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舞台でバンドメンバーが派手な演奏を披露していた。エレキギターとシンセサイザーの音、そしてボーカルがなりたてる声が薄暗い倉庫の中を反響し、脳を激しく揺さぶる。フロアではマリファナを吸って上機嫌になった若い男女が狂ったように踊り、嬌声をあげながら騒いでいる。
「どうだ、あいつら。いいバンドだろ。プッシーで知り合ったんだ。パーティーのことを教えてやると、他のバンド仲間にもチケット売らせるから一枚かませてくれって言ってきたんだ」
義純が恭平の耳元で叫んだ。高校を中退して以降、職を転々としている典型的な落ちこぼれだ。ピンクプッシーで知り合って以来、一緒にこのビジネスをやっている。
「しかし、少しうるさいですね、あのバンド」
「あれくらいがいいんだよ」
耳元で義純が叫んだ。即席のカウンターの中で、真司が忙しそうにカクテルを作っている。安物の酒に適当にジュースを混ぜてカクテル風にし、一杯千円で客に出す。ぼろい商売だ。
土曜日の夜。月に一回の乱痴気パーティー。今夜はいつもより客の入りがいい。マネージャー役の恭平がフロア内に気を配り、トランシーバで他の三人のメンバーに的確に指示を出す。会場のあちこちでマリファナを吸う客たち。この倉庫ではマリファナがやり放題だ、ここに来ればマリファナが好きなだけ手に入る。そんな噂がいつの間にか広がって、口コミの客が集まり、パーティー会場はいつも超満員だった。
誠がフロアをうろつくと、あちらこちらから客が集まってくる。客から金を受け取り、メモを渡して客に何かを言うと、客が会場を出ていく。倉庫の周囲に隠してあるマリファナを受け取るためだ。
誠がフロアにいる恭平を見つけると、近くに寄ってきた。
「おい、わかってんのか」
誠がぞんざいに口を開いた。
「ここに客が集まるのは俺のおかげなんだからな」
「おまえだって、俺たちに便乗して儲けてるじゃねえか」
恩に着せようとする誠をみて、恭平がにやりと笑った。
「マリファナ以外は売るなよ」
「分かってるっていってるだろ。しつこい奴だな」
誠が恭平を煙たそうな目で見た。誠のそばに新しい客がやってきた。
「繁盛してるな」
カウンターから出た真司が誠に声をかけた。誠がしかめっ面をして笑った。
「なかなかの評判だ」
恭平のそばにきた真司が満足そうに笑いながら、フロアにいる女の客に手を振った。
「後で俺たちも適当につまみに行こうぜ」
「仕事があるだろ」
「番号訊くだけだ。あとで呼び出してホテルに連れ込めばいい」
女たちを見ながら真司が言った。
「たしかに、これじゃ、安全地帯から首を伸ばして覗いているだけだ」恭平が呟いた。
「なんだって?」
「なんでもない。カウンターを交代する時間だな」
恭平は踊り狂う客の間を通り抜けてカウンターに向かった。
明け方近くの午前四時すぎにようやくパーティーが終わった。恭平たちはあちらこちらのテーブル席で酔って眠っている客たちを起こして倉庫の外に連れ出した。マリファナでラリっている男がひとり、静かになったステージの上で上機嫌に歌っている。
客を全部締め出し、倉庫を急いで掃除した。即席カウンターを折りたたんで倉庫の隅にもっていき、床をモップで綺麗に拭いた。作業を終えるころには空が白んできていた。恭平は倉庫内で集めたごみを外に運び出した。
いたるところに嘔吐と放尿の跡。放水する手間を考えると嫌になった。使用済みのコンドーム。地面の上にマリファナでラリった男女の行為の残骸がそこらじゅうに残っている。恭平は顔をしかめながら手袋をはめ、薄汚い残骸を拾い集めていった。
片づけを終えるころ、倉庫内では売り上げの清算で盛り上がっていた。恭平もその輪に加わった。
必要経費を引いた残りを仲間で分けると、一人二十六万円の収入だった。
「これが義純さん、それと、敏明さんの分です」
真司が分け前をメンバーたちに渡していった。
「ぼろい商売だ」
倉庫を提供している敏明が笑った。恭平たちより三つ年上の、訊いたこともない名前の私立大学に通う学生だ。
敏明が倉庫の鍵を閉めて、バイクに乗って帰っていった。義純も眠そうな目をこすりながら車に乗り込み、走り去った。
恭平たち二人は歩いて帰路についた。神戸税関の横を通り、歩道橋に上がる。日曜日の早朝のフラワーロードに、車の姿はまだまばらだった。
「たしかにぼろいよな」
「いや、割に合わないよ」
はしゃぐ真司に恭平が水を指した。意外そうな顔で真司が横を向いた。
「どうして?」
「もし、手入れを食ったらどうするんだ? 高校生が夜中に酒売ってるってだけで問題なんだぜ」
「びびるなよ。いまどき女子高生のホステスだって、街にはいっぱいいるんだ」
「それに、マリファナは誠が勝手に売ってることになっているが、あいつがパクられて、そのことを俺たちも知っているって警察でしゃべれば、俺たちだって何も知りませんでしたじゃ済まない。少なくとも学校は退学だな」
「退学かぁ……。親父に殴られるだろうな、そうなったら」
真司が頭を掻いた。
「でも、とりあえずは、次のパーティーの準備だ。モーニングでも食いながら話そうぜ。それに、客をもう少し集めないとな」
そういって、真司は恭平の顔を覗き込んだ。
「気が進まないのはわかるけどよ、チケット捌くためにダイナマイトにいこうぜ、今夜、さっそく」
恭平は軽く舌打ちすると、真司が肩を叩いて目の前の喫茶店を指差した。
「どうだ、あいつら。いいバンドだろ。プッシーで知り合ったんだ。パーティーのことを教えてやると、他のバンド仲間にもチケット売らせるから一枚かませてくれって言ってきたんだ」
義純が恭平の耳元で叫んだ。高校を中退して以降、職を転々としている典型的な落ちこぼれだ。ピンクプッシーで知り合って以来、一緒にこのビジネスをやっている。
「しかし、少しうるさいですね、あのバンド」
「あれくらいがいいんだよ」
耳元で義純が叫んだ。即席のカウンターの中で、真司が忙しそうにカクテルを作っている。安物の酒に適当にジュースを混ぜてカクテル風にし、一杯千円で客に出す。ぼろい商売だ。
土曜日の夜。月に一回の乱痴気パーティー。今夜はいつもより客の入りがいい。マネージャー役の恭平がフロア内に気を配り、トランシーバで他の三人のメンバーに的確に指示を出す。会場のあちこちでマリファナを吸う客たち。この倉庫ではマリファナがやり放題だ、ここに来ればマリファナが好きなだけ手に入る。そんな噂がいつの間にか広がって、口コミの客が集まり、パーティー会場はいつも超満員だった。
誠がフロアをうろつくと、あちらこちらから客が集まってくる。客から金を受け取り、メモを渡して客に何かを言うと、客が会場を出ていく。倉庫の周囲に隠してあるマリファナを受け取るためだ。
誠がフロアにいる恭平を見つけると、近くに寄ってきた。
「おい、わかってんのか」
誠がぞんざいに口を開いた。
「ここに客が集まるのは俺のおかげなんだからな」
「おまえだって、俺たちに便乗して儲けてるじゃねえか」
恩に着せようとする誠をみて、恭平がにやりと笑った。
「マリファナ以外は売るなよ」
「分かってるっていってるだろ。しつこい奴だな」
誠が恭平を煙たそうな目で見た。誠のそばに新しい客がやってきた。
「繁盛してるな」
カウンターから出た真司が誠に声をかけた。誠がしかめっ面をして笑った。
「なかなかの評判だ」
恭平のそばにきた真司が満足そうに笑いながら、フロアにいる女の客に手を振った。
「後で俺たちも適当につまみに行こうぜ」
「仕事があるだろ」
「番号訊くだけだ。あとで呼び出してホテルに連れ込めばいい」
女たちを見ながら真司が言った。
「たしかに、これじゃ、安全地帯から首を伸ばして覗いているだけだ」恭平が呟いた。
「なんだって?」
「なんでもない。カウンターを交代する時間だな」
恭平は踊り狂う客の間を通り抜けてカウンターに向かった。
明け方近くの午前四時すぎにようやくパーティーが終わった。恭平たちはあちらこちらのテーブル席で酔って眠っている客たちを起こして倉庫の外に連れ出した。マリファナでラリっている男がひとり、静かになったステージの上で上機嫌に歌っている。
客を全部締め出し、倉庫を急いで掃除した。即席カウンターを折りたたんで倉庫の隅にもっていき、床をモップで綺麗に拭いた。作業を終えるころには空が白んできていた。恭平は倉庫内で集めたごみを外に運び出した。
いたるところに嘔吐と放尿の跡。放水する手間を考えると嫌になった。使用済みのコンドーム。地面の上にマリファナでラリった男女の行為の残骸がそこらじゅうに残っている。恭平は顔をしかめながら手袋をはめ、薄汚い残骸を拾い集めていった。
片づけを終えるころ、倉庫内では売り上げの清算で盛り上がっていた。恭平もその輪に加わった。
必要経費を引いた残りを仲間で分けると、一人二十六万円の収入だった。
「これが義純さん、それと、敏明さんの分です」
真司が分け前をメンバーたちに渡していった。
「ぼろい商売だ」
倉庫を提供している敏明が笑った。恭平たちより三つ年上の、訊いたこともない名前の私立大学に通う学生だ。
敏明が倉庫の鍵を閉めて、バイクに乗って帰っていった。義純も眠そうな目をこすりながら車に乗り込み、走り去った。
恭平たち二人は歩いて帰路についた。神戸税関の横を通り、歩道橋に上がる。日曜日の早朝のフラワーロードに、車の姿はまだまばらだった。
「たしかにぼろいよな」
「いや、割に合わないよ」
はしゃぐ真司に恭平が水を指した。意外そうな顔で真司が横を向いた。
「どうして?」
「もし、手入れを食ったらどうするんだ? 高校生が夜中に酒売ってるってだけで問題なんだぜ」
「びびるなよ。いまどき女子高生のホステスだって、街にはいっぱいいるんだ」
「それに、マリファナは誠が勝手に売ってることになっているが、あいつがパクられて、そのことを俺たちも知っているって警察でしゃべれば、俺たちだって何も知りませんでしたじゃ済まない。少なくとも学校は退学だな」
「退学かぁ……。親父に殴られるだろうな、そうなったら」
真司が頭を掻いた。
「でも、とりあえずは、次のパーティーの準備だ。モーニングでも食いながら話そうぜ。それに、客をもう少し集めないとな」
そういって、真司は恭平の顔を覗き込んだ。
「気が進まないのはわかるけどよ、チケット捌くためにダイナマイトにいこうぜ、今夜、さっそく」
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