【完結】君と笑顔と恋心

七咲陸

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  ヴィクトールの服を掴んでいた手は、すでに力を無くしてしまって、酸欠と快感でアリスティドは、くたり、とヴィクトールに全身を預けるように倒れ込んだ。

「…リスティ…っ」

  蕩けるような快楽に飲み込まれて、我慢ならないとばかりにヴィクトールに肩を押されてソファーに仰向けになった。ヴィクトールの瞳はギラギラと獰猛な獣のようだった。

「んっ…ヴィー…」

  ゆっくりとヴィクトールの手が服の上を這うように撫でられる。留め具をプチプチと外されていくと、徐々に胸の辺りから肌をさらけ出していく。外気に触れた素肌がふる…と震えると、ヴィクトールは楽しそうに平らな胸を撫で付けた。撫でられて、「んっ」と声を出してしまう。

「ああ、皮膚が薄くて感じやすいんだな」

「や、ぁ…っ、あっ!んん……っ」

  悶えるように身を捩ると背中にあるソファーの感触にすら感じてしまう。ヴィクトールの手は徐々に下へ向かっていき、鳩尾や臍、脇腹とスルスルと触れていく。固く厚くなった指先も、剣胼胝の跡も全てが気持ちよくて勝手に反応してしまう。

  袖の部分だけ通ったまま肌蹴ている状態になった。彼は機嫌良さそうにアリスティドの胸の頂きに顔を近づけた。
  舌先でチロ、と舐めたり、フ、と息を吹きかけられてその度に「あっ、あっ」と声を出してしまう。

「乳首を弄ったことがあるのか?凄い感じやすいな」

  フルフルと首を振って否定した。そんなとこわざわざ弄ったことはない。それでも何故か彼に触られるとどこもかしこも感じてしまう。
  そう、彼に触られるなら乳首じゃなくたって感じてしまうのだ。

「あっ、やぁ!」

  そう考えていると、今度はズボンを下げられてしまう。下着まで一気にズリ下げられ、プルン、と勢いよく立ち上がった屹立が顔を出す。
  恥ずかしくて足を閉じようとするが、彼が膝の間に身体を入れ込んでいるせいで閉じることは出来ず、隠すことも出来なかった。

「同じモノのはずなのに、可愛らしいな」

「んなっ……!」

  それは小さいと申すのか。ちょっとばかし睨みつけるが、彼は気にした様子もなく脱ぎ始めた。アリスティドは中途半端に諸々ぬがされているが、ヴィクトールは全て脱ぎ去った。鍛え上げられた腹筋も上腕二頭筋も、とても眩しかった。

「ひっ…」

  しかも、そこは鍛えられないはずなのに、ビキビキと血管を浮き立たせて異様な存在感で君臨する魔王のような股間をつい凝視し、怯えてしまった。
  これは、アリスティドのが可愛く見えても仕方ないと思った。

「優しくする」

  そう、彼は微笑みながら言う。しかし既に優しくなさそうな見た目をしているグロテスクな一物を見て、アリスティドは怯えた。

  ヴィクトールはいつの間にか机に置いてあった小さな小瓶を開けて、アリスティドの股間にかけた。少し冷たくてビクッと震えるが、彼がすぐさま濡らした部分を弄り始めたので冷たさは気にならなくなった。

「あっ…!や!あぁ!」

  グチュグチュと上下にアリスティドが擦られ、声がつい出てしまうほどに感じた。
  気持ちよくて腰がゆさゆさと揺れてしまう。

「あ、だめ、イっちゃ、イク…、イッ…ク、ぅ……!!」

  キスと乳首で追い上げられていたせいもあって呆気なく達し、ビュッと精液が勢いよく飛び出した。
  白濁とした液体は、アリスティドの腹に飛び散っていた。

「随分濃いな。出してなかったのか」

「はぁ、は、ぁ……ん、さ、最近は、んっ、ビクトリアとトラヴィンが交互に寝てるか、らんん……っ、そんなこと、出来なく、て……っ」

   ちゅっちゅっと額や頬、首筋にキスを落とされながら説明をする。ヴィクトールはピク、と眉を上げて動きを止めた。

「……あの子たちはもう十を越えてるのに一緒に寝てるのか。トラヴィンに至ってはもう母離れしてもいい頃だろう」

  そんなこと言っても。本当の母親が亡くなったのは三年半前でまだ母親が恋しい年齢だったはず。それを取り返そうとしているならば仕方ないとも思ってしまう。
  アリスティドがこんなに子供に甘いのは、兄弟にそうされてきたからだ。兄達はアリスティドを溺愛していた。母によく似た顔立ちだったからなのかもしれない。

  途端に、イったばかりのモノをきゅ、と握られる。

「あっ!」

  ビクッと身体が強ばると同時に声が上がる。何事かと思ってヴィクトールを見ると、少しムッとしている。
  そんな顔もカッコよくて絵になると思っている自分は末期なのかもしれない。

「こら、違うことを考えすぎだ」

「んっ、だって、ヴィーが言い出したのにっ、ひゃぁ!」

  ヴィクトールの手がするりとアリスティドの腰を掴み、ソファーの上にあったクッションを腰の下に入れ込んだ。持ち上がったせいであられもない部分が彼の眼前にさらけ出された。
  恥ずかしくて手を伸ばして隠そうとしても、香油が垂れてぬるついた窄まりにヴィクトールの指が先に辿り着いていた。

「やぁっ、ん、ぁ……!」

  クルクルと香油を擦り付けるようにして指を動かされる。足を閉じようと抵抗しても、ヴィクトールの反対手に膝裏を抱えられてそれは出来なかった。
  皺の間を一つ一つ丁寧に香油を塗りつけると、ツプ、とヴィクトールの長く太い指が一本入り込んでくる。

「んぇ、あ、うそ」

  童貞どろうと処女だろうと、男同士がどうやるのかくらいは知っている。知っているが、こちとら昨日まで白い結婚だと思っていたのだ。心の準備なんてなにも出来てないし、出来ていたとしても絶対戸惑っていたに違いない。

  ぐにぐにと中を広げるように指が動かされる徐々に広がり始めると、二本、三本と指を入れこまれていく。

「んっ……あ、ヴィー…っ」

「リスティの可愛らしい穴を開発してると思うとゾクゾクするな…」

「やぁ…っ」

  もしかして、ヴィクトールは思ったよりも変態なのかもしれない。
  かと言って直ぐにアリスティドの作り上げたヴィクトールの偶像は崩れてはいかない。

  彼の指がバラバラに中を動かしていく。中の肉は恋い焦がれた男の指を歓ぶようにヒクヒクとしている。
  中で感じているのは感触だけで、快感とまではいかない。しかし、何かを探るように動かされると途端に何か電流が流れるような、痺れる感覚が襲ってきた。

「あっ!な、なにっ?」

  く、とヴィクトールが笑う。襲われた快感の場所を執拗にトントンと指の腹で当ててくる。
  その度に嬌声を上げてしまい、もう何も雑念を考えてる余裕などなくなった。
  ヴィクトールの舌がちゅぶちゅぶと音を立てて耳を這う。音のイヤらしさと舌の舐る感触に身悶えする。

「んゃ、あっ、ぁ、だめぇ…っ」

  ダメと口にするものの、全くやめて欲しいとは思えないくらいに気持ち良い。ヴィクトールもそれが分かっているのか、中を弄る手を止めようとはしない。
  しばらくぐちゅぐちゅと指を動かしたあと、ちゅぽ、と指を中から引き出した。

「ぁんっ」

  出される感覚に嬌声があがる。ヴィクトールは嬉しそうに微笑んでいるが、アリスティドは目に涙を溜めながら、快感をどうにか逸らしたかった。気持ちよすぎて頭がどうにかなってしまう。

  指を引き抜いたあとのヒクヒクと蠢く窄まりに、ヴィクトールの血管の浮き出るグロテスクな魔王があてがわれる。ぴと、とくっつけられると、ビクッと身体を揺らした。

「リスティ。ゆっくりするから、大丈夫だ」

「ん…、ヴィー……」

  安心するようにと、顔中にキスを落とされ最後に下唇を食むようにキスをされた。 キスをされると途端に身体の強張りは取れる。
  ヴィクトールの剛直が、ぷちゅ、と音を立てて入り込んでくる。先端の部分が太く、息の仕方がわからなくなる位にはキツく苦しい。

「はっ、ぁ、う、ぐ…」

「ゆっくり深呼吸して。大丈夫」

  全然大丈夫じゃない。嘘つきだ。そう思うのに、ヴィクトールに言われると体は勝手に深呼吸をする。アリスティドの蕾はなんとか先端部分を飲み込む。ヴィクトールもキツいはずなのに、そこで一旦止めてくれている。

「ヴィー…んっ、…んん…」

  口づけをされ、突然開かれた蕾の痛みが快楽へ徐々に変わっていく。全身の力が抜けていく様子に気づいたヴィクトールは、ゆっくりと中に押し進んでいった。口づけをされたまま侵入してくる熱い肉棒を感じ、アリスティドの中は満たされていく。
  なんとかヴィクトールが腹の中に収まると、薄い腹になんだか少しぽっこりしているような気がする。乱れた呼吸のまま、腹部を摩った。苦しさで滲んだ涙が横に流れていくのは、繋がった感動からだ。

「…んっ、すご…全部入ったん、ですか?」

「いや。でも今日はこれ以上は無理だな」

「え゛」

  感動を返して欲しい。これ以上は無理だということはアリスティドでもわかる。途端に真っ青になった顔を見て、ヴィクトールは意地悪そうに笑った。
  そして中が馴染んだ頃にヴィクトールは腰をゆっくりと動かし始めた。

「ん…ん、っ」

  唇を噛んで上げそうになる嬌声を我慢する。息を漏らすような声を出していると、彼は親指をアリスティドの口内に差し入れてきた。無理やり唇を割らせられ、アリスティドは我慢できずに声を出し始めてしまう。

「あ…あっ、あっ、んんぅ」

「はっ…、今まで勿体無いことをした。リスティがこんなに可愛いなんて」

「ん、やぁ…!ぁ、あっ!」

  ヴィクトールはぐちゃぐちゃと中の肉をかき混ぜるように揺さぶってくる。何か感じるものがあってアリスティドは勝手に声が出るようになってしまう。指で当てられた一点の辺りだった。
  執拗にそこを擦られ、当てられ、アリスティドは全てを曝け出したあられもない格好のまま乱れ狂うようだった。
  彼は額に汗をかいて少し苦しそうにしている。アリスティドも少し苦しい。
  けど、それ以上に多幸感が全身を駆け巡る。彼の肉棒が自分の中を行き来する度に快楽物質が脳から出てくる。

「あんっ、あっ、だめ、ヴィー…っ」

「リスティの中、すごいな…初めて?…じゃないか」

「んっ、ヴィーとしか、したこと、ないっ…あっ!」

「…初めてでこれ?元々素質があったのか?もうイキそうだな」

  まるで人を淫乱扱いしてくる言葉には少しムッとするが、何年も恋焦がれた相手として興奮しないわけがない。しかしそんなムッとしていたって、感じるところばかり当ててくるヴィクトールの剛直はアリスティドを苛むことをやめない。
  卑猥な水音が耳を襲い、首筋に顔を埋められてじんわりとかいている汗をべろりと舐められる。ゾワ、とした快感が腰を疼かせ、勝手に中を締め付けると良い所に当てられ続けた肉棒をさらに感じてしまう。

「あっ!だめ、あ、ゃ…っ、イク、イっちゃ…っ」

「いいよ、一緒にイケそう…リスティ」

「っ~~!っく、は、あ!んんんっ!」

  ぐちゃぐちゃと行き来する熱い肉が、さらに膨らんだように感じる。耳元で囁くように言われ、耳と一緒にアリスティド自身を何度か擦られ、アリスティドは我慢できずに白濁とした液体を飛び散らせながら達してしまう。イキながら何度か擦られ苦しいほどの快感に襲われていると、アリスティドのうねる中の奥に熱い飛沫を感じた。

  息をお互い切らしながら、ヴィクトールの体重を受け止める。少ししっとりとしている肌が心地よい。
  ヴィクトールも感じてくれたのだと、ホッとしてアリスティドはゆっくり意識を手放していった。


  アリスティドが目を覚ましたのは朝になってからだった。ベッドの中があったかい。ビクトリアかトラヴィンと共寝したのかと思い、横向きにゴロン、と向きを変える。目をかっ開いて声も出さずに驚いた。息ができず、身動きも取れなくなった。
  ヴィクトールのキラキラとした顔面が、眼前にあった。
  アリスティドは上掛けをゆっくりと上げた。真っ裸で、下着も履いてない。そういえば、なんとなくあられもない場所がヒリヒリしている気がする。首には少し硬い感触もある。ちら、と横目で見ると夢のまた夢だと思っていた腕枕をされていた。
  信じられなさすぎて、「あ…夢だ…」と思い、ス…ともう一度目を閉じた。

  しかし、クツクツとした堪えるような笑い声が耳元で聞こえてくる。アリスティドは目を開けて聞こえる方へ目を向けた。

「そのまま二度寝するとは…っ」

「あ、いや、その、夢…だと思ったのですが…っ」

  ヴィクトールは笑いながら腕枕をしていない方の手で、アリスティドの頬を撫ぜた。徐々にヴィクトールのキラキラとした顔が近づいてくる。

「んっ…ん、んん…っ、ぁ…ん」

  キスをされ、口内を舌は遠慮なしに入り込んできた。ぬるぬるとした感触がアリスティドの舌に巻き付いてくるように絡ませられる。離れていくと、銀糸がいやらしく伸びて腰まで響くように疼いた。

「リスティ、おはよう」

  輝くような顔で、ハスキーな男の声で言われる。最早そんな挨拶を気軽にできるような度胸をアリスティドは持ち合わせていない。昨日からずっとキャパシティーはオーバーしているのだ。プシューという音を頭からさせて、辿々しく「お、はよ…う、ございま、ス…」と上掛けを持ち上げて隠れて言った。
  夢じゃない。
  まさか本当の本当に、アリスティドは夫夫になったのだ。いや、この行為が世の中の夫夫の最終到達というわけでは決してない。ただ、アリスティドの中では、そうなったらイイな、位の希望は持ち合わせていたからだ。

「可愛い顔が見えない。リスティ」

「っ…!」

  アリスティドはどうしたらいいのかわからず、顔を上掛けで隠し続けた。隠れていない耳は多分真っ赤だ。赤面しているのはヴィクトールにバレバレである。だって、楽しそうにまたクツクツと笑っている。

  笑っている顔が見たくて、そろ…と目だけ見えるように上掛けを下げる。

  キラキラと、あの凱旋パレードの時のような笑顔があった。
  アリスティドが好きになったきっかけの、キラキラが目の前にある。

「はぁ…好き…」

  思わず、呟いた。
  アリスティドの口は勝手に動いて溶けた瞳で彼を見る。彼が少し目を見開いていたが、すぐにふ、とまた笑んだ。

「私も、アリスティドが好きだ。…結婚してくれてありがとう」

  そう言って、あの三年半前の幸せそうな顔で笑ってくれたのだ。
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