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育ての親、レイディット
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お互いの気持ちを確かめ合って、一か月が経った頃だ。
「あれ? 明日、レイディット様が来るみたいです」
「はぁ?」
レオナルドに抱かれ、二人で浴槽に浸かった後、レオナルドに後ろから抱き締められながらベッドに座ってまったりしていた。リーシャは魔法で届いた手紙を思い出して読んだところだった。
「久しぶりに僕に会いたいので来ます、って」
「へー」
「うーん。そうなると、明日からはここにしばらく来れないですね」
リーシャかそう言うと、興味無さげに返事をしていたレオナルドの呼吸が止まった。不思議に思って首を傾げながら後ろを振り返ると、レオナルドの感情が抜けた顔があった。
「育ての親が来て、リーシャがここに来れない理由がわからねぇ」
「え、で、でも……レイディット様は教会にある宿舎に泊まることになるでしょうし、一人そこに泊まらせる訳には」
「あ? ガキじゃねぇんだから一人でいいだろ」
勝手に来た方が悪い、とレオナルドの機嫌は急降下している。さっきまで最高潮に良かったはずなのに、なんだか背中が寒い気がする。
「けど、一年以上ぶりですし」
「嫌に決まってんだろ。無理。却下」
子供だ。子供がいる。
リーシャは言葉を失ってしまったが、捨てられた犬のような顔をされてしまうと絆されてしまいそうになる。
「レオナルド、様、あの…一日か二日程でしょうし、その」
「リーシャ?」
レオナルドはあの告白以降、プライドなんてなかったと言わんばかりにリーシャに甘えることを覚えてきた。リーシャが何でも許すと思っているのだ。狡い。
ぐぬぬ、とリーシャは絆されないように口を閉ざす。どう説得するか悩みあぐねていると、レオナルドが後ろからリーシャの首筋をスンスンと吸い、何か思いついたように、首筋から顔を上げた。
「なら、泊まりを許す代わりに条件がある」
「条件?」
「レイディットが帰ったら、俺の言うことを一日何でも聞くこと」
「……僕には恐ろしい条件にしか聞こえませんが」
最近リーシャは、レオナルドの言うことを全部真に受けないようにしている。それで痛い目を見るのだ。リーシャは学んだ。
「お願いに条件をつけるんですか?」
「当たり前だろ。可愛い恋人のお願いと言えど、等価交換に決まってる」
「無償の愛というものが……」
「はは。なんだそれ、美味いのか?」
リーシャは敗北に期すしかなかった。
翌日、本当にレイディットは馬車で到着した。久しぶりのレイディットは、司祭服ではなく、その上の司教が着れる服を身に纏っていた。
「レイディット様、お久しぶりです」
「リーシャぁあああぁああ!!! やっっっっと会えました! ああ、可愛い顔を見せてください! はー! 癒される……!」
ぎゅむぎゅむと抱きしめられて、すーはーすーはーと何だか吸われている。やることがレオナルドと一緒だし、顔を見たかったのではとリーシャは苦笑した。
レイディットのテンションは異様なほど高く、司教をお出迎えする周囲の村人や騎士たちはドン引きしている。
「司教様になられてお祝いもしてませんでしたので、今日は村の人に頼んで美味しい食事を振舞って頂けることになってます」
「そうですか、向こうで貰った祝いの言葉よりリーシャが育んだ信頼関係が感じれてとても嬉しい限りです…」
レイディットはおいおいと泣き始めてしまう。抱きつかれているので湿ってきているな、と思っていると、バリッと音がしそうな勢いでレイディットと引き剥がされた。
「れ、レオナルド様」
「司教様。部下が困ってますよ、子供じゃないんでそろそろ離れていただいても?」
「レオナルド……!お前か、お前がああああぁあ!!」
「ひ…っ」
血涙を流し始めたレイディットに怯えた声を小さく上げた。しかしそんなレイディットの様子を見てもレオナルドは、ふん、と気にする様子もない。
「よくも、よくも私の可愛い可愛い、本当に可愛い!!息子同然のリーシャを穢し、いや!穢れてないけど!! どんな手を使ったんだこの悪魔があああ!」
レイディットには近況を伝える時に、恋人が出来たと伝えてあった。それが男性であり、騎士団長であるとも。
ちなみにスラーナディア神は恋愛も結婚も自由である。
「うわ、こわ…。あ?酒だよ。酒の力」
「な……っ!!り、リーシャ、どうして酒を飲んだんですか!」
「え?ど、どうしてって…スラーナディア神は飲酒を禁止にしておりませんし…」
するとレイディットはちがああぁああう!!と叫んだ。
「あれはリーシャが三歳の時です。それはそれはもうスラーナディア神の御使いと思える……いや、化身とも言えるほどの可愛さで、いや!今も可愛いですが……!そんなリーシャに私は言ったのです。『大人の階段を一段登る事に、必ず私に言いなさい』と。リーシャはその時、舌っ足らずな口調で『あい、わかりゃました。りぇいでっとしゃま』と笑顔で、特大の笑顔で答えてくれたのです!! それ以来、リーシャは一つ一つ何かある度に私に逐一報告してくれて、ある時リーシャが泣きながら『レイディット様、僕この歳になって大変な事を…』というから何かと思えば夢精」
「わあああああ!! レイディット様!! はやく!早く行きましょう!!」
リーシャの恥ずかしい過去を暴露しようとしてきたので慌てて止めた。周囲は早口のレイディットの言葉を聞き取れなかったようだが、レオナルドはきっちり聞こえている。確実に。後で詳細を聞かれそうで凄く嫌だとリーシャは真っ赤になりながら思う。
そして、村の人達の水の王都ルーシアの印象と神殿の評価が下がらないといいな、と遠い目をするしか無かった。
「あれ? 明日、レイディット様が来るみたいです」
「はぁ?」
レオナルドに抱かれ、二人で浴槽に浸かった後、レオナルドに後ろから抱き締められながらベッドに座ってまったりしていた。リーシャは魔法で届いた手紙を思い出して読んだところだった。
「久しぶりに僕に会いたいので来ます、って」
「へー」
「うーん。そうなると、明日からはここにしばらく来れないですね」
リーシャかそう言うと、興味無さげに返事をしていたレオナルドの呼吸が止まった。不思議に思って首を傾げながら後ろを振り返ると、レオナルドの感情が抜けた顔があった。
「育ての親が来て、リーシャがここに来れない理由がわからねぇ」
「え、で、でも……レイディット様は教会にある宿舎に泊まることになるでしょうし、一人そこに泊まらせる訳には」
「あ? ガキじゃねぇんだから一人でいいだろ」
勝手に来た方が悪い、とレオナルドの機嫌は急降下している。さっきまで最高潮に良かったはずなのに、なんだか背中が寒い気がする。
「けど、一年以上ぶりですし」
「嫌に決まってんだろ。無理。却下」
子供だ。子供がいる。
リーシャは言葉を失ってしまったが、捨てられた犬のような顔をされてしまうと絆されてしまいそうになる。
「レオナルド、様、あの…一日か二日程でしょうし、その」
「リーシャ?」
レオナルドはあの告白以降、プライドなんてなかったと言わんばかりにリーシャに甘えることを覚えてきた。リーシャが何でも許すと思っているのだ。狡い。
ぐぬぬ、とリーシャは絆されないように口を閉ざす。どう説得するか悩みあぐねていると、レオナルドが後ろからリーシャの首筋をスンスンと吸い、何か思いついたように、首筋から顔を上げた。
「なら、泊まりを許す代わりに条件がある」
「条件?」
「レイディットが帰ったら、俺の言うことを一日何でも聞くこと」
「……僕には恐ろしい条件にしか聞こえませんが」
最近リーシャは、レオナルドの言うことを全部真に受けないようにしている。それで痛い目を見るのだ。リーシャは学んだ。
「お願いに条件をつけるんですか?」
「当たり前だろ。可愛い恋人のお願いと言えど、等価交換に決まってる」
「無償の愛というものが……」
「はは。なんだそれ、美味いのか?」
リーシャは敗北に期すしかなかった。
翌日、本当にレイディットは馬車で到着した。久しぶりのレイディットは、司祭服ではなく、その上の司教が着れる服を身に纏っていた。
「レイディット様、お久しぶりです」
「リーシャぁあああぁああ!!! やっっっっと会えました! ああ、可愛い顔を見せてください! はー! 癒される……!」
ぎゅむぎゅむと抱きしめられて、すーはーすーはーと何だか吸われている。やることがレオナルドと一緒だし、顔を見たかったのではとリーシャは苦笑した。
レイディットのテンションは異様なほど高く、司教をお出迎えする周囲の村人や騎士たちはドン引きしている。
「司教様になられてお祝いもしてませんでしたので、今日は村の人に頼んで美味しい食事を振舞って頂けることになってます」
「そうですか、向こうで貰った祝いの言葉よりリーシャが育んだ信頼関係が感じれてとても嬉しい限りです…」
レイディットはおいおいと泣き始めてしまう。抱きつかれているので湿ってきているな、と思っていると、バリッと音がしそうな勢いでレイディットと引き剥がされた。
「れ、レオナルド様」
「司教様。部下が困ってますよ、子供じゃないんでそろそろ離れていただいても?」
「レオナルド……!お前か、お前がああああぁあ!!」
「ひ…っ」
血涙を流し始めたレイディットに怯えた声を小さく上げた。しかしそんなレイディットの様子を見てもレオナルドは、ふん、と気にする様子もない。
「よくも、よくも私の可愛い可愛い、本当に可愛い!!息子同然のリーシャを穢し、いや!穢れてないけど!! どんな手を使ったんだこの悪魔があああ!」
レイディットには近況を伝える時に、恋人が出来たと伝えてあった。それが男性であり、騎士団長であるとも。
ちなみにスラーナディア神は恋愛も結婚も自由である。
「うわ、こわ…。あ?酒だよ。酒の力」
「な……っ!!り、リーシャ、どうして酒を飲んだんですか!」
「え?ど、どうしてって…スラーナディア神は飲酒を禁止にしておりませんし…」
するとレイディットはちがああぁああう!!と叫んだ。
「あれはリーシャが三歳の時です。それはそれはもうスラーナディア神の御使いと思える……いや、化身とも言えるほどの可愛さで、いや!今も可愛いですが……!そんなリーシャに私は言ったのです。『大人の階段を一段登る事に、必ず私に言いなさい』と。リーシャはその時、舌っ足らずな口調で『あい、わかりゃました。りぇいでっとしゃま』と笑顔で、特大の笑顔で答えてくれたのです!! それ以来、リーシャは一つ一つ何かある度に私に逐一報告してくれて、ある時リーシャが泣きながら『レイディット様、僕この歳になって大変な事を…』というから何かと思えば夢精」
「わあああああ!! レイディット様!! はやく!早く行きましょう!!」
リーシャの恥ずかしい過去を暴露しようとしてきたので慌てて止めた。周囲は早口のレイディットの言葉を聞き取れなかったようだが、レオナルドはきっちり聞こえている。確実に。後で詳細を聞かれそうで凄く嫌だとリーシャは真っ赤になりながら思う。
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