マネージャーの苦悩

みのりみの

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戦略

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白部くんが聖司くんの次に提案してきたゲストは人気No.1アーティスト支倉大介というカードだった。
ずっとお願いしていて突然先方から返事が来て収録日も指定されたという。

深夜の割にひろこの番組は視聴率が9%を超えていた。深夜番組で9%超えは快挙である。

人気絶好調のSOULの聖司をゲストに入れこれまた世間から注目されつつある安藤ひろこの初冠番組。話題性には事欠かなかった。
俺は今まで持ったタレントの中でひろこが1番の大物に昇格した。自分の昇格と同じだった。 

仕事の依頼は増えた。しかし俺はここで戦略に出た。
あれもこれもひろこを出させて疲れ果てさせ、春に会えないよぶーぶーと文句を言われるのを避けるためもあるが仕事は選んだ。
BSやCSのお色気番組は司会だとしても断った。中にはAV女優を毎回ゲストにまねくアダルト番組の司会というのもあったがこの手はまったくお払い箱にした。
お色気はイメージがついてしまう。お笑い番組のゲストも断った。逆に女性誌での単発での特集やグラビアは全て受けた。女性ファンを獲得したかったからだ。
冠番組の維持と雑誌、白部兄の月間誌のコラム、割と堅い番組のゲスト、そこからCMの依頼を待った。
選んでいたらすべて深夜帯の番組になってしまったがそれでよしとした。
電話も今までよりもひっきりなしに鳴るのでついにひろこ専用の携帯を新しく持った。
局への営業周りの時間がひろこの付き添いでかなり少なくなりたまに営業しに局へ行くとどこからか「安藤さんのマネージャーさん」と声をかけられ俺まで人気うなぎ登りのようだった。

そんな俺までもが仕事絶好調でもなんせ当の2人の問題は山積みの戦闘態勢であり俺と秋元さんは前より連絡が密になった。

ひろこと春くんは祭りを抜け出した後、別々に帰宅したと思われたが春くんがその後ひろこの家に行ったらしい。
俺は血の気がひくような気持ちだった。

「今後はいかなる外出もひろこと同伴する」

「やめてよ!私のプライベートも何もないじゃない!」

「それが売れっ子なんだ」

ひろこは嫌がったけど、SOULファンからの嫌がらせもこれからあるだろう。記者だって追いかけてくる。ひろこを守るには俺しかいなかった。


「ひろこちゃん!ちょーカワイイ!」

会うなりテンション高くひろこに抱きついてきたのはアーティストの支倉大介だった。
「こっち見てこっち見て!ヤバい。かわいすぎ。」
「ひろこちゃん家どこ?」
「僕、ひろこちゃんがタイプなんだよね」

支倉大介、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気シンガーソングライター。顔はイケメン。モデルさながらのスタイルで圧巻の人気を持つ。これはさすがに視聴率も良いだろうと思ったが想像以上にヘビーな収録になった。
自分の事はそこまで話さずひろこに質問ばかりで一向に進まず、ひろこに抱きついたり追いかけまわしたり。スタッフも手がつけられず相当カットする部分が多いのではないかと思った。
それを見て白部くんは笑っていた。

「いいんですよ。これでいいんです。面白いじゃないですか。」

白部くん本人は納得してご機嫌だったからまだいいものの、支倉氏のマネージャーは3人。
3人の顔を見て毎日ご苦労様ですと声をかけてあげたくなる。

「まぁ芸術家と同じだからな。突出した才能ある人はどこか偏るだろ」

ひろこもぐったりの収録。
でもそれでも白部くんさえ面白いものができれば良いと思っていた。

帰りの運転する車の中でひろこが春くんとウワサになっているのか聞いて来た。

「掲示板では噂になってるぞ。お揃いの時計も怪しまれてるし。」
「え?掲示板?」
「そう。」

俺はひろこにはもっと自分の身の安全を考えておいてほしかった。

「熱狂的なファンが、ひろこに嫌がらせしないか不安なんだよ。ひろこも、もっと意識持てよ。こないだみたいな2人で外でデートなんて絶対するなよ」 

ひろこは珍しく黙っていた。

翌日ひろこと事務所を出る際にパソコンの掲示板を見せた。

『HARUと安藤ひろこは付き合ってる』
そんな掲示板の中では言いたい放題だった。
時計がお揃い。新潟旅行に一緒に行っていた。同じ時期に日焼けしていた。
検証は諸々あったが、目立つのは春くんのファンの意見だった。
ありえない、春には似合わない、え?お似合いだと思うけど?美男美女でいいね、やりまくってんだろ?安藤ひろことセックスしてるハルがうらやましい。
言いたい放題。中には安藤ひろこがムカつくなんて山ほどあった。

「有名税みたいなもんだ。とにかく気にはするなよ」

「うん」

画面を見ながらそっとパソコンを閉じた。
ひろこは目の当たりにしてすごく傷ついていたと思う。傷ついていても、俺は自分の身を守る意識を強く持ってほしかった。
いつどこで何が起こるか分からない。

暗い気持ちになりながら、帰りの車の中でひろこは無言だった。

「別に、春くんと付き合うなって事じゃないんだぞ。上手く付き合えって事」

うなずくひろこによく考えればデビュー当時とは全く違う人格になっていたのを思い出した。
上から目線。生意気。気の強さ。
18歳だったし子供だったのは分かるがひろこも大人に成長した。

年頃の22歳には酷かもしれない。自由な恋愛ができないのだから。でも俺は秋元さん含めSOULの事は大事に思っていた。
ひろこが結婚するなら相手は春くんでいいとも思っていた。
ただ、今はできない。

『5年はさせたくないね』

社長が言う5年。
確かに5年は結婚させたくない自分がいる。


「遊井さん。友達が怪我して病院へ行ったの。お願い。実家の近くの病院まで送って!」

ひろこが血相変わって言うので俺はひろこの実家のある杉並の方へ向かった。

「地元の友達?男?」
「女の子!」

やや慌てて病院へ入るひろこを目で送って俺は駐車場内でメールを見ていた。

「今日、呑みませんか?」
「今日、六本木で少し話しませんか?」
「今日、打ち合わせできませんか?」

毎日来る誘いに俺は不思議とげっそりしなかった。ひろこに付き添ったり営業に行ったり、自分の受け持った部内のメンバーの仕事を把握しなきゃならないのもそうだけどこうゆう時だからこそ、抜けてるものがないか注意深く目を配っていたつもりだった。

「友達、大丈夫だったけど遊井さんも仕事あるでしょ?今日は実家に帰るよ」
「実家に1人で帰る?タクシー乗るのか?」
「うん」
「いくら友達でも男とは帰るなよ」
「分かってる」

神妙な面持ちのひろこを置いて俺は病院を出た。散々ひろこに身を守る事は言った。
抜けはないと思っていた。
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