんだ!」
大声で叫んで刑務官を振り切ろうとしたが、両脇の屈強な刑務官がつかんでいた腕に力を入れた。足を踏ん張ったが、引きずられるように上の階に引き上げられていく。
階段を上がり、刑務官がドアを開いた。読経が室内から流れ出てきた。部屋に引きずり込まれる。さっきの僧侶が祭壇の前で座って経を読んでいる。辺りに線香の匂いが立ち込めていた。
刑務所長と刑務官たちが、立ったまま田島仁志を見つめていた。彼らの後ろに、アコーディオン・カーテンが引かれている。あの向こうが絞首刑場なのだ。
「おい、放せ! 俺は何もしていない、無実なんだ!」
田島の言葉は無視され、刑務官に無理やり椅子に座らされた。手錠ははずされたが、二人の刑務官に肩をつかまれたままだった。テーブルに菓子類とジュースが置かれている。ビールや酒まであった。籠には、いくつもの銘柄のタバコが置いてある。
好きなものを手にとっていい。所長がそう言って、ペンと紙を持ってきた。
「お父さんに、何か書いてあげなさい」
目の前に置かれた紙がぼやけてきた。涙が零れ落ちる。
「俺は……やっていない」
声が震えている。身体もがたがた震えだした。
「た、助けてくれ」
「残念だが」
所長が首を振った。
「ふざけるな!」
田島は立ち上がろうとしたが、両脇の刑務官に椅子に押さえつけられた。
「俺は何もやっていないんだ! 死刑になんかならないぞ!」
「何か飲みたまえ。タバコも好きなのを吸っていい。まだ時間があるんだ。急ぐことはない」
しかし、手は伸ばさなかった。テーブルの上のものに手をつければ、自分がやってもいない罪を認めることになるような気がしたからだ。
「ふざけんなよ。俺は何もしてねえだろ!」
悲鳴に近い怒鳴り声だった。もう、どうすることも出来ないのか。
「言い残すことはあるか?」
「うるせえ! この人殺しが!」
所長の目が、すっと冷たくなった。
「執行!」
ふたりの刑務官が両脇から田島仁志を立ち上がらせた。
「やめろ! やめてくれぇ!」
他の刑務官も慌てて駆け寄ってきて、暴れる田島仁志の身体を抑えた。手が後ろに回され、手錠がかけられる。後ろから袋をかぶせられた。目隠しだ。
「やめろ! 人殺し!」
必死になって暴れるが、刑務官たちに押さえつけられ、びくともしない。まったく抵抗できなかった。
カーテンが開けられる音がする。
「た、助けてくれ! 俺は無実だ! 何もやっていないんだ!」
刑務官たちが、無言で田島仁志を引きずっていく。大声で叫び続けたが、誰も何も喋らない。
首に太い縄がかけられた。
「やめろぉ!」
大声で叫んだ瞬間、身体が宙に浮いた。強烈な衝撃で首の骨が折れ、首が千切れそうになる。舌を噛み切ったが、痛みなど感じない。
しかし、意識はあった。
顔面が破裂しそうな激痛。呼吸できない苦痛。絞首刑とはこんなに苦しい刑なのか。
絞首刑に処せられる死刑囚は痛みを感じることはない。なぜなら、衝撃で頚椎が破壊され、即死するからだ。だから、絞首刑は残酷な刑ではない。死刑推進派たちは世間に向かってそう説明している。しかし、実際はそうでなかった。死刑囚は意識を保ったまま、呻き声も叫び声もあげられないまま絶命するまで苦痛にあえぐのだ。
しかし、その事実を伝えることが出来るものなど、誰もいない。絞首台に吊るされた死刑囚が絶命するまでの間、どれほど苦痛を味わうことになるのか、説明できるものなど未来永劫でてこないのだ。
廊下の向こうから固い靴底が床を叩く音が近づいてくる。死刑囚たちが息を飲む気配が、独居房のドアの向こうから伝わってくる。刑務官の足音が聞こえると、死刑囚たちは自分の房の前を通り過ぎていくことを必死で願う。死刑が執行されるのは平日の早朝。死神が迎えに来る時間が過ぎ去るのを、囚人たちは息を潜めて待つしかない。死刑囚たちの怯えと殺気に満ちた、まさに死の時間帯だ。
もちろん、この時間に刑務官が来るからといって、誰かの刑が執行されるとは限らない。普段忙しい弁護士の中には、早朝に面会にくることも多い。いつお迎えがあっても不思議ではない長期収監死刑囚にとっては、早朝面会など迷惑この上ない。
収監されてまだ二年。しかも再審請求中である。自分が処刑されるのはまだ先だろう。朝のこの時間に足音が聞こえてきても、まだ恐れる必要はない。
しかし、足音は田島の房の前で止まった。視察口が開き、覗き込んでくる刑務官と目が合った。
ドアが開鍵される。囚人たちが息を呑んで様子を伺っている気配を感じる。開かれたドアから、三人の刑務官が無表情な顔で田島仁志を見た。
「四九三番、田島仁志、出房だ」
背中に嫌な汗が流れた。心臓が早鐘のように鼓動を始める。
「な、なんだよ?」まさか、執行なのか?
「面会だ。弁護士だよ」
やはりそうか。この拘置所には、長期間収監されている者も多い。そんな大先輩たちを飛び越えて、自分が先に処刑されるはずはない。それに、なんといっても俺は何もしていないのだ。
「まったく、迷惑な弁護士だな」
文句を言いながら、田島仁志はゆっくり立ち上がった。房に入ってきた刑務官が手錠をかける。ドアを出たとたん、両脇を刑務官が押さえ込んだ。ただならぬ気配に思わず身構えた。
いや、そんなはずはない。俺は無実なんだ。気を取り直して大きく息を吸う。
「心配しないでください。弁護士の面会です」
廊下に出ると、房のドアの向こうで耳を澄ましている死刑囚たちに声をかけた。
刑務官を両脇に従え、田島仁志は廊下を進んだ。鉄格子を抜けて面会室へと続く廊下を進む。
「こっちだ」
前を進む刑務官が、振り返って田島仁志を見た。
「面会室はこの先だろ」
「いや、向こうは今改装中で使えない。今朝はこっちなんだ」
刑務官が重厚な鉄の扉を開ける。この扉をくぐるのは、拘置所に収監されて以来、初めてのことだった。
十メートルほど廊下を歩き、閉じられたドアの前に立たされる。刑務官がドアを開いた。広い会議室に、刑務所長と警備隊長、二名の刑務官が立っていた。あと、背広を着た男がふたり、こちらを見ている。そのうちのひとりに見覚えがあった。確か検察官だ。
会議室には椅子もテーブルも何もなく、がらんとしていた。
「おい、どういうことだ、これは」田島仁志が気色ばった。
「法務大臣からの命令が出た。田島仁志。残念だが、お別れだ」
死刑執行命令書だといって、刑務所長が書類を突き出した。法務大臣のサインが赤鉛筆で書かれている。
執行……?
いや、そんなはずはない。
「うるせえ! 処刑なんかされてたまるか!」
いきなりふたりの刑務官に両脇を押さえられた。奥の扉が開き、いつも説教を垂れている教誨師が入ってきた。
急に、背筋に悪寒が走った。おさまりかけていた心臓の鼓動が、再び速度を速めた。
所長と検察官、もう一人の背広男が出て行った。教誨師がその後に続いた。
「さあ、来なさい」
警備隊長が声をかけ部屋を出た。両脇の刑務官に腕をつかまれるが、足が動かない。田島仁志は二人の刑務官に引きられように部屋を出た。先を歩く教誨師の読経が聞こえてきた。
「やめろ! 俺はどこにも行かないぞ!」
「立ち止まるな、早く歩け!」
必死に抵抗して足を踏ん張るが、三人の屈強な刑務官相手にどうすることもできない。野外に出る。二階建ての小さな建物が見えた。刑場だ。
「嫌だ!」
刑務官たちは暴れる田島を無言で引きずっていった。建物のドアをくぐる。七段ほどの小さな階段が、上と下に伸びていた。今立っているところが、中二階にあたる場所だった。
足が震えてきた。これから本当に刑が執行されるんだ。
「や、やめろ! 俺は何もやっていないんだ!」
大声で叫んで刑務官を振り切ろうとしたが、両脇の屈強な刑務官がつかんでいた腕に力を入れた。足を踏ん張ったが、引きずられるように上の階に引き上げられていく。
階段を上がり、刑務官がドアを開いた。読経が室内から流れ出てきた。部屋に引きずり込まれる。さっきの僧侶が祭壇の前で座って経を読んでいる。辺りに線香の匂いが立ち込めていた。
刑務所長と刑務官たちが、立ったまま田島仁志を見つめていた。彼らの後ろに、アコーディオン・カーテンが引かれている。あの向こうが絞首刑場なのだ。
「おい、放せ! 俺は何もしていない、無実なんだ!」
田島の言葉は無視され、刑務官に無理やり椅子に座らされた。手錠ははずされたが、二人の刑務官に肩をつかまれたままだった。テーブルに菓子類とジュースが置かれている。ビールや酒まであった。籠には、いくつもの銘柄のタバコが置いてある。
好きなものを手にとっていい。所長がそう言って、ペンと紙を持ってきた。
「お父さんに、何か書いてあげなさい」
目の前に置かれた紙がぼやけてきた。涙が零れ落ちる。
「俺は……やっていない」
声が震えている。身体もがたがた震えだした。
「た、助けてくれ」
「残念だが」
所長が首を振った。
「ふざけるな!」
田島は立ち上がろうとしたが、両脇の刑務官に椅子に押さえつけられた。
「俺は何もやっていないんだ! 死刑になんかならないぞ!」
「何か飲みたまえ。タバコも好きなのを吸っていい。まだ時間があるんだ。急ぐことはない」
しかし、手は伸ばさなかった。テーブルの上のものに手をつければ、自分がやってもいない罪を認めることになるような気がしたからだ。
「ふざけんなよ。俺は何もしてねえだろ!」
悲鳴に近い怒鳴り声だった。もう、どうすることも出来ないのか。
「言い残すことはあるか?」
「うるせえ! この人殺しが!」
所長の目が、すっと冷たくなった。
「執行!」
ふたりの刑務官が両脇から田島仁志を立ち上がらせた。
「やめろ! やめてくれぇ!」
他の刑務官も慌てて駆け寄ってきて、暴れる田島仁志の身体を抑えた。手が後ろに回され、手錠がかけられる。後ろから袋をかぶせられた。目隠しだ。
「やめろ! 人殺し!」
必死になって暴れるが、刑務官たちに押さえつけられ、びくともしない。まったく抵抗できなかった。
カーテンが開けられる音がする。
「た、助けてくれ! 俺は無実だ! 何もやっていないんだ!」
刑務官たちが、無言で田島仁志を引きずっていく。大声で叫び続けたが、誰も何も喋らない。
首に太い縄がかけられた。
「やめろぉ!」
大声で叫んだ瞬間、身体が宙に浮いた。強烈な衝撃で首の骨が折れ、首が千切れそうになる。舌を噛み切ったが、痛みなど感じない。
しかし、意識はあった。
顔面が破裂しそうな激痛。呼吸できない苦痛。絞首刑とはこんなに苦しい刑なのか。
絞首刑に処せられる死刑囚は痛みを感じることはない。なぜなら、衝撃で頚椎が破壊され、即死するからだ。だから、絞首刑は残酷な刑ではない。死刑推進派たちは世間に向かってそう説明している。しかし、実際はそうでなかった。死刑囚は意識を保ったまま、呻き声も叫び声もあげられないまま絶命するまで苦痛にあえぐのだ。
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