【完結】聖職者と騎士団長様

七咲陸

文字の大きさ
13 / 26

恋愛に疎くて控えめ奥手、清純で可愛くて、それでいて

しおりを挟む
「そういえば、私フラれたんでここ辞めますね」
「え?」

  フィーエからの爆弾発言を上手く呑み込めずに聞き返す。今はたまたま患者が捌けた所で、しばしの小休憩中だった。フィーエの持ち寄ったクッキーと、リーシャの淹れた紅茶でまったりしていたのに突然告げられて困惑する。
  誰に、なんて聞かなくても分かる。絶対レオナルドだ。

「告ったら『興味無い』ってバッサリ。ちょっと可愛く、でもでもだって、ってやったら『ウザイ』ですよ?酷くないですか?」
「え…」

  確かにフィーエを鬱陶しい、とは言っていたが、告白した勇気ある可憐な少女に向ける言葉ではない。あの優しいレオナルドがそんな事を言うのだろうか、という疑問も無くはないけれど、あのあからさまな態度を思い出すにレオナルドとしてはフィーエのことを相当鬱陶しいと思っていたのかも知れない。

「だから明日から私来ませんから」
「えっ!」
「えって……嫌ですよ、私。勝利した恋敵と一緒に仕事するほど神経図太くないんで」
「で、でも」
「否定しないんですね?」
「あ……」

  フィーエに一本取られ、リーシャは言葉を失う。

「あーやだやだ。 男って好きですよねぇ、恋愛に疎くて控えめ奥手で清純で可愛い子。誰かさんに大ハマりですね」
「別に、僕は」
「それでベッドではめちゃくちゃエロかったら完璧ですね」
「なっ! フィーエさん!!」

  カッと顔が真っ赤になるのを感じながらフィーエを窘めるが、フィーエはボリボリとクッキーを食べる。あの可憐なフィーエはどこ行ったのかと思うほどやさぐれたような格好でクッキーを貪っていた。

「てかリーシャ様って、レオナルド様のどこが好きなんですか?」
「あ、ぅ……そ、そういうフィーエさんこそ」
「私?私は顔と強さと地位ですね」

  ぶっちゃけたフィーエに目を丸くする。どうやらフィーエは本当にやさぐれていて、リーシャに本音で話してくれているのだと感じた。クッキーを紅茶で流し込んだフィーエはペラペラと続ける。

「だって、めちゃくちゃカッコイイでしょ。あの男を隣にして歩いてたらさぞ気分いいだろうなーって思うのと、騎士団長で辺境で一番強いし、ここの領主より地位もあるじゃないですか。そんな男と付き合ったら絶対ちやほやされますもん」
「……」

  唖然としてしまった。女性はこんなに打算的なのかと全国の女性を見る目が変わってしまいそうなほど、リーシャは驚いた。

「で?どうです? その場所にいるリーシャ様は。めちゃくちゃ気分良くないです?」
「僕は……別に、その……」
「私だったらめっちゃ自慢して回りますけど。なんなら村も辺境も練り歩くレベルですけど」

  レオナルドは確かに女性が放ってはおけない顔をしている。体躯にも恵まれ、逞しい筋肉に覆われている姿は自信に満ち溢れ、見る人を魅了する。更にそこに騎士団長という冠を得ているのだから、モテるのも当たり前だと理解してはいる。
  けどレオナルドといても、リーシャはほとんど村や辺境を歩くことは無い。リーシャが辺境のヴァレンテインに来て最初のうちだけだったと思う。それ以降は、食事以外はほとんどレオナルドの家に篭もりっぱなしという不健全極まりない生活を送っていたりする。

  リーシャは篭もる様子を思い出してしまってソワソワしてしまうが、フィーエはそんなリーシャをつまらなそうに見ているだけだった。

「っていうか、どうやってあんな高水準の人落としたんですか?やっぱり身体ですか?」
「っぶ!」
「え?マジで?」

  落ち着こうと紅茶を口に含んだ所でフィーエに爆弾を落とされて噴き出した。

「な……な……」
「えー、馴れ初め教えてくださいよー!こう見えても私口硬い方なんで!」
「いや……でも、あの……」
「私もう辞めますし、本音も話しましたし、ねっ?!」

  リーシャは戸惑いながらも、フィーエの言う通りだと思ってゆっくりと口を開いた。ここに来てからのあらましを掻い摘んで、なるべく身体の関係の辺りはぼかして説明した。

  全部話し終えてフィーエを見ると、フィーエはクッキーを食べようと口を開けたまま、ポロリとクッキーを落とした。

「え……? 酒飲んで記憶失くしたら裸で?明らかにヤった後で?責任取る?は? 何言ってんだあの男……」
「フィ、フィーエさん……?」
「リーシャ様めっちゃ騙されてんじゃないですか。今どき処女の少女でもこんな簡単に騙されないですよ。あんたアホなんですね」
「んぐっ」

  グサリと刺さる言葉に胃がキリキリしてくる。フィーエの遠慮ない言葉がポンポンと出てくる様は、いっそ清々しいとさえ思う。

「良いですか?リーシャ様。酒飲んでもまともな男なら自分の家に連れ込まないし、いくら抱いてくれと頼まれても意識が朦朧としてる人間に優しい男は突っ込んだりしませんし、やる事やってスッキリした男が責任取るって言うのは当たり前だろクソ男って言っていいんですよ」
「……く、クソ……」
「そうです。クソです。クソすぎます。リーシャ様が今からあのクソ男を殺しに行くって行っても誰も止めないレベルです」
「そ、そんなに……?」
「てか嘘っぽいですねー、リーシャさん性欲なんてないって顔してるじゃないですか。絶対嘘ですよ。抱いてくれって頼んだの。やっぱクソだなー」

  フィーエの口の悪さに引きつつも、レオナルドの件はどこか納得せざるをえない。

「あーあ。やっぱりいい男って居ないんですね、どっか欠点があるなー。絶対レオナルド様よりいい男見つけよー!」

  リーシャはどこか遠く考えを巡らせながら、切り替えの早いフィーエの声をぼんやりと聞いていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 ※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

処理中です...