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カーラジオから流れるリズムのいい音楽に合わせ、音原が鼻歌を歌っている。小指の先で首筋を掻いた。頭につけたウィッグが揺れるたびに、毛先で首筋が刺激されて痒いのだ。
「ほれ」
赤信号で停車したとき、音原がダッシュボードから茶封筒を出して助手席の佐藤の膝に放り出した。
「前回の分、五十万」佐藤浩太は封筒を広げて中身を見た。
「あいつ、何か言ってた?」
「もっと持って来いって。機嫌よかったぜ。よっぽど儲かってるんじゃないのか」
音原はシャツのポケットからセブンスターをつまみ出して口に銜えた。同じような映像ばかりなのに、盗撮物好きのマニアにはたまらないらしい。おかげでこちらの商売も順調だった。
音原は佐藤のDVDマニア仲間で、闇動画を買い取る業者にコネがある。裏社会の人間とも適当に付き合っているが、心底ではヤクザを嫌っている。
横に並んで止まった車のドライバーが、こちらを見た。音原が横を向くと、ドライバーがすかさず視線を逸らせた。パンチパーマでシャツの胸元をはだけている音原は、一見その筋の人間に見える。
先日、学校の傍で音原と会っている時に、佐藤を見つけた鵜飼恭平が近寄ってきた。佐藤が絡まれていると思って助けに来たようだったが、一目見れば誰もが尻込みする風貌の音原に向かってくるとは、鵜飼も度胸のある男だ。
「俺たちが苦労して撮った盗撮動画で自分たちだけ大儲けしてやがるんだ。こっちにももう少しまわしてくれてもいいようなもんだぜ」音原が口に銜えたセブンスターに火をつけた。「損な役回りだぜ、まったく」
「そんなことはないよ」佐藤がサイドミラーに写った自分の女装姿を見てため息をつく。「向こうはリスクが大きいんだ。警察に先に目を付けられるのは業者だからね。盗撮屋の方が長く続けられるよ」
「そんなもんかね」
音原が目の前をゆっくり走っている軽トラックを見事なハンドル捌きでかわした。
「学校の方はどうなんだ?」
「大騒ぎだよ。おかげで、学校の浴室で盗撮できなくなった」
女子浴室の盗撮動画をネットにアップされてしまい、管理が厳重になってしまった。騒ぎになったのが偶然カメラを回収した後だったので被害は無かったが、カメラを仕掛けていた場所が特定され、脱衣棚もすべて取り外されたので、たとえ中に忍び込めても再びカメラを仕掛けるのは不可能になった。
「あれ、結構いい値段で買ってもらえてたんだけどな。リアルな女子高生の裸満載だったから」
「仕方ないよ。そろそろ潮時だったんだ。そう思うことにしよう」
音原が車をホテルの駐車場に入れた。月曜の夕方。駐車場はがら空きだった。二人は車から降りた。佐藤が音原の横に立って腕を組む。
「やめろよ、気色の悪い」
「腕を組まないと怪しまれるよ」
「大丈夫だよ。お前の変装は完璧だ。どう見たって女だ。その辺の本物の女より綺麗だぜ」
ホテルのフロントに入ってパネルを見る。使用中の部屋は四部屋だけだった。六〇四号室は空いている。音原がボタンを押した。
エレベータで六階に昇る。六〇四号室に入ると、佐藤はウィッグを頭から外してベッドの上に放り投げた。
「さっさと回収しようぜ」
盗撮カメラは先週の金曜の夕方に仕掛けた。金土日でかなりの映像が撮れているはずだ。仕掛けは早く回収しないとラブホテル側につきとめられる。部屋の各所に仕掛けた小型のCCDカメラと、ベッドの下や浴室の天井に隠しておいた受信機を回収していく。
「どうだ、うまく取れているか?」
「今からチェックする」
佐藤は受信機のひとつをパソコンにつないだ。ベッドで男と女が絡み合っている鮮明な映像が、液晶画面に映った。
「秋葉原まで出向いた甲斐があったね」
佐藤はそう言ってほくそ笑んだ。噂の盗撮用高性能カメラの能力はなかなかのものだ。粒子も滑らかで画面も粗くない。薄暗い部屋をこれだけの感度で撮影できるとは驚きだった。一台三万もするだけのことはある。
仕掛けた六台のカメラと受信機を回収した。佐藤が順番に受信機のハードディスクの中身をチェックしていく。電池と記憶容量の節約のため、就寝時間となる夜中の二時から朝の八時にはタイマーでスイッチが切れるようになっている。どのハードディスクも容量一杯まで録画済みだった。こいつを二週間かけて編集する。月に二回ホテルに盗聴器を仕掛け、回収しては編集して闇業者のところにもって行く。一回で百万、ひとり五十万の報酬。月二回で百万円。音原は不服そうだったが、高校生の佐藤にとっては文句なしの収入だった。
「そろそろずらかろうか」
「まだ早いよ」部屋に入って四十分しか経っていない。
「早漏の男だっているさ。怪しまれないよ」
音原は慎重な男だ。仕事中は決して油断しない。犯行現場からは一分一秒でも早く引き上げる。それが彼のポリシーだった。
ホテルから出て音原のアパートに戻る。DVDマニアの彼の部屋は、録画再生機にパソコンなどの電子機器で溢れている。まさに盗撮屋の牙城である。二人で稼いだ額はそろそろ一千万になろうとしていた。
受信機に保存された画像を音原のパソコンのハードに一台ずつ落としていく。全部で六台のパソコンから同じカップルの刺激的な映像をピックアップし、適当な時間になるようにつなげていく。
「こりゃ、不倫だな」
五十代らしき裸の男がまだ二十代前半の全裸の女に覆いかぶさって腰を振っている。
「援助交際かもしれないね」
「音声拾えるか」ボリュームをあげると、女の激しい喘ぎ声が聞こえてきた。
「女のよがってる声聞いたって仕方ないだろう。早送りしろ」
音原は盗撮動画の中から宝物を拾い上げようとしている。いつまでも覗きばかりしていたって仕方ない。でかく稼がないと。それが彼の口癖だった。しかし、有名人の浮気現場や秘密の儲け話がそうやすやすと録画されているとも思えない。
「やっぱり愛人か」
画面の中では、セックスを終えた女が「パパ、大好き」といって、男の股間に顔を埋めていた。
「しかし、お前もこんな映像ばかり見ていて、よく屈折しないですんでるな」
音原がウイスキーのボトルの栓を抜くと、グラスに中の液体を注いだ。
「心ならとっくの昔に壊れちゃってるよ」
そう言って、佐藤は自嘲気味に笑う。
「ねえ、音原くんは人を殺したことあるの?」
「なんで?」ストレートでグラスの中身をあおると、音原は次を継ぎ足しながら怪訝な目を佐藤に向けた。
「殺したい奴でもいるのか?」
「いや、今はいないよ。少し前までいたんだけどね」
「ほれ」
赤信号で停車したとき、音原がダッシュボードから茶封筒を出して助手席の佐藤の膝に放り出した。
「前回の分、五十万」佐藤浩太は封筒を広げて中身を見た。
「あいつ、何か言ってた?」
「もっと持って来いって。機嫌よかったぜ。よっぽど儲かってるんじゃないのか」
音原はシャツのポケットからセブンスターをつまみ出して口に銜えた。同じような映像ばかりなのに、盗撮物好きのマニアにはたまらないらしい。おかげでこちらの商売も順調だった。
音原は佐藤のDVDマニア仲間で、闇動画を買い取る業者にコネがある。裏社会の人間とも適当に付き合っているが、心底ではヤクザを嫌っている。
横に並んで止まった車のドライバーが、こちらを見た。音原が横を向くと、ドライバーがすかさず視線を逸らせた。パンチパーマでシャツの胸元をはだけている音原は、一見その筋の人間に見える。
先日、学校の傍で音原と会っている時に、佐藤を見つけた鵜飼恭平が近寄ってきた。佐藤が絡まれていると思って助けに来たようだったが、一目見れば誰もが尻込みする風貌の音原に向かってくるとは、鵜飼も度胸のある男だ。
「俺たちが苦労して撮った盗撮動画で自分たちだけ大儲けしてやがるんだ。こっちにももう少しまわしてくれてもいいようなもんだぜ」音原が口に銜えたセブンスターに火をつけた。「損な役回りだぜ、まったく」
「そんなことはないよ」佐藤がサイドミラーに写った自分の女装姿を見てため息をつく。「向こうはリスクが大きいんだ。警察に先に目を付けられるのは業者だからね。盗撮屋の方が長く続けられるよ」
「そんなもんかね」
音原が目の前をゆっくり走っている軽トラックを見事なハンドル捌きでかわした。
「学校の方はどうなんだ?」
「大騒ぎだよ。おかげで、学校の浴室で盗撮できなくなった」
女子浴室の盗撮動画をネットにアップされてしまい、管理が厳重になってしまった。騒ぎになったのが偶然カメラを回収した後だったので被害は無かったが、カメラを仕掛けていた場所が特定され、脱衣棚もすべて取り外されたので、たとえ中に忍び込めても再びカメラを仕掛けるのは不可能になった。
「あれ、結構いい値段で買ってもらえてたんだけどな。リアルな女子高生の裸満載だったから」
「仕方ないよ。そろそろ潮時だったんだ。そう思うことにしよう」
音原が車をホテルの駐車場に入れた。月曜の夕方。駐車場はがら空きだった。二人は車から降りた。佐藤が音原の横に立って腕を組む。
「やめろよ、気色の悪い」
「腕を組まないと怪しまれるよ」
「大丈夫だよ。お前の変装は完璧だ。どう見たって女だ。その辺の本物の女より綺麗だぜ」
ホテルのフロントに入ってパネルを見る。使用中の部屋は四部屋だけだった。六〇四号室は空いている。音原がボタンを押した。
エレベータで六階に昇る。六〇四号室に入ると、佐藤はウィッグを頭から外してベッドの上に放り投げた。
「さっさと回収しようぜ」
盗撮カメラは先週の金曜の夕方に仕掛けた。金土日でかなりの映像が撮れているはずだ。仕掛けは早く回収しないとラブホテル側につきとめられる。部屋の各所に仕掛けた小型のCCDカメラと、ベッドの下や浴室の天井に隠しておいた受信機を回収していく。
「どうだ、うまく取れているか?」
「今からチェックする」
佐藤は受信機のひとつをパソコンにつないだ。ベッドで男と女が絡み合っている鮮明な映像が、液晶画面に映った。
「秋葉原まで出向いた甲斐があったね」
佐藤はそう言ってほくそ笑んだ。噂の盗撮用高性能カメラの能力はなかなかのものだ。粒子も滑らかで画面も粗くない。薄暗い部屋をこれだけの感度で撮影できるとは驚きだった。一台三万もするだけのことはある。
仕掛けた六台のカメラと受信機を回収した。佐藤が順番に受信機のハードディスクの中身をチェックしていく。電池と記憶容量の節約のため、就寝時間となる夜中の二時から朝の八時にはタイマーでスイッチが切れるようになっている。どのハードディスクも容量一杯まで録画済みだった。こいつを二週間かけて編集する。月に二回ホテルに盗聴器を仕掛け、回収しては編集して闇業者のところにもって行く。一回で百万、ひとり五十万の報酬。月二回で百万円。音原は不服そうだったが、高校生の佐藤にとっては文句なしの収入だった。
「そろそろずらかろうか」
「まだ早いよ」部屋に入って四十分しか経っていない。
「早漏の男だっているさ。怪しまれないよ」
音原は慎重な男だ。仕事中は決して油断しない。犯行現場からは一分一秒でも早く引き上げる。それが彼のポリシーだった。
ホテルから出て音原のアパートに戻る。DVDマニアの彼の部屋は、録画再生機にパソコンなどの電子機器で溢れている。まさに盗撮屋の牙城である。二人で稼いだ額はそろそろ一千万になろうとしていた。
受信機に保存された画像を音原のパソコンのハードに一台ずつ落としていく。全部で六台のパソコンから同じカップルの刺激的な映像をピックアップし、適当な時間になるようにつなげていく。
「こりゃ、不倫だな」
五十代らしき裸の男がまだ二十代前半の全裸の女に覆いかぶさって腰を振っている。
「援助交際かもしれないね」
「音声拾えるか」ボリュームをあげると、女の激しい喘ぎ声が聞こえてきた。
「女のよがってる声聞いたって仕方ないだろう。早送りしろ」
音原は盗撮動画の中から宝物を拾い上げようとしている。いつまでも覗きばかりしていたって仕方ない。でかく稼がないと。それが彼の口癖だった。しかし、有名人の浮気現場や秘密の儲け話がそうやすやすと録画されているとも思えない。
「やっぱり愛人か」
画面の中では、セックスを終えた女が「パパ、大好き」といって、男の股間に顔を埋めていた。
「しかし、お前もこんな映像ばかり見ていて、よく屈折しないですんでるな」
音原がウイスキーのボトルの栓を抜くと、グラスに中の液体を注いだ。
「心ならとっくの昔に壊れちゃってるよ」
そう言って、佐藤は自嘲気味に笑う。
「ねえ、音原くんは人を殺したことあるの?」
「なんで?」ストレートでグラスの中身をあおると、音原は次を継ぎ足しながら怪訝な目を佐藤に向けた。
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