【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸

文字の大きさ
15 / 37

耐える sideアーヴィン

しおりを挟む
アーヴィン=イブリックが辺境地区に配属されてから半年ほど経った。
サシャと仲直りして、恋人関係に戻ることができた。
アーヴィンは縋るように、半分以上ダメ元で復縁を望んだ。意外にもサシャはすぐに受け入れてくれたのだ。

サシャをこれ以上ないほど傷つけたのはアーヴィンもよく分かっている。
簡単に許して貰えないことも分かっている。

「んっ……んん、ぁん……」

けれどもこの状況は、アーヴィンの理性の限界をひたすらに試されているとしか思えない。

アーヴィンが1人で廊下を歩いていると、サシャから空き部屋へ引っ張りこまれ、こうやって首に腕を回されて積極的にキスをされる。
好きな人からそんなことをされて驚きつつも据え膳食わねばなんとやらで、アーヴィンもすぐに舌を絡めてサシャに答える。

これが、1人でいると毎回なのだ。
半年間、ずっとだ。
最初のうちは手放しで喜んだ。そもそも誠意を示すために、キスもちゃんとプランを考えてからしようと、まずは恋人らしく手を繋いでデートからと考えていたのだ。
それはそれできっと幸せだろうと柄にもなくロマンチックなことを考えていたのだ。

「っん……は、アーヴィン、もっと……んっ」

月の精のように美しい銀の髪と潤んだアメジストの瞳に上目遣いをされて、こんなことを言われ続けてみて欲しい。
これを半年間だ。
気が狂いそうになってくる。
股間も爆発してしまうのではないかと思うほどに興奮してしまう。

もう一度言う、アーヴィンの理性の限界をひたすらに試されているとしか思えないのだ。

何故ならば、そのままの雰囲気でサシャの服に手をかけようとしたアーヴィンに対し、

「結婚するまでは手を出さないんだよね?」

にっこりと極上の微笑みを見せながらサシャは、学生だった時に言ったアーヴィンの言葉を逆手に取ってきた。
この拷問のような半年間で、アーヴィンはゲッソリしていった。

それでもキスをせがまれればしてしまうのは、アーヴィンもサシャの積極的な様子が可愛くて仕方ないからで、ツライのは分かっているのに乗っかってしまう。

サシャは小悪魔になってしまったのだ。

お付き合いを再開して、最初の1ヶ月くらいは同僚にバレなかった。
しかし、廊下を歩いていると突然アーヴィンの姿が消えることが頻繁に起こる事象に、不思議に思った同僚達が面白がってアーヴィンを捜索した。
すると、サシャがアーヴィンの首に手を回し、サシャからキスをしている所が発見される。
見つかった瞬間、何故かサシャよりアーヴィンの方が顔を赤くしてしまった。

サシャはこの辺境地区の独身男どもを持ち前の美貌で軽く狂わせていたのもあり、当然同僚達からは殴られ蹴られた。
ヨリを戻すのが早すぎる、あんな美人を独り占めして殺したい、イケメンは得だな、等と吐き捨てるように言われた。

同僚達からはヤリたい放題でズルい、と言われるが、誓って清いままである。
アーヴィンは何人かと付き合ったことがあるから童貞ではないが、サシャは清い身体のままである。
これでは1ヶ月手を出さなかったクラークのことを不能や馬鹿とは二度と呼べない。

「サシャ、ストップ。頼む、ストップしてく、んぅ」
「ん……やぁ…、んん」

アーヴィンが音を上げて、懇願してもこの感じである。
繰り返すが、これを半年間だ。
まだ10代のヤリたい盛りのアーヴィンにはこの世の地獄である。
むしろ半年間我慢していることを褒めて欲しい。

「んっ、こら。サシャ、そろそろ仕事に戻るから、な?」
「アーヴィン、あと1回だけ…お願い」
「っぐ……」

何度でも言う。
潤んだアメジストの瞳に上目遣いで言われ、アーヴィンの理性の限界をひたすらに試されていて、いい加減気が狂いそうだった。








王宮騎士団が遠征に来るという話が持ち上がった。
魔獣を討伐にくる目的ではなく、どちらかと言うと演習目的である。王宮から新米騎士達が来て、合同訓練を行うというものだった。

王宮騎士団員が到着し、堅苦しい挨拶も終わった後にディランが声をかけてきた。

「よ、久しぶり」
「おー。ディラン元気か?」
「元気元気、めちゃくちゃ統括騎士団長が怖ぇけどな」

アーヴィンの親友であるディランは、学園でもアーヴィンの次に成績が良かったのでエリートコースまっしぐらのようだった。

王宮には騎士団が第1から第5まであり、騎士団長もその分5人いる。
それをまとめているのが騎士団トップの統括騎士団長である。最強の強さを誇る漆黒の騎士と呼ばれている。その裏では鬼団長とも呼ばれているのだ。

ディランは要領が良いので、王宮騎士団でも上手くやっているだろうな、とあまり心配はしていない。

ディランはキョロキョロ周囲を見回すと、アーヴィンにコソコソと話し始めた。

「おい、サシャ=ジルヴァールとはどうなったんだ?」
「ヨリを戻した」
「はぁ?! お前、すげぇな。いや、サシャ=ジルヴァールの懐が広いのか?」

ディランには相当世話になったが、サシャと関係が戻ったことは言っていなかった。

「完全には許されてないけどな」
「ほー…ヤったのか?」

こうやって面白がられることが分かっていたからだ。

アーヴィンは溜息をつきながら、同僚にも相談できなかった半年間の拷問内容を愚痴ることにした。
案の定、ディランは大爆笑した。

「ははは! お前、それは全然許されてねぇな! いやー、サシャ=ジルヴァールは意外と良い性格してやがる!」
「うるせぇよ。 俺のチンコが死ぬか、理性が死ぬかの瀬戸際なんだよ」
「はははは! 俺だったらもう襲ってるわ! いやお前すげぇよ!」

ディランは笑いながらアーヴィンの背中をバシバシ叩く。
ディランの軽口に少しだけアーヴィンの気持ちも軽くなる。

「まぁヨリ戻ってんなら良かったわ。今回クラークも来てるからな」
「あ? クラークも王宮騎士団に入ってんのか」
「おま、クラークも成績上位者だったんだぞ」

サシャの元彼であるクラークの姿を探すが、王宮からかなりの人数が来ている中で探すのは骨が折れそうだった。

アーヴィンは、クラークがサシャを追いかけなかったことに実は驚いていた。
クラークは本気でサシャのことを好きだったようだったし、アーヴィンの嘘のせいでサシャを誤解していたのならば、やり直すことは簡単なはずだったからだ。

「けどお前と付き合ってんなら平気だろ」

いや、これはまずいのではないか。
クラークの誤解はアーヴィンのせいであり、サシャが思い直して心変わりする可能性は十分にある。

しかも相手はアーヴィンとは真逆の性格だ。
誠実だし穏やか、髪型や目は地味な印象だがそれでも優しげな印象をもった男に惹かれる人間はそれなりにいるだろう。

軽くなったはずの心に、クラークという重い石が乗っかる。

「平気と思うか?」
「再会して燃え上がる恋もあるだろうな…」
「やめろ想像するな殺すぞ」

アーヴィンは、サシャとクラークの2人がこの合同演習中に会わないことを神に祈るしかなかった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです ※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。

処理中です...