バージン・クライシス

アーケロン

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 どうしてあんなことになったんだろう。
 昨日、愛美は美里に付き添われ、タクシーで女子寮に帰ってきた。頭の中がぼんやりしていて、詳細を思い出せない。
「愛美がお酒飲むなんてね」
 後輩に呼ばれて玄関まで出てきた優希は、美里と一緒にいる赤い顔の愛美を見て驚いた。
「あんたにもワルな友達ができたわね」
 優希が美里を見ながら悪戯っぽい笑みを見せた。
 ふらつく身体を優希に支えられて部屋に入り、すぐにベッドに倒れこんだ。結局、夕食もとらず、そのままベッドに横になっていた。なぜかお腹が空かなかった。消灯前、優希が心配そうにベッドを覗いてくれた。
 頭の中がぼんやりしていた。しかし、なかなか眠れなかった。
 美里に与えられた、今まで経験した事のない強烈な快感を思い出し、胸が高鳴り身体が疼いた。布団に潜り込んでいつものように自分で慰めたが、あの強烈な快感は得られなかった。
「どうしたの? 昨日は眠れなかったの?」
 寝不足なのか、朝から愛美の頭はすっきりしなかった。朝食後、部屋でだるそうに登校準備をしている愛美のそばに優希がやってきて、心配そうに手を愛美の額に当てた。
「学校、休む?」
「大丈夫、頭は重いけど、シャキっとしてるから」
 そういって笑うと、愛美は学生カバンを肩にかけた。
 ほとんど眠っていないのに、吸い込まれるように先生の言葉が脳に入ってくるのが不思議だった。時折、美里との行為を思い出し、心臓が高鳴った。身体の奥から次々に沁み出てくるのを感じて、両腿をぎゅっと閉じた。,昼食時になっても食欲がなかったが、玲や優希に心配をかけたくなかったので、少な目の昼食を取った。
 教室に戻る途中、廊下で美里の姿を見つけてドキッとして立ち止まった。美里は愛美を見ると口元にうっすらと笑みを浮かべて、近寄ってきた。
 愛美は羞恥心と屈辱感で美里から顔を背けた。未だに、どうして美里とあんなことになったのか、自分でも信じられなかった。
「気分はどう?」
「べ、別に」
 美里の顔をまともに見られない。美里から目を背けていると、いきなり腕を撫でられた。びくりと身体を震わせて美里から離れた。
「可愛いのね、あなた」
 美里が妖しく笑う。
「今日も、授業が終わったら正門で待っていて」
 愛美が首を横に振った。
「そんなに邪険にしないで」
 美里が愛美の手に触れた。身体に先日の快感が蘇った。胸が高鳴る。
「今日は……用事が……」
「だめよ。絶対に来て」
 拒否を許さない美里の鋭い視線に愛美がたじろいだ。
「じゃあ……」
 愛美は美里の脇をすり抜けて、一目散に教室に戻った。
 授業中、美里とのことを思い出した。身体が疼いてきて、抑えきれるかどうか不安になった。胸の鼓動が隣に座っている生徒に聞こえるのではないかと思うくらい動揺していた。
 授業が終わり、女子トイレの個室でショーツを下ろすと、べっとりと汚れていた。

 美里の澄んだ声が鼓膜を弄んだが、愛美は車の中では終始無言のまま、桐生邸に着くまで自分の膝を見つめていた。
「どうして何も喋ってくれないの?」
 家政婦が部屋に持ってきたコーラを飲みながら、美里がソファーで脚を組んだ。制服のスカートから伸びた白い腿が眩しかった。
 美里が立ち上がって、ゆっくり近寄ってくる。
「桐生さん……」
 美里がいきなり抱きついてきた。
「やめて!」
 愛美は拒否して美里の身体を引き剥がそう抵抗した。
「どうして? そのつもりでここにきたんじゃないの?」
「そ、それは……」
「よかったんでしょ? だって、昨日のあなた、すごく気持ちよさそうだったわ」
 美里に耳元で囁かれ、顔が熱くなっていく。
「女同士ってのも悪くないでしょ?」
「私はそんなんじゃない……」
「もし、私と付き合ってくれたら、二人の関係は誰にも言わないわ」
 愛美は驚いて美里を見た。
「それって、私を脅しているの?」
「どう取られたって、構わないわ」
 美里が愛美の横に座る。逆らうことは絶対に許さない。美里の強い視線がそう語っていた。愛美は身体を強張らせた。
「触るよ」といって、美里がゆっくり愛美の胸に触れた。愛美の身体がぴくっと震えた。
 美里が愛美の服をゆっくりと脱がせていく。恥ずかしかった。あの快感を求めているということを認めたくなかったが、愛美は抵抗することが出来なかった。
 ブラとショーツだけの姿になった。美里の指がショーツに触れた。
「こんなこと、やっぱり駄目よ」
 愛美が美里の腕を押さえようとした。美里は愛美の手を避けると、素早くショーツの中に手を入れた。
 愛美が咄嗟に身体を捩る。
「うふっ、凄いことになってるわ。言葉でなんと言おうとも、身体は正直なのよ」
 身体が反応していることを指摘され、羞恥のあまり愛美は耳まで赤くした。
「楽しみましょ。鵜飼君だって、今頃あの人と……」
 一瞬恭平のことが愛美の脳裏をよぎる。
 手が届かない愛しい人。今頃、あのクラブにいたあの綺麗な女の人と会っているかもしれない。そして、抱き合って、キスしているかもしれない。だったら、自分もこのまま流されてもいいと思った。
 美里は愛美をベッドに横たえた。愛美は目を固く閉じて、身動きしなかった。既に抵抗する様子のない愛美のブラを外し、ショーツを脱がせた。汚れた下着を見られるのが恥ずかしかった。
 美里がベッドの下に手を入れる気配がした。何をしているのか気になったが、尋ねる気にはならなかった。愛美が目を閉じて待っていると、美里の手が腿に触れた。愛美は目を閉じたまま、黙って脚を開いた。


 恭平がカウンターの上に肘を突いて手を上げた。無視する早紀に、「お客さんですよ」と声をかけた。
「接客の心得というものを少しは勉強したらどうなんだ?」
 不機嫌そうな顔でようやく近寄ってきた早紀に、恭平が話しかけた。
「昨日の夜、お前のアパートの前で会ったよ、彼女と」
 恭平はカウンターの奥でグラスを洗っているルビーを見た。早紀が恭平を睨みつける。どうやらルビーから話は聞いているようだ。
 ルビーの胸倉を掴んだ時の感触を思い出した。柔らかい胸の感触。大きくなかったが、はっきりとブラジャーをしているとわかった。その答えは一つしかない。ルビーは、変態でなければ女なのだ。
「ワイルドターキーダブルで。ストレートだ」
 早紀は恭平からゆっくりと視線をそらすと、注文どおりワイルドターキーをグラスに入れて、恭平の前に差し出した。
「新しい恋人が男だなんて、言った覚えはないわ」
「お前、いつからそっちの方に走ったんだ?」
「昔からよ。私ね、バイセクシャルなの。付き合った男の数より、女の数のほうが多いのよ」
「どう見ても男に見えるけどな、あいつ」
「そうかしら? 顔なんて、どう見ても綺麗な女よ」
「綺麗な顔の男だっているしな。それに、声も低いし男言葉でしゃべるし。あいつ、百八十はあるだろ」
「彼女、バレーボールの選手だったのよ。全国大会にも出たことがあってね。企業にスカウトされたんだけど、怪我で辞めちゃったの」
 早紀はグラスに氷を入れると、ワイルドターキーを注ぎ、口に含んだ。仕事中に酒を飲むなど、今までの早紀には考えられないことだ。
「女色趣味がばれたんで、動揺してるんだろ」
「まさか」
「どこがいいんだ。あんなデカ女」
「彼女は優しいわ。あの長身だから男がよりつかないの。だから、彼女、ずっと女と付き合ってきたのよ。だから、うまいの」
「なにが?」
「セックス。彼女とのセックスは最高よ。まあ、今までの男が下手すぎて話にならなかったんだけどね」
「俺に突っ込まれて、ひいひいよがってやがったくせに」
「あんなの演技よ。あんた、そんなことも分からなかったの? ほんと、どこまでもガキなのね」
 そう言って、早紀は冷たい目で恭平を睨んだ。恭平はため息をつくと、グラスを持って早紀に背を向けようとした。
「恭平」
 振り向いた。早紀に名前で呼ばれるのはいつ以来のことだろう。
「あんた、あんまり驚かないのね」
「驚いてるさ。ただ、顔に出ないだけだよ。お前にメンタルを鍛えられたおかげで、感情をうまく隠せるようになった」
 そう言って、恭平は早紀に背を向けてカウンターから離れた。
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