真夜中の柑橘系

深弥は悩む

望月深弥の事情

今日は良い日の筈だった。柚紀と夏祭りに行き、滅多に着てくれないであろう浴衣を目に収める事が出来た。お揃いの熊……ダディベアだっけ？も手に入った。かなり邪魔だけど。
けど、最後まで良い日で終わる事は無かった。
「なんでうちの男共は小娘ばっかり選ぶのかねぇ。不思議だわ｣
「…いつこっちに帰ってきた」
こいつは母親の「望月 結菜(ゆいな)」俺ははっきり言って俺はこいつの事が嫌いだった。俺が小さい頃から家にいる事は無かった、いつも見た事も無いような人が家に来ては、僕のご飯や洗濯物の片付けをしてくれていた。
つまりお金さえ渡していれば育児をしてる気になっているという、どっかのドラマに出てきそうな最低な母親な訳だ。いつも地方を飛び回っている、家に入って来る金の額を見る限り、中々の金額だ。だけど、毎月に数十万円の仕送りが来てるからと言って、好きになれる訳もない。……感謝はしている
「つい先日よ。近くまでよったから息子の顔見に来ただけなのに来ちゃダメなの？」
「そう。それはお疲れ様。」
何が息子だ。ろくに何もして貰った記憶なんて無いが。
「深弥が私の事嫌いなのは知ってるよ？でも、貴方が父さんみたいにならないか心配で。」
家に父さんはいない。勘違いしないように言っておくが、死んだ訳じゃない…と思う。
「よく顔も名前も知らない人の事を父さんなんて呼べるよな。」
「そうかもね…今日は寝るわ。明日の昼には出るわ。」
俺は俗に言う「望まない命」という奴だ。母さんは大学生の頃、サークルの飲み会の帰りで公園で襲われた。強姦だ。周囲の人達には降ろすように言われたらしいが、母さんの父さん…つまり俺のおじいさんが、｢1度受けた命を終わらせてやるな。子供に罪はない｣とか言ったらしく、産むことになった。

けど。周囲の人達はそれを面白くなかったらしく。俺は小さい頃からそれなりの物は受けてきた。
親戚と集まりに顔を出せば、知らないおばさんから「あんたのお父さんは悪魔なのよ。つまりはあんたは悪魔の子。」
そんなのは日常茶飯事だった。勿論そんな噂はすぐに広がる、学校に行っても俺のあだ名は「悪魔の子供」だった。誰も意味は知らなかっただろうが、すぐに広まった。
「お前の親は犯罪者なんだろー！｣とか

どうせ事情を知る親が「あの子の親は犯罪者なんだから遊んじゃいけません。」とでも言ったのだろう。よくあることだ

それが小学校中学校と続き、高校はかなり離れた場所に引越し、その近くの高校に入学した。……まぁ高校デビューというヤツだな
髪も少し茶髪にして、制服の着こなし方を学んで、優しい男になる方法を勉強した。
いざ入学式当日。いきなり周りからの視線を食らっていた、高校デビューの事なんて忘れて、ここでももう噂が流れたのかと思った
「あのー…新入生…ですよね？一緒に写真いいですか？」
「…え？写真？俺と？」
その時自分がかなり…俗に言うイケメンになってる事に気がついた…。気が付いたはいい物の…先輩や同級生が邪魔で落ち着けない毎日だった。
毎日教室には噂を聞いた同級生や先輩が俺を見に来ていた。友達と話していてもお構い無しだ。
「もう…勘弁してくれ…」
入学当日にはそんな事なんて知りもしないでいた俺は、その日の最初の休み時間を非常階段で休むハメになっていた。
「もしかして毎日これか…？｣
そんな時だった
「…げ。ここならサボれると思ったのに…先客…。」
いきなり声が聞こえて、思わず身構える……。そして固まった。そこにいた少女は艶やかな黒髪にどこか可愛いさを感じつつも大人びてる風貌だった。

それが僕の最愛の人。広紗柚紀との出会いだった。