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癒し sideアーヴィン

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アーヴィン=イブリックは絶好調であった。
件の月の精を手に入れることに成功したからだ。あまりに機嫌が良いのでディランに怪しまれた。

「なんだお前、気持ち悪いな」
「いやー、ようやく恋人になったわ」
「はぁ?! あんな風に騙しといてどうしてそうなった?!」

心底驚いているディランを見ても全くイラつかない。

「知らねぇよ。前の恋人が拒否って二度と顔も見たくないっつって捨てられたんだと」
「はー? めちゃくちゃ美人だって言ってなかったか?」
「美人だよ。超がつくほど可愛い。前の恋人は馬鹿か不能だ」

ディランは訳が分からないといった顔をしていた。

流石のアーヴィンでも、上手く行きすぎている感じはしている。
しかしそれでも、アメジストの宝石に麗しい銀の髪をした至宝を手にしたアーヴィンはそんなのは杞憂か、と思うことにした。

「だいたい、文官コースに紫の眼を持った男なんかいないっつー話だろ? お前それ本当に人間だろうな」
「幽霊がキスできるかよ」

アーヴィンがそう言うと、ディランは肩を竦めた。

「いや、分かった。じゃあその紫の君に会わせろ」
「減る。嫌だ」
「お前そんな執着心強かったか?」
「結婚したら見せてやるよ」
「マジで言ってんのか」

アーヴィンは本気だった。
普通美人を手に入れたら見せびらかしたいのが男の本能だろうが、アーヴィンはもう誰にも盗られたくなかった。
実家に帰って今すぐにも結婚の報告をしたいくらいだった。

「どんだけだよ」
「仕方ない。お前に昨日の俺の恋人の様子を教えてやるよ」

練習相手から恋人に変わり、1週間が経っていた。
いつもの定位置で会うティムは友人を見る目から恋人に向ける微笑みに変化していて、アーヴィンは心から神に感謝し続けていた。

アーヴィンの中で、ティムの可愛さは毎日更新し続けていた。

「んっ……ん、ぁ……ん! ふっ……」

練習のキスように優しいだけでなく、深く官能を呼び起こすように、ティムの弱い口内を執拗に責めるキスをする。
頬を染めてビクビクと身体を震わせ、アメジストの瞳を潤ませるティムに、思わずアーヴィンの股間が反応してしまいそうだった。

「っは、あ。ななんで、いつものと違う…っ」
「当たり前だろ。練習じゃなくて恋人のキスなんだから」
「なっ、もう、すぐそうやって!」
「気持ちい?」
「っ!」

バシバシと本で胸を叩かれつつも、アーヴィンはキュン死にしそうだった。

「なんでお前のキスシーンを聞かなきゃならねぇんだよ」
「あーもうヤっていいかな。俺チンコ痛たすぎてしんどい」
「お前の下事情なんか聞いてねぇよ」

思い出すだけでアーヴィンは股間が膨らみそうになるのを耐える。
まるで思春期入りたてのガキのように盛ってしまいそうだった。

ディランはアーヴィンの浮かれように若干呆れつつも、いつもは冷めた様子のアーヴィンが幸せそうならいいか、と思うことにした。

「そういえば聞いたか?クラークってやつが別れたって」
「クラークぅ? 誰だよ」
「誰って、サシャ=ジルヴァールと付き合ってた懐深い紳士だよ」

ディランの言葉でああ、とアーヴィンは思い出す。

「サシャ=ジルヴァールは騎士コースのクラークに不貞を働いた。って曰くが追加されたんだと」
「不貞? あー、なんかビッチっつー話か」

そうそう、とディランが頷く。
アーヴィンにとったら本当にどうでもいい情報だった。
そんな話をするくらいなら、己の惚気を聞いて欲しいとさえ思っていた。

「ま、よく分からんけどな。所詮噂だし」
「あっそ。どうでも良いけど俺の話を聞け」

うげー、と舌を出して嫌がっているディランにティムの可愛さを押し付けるように惚気け続けた。








「アーヴィン、降ろしてよ。もう」

1人用の椅子にアーヴィンが座り、膝の上にティムを載せている。 
アーヴィンはティムの肩口に額を乗せて、ティムの香りと感触を楽しんでいた。
ティムは図書館ばかりにいるせいか、本の匂いがする気がする。

「あー俺の最高の癒しだわ」
「もう、アーヴィンまたそうやって…」

いい加減からかっているとは思わないで欲しいが、最近はティムも笑いながら聞いてくれている姿を見ていると、揶揄ではないと分かっているようだった。

ティムといるとどうしてもすぐに、盛りのついた雄のようにキスしてしまう。
こうやって後ろからなら簡単には唇を堪能することができないようにしている。
その代わりにティムの髪や肩、首、項にキスを落としていく。

「っひゃぁ!」

項の辺りで強く吸い上げるキスをすると、ティムは驚いた声を上げた。

「かわいー反応だな」
「な、なななにしたの?」
「俺のだって印付けた」

赤くなった所有印を見て、アーヴィンは満足そうに微笑む。
ティムは「印?」と全く分かっていなそうな様子で、厄介にも股間を刺激しようとしてくる。

しかし我慢の効かないアーヴィンは、ティムを椅子の上で横抱きにくるりと方向転換させた。
 
「わっ、アー、んっ…んん…っ」
 
アーヴィンはティムの唇を奪うように貪った。ティムの弱い所を責めながら舌を絡ませると、ぴちゃりと水音がする。
ティムを見ると長い銀糸の睫毛が微かに震えていて愛しく見える。
ギュッと服を握ってくる姿も保護欲を誘ってきていて、どうかしてしまいそうだった。

「っは…アーヴィン?」
「はー、卒業したら結婚してくれ」
「結婚?!」

アーヴィンの爆弾発言に、ティムは目を剥いていた。

同性婚も最近は緩くなってきていて、可能である。
子孫繁栄には反しているが、アーヴィンが同性愛者である時点で既に反している。
子孫繁栄についてはどっかの知らない他人に頼むことにする。

「だめ?」
「だ、ダメってことは、ないけど」
「決まり、ちゃんとプロポーズし直すから。俺以外誰も触らせんな」

そう言うと、ティムは恥ずかしそうに耳まで真っ赤な顔を俯かせながら言う。

「アーヴィン以外、触られたことないよ」
「あー!止めて。総動員させてる理性を簡単に切れさせんな! 結婚するまで手は出さないって今決めたのに」
「手を出す?」
「さすがにセックスは分かるだろ?」

あからさまな単語を出すと、ティムの頭からぼふんっと噴火が起きた。
口をパクパクさせてどうにか発言しようとする姿が可愛すぎて、アーヴィンは語彙を失いかける。

「な、んな、なん!」
「結婚したらすぐする、絶対する」
「ば、馬鹿ぁ!」

バシィッと本で胸を叩かれるが、全く痛くなかった。


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