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29,ヴィーク

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「エリィ!久しぶり!」

「ヴィーク!来てくれてありがとう。嬉しいわ。」

「急に手紙送っちゃってごめんね。迷惑じゃなかったかな?」

「全然。手紙もらってとても嬉しかったわ!」

「そう?それなら良かった」


結婚パーティーの数日後、ヴィークから週末に来訪したいという手紙が届いた。
社交辞令かと思っていたから、単純に嬉しい。
私はこの日を楽しみにしていたのだ。


応接間で少し話をした後、庭を案内することになった。この間は自慢の庭はあまり見なかったようだ。
ヴィークは生い茂るハーブ達に戸惑っている。

「すごいね、まるで森みたいだ」
「ふふっ。これでも庭師に手入れをしてもらってるのよ?」
「これは花…?というよりは草……?」

紫色に靡くラベンダーを見ながらそう聞かれた。

「ラベンダーよ。それは私が採ってきて植生したの。この辺一体はほとんどハーブなのよ」

他にもハーブの話をしながら進んでいくと、我がハーブハウスが見えてきた。
いつも飛翔魔法で行ってるけど、ちゃんと歩くとまぁまぁ遠い。

「せっかくだからハーブティー飲んでいかない?」

とハーブハウスに案内して、ラベンダーティーを振る舞う。

「これはさっきあったラベンダーを中心に調合して作ったハーブティーなの。どうかしら?」

「うん、甘くて華やかだね。とっても美味しいよ」

「少しカモミールもブレンドしているの。いろいろ試してるのよ。良かったら今度ヴィークも一緒にオリジナルブレンド作ってみない?世界で一つのヴィークだけのハーブティーよ。もし興味があったら是非やりましょう?」

「うん、もちろん。やってみたい!」

「本当?!良かったわ。じゃあ今度一緒にやろうね!
あ、なんか私の話ばかりでごめんね。ねぇねぇ、ヴィークは普段何をして過ごしているの?」

「うーん、そうだな。僕は本が好きで空いた時間は大体本を読んでるかな」

どうやらヴィークは歴史が好きなようで、歴史本をよく読んでいるようだ。その中には私の好きな本もあって趣味が合いそうだった。ヴィークと話をしているとあっという間に時間が経ってしまう。
いくつかおすすめの本を教えてもらい、今度貸してくれると約束してその日は別れた。





「今日はエリィのピアノが聴きたいな。」

数回目となるヴィークの来訪の日だった。
いつもハーブの調合をしたり、本を読んだりして過ごしていたが、ふとヴィークがこんなことを言い出したのだ。

「あぁ、そういえばこの間その話したわね。なにかリクエストはある?」

「エリィは結婚パーティーの時、歌を歌っていたでしょ?エリィの歌も聞いてみたいな。」

「いいわ。どんな曲がいい?」

「いくつかあるの?」

「うん、いくつかあるわね。あっそうだ、あの曲にしよう!」

選んだのは前向きになれる明るい曲だ。
ピアノのある部屋へと移動している途中に、マリーが聞いてくる。

「お嬢様、せっかくですから魔道具を使ってもいいですか?」

「え?どうして?」

「私達もお嬢様の歌声が大好きなので、是非聴きたいのです。」

「そうなの?」

「はい!ですからいつも結界は張らなくてもいいのですよ?」

「煩いかと思ってたわ」

「そんな!とんでもないです!お嬢様のピアノも歌声も私達は大好きなので、もっと聴きたいくらいです」

「そうだったの?知らなかったわ。」

「魔道具、使ってもよろしいですか?」

「ふふっ。いいわよ。」

「ありがとうございます!」

そんなマリーとの会話を聞いていたヴィークが、

「そういえば、どうして今日はアリアナ語じゃないの?」

と素朴な疑問を投げかけてきた。

「え?だって…」

人前だから、と言おうとしたがそういえばこの間ヴィークともアリアナ語で話していたことを思い出した。

「そうよ!!ねぇヴィーク、今日はアリアナ語で話しましょうよ?」

「え?どうしたの、急に?」

「遊びながらアリアナ語を勉強できるって凄くない?それに会話の方がより実践的だわ!」

「確かに。いいね、それ。じゃあ今日はアリアナ語の日だね。」

それからアリアナ語で会話をしながらピアノのある部屋へと移動する。

部屋につき魔道具をセットして弾き語りを披露する。
明るく前向きになれるので、よく弾いている曲の一つだ。


「こんな感じでどうかしら?」

「すごく前向きになれる心に響く歌だね。演奏も繊細でとても上手だ。この曲はエリィが作っているの?」

「えぇ、そうなの。あまり人に聞かせたことはないから緊張するわ」

笑みを浮かべていたヴィークが、躊躇いながら切り出してきた。

「ねぇ、エリィはグリッドマウンテンに行ったことはある?」

グリッドマウンテン。今ここでその単語を聞くとは思わなかった。

「どうして?」

「4年くらい前かな、あそこでとても美しい歌を歌う女の子を見たんだ。二度、後姿しか見ていないんだけどね。その時の光景と歌声は一生忘れないと思う。本当に、天使みたいだって思ったんだ。」

あの時の気配はヴィークとケビンだったのか。
どう言おうか考えていると、

「その女の子は、飛翔魔法も使っていたんだ。ここの結界もエリィが張っているんだよね?」

言いにくそうにそう言い、じっと私を見つめる。あぁ、これはもう確信しているのね。

「エリィだよね?」

「……えぇ、そうよ。」

「変な聞き方しちゃってごめんね。えっと…その…あの時歌ってた歌を聴きたかっただけなんだ。安心して、誰にも言うつもりはないから。」

「まぁもうお父様達にはバレちゃってるんだけどね。でも家族と師匠と使用人以外は知らないから、黙っていてもらえると助かるわ」

「そっか。エリィはどのくらい魔法が使えるの?」

「えっと…比較対象がいないからよくわからないわ。ヴィークはどのくらい使えるの?」

「私は魔法は本当に生活魔法レベルなんだよ。ほら、これくらい」

徐に詠唱を初めて、コップに水を入れる。

「それに魔力もそんなに多くないから。私は魔法よりも剣の方が向いているみたいだ」

「ヴィークも剣を使えるの?!格好いいわ!見てみたい!」

「えっ?か……格好いいかな?」

「うん!私お父様みたいな騎士が好きだから!」

「アンダルトみたいな騎士か…。ちょっとハードルが高いな…。エリィは騎士が好きなの?」

「そうね、騎士は格好いいと思うわ!」
お父様の騎士姿を思い浮かべながら、にっこり笑いながらそう言った。

ここに騎士を目指す男が一人誕生した。
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