【完結】聖職者と騎士団長様

七咲陸

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来た理由

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  食事が終わり、教会にある食堂はレイディットとレオナルド、リーシャの三人だけとなった。食事自体は終始和やかに終わったのだが、3人になった途端空気が重くなった気がした。

「今回私がここに来たのはリーシャを連れ戻すためです」
「え?」
「はっ。だと思った」

  コトリと小さく音を立てて食後に飲んでいた紅茶をテーブルに置くと、レイディットは昼間の様子とは打って変わって真剣な顔でリーシャを見据えた。

「上層部の一人が引退して、私がその席に座ったので司祭の席がひとつ空いたのです。今はまだ空席にしてあって、私はリーシャを推薦するつもりです」
「……レイディット様」
「贔屓と言われようが、関係ありません。リーシャが敬虔な侍祭であることは、誰の目から見ても明らかですし、上層部がリーシャを引き上げるつもりがないなら私は自らリーシャを引き上げます」

  実際、辺境へは出向扱いでしたし、上層部からは文句を言わせません。とレイディットは続けた。

「小さい頃から貴方が真面目に仕事をこなし、祈りを捧げ、人々に癒しを与えてきたことは、誰よりも知っています。リーシャのその姿は、スラーナディア神の膝元でこそ輝くものです」

  レイディットの真剣な目は、幼い頃からの刷り込みなのか絶対に逸らせない。リーシャは正しく在るべきでなくてはならないのだと思わせてくる雰囲気がある。レイディットはリーシャがミスをしてもきっと何とかしてくれる。けれどミスしたことによって失望させるのではないかと思ってしまう。

  レイディットには多大な恩がある。両親のいないリーシャにとって、レイディットは1番頼れる存在だった。小さい頃からずっと支えてくれた人だ。そんなレイディットを、リーシャは失望させたくないと常に心のどこかで怯えていた。

「貴方のスラーナディア神への信仰は、こんな片田舎で埋もれるものではありませんよ」

  優雅に微笑むレイディットの言葉に驚く。そんな言い方をレイディットがするとは夢にも思わなかった。
  リーシャはびくりと震えた。レイディットには気づかれないほど小さな震えだ。しかし、隣に座るレオナルドには気づかれたのか机の下から手をそっと握られた。

「……レイディット様。私は、レイディット様にここまで育てて頂いた恩があります。今がきっと、その恩を返す大きなチャンスだと思います」

  ゆっくりと、けれどはっきりと。レイディットを真っ直ぐ捉えてリーシャは伝えた。隣にいるレオナルドから勇気を貰うために一度彼を見やって、また前を見据えた。

「けど……僕は、此処で大切なものを見つけたんです。水の王都ルーシアにいた時にはなくて、辺境ヴァレンテインである此処で」
「……もし、その大切なものといつか別れることになったら、どうするつもりですか」
「それでも。僕は此処で生きていきたい。僕が見つけた大切なものは、此処にしかないのです」

  レイディットを安心させるように微笑むと、レイディットはさっきまでの真剣な顔を歪ませていった。怒らせてしまったか、とリーシャは心の中で慌て始めたけれどレイディットは大きく大きくため息をついて机に額をゴン、と思い切り打ち付けた。

「れ、レイディット様! 大丈夫ですか?!」
「……わたしの、私の可愛い可愛い、目に入れても痛くない、リーシャが……こんな、どの馬の骨とも知らない野蛮な男に純潔を捧げたなんて……ああ、スラーナディア神は本当にいるのでしょうか……」
「おい司教有るまじき言葉だけど大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃないです…」

  聞いているのはレオナルドとリーシャだけではあるのでギリギリセーフかもしれない。そう思い至った時、ガバッとレイディットが頭を起こした。額はほんのりと赤くなっている。

「先程のリーシャの言葉は、自ら辿り着いた考えですね?」
「はい。レイディット様、僕は…向こうにいた時よりもずっと、楽しくて幸せなんです」
「………………うわあああぁん!!!絶対に、絶対に許さんぞレオナルドおおお!!!」

  大きく泣き出したレイディットにびっくりしてレオナルドを見ると、彼は耳を塞いで呆れた顔をしている。心底面倒臭いといった表情だ。
  レイディットの手紙の文面からして、二人の関係をすぐには認めて貰えないだろうと言うのがレオナルドの見解だった。だから色々言われても仕方ないし、そもそもレオナルドにとってはレイディットの負け犬の遠吠えくらいの感覚だからノーダメージである。

「ははは。お前がリーシャをこーんな深窓の令嬢のように育ててくれたお陰で俺というわるーい人間に取られたんだ、誇れよ」
「おのれレオナルドおおお!!」
「け、喧嘩を売らないでくださいレオナルド様……!」

  その後も食堂はギャイギャイと騒がしかった。けれどレイディットはレオナルドに出てけとは一度も言わなかった。それが答えなのかもしれない、とリーシャは二人が口喧嘩する様子を見ながら微笑んだのだった。


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