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DVDに映っていた男に見覚えがないかエリカに会って確認したが、彼女は知らない男だと言った。ただ、男のタバコの銘柄を聞くと、確かにラッキーストライクを喫っていたらしい。ラッキーストライクを喫う、胸に十字架の刺青のあるがっちりした五十代の男。手掛かりはまだ少ない。
永井の言っていた通り、斉藤カイはおそらく何者かに接触して、殺された。彼が脅していた相手は藤森だったが、彼が直接殺したのではない。誰が斉藤を殺したのか? 共犯者がいるのか? しかし、自分が疑われていると知っても平然としていた藤森の落ち着き払った態度が気になる。彼は何かを知っている。
事務所に戻った夜十時ごろ、発見されたナイフについていた血液から被害者のDNAが出たとの速報が流れた。結果は簡易検査のもので、詳しいDNA解析にはまだ時間を要するとのことだった。
仮眠室に泊まりこむことにし、一度玲奈のマンションに戻り、シャワーを浴びて着替えを済ませると、彼女にキスする暇もなくマンションを出てきた。デスクの小宮に取材の結果を報告し、記事の下書きを書いて仮眠室の布団にもぐりこんだのは午前四時。今週号の締め切りを過ぎていたので、奈緒美の記事が新聞に載るとすれば来週号以降になるだろう。来週号では田島仁志関連の記事で全紙面の三分の一を使うと小宮はいっている。マスコミと国との戦いは、もう始まっている。
奈緒美のいない部屋で一人、玲奈は何を考えているのだろう。玄関で見送った玲奈の寂しそうな顔を思い出し、仮眠室のベッドに横たわってもしばらく眠れなかった。
二日目の朝を、また仮眠室で迎えた。
顔を洗って化粧を整え、自販機でコーヒーを買おうとコミュニケーションルームにいくと、起きたばかりの者や徹夜明けの者たちがテレビの前に集まっていた。
田島仁志の遺族が国を訴える準備をしているとのニュースがテレビに流れていた。無実の罪によって処刑台の露となった息子の無念を晴らしたいと、それまでずっと行方不明だった父親が、カメラの前で涙ながらに語っていた。
「よくやるよ、あのオヤジ」
明らかに賠償金目当てだと、一緒にテレビを見ていた五十近い記者が苦々しく呟いた。公判記録にもあったが、田島仁志は親の愛情を知らずに育った不幸な過去を持つ。息子の裁判に一度も顔を見せなかった父親が突然メディアの前で涙ながらに語る姿には、確かに違和感を覚える。
コメンテーターとして大写しになった男に見覚えがあった。先日の講演会で演者を務めた代議士の吉本だった。今回の事件が起こったのも、現政権に責任があると理路整然と語り始めた。死刑廃止論者たちも昨夜から活発に動き始めているようだった。この機に乗じ、死刑制度を廃止に追い込もうと躍起になっている。
名誉回復のために田島仁志の裁判のやり直しが認められ、改めて無罪判決が出るのは確実だが、国は死刑制度の廃止は認めないだろう。落としどころは韓国のように刑法に死刑の条文は残すが、実際には死刑を執行しないという運用を認めるといったところか。
先日訪問した時と同様、事務所には八槇一郎しかいなかった。奈緒美を見た彼が愛想のよさそうな顔を向けた。どうやら、暇を持て余していたようだ。
この日も社員は全員営業に出ていて留守だった。コーヒーカップを持って戻ってきた八槇に頭を下げ、レコーダーのスイッチを入れた。
「八槇さんは、仕事以外で藤森俊夫とプライベートな付き合いはありますか?」
「アメ車に詳しいので話はあうけど、プライベートな付き合いはないな。あの人はゴルフもマージャンもしないから。ここに来た時、仕事の話をするくらいだよ」
「藤森さんは車にはかなり詳しいんでしょうね?」
「そりゃ、そうさ。藤森さんは元々ディーラーで働いていたんだから。修理工の資格も持っているし、会社を辞めてからはしばらく修理工場で働いていたって聞いたよ。自動車の中古部品を扱うようになったのも、以前車関係の仕事をしていて詳しかったからだよ。アメ車だけじゃ食っていけないからアメ車以外の部品も扱ってるみたいだけどね」
「ディーラーって、アメリカ製の車の?」
「いや、国産車だったはずだ。でも古いアメ車が以前から好きだったみたいだね。二十代の頃にアメ車のオーナーになって、アメ車のクラブにも加盟していたから」
八槇がデスクのキャビネットからアルバムを取りだした。
「十年くらい前かな。ほら、藤森さんと奥さん、それに息子だ。このときはまさか息子があんな事件を起こすとは思っていなかっただろうな」
写真にはインパネのオープンカーに乗っている藤森俊夫とその妻、それに高校生くらいの少年が映っている。これが藤森隆弘か。目つきが鋭い少年だ。
八槇がアルバムをめくる。藤森俊夫が古いアメリカ製の車と映っていた。
「リンカーン・コンチネンタル。藤森さんの愛車だよ」
「さっき三人が乗っていた車はインパネじゃなかったかしら」
「へえ、桐原さん、詳しいんだね。あの車は松岡さんの車だよ」
「松岡? もしかしてオリーブフードサービス社長の?」
「そうだよ。マニアには金持ちが多いけど、あの人は特に大金持ちだから、アメ車を六台も持っているんだ。今じゃ、昔のアメ車を後世に残すのが俺の義務だなんて言ってるくらいだから、相当の入れ込みようだよ」
八槇がアルバムをめくっていく。写真に四人の男女が映っている。藤森夫妻と松岡だった。松岡の横にいるのが彼の妻だと、八槇が言った。
「藤森さんはアメ車クラブで松岡さんと知り合ったんだ。当時は二人とも若かった。松岡さんがちょうど父親の経営していたオリーブフードサービスに移った頃だったかなあ。今と違って二人ともスリムだし。今もそうだけど、似た者同士だよな。性格良く似ていたよ」
「二人は仲がよかったんですね」
「お互いの夫婦四人であちこちに旅行にいっていたみたいだし。藤森さんに息子ができちまってからはそうもいかなくなったようだけど」
「子供を連れて旅行とか、行かないものかしら」
「松岡さんのところは子供ができなかったから、藤森さんも気を使ってたんだよ」
「松岡さんは死刑廃止運動を熱心にやっておられるようですが、藤森さんの影響ですか?」
「というより、最初に始めたのが松岡さんだったと思うよ。藤森さん、当時はマスコミからバッシング受けていてそんな余裕なかったから。それから藤森さんが息子を救うために松岡さんと活動するようになったんだ。吉本って議員は松岡さんの知り合いなんだけど、議員を巻き込んでから大がかりな活動になっていったんだ。そんなときに無実の男が処刑されちまったんだから、まさに追い風だな」
八槇がテーブルに置いていた箱からタバコを取り出して銜えた。
「藤森さんもタバコを吸っていましたよね。ラッキーストライクを吸っていたんじゃないですか?」
「そうそう。以前は国産のタバコだったけど、アメ車に取りつかれてからはアメリカ製のタバコを喫うようになったんだよ」
「藤森さんと処刑された田島さんには、本当に接点はなかったんでしょうか?」
「そんな話、聞いたことないね」
八槇が銜えたタバコに火をつけた。
「テレビに映っていた男が犯人なんだろ?」
「おそらく」
「酷いねえ、人違いで無実の人間を吊るしちまうなんて。碌に証拠もなしで死刑判決が出ちまうこともあるんだね。藤森さんの息子さんも、もしかしたら無実かもしれないね」
「正直な話、中学の時からやばい奴だったよ」
藤森隆弘と中学、高校と同級生だった高島という男が言った。店が暇になったので、タバコを吸う間だけならすぐに取材に応じられるというので、外の喫煙所まで一緒についてきてもらった。
「はっきり言って、あれは悪人だ。人を殺しそうな雰囲気があったから。目つきが違うんだよ、普通の人と」
ヤマキモーターズで見た、少年の頃の藤森隆弘の写真を思い出す。鋭い目つきに、ほの暗い心の片鱗が見えていた。
「中学の時から悪かったの?」
「そう。不良中の不良だよ。高校の時は女を強姦しまくってたって話もあった。まあ、二年に上がるときに学校辞めちまったけど。それにでかいバイク乗りまわしてたし」
「盗難バイク?」
「それが、自分で新車買ったっていってた。親に買ってもらったのかって聞いたら、金くれるオヤジがいるとかいってた。カマ掘らせてたんじゃねえかってみんな言ってたけど、ありゃ、タカりだな。オヤジの弱み握って脅してたんだろう。そんなことを平気でする奴だったから。事件の報道を聞いて、やっぱりと思ったね。殺ったのは女だろ。突っ込もうとして騒がれて殺したんだよ」
「逮捕される前も、彼と付き合いとかあった?」
「こっちにダチが多いから、よく来ていたよ。いつも呼び出された。気前良くおごってくれたし」
「彼、当時は無職だったんでしょ? お金、持ってたのね。親からもらってたのかしら?」
「スポンサーがいるって言ってた。どこかの中年マダムのヒモでもしてたんじゃねえの。あいつ、ガタイいいし、あれもデカイし精力旺盛だったし。拘置所に入って苦労してるだろうな」
高島が下品に笑った。
「彼、お父さんとはうまくいってたの?」
「親父さんとは似てねえけど、仲は悪くなかったはずだ。死刑が確定して母親や妹には見捨てられたけど、親父さんはまだ息子の無実を訴えてんだから。あの息子じゃ、見捨てられて当然なのに」
「母親とは仲が悪かったとか?」
「一時期、当たり散らしていた時あったよな。理由は分からないけど。妹連れてどっかに行きやがれとか言ってたし。妹にも、どちらかというとつらく当たっていたかな。兄妹仲はそれほど良くなかった」
事務所に戻る。週刊誌の記事を書いている記者がいる。田島仁志の友人に取材してきた記者だった。
記事の中身は読まずともわかる。田島に死刑判決下ったときは、どの週刊誌も紙面は昔から危ない奴だったという証言で埋められていたが、彼の原稿には、田島仁志はいい奴だった、あいつが人を二人も殺すはずはないという証言であふれているはずだ。
記者は嘘を書かない。ただし、情報は取捨選択する。国民の知る権利に基づいてマスコミから国民に流される情報は、事実ではあるがマスコミが恣意的に手を加えた情報なのだ。真の事実を国民が知ることはない。
今夜は玲奈が待っているマンションに戻れそうだ。帰る前に静かな場所で飲みたかった。奈緒美は事務所を見回したが、一輝の姿はなかった。
メンバーたちが集まっている居酒屋を避け、2ブロック先にあるバーに向かった。ドアの窓から店内を覗く。十人も入ればいっぱいになるカウンターだけの店だが、他に客はいなかった。外から店内を覗けるしカクテル類を豊富にそろえているので、女性にも入りやすい店だ。
ドアを開け店内に入る。
「お久しぶり」
カウンターの中からマスターが微笑みかけてくる。無口な男だが、無愛想ではない。ひとりで店に来た客には話かけてくれるし、顔に浮かべた笑みが営業スマイルでないところも気に入っている。
「ドライジンを」
「渋いね」
「今夜は強い酒が飲みたいの」
マスターが冷蔵庫を開けてジンの瓶を取り出した。カクテルグラスを棚から取り出し、よく冷えたドライジンを注ぐ。グラスの面がすっと曇った。
マスターはカクテルグラスにオリーブの実を放り込むと、グラスを奈緒美の前に置いた。グラスの縁に唇をつけ、吸いこむようにドライジンを口に含む。ジンの苦味が口いっぱいに広がった。
「美味しい」
ショルダーバッグからシガーケースを取り出す。一本を口に銜えると、待っていたかのようにマスターがすっとライターを差し出してきた。
「ずいぶんお疲れのご様子ですね。一仕事終えたって感じですよ」
「本当に大変な一日だったわ。正確には昨日の夜から。それも、まだまだ先は続く」
「仕事が忙しいのはいいことですよ。今夜なんか、私なんか暇で暇で」
「私なんて、暇な時期なんて全然ないわ。休みも取れないし」
「それはそれで大変ですね」
マスター相手に雑談を交わす。海外で起こったクーデターや、街の若者たちのファッション、芸能人のゴシップ。マスターは取材のネタになりそうな話題をよく提供してくれるが、今夜はネタを探す気になれない。マスターの話を軽く返しながらグラスを傾ける。他愛もない会話を楽しんでいる。しかし、田島仁志の事件を意識的に避けている自分にも気付いていた。
他の客が入ってきた。いらっしゃい、マスターの声が響く。ドライジンを飲み干したとき、客が隣の席に座った。
「よう」
一輝だった。
「こっちに来たの?」
「さすがに疲れたよ。向こうの店で連中と飲んだりしたら、余計に疲れちまう」
一輝はワイルドターキーのロックを注文し、タバコをくわえた。タバコの先にマスターが火をつける。奈緒美は二杯目のドライジンを注文した。
「やるね」
「今日は酔いたい気分」
「じゃ、飲み明かすか」
「ダメ、ネコがいるから」
二人並んで酒を飲む。最近のヤクザ事情を、一輝が話し始めた。どこもシノギがきつく、今はどこの組も御法度のはずの覚せい剤に手を出しているらしい。田島の話を先にしないのは、彼も話したくないからだろう。田島仁志が処刑された件については、お互い話を避けていた。一輝も奈緒美と同じ気持ちなのだ。
「奈緒美」
一輝の声に横を見た。真剣な彼の眼に、思わずぞくっときた。この男に口説かれていたのを忘れていた。
「な、なに?」動揺が声に出ていた。出てきたばかりの三杯目ドライジンを飲み干し、お代わりを注文する。
「今度休みが取れたら、二人でどこかにいかないか?」
「どこかって?」
「そうだな。富良野あたりはどうだ?」
思わず一輝を見る。富良野へ行くとなると、当然泊りになる。胸が高鳴り始めた。この男と、二年付き合った。良く知っている男のはずなのに、初めて口説かれるときのように緊張している。
「どうしようかな」声が微かに上ずっている。
「ネコかい?」
玲奈の顔が頭をよぎった。胸の鼓動の音が一輝に聞こえそうで、余計に身体が硬くなる。
「ネコも一緒に泊まれる宿を探すか」
「無理よ。飛行機には載せてくれないわ。まさか、車で行く気?」
「じゃあ、他の案を考えておくよ」
オーケーしたつもりはないんだけど。口から出かかった言葉を飲み込んだ。玲奈という恋人がいるのに、いったい、自分は何をしようとしているのだ。浮気? まさか。この男に恋心など抱いていない。しかし、この胸の高鳴りはなんなのだろう。
「ネコが待っているから、先に帰るね」
慌てて立ち上がると、金をカウンターに置いて逃げるように店を出て行った。
通りでタクシーを捕まえようとしたが、なかなか空車が通らなかった。いつの間にかハミングしていた。呑みすぎて気分が高揚していたのは確かだが、それだけではない。浮かれているのだ。
自分を戒めるために、大きく深呼吸する。心の浮気をしてしまった。しかし、たまに男に誘われるのも悪くない。
タクシーで玲奈のマンションに戻った。鍵を開けて部屋に入る。部屋の電気は消えていた。零時を過ぎていた。
「ただいま。もう寝たの、玲奈」
リビングの明かりをつけ、玲奈の部屋を覗いたが、彼女の姿はなかった。
この時間に彼女が部屋にいないはずはない。まさか、バスルームで倒れているのでは。慌ててバスルームを覗きにいったが、使った形跡すらなかった。トイレと奈緒美自身の部屋を覗いてから、玄関を確認すると、彼女のパンプスが一つ消えていた。
過去に暗い公園で男に乱暴されかけた彼女が、こんな時間に外をうろつくはずがない。奈緒美は携帯電話を取り出して玲奈の番号を呼び出した。
玲奈はすぐに電話に出た。
「メモを残していこうって思ったんだけど、電話、かけてくれると思ったから」
玲奈は実家に帰っていたのだ。
「しばらくこっちにいようと思うの。食事と洗濯、不便をかけることになるけどごめんなさい」
「そう思うなら、戻ってきてよ」
「ちょっと、一人になりたいだけだから、我慢して」
「結婚を迷われて、怒ってるの」
そうじゃない、と玲奈が小さな声で言った。
「ちょっと不安定になってるだけだから、しばらくひとりにして欲しいの」
「私が原因なわけ?」
押さえていたつもりなのに、口調が強くなった。
「あなたのせいじゃない。お願いだから。仕事にもきちんと行くわ。でも、学校にも来ないで」
「私を避けてるの?」
「そんなこと、ない……」
これ以上説得しても無駄だろう。玲奈は一度こうだと言い出したら、その信念を曲げることはない。
「電話、してもいい?」
「私からするから」
「こっちからするなってこと?」
彼女は何も言わない。
「本当に、してくれる?」
喉の奥がつんっと痛くなった。このままだと、我慢できなくなってしまう。
「じゃあ」と言って先に電話を切った。とたんに涙が目から零れて床に落ちた。
永井の言っていた通り、斉藤カイはおそらく何者かに接触して、殺された。彼が脅していた相手は藤森だったが、彼が直接殺したのではない。誰が斉藤を殺したのか? 共犯者がいるのか? しかし、自分が疑われていると知っても平然としていた藤森の落ち着き払った態度が気になる。彼は何かを知っている。
事務所に戻った夜十時ごろ、発見されたナイフについていた血液から被害者のDNAが出たとの速報が流れた。結果は簡易検査のもので、詳しいDNA解析にはまだ時間を要するとのことだった。
仮眠室に泊まりこむことにし、一度玲奈のマンションに戻り、シャワーを浴びて着替えを済ませると、彼女にキスする暇もなくマンションを出てきた。デスクの小宮に取材の結果を報告し、記事の下書きを書いて仮眠室の布団にもぐりこんだのは午前四時。今週号の締め切りを過ぎていたので、奈緒美の記事が新聞に載るとすれば来週号以降になるだろう。来週号では田島仁志関連の記事で全紙面の三分の一を使うと小宮はいっている。マスコミと国との戦いは、もう始まっている。
奈緒美のいない部屋で一人、玲奈は何を考えているのだろう。玄関で見送った玲奈の寂しそうな顔を思い出し、仮眠室のベッドに横たわってもしばらく眠れなかった。
二日目の朝を、また仮眠室で迎えた。
顔を洗って化粧を整え、自販機でコーヒーを買おうとコミュニケーションルームにいくと、起きたばかりの者や徹夜明けの者たちがテレビの前に集まっていた。
田島仁志の遺族が国を訴える準備をしているとのニュースがテレビに流れていた。無実の罪によって処刑台の露となった息子の無念を晴らしたいと、それまでずっと行方不明だった父親が、カメラの前で涙ながらに語っていた。
「よくやるよ、あのオヤジ」
明らかに賠償金目当てだと、一緒にテレビを見ていた五十近い記者が苦々しく呟いた。公判記録にもあったが、田島仁志は親の愛情を知らずに育った不幸な過去を持つ。息子の裁判に一度も顔を見せなかった父親が突然メディアの前で涙ながらに語る姿には、確かに違和感を覚える。
コメンテーターとして大写しになった男に見覚えがあった。先日の講演会で演者を務めた代議士の吉本だった。今回の事件が起こったのも、現政権に責任があると理路整然と語り始めた。死刑廃止論者たちも昨夜から活発に動き始めているようだった。この機に乗じ、死刑制度を廃止に追い込もうと躍起になっている。
名誉回復のために田島仁志の裁判のやり直しが認められ、改めて無罪判決が出るのは確実だが、国は死刑制度の廃止は認めないだろう。落としどころは韓国のように刑法に死刑の条文は残すが、実際には死刑を執行しないという運用を認めるといったところか。
先日訪問した時と同様、事務所には八槇一郎しかいなかった。奈緒美を見た彼が愛想のよさそうな顔を向けた。どうやら、暇を持て余していたようだ。
この日も社員は全員営業に出ていて留守だった。コーヒーカップを持って戻ってきた八槇に頭を下げ、レコーダーのスイッチを入れた。
「八槇さんは、仕事以外で藤森俊夫とプライベートな付き合いはありますか?」
「アメ車に詳しいので話はあうけど、プライベートな付き合いはないな。あの人はゴルフもマージャンもしないから。ここに来た時、仕事の話をするくらいだよ」
「藤森さんは車にはかなり詳しいんでしょうね?」
「そりゃ、そうさ。藤森さんは元々ディーラーで働いていたんだから。修理工の資格も持っているし、会社を辞めてからはしばらく修理工場で働いていたって聞いたよ。自動車の中古部品を扱うようになったのも、以前車関係の仕事をしていて詳しかったからだよ。アメ車だけじゃ食っていけないからアメ車以外の部品も扱ってるみたいだけどね」
「ディーラーって、アメリカ製の車の?」
「いや、国産車だったはずだ。でも古いアメ車が以前から好きだったみたいだね。二十代の頃にアメ車のオーナーになって、アメ車のクラブにも加盟していたから」
八槇がデスクのキャビネットからアルバムを取りだした。
「十年くらい前かな。ほら、藤森さんと奥さん、それに息子だ。このときはまさか息子があんな事件を起こすとは思っていなかっただろうな」
写真にはインパネのオープンカーに乗っている藤森俊夫とその妻、それに高校生くらいの少年が映っている。これが藤森隆弘か。目つきが鋭い少年だ。
八槇がアルバムをめくる。藤森俊夫が古いアメリカ製の車と映っていた。
「リンカーン・コンチネンタル。藤森さんの愛車だよ」
「さっき三人が乗っていた車はインパネじゃなかったかしら」
「へえ、桐原さん、詳しいんだね。あの車は松岡さんの車だよ」
「松岡? もしかしてオリーブフードサービス社長の?」
「そうだよ。マニアには金持ちが多いけど、あの人は特に大金持ちだから、アメ車を六台も持っているんだ。今じゃ、昔のアメ車を後世に残すのが俺の義務だなんて言ってるくらいだから、相当の入れ込みようだよ」
八槇がアルバムをめくっていく。写真に四人の男女が映っている。藤森夫妻と松岡だった。松岡の横にいるのが彼の妻だと、八槇が言った。
「藤森さんはアメ車クラブで松岡さんと知り合ったんだ。当時は二人とも若かった。松岡さんがちょうど父親の経営していたオリーブフードサービスに移った頃だったかなあ。今と違って二人ともスリムだし。今もそうだけど、似た者同士だよな。性格良く似ていたよ」
「二人は仲がよかったんですね」
「お互いの夫婦四人であちこちに旅行にいっていたみたいだし。藤森さんに息子ができちまってからはそうもいかなくなったようだけど」
「子供を連れて旅行とか、行かないものかしら」
「松岡さんのところは子供ができなかったから、藤森さんも気を使ってたんだよ」
「松岡さんは死刑廃止運動を熱心にやっておられるようですが、藤森さんの影響ですか?」
「というより、最初に始めたのが松岡さんだったと思うよ。藤森さん、当時はマスコミからバッシング受けていてそんな余裕なかったから。それから藤森さんが息子を救うために松岡さんと活動するようになったんだ。吉本って議員は松岡さんの知り合いなんだけど、議員を巻き込んでから大がかりな活動になっていったんだ。そんなときに無実の男が処刑されちまったんだから、まさに追い風だな」
八槇がテーブルに置いていた箱からタバコを取り出して銜えた。
「藤森さんもタバコを吸っていましたよね。ラッキーストライクを吸っていたんじゃないですか?」
「そうそう。以前は国産のタバコだったけど、アメ車に取りつかれてからはアメリカ製のタバコを喫うようになったんだよ」
「藤森さんと処刑された田島さんには、本当に接点はなかったんでしょうか?」
「そんな話、聞いたことないね」
八槇が銜えたタバコに火をつけた。
「テレビに映っていた男が犯人なんだろ?」
「おそらく」
「酷いねえ、人違いで無実の人間を吊るしちまうなんて。碌に証拠もなしで死刑判決が出ちまうこともあるんだね。藤森さんの息子さんも、もしかしたら無実かもしれないね」
「正直な話、中学の時からやばい奴だったよ」
藤森隆弘と中学、高校と同級生だった高島という男が言った。店が暇になったので、タバコを吸う間だけならすぐに取材に応じられるというので、外の喫煙所まで一緒についてきてもらった。
「はっきり言って、あれは悪人だ。人を殺しそうな雰囲気があったから。目つきが違うんだよ、普通の人と」
ヤマキモーターズで見た、少年の頃の藤森隆弘の写真を思い出す。鋭い目つきに、ほの暗い心の片鱗が見えていた。
「中学の時から悪かったの?」
「そう。不良中の不良だよ。高校の時は女を強姦しまくってたって話もあった。まあ、二年に上がるときに学校辞めちまったけど。それにでかいバイク乗りまわしてたし」
「盗難バイク?」
「それが、自分で新車買ったっていってた。親に買ってもらったのかって聞いたら、金くれるオヤジがいるとかいってた。カマ掘らせてたんじゃねえかってみんな言ってたけど、ありゃ、タカりだな。オヤジの弱み握って脅してたんだろう。そんなことを平気でする奴だったから。事件の報道を聞いて、やっぱりと思ったね。殺ったのは女だろ。突っ込もうとして騒がれて殺したんだよ」
「逮捕される前も、彼と付き合いとかあった?」
「こっちにダチが多いから、よく来ていたよ。いつも呼び出された。気前良くおごってくれたし」
「彼、当時は無職だったんでしょ? お金、持ってたのね。親からもらってたのかしら?」
「スポンサーがいるって言ってた。どこかの中年マダムのヒモでもしてたんじゃねえの。あいつ、ガタイいいし、あれもデカイし精力旺盛だったし。拘置所に入って苦労してるだろうな」
高島が下品に笑った。
「彼、お父さんとはうまくいってたの?」
「親父さんとは似てねえけど、仲は悪くなかったはずだ。死刑が確定して母親や妹には見捨てられたけど、親父さんはまだ息子の無実を訴えてんだから。あの息子じゃ、見捨てられて当然なのに」
「母親とは仲が悪かったとか?」
「一時期、当たり散らしていた時あったよな。理由は分からないけど。妹連れてどっかに行きやがれとか言ってたし。妹にも、どちらかというとつらく当たっていたかな。兄妹仲はそれほど良くなかった」
事務所に戻る。週刊誌の記事を書いている記者がいる。田島仁志の友人に取材してきた記者だった。
記事の中身は読まずともわかる。田島に死刑判決下ったときは、どの週刊誌も紙面は昔から危ない奴だったという証言で埋められていたが、彼の原稿には、田島仁志はいい奴だった、あいつが人を二人も殺すはずはないという証言であふれているはずだ。
記者は嘘を書かない。ただし、情報は取捨選択する。国民の知る権利に基づいてマスコミから国民に流される情報は、事実ではあるがマスコミが恣意的に手を加えた情報なのだ。真の事実を国民が知ることはない。
今夜は玲奈が待っているマンションに戻れそうだ。帰る前に静かな場所で飲みたかった。奈緒美は事務所を見回したが、一輝の姿はなかった。
メンバーたちが集まっている居酒屋を避け、2ブロック先にあるバーに向かった。ドアの窓から店内を覗く。十人も入ればいっぱいになるカウンターだけの店だが、他に客はいなかった。外から店内を覗けるしカクテル類を豊富にそろえているので、女性にも入りやすい店だ。
ドアを開け店内に入る。
「お久しぶり」
カウンターの中からマスターが微笑みかけてくる。無口な男だが、無愛想ではない。ひとりで店に来た客には話かけてくれるし、顔に浮かべた笑みが営業スマイルでないところも気に入っている。
「ドライジンを」
「渋いね」
「今夜は強い酒が飲みたいの」
マスターが冷蔵庫を開けてジンの瓶を取り出した。カクテルグラスを棚から取り出し、よく冷えたドライジンを注ぐ。グラスの面がすっと曇った。
マスターはカクテルグラスにオリーブの実を放り込むと、グラスを奈緒美の前に置いた。グラスの縁に唇をつけ、吸いこむようにドライジンを口に含む。ジンの苦味が口いっぱいに広がった。
「美味しい」
ショルダーバッグからシガーケースを取り出す。一本を口に銜えると、待っていたかのようにマスターがすっとライターを差し出してきた。
「ずいぶんお疲れのご様子ですね。一仕事終えたって感じですよ」
「本当に大変な一日だったわ。正確には昨日の夜から。それも、まだまだ先は続く」
「仕事が忙しいのはいいことですよ。今夜なんか、私なんか暇で暇で」
「私なんて、暇な時期なんて全然ないわ。休みも取れないし」
「それはそれで大変ですね」
マスター相手に雑談を交わす。海外で起こったクーデターや、街の若者たちのファッション、芸能人のゴシップ。マスターは取材のネタになりそうな話題をよく提供してくれるが、今夜はネタを探す気になれない。マスターの話を軽く返しながらグラスを傾ける。他愛もない会話を楽しんでいる。しかし、田島仁志の事件を意識的に避けている自分にも気付いていた。
他の客が入ってきた。いらっしゃい、マスターの声が響く。ドライジンを飲み干したとき、客が隣の席に座った。
「よう」
一輝だった。
「こっちに来たの?」
「さすがに疲れたよ。向こうの店で連中と飲んだりしたら、余計に疲れちまう」
一輝はワイルドターキーのロックを注文し、タバコをくわえた。タバコの先にマスターが火をつける。奈緒美は二杯目のドライジンを注文した。
「やるね」
「今日は酔いたい気分」
「じゃ、飲み明かすか」
「ダメ、ネコがいるから」
二人並んで酒を飲む。最近のヤクザ事情を、一輝が話し始めた。どこもシノギがきつく、今はどこの組も御法度のはずの覚せい剤に手を出しているらしい。田島の話を先にしないのは、彼も話したくないからだろう。田島仁志が処刑された件については、お互い話を避けていた。一輝も奈緒美と同じ気持ちなのだ。
「奈緒美」
一輝の声に横を見た。真剣な彼の眼に、思わずぞくっときた。この男に口説かれていたのを忘れていた。
「な、なに?」動揺が声に出ていた。出てきたばかりの三杯目ドライジンを飲み干し、お代わりを注文する。
「今度休みが取れたら、二人でどこかにいかないか?」
「どこかって?」
「そうだな。富良野あたりはどうだ?」
思わず一輝を見る。富良野へ行くとなると、当然泊りになる。胸が高鳴り始めた。この男と、二年付き合った。良く知っている男のはずなのに、初めて口説かれるときのように緊張している。
「どうしようかな」声が微かに上ずっている。
「ネコかい?」
玲奈の顔が頭をよぎった。胸の鼓動の音が一輝に聞こえそうで、余計に身体が硬くなる。
「ネコも一緒に泊まれる宿を探すか」
「無理よ。飛行機には載せてくれないわ。まさか、車で行く気?」
「じゃあ、他の案を考えておくよ」
オーケーしたつもりはないんだけど。口から出かかった言葉を飲み込んだ。玲奈という恋人がいるのに、いったい、自分は何をしようとしているのだ。浮気? まさか。この男に恋心など抱いていない。しかし、この胸の高鳴りはなんなのだろう。
「ネコが待っているから、先に帰るね」
慌てて立ち上がると、金をカウンターに置いて逃げるように店を出て行った。
通りでタクシーを捕まえようとしたが、なかなか空車が通らなかった。いつの間にかハミングしていた。呑みすぎて気分が高揚していたのは確かだが、それだけではない。浮かれているのだ。
自分を戒めるために、大きく深呼吸する。心の浮気をしてしまった。しかし、たまに男に誘われるのも悪くない。
タクシーで玲奈のマンションに戻った。鍵を開けて部屋に入る。部屋の電気は消えていた。零時を過ぎていた。
「ただいま。もう寝たの、玲奈」
リビングの明かりをつけ、玲奈の部屋を覗いたが、彼女の姿はなかった。
この時間に彼女が部屋にいないはずはない。まさか、バスルームで倒れているのでは。慌ててバスルームを覗きにいったが、使った形跡すらなかった。トイレと奈緒美自身の部屋を覗いてから、玄関を確認すると、彼女のパンプスが一つ消えていた。
過去に暗い公園で男に乱暴されかけた彼女が、こんな時間に外をうろつくはずがない。奈緒美は携帯電話を取り出して玲奈の番号を呼び出した。
玲奈はすぐに電話に出た。
「メモを残していこうって思ったんだけど、電話、かけてくれると思ったから」
玲奈は実家に帰っていたのだ。
「しばらくこっちにいようと思うの。食事と洗濯、不便をかけることになるけどごめんなさい」
「そう思うなら、戻ってきてよ」
「ちょっと、一人になりたいだけだから、我慢して」
「結婚を迷われて、怒ってるの」
そうじゃない、と玲奈が小さな声で言った。
「ちょっと不安定になってるだけだから、しばらくひとりにして欲しいの」
「私が原因なわけ?」
押さえていたつもりなのに、口調が強くなった。
「あなたのせいじゃない。お願いだから。仕事にもきちんと行くわ。でも、学校にも来ないで」
「私を避けてるの?」
「そんなこと、ない……」
これ以上説得しても無駄だろう。玲奈は一度こうだと言い出したら、その信念を曲げることはない。
「電話、してもいい?」
「私からするから」
「こっちからするなってこと?」
彼女は何も言わない。
「本当に、してくれる?」
喉の奥がつんっと痛くなった。このままだと、我慢できなくなってしまう。
「じゃあ」と言って先に電話を切った。とたんに涙が目から零れて床に落ちた。
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