バージン・クライシス

アーケロン

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 九時を過ぎて、ダイナマイトの客も増えてきた。恭平と真司はフロアで知っている顔を見つけると声をかけてフロアから連れ出し、パーティーチケットを売りつけた。
「どうしたんだ? 元気ねえな」
 チケットを売った後、テーブルに戻った恭平が真司の肩を叩いた。真司の顔が妙に沈んでいるのが恭平は気になっていたのだ。
「またうちの盗撮映像がサイトにアップされたって知っていたか。結構うわさになってるんだぜ。今度は、あの体育館の倉庫の中でセックスする男女の動画なんだ」
「そうなのか」
「写ってたのはスポーツ科のラグビー部三年の勝俣さんで、相手は勝俣さんと同級生の同じクラスの女なんだ。女のほうは思いっきり顔も写っていて、ケツ振って男のでかいの、あそこにくわえ込んでいるところまでばっちり写ってたんだ。その女、ショックで登校していなかったんだけど、今日、学校をやめたらしい。昼から緊急職員会議で先生たちも大騒ぎだ」
 そういって、真司が頭をかかえた。
「俺も盗撮されたかもしれねえ。玲とよくあの倉庫で嵌まってたから」
「言わんこっちゃない」
「そんな言い方するなよ。冷たいぞ、お前」
「でも、その動画が撮影されたの、去年じゃないのか? お前、そのころ、佐々木とまだそんな関係になってなかったろ」
「それが違うらしい。動画に写ってた二人、今年、同じクラスになってから付き合い始めたんだとよ。柔道部の先輩が言ってた。つまり、つい最近、盗撮されたってわけ」
 そういって、はぁっと大きくため息をついた。
「そうか。じゃあ、犯人は在校生か」
「くそっ! 絶対犯人を捕まえてやる!」
 そう叫んで、真司が椅子を蹴った。フロアの何人かが二人のほうを向いたが、気にも留めずに再び踊り始めた。
 恭平が苦笑いしてフロアに視線を戻すと、早紀がカウンターから出てきて、テーブルに置かれたままになっている空のグラスを回収し始めた。
 早紀がそばまで来たとき、彼女と目が合った。早紀を見た真司が頭を下げた後、右手を上げた。
「この店も大変よ。あんたたちのような柄の悪い連中が来るようになって、どうしようもないわ。類は友を呼ぶってね」
 早紀は不愉快そうに二人を見下ろした。
「類は友を呼ぶって、俺もですか? 早紀さん」
 真司が眉をひそめて恭平と早紀を見比べた。
「そうよ。女の子に声かけて騙すような男はみんな同じ。最低よ」
「早紀さん、それはひどいっすよ。俺、こいつとは違いますから」
 そういって、横にいる恭平を指差した。
 早紀が恭平に顔を近づけてきた。
「キスして欲しいのか?」
「そんなことしたらぶっ殺すわよ」
 そういって、早紀がフロアを見た。恭平は早紀の視線の先を追う。フロアを挟んだ向かいの席に美里が座っている。
「あの女、女子高生をシャブ中にして、やくざに売り渡してるって噂よ」
 耳元で早紀が囁く。
「まさか」
「一緒いる男もそう。背の高いのが武藤っていう、たちの悪い男よ。ヤクザの下請けやってるんだけど、なんか、大物ぶってて馬鹿みたい。あんたたちも気をつけなさい」
 そういうと、早紀が恭平から離れて仕事に戻っていった。
「桐生美里だ」
 真司も美里に気づいた。美里は手に白いパイプのようなものを銜えた。しばらくじっとして宙を睨んでいたが、十秒ほどたった後、煙を口から出した。彼女がマリファナを吸っているのだとわかった。
 金髪の佐川の手が美里の腰に触れた。美里は腰を捩って、その手を避けた。武藤はマリファナと酒を交互にやりながら鋭い目をフロアに向けていた。
「あんなしかめっ面でマリファナ決めて楽しいのかよ」
 真司が武藤を見て笑った。
 マリファナを吸って上機嫌になった美里がフロアで踊り始めた。誠が美里の後を追いかけてフロアに出た。美里の横で、まるでジフテリアに侵されているかのように身体を痙攣させて誠が踊っていた。美里が誠を避けるように身体を捩った。誠の手が美里の腰に触れると、美里が咄嗟にその手をはたいた。その無様な姿に真司と恭平は大笑いした。
 恭平たちに気づいた誠がフロアを横切って二人のもとにやってきた。
「なに笑ってんだよぉ。バカにしやがると焼き入れるぞ、こらぁ」
 誠が凄んだ目で二人を見た。
「そう尖がんなよ。人を笑わせるのも才能だぜ」
 そう言って、真司が誠にタバコを差し出した。
「こいつの場合は笑わせてるんじゃなくって、笑われてんだよ」
 恭平がからかう様な目で誠を見た。
「うるせえ」
 誠は、真司が差し出したマイルドセブンの箱からタバコを抜き取って口に咥えた。
「今度のパーティーも頼むぜ」と言って、真司が火を差し出した。
 恭平がフロアの美里を見た。
「お前、あの女と知り合いか」
 誠は振り向き、恭平の視線の先を見た。
「俺の女だ」
 そう言って、にやりと笑った。
「あいつがお前のこと、相手にするはずないだろ」
 鋭い視線を感じて横を向くと、誠が怒りを漲らせた目で恭平を睨みつけていた。恭平が肩を竦めると、誠は捨て台詞を残してフロアに戻っていった。
 恭平が椅子から立ち上がってフロアを横切った。途中、先日揉めた佐川と目が合った。佐川は目で恭平を威嚇しながらも、向かってくる様子はなかった。
「よお」
 振り向いた美里が恭平の顔を見て目を見開いた。
「あんたのこと、知ってるわ。ここの住人だったのね」
「お前、やくざと組んで悪どいことやってるんだって」
 恭平がにやりと笑う。
「なんのこと?」
「人身売買」
 美里が恭平を睨んだ。
「女子高生を風俗に落とすなんて我が校の生徒のすることじゃありません、って、校長に叱られるぜ」
「あんたもマリファナ餌に客呼んで馬鹿騒ぎして儲けているでしょ?」
 恭平の眉が一瞬ぴくっと動いた。が、平静を装ってため息をついた。
「そんなこと知らねえな。たしかにパーティーはやってるけどな。まあ、売人が勝手に会場に来て変なもの捌いてたとしても、それは俺たちの関知することじゃないよ」
「警察でそんな言い訳通ると思うの?」
「警察は手出ししないよ。証拠もないのに。まして下手に未成年しょっぴいてみろ。特ダネに飢えてる愚かなマスコミの格好の的になる。連中はそういうのを一番恐れてるんだよ」
「あんた、見どころあるわね。頭よくって、度胸もあるし」
「俺に抱かれたいか? いつでもその臭いところにぶち込んでやるぜ」
 美里は恭平を睨みつけると、武藤の待つテーブルに戻っていった。武藤が突き刺すような鋭い視線で恭平を見ていた。
「桐生と何を話してたんだ?」
 席に戻ると、真司が好奇心を漲らせた目で恭平を見た。
「あいつ、俺たちのビジネスのことを知っていた」
 真司の顔が急に真剣になった。
「やばいな。あいつ、何者なんだ」
「俺たち以上のワルだよ」
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