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ひろこからの電話
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俺は事務所に一度戻った後、秋元さんとお決まりの中国居酒屋でひとりビールを頼み飲んだ。
メンバー全員を送り届けたであろう秋元さんはおつかれさまですと言って間も無く俺の前に現れた。
「無事にひろこちゃんは春くんのマンションへ行きましたから大丈夫ですよ」
「秋元さん、ありがとうございます。今年もおつかれさまです。もう呑みましょうよ。」
秋元さんの顔も疲れきっていた。目の下のクマがくっきりと濃くそれを意味していた。しかしすべてをやり遂げた感はあり、それは晴れ晴れとした気持ちだろう。
「SOULと安藤ひろこは来年もっと飛躍しますように」
そう2人で願いを込めて乾杯した。
「遊井さんとこの社長、めちゃくちゃ怖かったですよ。社長もひろこちゃんが本当に大事なんですよね。よく分かりました。改めて、春はとんでもない子に惚れちゃったんだなって。」
ビールをぐっと飲んで開口1番秋元さんは言った。
「うん。社長もすごく可愛がってたしね。どんなに生意気な事言っても俺みたいに怒らないしさ。」
「あのひろこちゃんを怒れる、その遊井さんはすごいですよ」
「まぁ、うん。もう長いからね。」
俺はビールの水滴がポタポタと垂れるグラスを見つめていた。
「春くんが、遊井さんがうらやましいってよく言ってましたよ。」
「え?春くんが?」
「結局ずっと一緒に入れるのは遊井さんだからって。わがまま聞いたり怒ったり笑ったり、2人でご飯食べてたり、寝顔見れたり。彼氏でも知らない顔ってあるじゃないですか。それが見れてうらやましいって」
「・・・」
『ひろこちゃんが結婚しても遊井さんは一緒にいられるじゃないですか。うらやま。』
白部くんのあのメールを思い出した。
「遊井さんの事をうらやましがるから、彼氏だから春はセックスできるんだぞ!って言ったら今のままでいいとは言ってましたが。でも、うらやましいポジションなんですよ。」
「・・・」
もしかしたら、本当に俺は特別なポジションなのかもしれない。
「なんか、あの2人今日会うからかな、妙に帰り際落ち着いてましたよね。」
秋元さんはビールを2杯目に入った時に言った。
「ひろこも割と落ち着いてたかな。」
「でもこの静けさが妙にこわい。嵐の前の静けさ、ですよね。」
「俺もこの3日で動くと思いますよ。」
「結婚、引越し、両方ですよね」
お互いタバコに火をつけてしばらく沈黙した。
春くんもここまで奔走した。もうゴールは目の前なんだ。
「年始、めちゃくちゃパワー使いそうですね。」
その通りだった。
1月2日の夜 携帯が鳴った。
「あけましておめでとう。」
ひろこの声だった。
「おめでとう。まだ春くんのうちか?」
「うん」
静かなところから電話をしているのだろうかひろこの声がいつもよりよく聞こえた。
「中目のマンション、引き払いたいんだけど、大丈夫かな。」
「・・どうした?」
「春のマンションに引っ越したいの」
やっぱり、想定内だった。
どちらが一緒に暮らそうだの明日引っ越そうだの言ったかはわからないがこんな急にやる事はやはり春くんが焦っているのかと思った。
「じゃあマンションは今月いっぱいという事で社長には言っておくから。荷物はいつ搬入だ?手伝おうか?」
「明日なの。大丈夫。引っ越し屋さん10人来るんだって」
「ひろこのあの部屋の荷物なんてダンボール5箱くらいだろ!それ多くないか?」
ひろこの引っ越しに10人。さすが春くんひろこに不便はさせたくないのか本気度が感じられる。
「ね、遊井さん。入籍してもいい?」
一瞬が長く感じた。
分かってはいたが、これは間違いなく現実だと悟るのにそう時間はかからなかった。
「結婚、してもいい?」
ひろこの声がよく聞こえた。
多分親より先に言ったというのが分かる。
微かに声が震えていた。
「薄々、分かってはいたんだけどねぇ」
やっと出た言葉に俺も動揺を隠すのが精一杯だった。
「そろそろ結婚するだろうなって思ってたの?」
「ひろこの体重1キロ増えても分かるんだから分かるに決まってるだろ」
いざとなったら結婚をやめろなんてもう言えなかった。ひとりの女として幸せな時も悲しみのどん底も苦しみも、仕事で這い上がる姿も全部俺は見てきたからだ。
これでひろこは既婚者という手前売れなくなるかもしれない。
そんな恐怖はもちろんある。
ひとりの女のマネジメント業の手前、結婚を止めるのもありだけどもうひろこはMAXかわいいひろこでいるためには春くんと結婚して愛をもらい続けるより他にはないと思っていた結果だった。
「女の幸せだからな。俺は引き続きひろこを育てるけど、来た仕事は気引き締めてやれよ」
ひろこは少し黙るとありがとうと言った。
「社長には4日の10時に私から言うから。春も4日の10時に言うって」
ひろこの電話を切ってからしばらく俺は呆然としていた。
『これから彼氏が来るの。だから、帰って』
初めて渋谷でひろこに声をかけたあの夏の終わりの日を思い出した。
あれからもう4年以上も経つんだ。
その時秋元さんからメールが来た。
『連絡来ました。3日引越し4日入籍です』
俺はすぐ社長に連絡をした。
メンバー全員を送り届けたであろう秋元さんはおつかれさまですと言って間も無く俺の前に現れた。
「無事にひろこちゃんは春くんのマンションへ行きましたから大丈夫ですよ」
「秋元さん、ありがとうございます。今年もおつかれさまです。もう呑みましょうよ。」
秋元さんの顔も疲れきっていた。目の下のクマがくっきりと濃くそれを意味していた。しかしすべてをやり遂げた感はあり、それは晴れ晴れとした気持ちだろう。
「SOULと安藤ひろこは来年もっと飛躍しますように」
そう2人で願いを込めて乾杯した。
「遊井さんとこの社長、めちゃくちゃ怖かったですよ。社長もひろこちゃんが本当に大事なんですよね。よく分かりました。改めて、春はとんでもない子に惚れちゃったんだなって。」
ビールをぐっと飲んで開口1番秋元さんは言った。
「うん。社長もすごく可愛がってたしね。どんなに生意気な事言っても俺みたいに怒らないしさ。」
「あのひろこちゃんを怒れる、その遊井さんはすごいですよ」
「まぁ、うん。もう長いからね。」
俺はビールの水滴がポタポタと垂れるグラスを見つめていた。
「春くんが、遊井さんがうらやましいってよく言ってましたよ。」
「え?春くんが?」
「結局ずっと一緒に入れるのは遊井さんだからって。わがまま聞いたり怒ったり笑ったり、2人でご飯食べてたり、寝顔見れたり。彼氏でも知らない顔ってあるじゃないですか。それが見れてうらやましいって」
「・・・」
『ひろこちゃんが結婚しても遊井さんは一緒にいられるじゃないですか。うらやま。』
白部くんのあのメールを思い出した。
「遊井さんの事をうらやましがるから、彼氏だから春はセックスできるんだぞ!って言ったら今のままでいいとは言ってましたが。でも、うらやましいポジションなんですよ。」
「・・・」
もしかしたら、本当に俺は特別なポジションなのかもしれない。
「なんか、あの2人今日会うからかな、妙に帰り際落ち着いてましたよね。」
秋元さんはビールを2杯目に入った時に言った。
「ひろこも割と落ち着いてたかな。」
「でもこの静けさが妙にこわい。嵐の前の静けさ、ですよね。」
「俺もこの3日で動くと思いますよ。」
「結婚、引越し、両方ですよね」
お互いタバコに火をつけてしばらく沈黙した。
春くんもここまで奔走した。もうゴールは目の前なんだ。
「年始、めちゃくちゃパワー使いそうですね。」
その通りだった。
1月2日の夜 携帯が鳴った。
「あけましておめでとう。」
ひろこの声だった。
「おめでとう。まだ春くんのうちか?」
「うん」
静かなところから電話をしているのだろうかひろこの声がいつもよりよく聞こえた。
「中目のマンション、引き払いたいんだけど、大丈夫かな。」
「・・どうした?」
「春のマンションに引っ越したいの」
やっぱり、想定内だった。
どちらが一緒に暮らそうだの明日引っ越そうだの言ったかはわからないがこんな急にやる事はやはり春くんが焦っているのかと思った。
「じゃあマンションは今月いっぱいという事で社長には言っておくから。荷物はいつ搬入だ?手伝おうか?」
「明日なの。大丈夫。引っ越し屋さん10人来るんだって」
「ひろこのあの部屋の荷物なんてダンボール5箱くらいだろ!それ多くないか?」
ひろこの引っ越しに10人。さすが春くんひろこに不便はさせたくないのか本気度が感じられる。
「ね、遊井さん。入籍してもいい?」
一瞬が長く感じた。
分かってはいたが、これは間違いなく現実だと悟るのにそう時間はかからなかった。
「結婚、してもいい?」
ひろこの声がよく聞こえた。
多分親より先に言ったというのが分かる。
微かに声が震えていた。
「薄々、分かってはいたんだけどねぇ」
やっと出た言葉に俺も動揺を隠すのが精一杯だった。
「そろそろ結婚するだろうなって思ってたの?」
「ひろこの体重1キロ増えても分かるんだから分かるに決まってるだろ」
いざとなったら結婚をやめろなんてもう言えなかった。ひとりの女として幸せな時も悲しみのどん底も苦しみも、仕事で這い上がる姿も全部俺は見てきたからだ。
これでひろこは既婚者という手前売れなくなるかもしれない。
そんな恐怖はもちろんある。
ひとりの女のマネジメント業の手前、結婚を止めるのもありだけどもうひろこはMAXかわいいひろこでいるためには春くんと結婚して愛をもらい続けるより他にはないと思っていた結果だった。
「女の幸せだからな。俺は引き続きひろこを育てるけど、来た仕事は気引き締めてやれよ」
ひろこは少し黙るとありがとうと言った。
「社長には4日の10時に私から言うから。春も4日の10時に言うって」
ひろこの電話を切ってからしばらく俺は呆然としていた。
『これから彼氏が来るの。だから、帰って』
初めて渋谷でひろこに声をかけたあの夏の終わりの日を思い出した。
あれからもう4年以上も経つんだ。
その時秋元さんからメールが来た。
『連絡来ました。3日引越し4日入籍です』
俺はすぐ社長に連絡をした。
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