バージン・クライシス

アーケロン

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「どうしたの、愛美」
 登校の準備をしながら優希が心配そうに声をかけた。
「体調悪いの? 朝ごはんもほとんど食べなかったじゃない」
「大丈夫」
 昨夜、急に体調が悪くなったから先に帰ると言って、近くまで送るという玲と優希を残してダイナマイトから一人タクシーで寮に帰って来た。
「あの人、鵜飼君の恋人なの」
 それも、人前でキスをする仲だったなんて。昨夜の美里の言葉を聞いてから、あまりのショックで食事ものどを通らない。
 あのカウンターにいた女の顔を思い出した。世慣れた感じの、垢ぬけた美人の大人の女。子供っぽい自分には到底かなわないと感じた。大人っぽい恭平はきっと大人の女を好む。子供っぽい自分に勝ち目などはない。
 机の上の小物入れに、恭平から貰ったイルカのペンダントが光っていた。愛美はそれを首にかける気になれず、小物入れの中に残したまま部屋を出て行った。
 授業中、昨夜の美里の言葉が頭によみがえってくる。学校で同級生に声をかけてもらっても、沈んだ顔でそっけない返事を返すだけだった。二人でコンサートに行った時の幸せな気分が、遠い昔の出来事のように感じた。
 授業を終え美術室に顔を出すと、美里が愛美の絵を見ていた。愛美に気づいた美里が振り向いて静かに微笑んだ。
「これから部活?」
 美里の言葉に愛美が静かに首を横に振る。
「今日は帰るの」
「じゃあ、今から私の部屋に来ない?」
「ごめんなさい。今日はちょっと……」
「鵜飼君のこと?」
 美里が間髪を入れずに言った。愛美の表情が暗く沈んだ。
「あなた、彼のことが好きなんでしょ?」
 一日中堪えていた思いが心の中に噴き出すのを感じ、愛美の目が潤み出して、今にも零れそうになった。美里は沈み込んでいる愛美に近づいて肩に手を置いた。
「御免なさい。私が昨日あんなことを言ったからずっと辛い思いしてるんでしょ? 話、聞いてあげるわ。心の中を打ち明けると、きっとすっとするわ。心も晴れると思う」
 美里が傷心の愛美に優しく語りかける。愛美は俯いたまま黙って頷いた。

「本当に広いお部屋ね」
 美里の部屋を見回しながら愛美が呟いた。自分たちの寮の部屋の四つ分はある。
「お父様は輸入雑貨の会社をやっていらっしゃるんだったわね?」
 愛美が美里に聞いた。
「いろんなもの輸入してあちこちに売るの。詳しくは知らないけれど。あなたの実家は何をしているの?」
「父が内科医なの。和歌山の病院に勤めてるわ」
「へえ、お医者さんか。すごいね」
「そんなことないよ。それに、母方の祖父が地主で。磯の浦って知ってる?」
「サーフィンで有名な所?」
「そう。あの近辺に土地を結構持っていたの。今は両親が引き継いで、アパート経営をしたり、倉庫を貸したりしてるわ」
「そうなの」
「私、その祖父のことが大好きだったの。私にすごく優しかったし、おじいちゃんの家に行くと、いつも一緒に遊んでくれて。でも、三年前に死んだの」
 愛美が俯いた。美里は黙って愛美を見ていた。
「磯の浦のおじいちゃんの家、大好きだった。思い出もいっぱいあったし。でも、両親はおじいちゃんが死ぬと、すぐにその家を売ってしまったの。思い出の一杯詰まってた、おじいちゃんの家。私、親を恨んだわ。それで、しばらく親から離れてやろうと思って、愛和を受けたの。寮に入れてもらえるって知っていたから。最初、両親は反対したけれど、名門校だし、芸大への進学者も多い学校だからしぶしぶ許してくれたの。桐生さんはどうして愛和に?」
「母が生きていた頃、私に今の学校を勧めてくれたの。まだ小学校のときだったけど、母が愛和の出身なの。高校のときはチェロの奏者で有名だったらしいのよ」
 美里は静かに窓の外を見た。
「母は私をかわいがってくれたわ。だから、母が死んだ時はすごく悲しかった。父は家族に全く無関心で、私の気持ちも知らず、すぐに再婚したわ。母が死ぬのを待っていたかのように、すぐによ。私、父もあの継母も大っ嫌い」
「何かひどい仕打ちをされるの」
「まあ、そんなわけじゃないけど。なんとなく合わないの」
「そう言えば妹さん……雪菜ちゃんだっけ? 今日はいないの?」
 愛美が雪菜の名前を口に出したとたん、クールに澄んでいだ美里の顔が綻んだ。
「あの子、最近、一輪車に凝っていてね。やっと、自由に乗りまわせるようになったの。庭では物足りなくて、家の周りをぐるぐる回って遊んでいるわ。私、あの子が事故にあわないかといつも心配で」
「桐生さんって、本当に妹思いね」
 愛美が美里を見て笑った。
 部屋のドアがノックされた。家政婦がドアを開けて、二人の前にドリンクを置いた。
「鵜飼君とは高校の初めから仲が良かったの?」
 美里が恭平の名前を出したので、愛美が顔を曇らせた。
「ううん……最近になって、喋るようになったの」
「へえ……そうなんだ……」
 美里は立ち上がると、書架の下の扉を開けて中からウィスキーの壜を取り出した。
「桐生さん、それって……」
「失恋の傷を癒すのはお酒が一番よ」
 そう言って、ウィスキーの瓶をテーブルに置いた。失恋という言葉を聞いて、愛美の顔がますます暗くなる。
「でも……私、お酒は……」
「少しくらい大丈夫よ」
 美里は愛美のドリンクに少しウィスキーを垂らした。愛美が戸惑いながらドリンクを一口飲んだ。
「どう?」
「これくらいならなんとか……飲んでみると美味しいね」
 愛美は美味しそうにグラスのドリンクを飲んだ。
 急に目の前が明るくなった。まわりのものが歪んで見え、部屋の色が鮮やかになった。
「き、桐生さん!」
 愛美は床にペタンと座り込んだ。部屋の外から聞こえてくる音がやたら気になった。
「だめよ、そんな所に寝ては」
 美里は愛美を抱き起こしてベッドに寝かせた。
「き、桐生さん、どうなってるの?」
 身体を自由に動かせなかった。美里が愛美の制服のボタンを外した。ピンクのブラが眩しく光った。
「な、何するの?」
 抵抗しようとしても身体が動かない。美里は愛美の制服のスカートを脱がせた。そして、続けて愛美のピンクのブラを外す。形のいい乳房が重力に潰されることなく、胸の上で盛り上がっていた。美里は愛美のショーツに手をかけた。
「や、やめて!」
 美里の指から逃れようと身体を捩ろうとしたが、身体が思うように動かなかった。
 ついにショーツを脱がされ、愛美は全裸になった。美里は愛美の脚を開いて股間を覗きこむ。
「嫌! 見ないで!」
 愛美は必死で身体を捩ろうとした。でも、抵抗はできなかった。
「思ったとおり。あなた、まだバージンなのね」美里は、微笑みながら愛美の太股を撫でた。「今から、あなたを天国に連れて行ってあげる」
 美里がベッドサイドの下に手を入れたが、愛美には彼女が何をしているのかわからなかった。手を上げた美里は、右手の指をそっと愛美の股間に近づけた。指が処女膜に囲まれた膣口に触れる。
「だめ!」
「動くと膜が傷つくわよ」
 美里が中指を、ゆっくりと愛美の中に入れていった。美里の指が侵入してくる感覚に愛美の意識が引き戻された。
 自分の身体の中に初めて迎え入れる異物。
「ああっ! だめっ!」
 処女の恐怖が愛美を襲う。愛美は、体内に侵入してくる細い指の感覚に拒否反応を示し、身をよじり必死に逃れようとした。しかし、身体が自由に動かない。
「……力を抜きなさい。でないと痛い思いをするわよ」
 そう言って、美里は少しずつ指を愛美の中に沈めていった。
 愛美は身体に少しずつ侵入してくる美里の指の感覚に身体を強張らせ耐えた。
「いやっ、いやぁ……」
 ふいに指の侵入が止まった。愛美は、短く息をつぎ、身体の力を抜いた。
 体内に迎えた美里の指がゆっくり蠢き始めた。その瞬間、鋭い快感が愛美を襲った。愛美が小さな喘ぎ声を上げる。美里の指が膣壁を擦りあげる度に、あまりの快感に愛美の身体がびくんっ、びくんと撥ねた。
「まだよ……まだ終わりじゃないの……」
 やがて、快感の頂上に達した愛美が声をあげて身体を仰け反らせた。
 頂点に達したはずなのに、いつものように冷めてこない。いつまでも快楽の頂をさまよう感覚に、愛美は戸惑った。そして、それ以上の快感が身体の中から湧き上がってきた。
 美里の継続的な愛撫と、何度もくりかえし襲ってくる快感。愛美は意識が朦朧としてくるほど喘いだ。
「どう? すごくいいでしょ?」
 美里が愛美の耳元で囁く。
「私といると、あなたはこの快楽をいつでも手に入れることが出来るのよ。この誘惑には、だれも逆らえないわ」
 愛美の身体に侵入した指は、ゆっくりと膣壁を擦るように出し入れされ、それにあわせるように愛美の身体もカタカタと揺れ始めた。


 恭平は早紀のアパートの前で立ち止まり、彼女の部屋を見上げた。同じテナントに入っていた飲食店でちょっとしたボヤがあり、ダイナマイトが臨時休業になったので、今夜は部屋にいると思ってやってきたのだ。予想通り、見上げた部屋には明かりが灯されている。
 ストーカーの一歩手前まできているな。恭平は自嘲するように地面に唾を吐き、タバコを咥えた。
 あの明かりの下で、早紀が何をしているのか気になった。
 もしかして、今頃、あいつに抱かれているのか……。
 馬鹿馬鹿しいと思いながらも、黒雲のごとく嫉妬心がふつふつと湧いてくる。
 初めて心から惚れた女。抱き合っていた時期は短かったが、思い出が沢山詰まっている部屋。
 早紀は料理がうまかった。近所のスーパーに一緒に買い物にも行った。料理の献立に真剣に悩み、恭平の感想を聞いては安堵した笑みを浮かべていた。
 その後、ベッドで抱き合いながら将来のふたりについての話題に華を咲かせた。
 頭を振る、終わった事だ。
 自分でも馬鹿だと思う。
 けど、諦められない。
「何してんだよ、俺……」
 惨めだ。未練を抱いたところで、もう過去には戻れない。馬鹿だと心の中で自分を罵倒しながらも、恭平はその場を立ち去ることが出来ないでいた。
「私はね、失うために生きているの」
 饐えた匂いの漂う繁華街の片隅で、早紀と出会った。感情のない瞳を空に向け、街を彷徨っていた彼女の今にも壊れてしまいそうな虚ろな表情が印象的だった。
 彼女の部屋で、その日のうちに早紀を抱いた。光を通さない分厚いカーテンを架けた窓と、ベッドとクローゼットだけの、男に抱かれるためだけに存在する無機質な空間。妻子ある男にすべてを捧げ捨てられた、早紀という哀れな女を象徴する部屋だった。
 怖いものなど何もない自信過剰な高校生が、このとき初めて、彼女を失うことを怖いと思った。
「……くそ!」
 嫉妬でちりちりと胸が傷んだ。恭平は踵を返した。目の前に長身の見覚えのある人物が立っていた。早紀と暮らしている、あのバーテンのルビーだ。
「ここで何してる。早紀を付け回しているのか」
 ルビーが切れ長の目で恭平を睨んだ。色白の肌が街灯の光を反射し、ハレーションを起こしている。
 恭平は挑発するように咥えていたタバコを道に吐き捨てた。
「拾え」
 ルビーが恭平を睨んだ。
「嫌なこった。お前が拾ってゴミ箱に捨てろ」
 そう言って、恭平は煙を上げている吸殻を踏みつけた。
「お前、ついてないな」
 恭平がルビーを睨み、唸るように低い声で言った。
「もう少しゆっくり歩いて帰ってきたら、俺と会わずに済んだのにな。運が悪いよ。今の俺は誰かをぼこぼこにしないと気が済まないんだ。その不幸な相手があんたとはな。俺にとっては運が良かったってことか」
 恭平がルビーにじりじりとにじり寄っていった。ルビーは後ずさりして恭平を睨みながら隙を覗っているようだった。
「馬鹿馬鹿しい。未成年者は早く家に帰れ」
 ルビーが恭平の脇をすり抜けようとした。
「待てよ、こらっ!」
 恭平が両手でルビーの胸倉を掴んだ。そして、勢いよくアパートの壁に押し付けた。
「やめろ!」
 ルビーは恭平の腕を振り解いた。
「早く帰ってくれ」
 ルビーは恭平に背を向けると、階段を上がって早紀の待つ部屋に入っていった。恭平はその後姿を呆然と見送った。
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