推される覚悟、できてません!

七咲陸

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『アヤト!』

呼びかけられて振り返る。自分とはまた違った方向性で売れる顔をしている男の姿がそこにあった。
海外で人気絶頂俳優、リアムである。

『なに』

『何って、冷たいなぁ。まぁそこがアヤトのイイところな訳だけど』

そんな風に言われ、少しゾワッとするけれどリアムの距離感はいつもこんな感じなので気にしないことにする。
はぁ、とため息をついて手に持っていたコーヒーをテーブルに置いた。さっきまでカフェスペースの端で川を眺めて居た。

『まだ落ち込んでるのかい?』

『……一生落ち込む』

『アヤトにそこまで言わせるなんて……凄いんだね、シズクって奴は』

手に額を乗せて俯き、またため息をついた。もう何度後悔したか分からない。

そう。俺は先日、記念すべき初生配信の雫くんを見逃した。

SNSでは見逃した人向けに、といくつも拡散されているのがあるが、生配信はリアルタイムだからこそ価値がある。それは今まで雫くん以外でファンをしたことが無い俺だって分かる。

雫くんが生配信中、俺が何をしていたかと言うと、

『仕方ないって、パーティー中だったんだからな!HAHAHA!!』

リアムの言葉にまたしても落ち込むことになった。

パーティーなんかめんどくさいだけだとずっと断り続けていたが、リアムに根負けし、仕方なく参加した日に限ってそんなことに。なぜあの日の自分は負けてしまったのか。なぜあの日に限ってスマホをサイレントにしていたのか。

『……君は仕方ないで神を無視できるのか?』

『無視じゃないさ!ちょっとだけ神よりも友人を優先しただけじゃないか』

『……友人……?』

『ワオ! 君ってやつは本当に冷たいんだな!』

それもアヤトのイイところだ!なんてリアムは笑っている。ちっとも笑えん。

『そんなに見たかったなんて、一体どんな内容だったんだ?』

『見てない……自分が……許せなくて』

次の日、すぐに雫くんのマネージャーに連絡して配信を知らせなかったことを責めた。雫くんのマネージャーには、何かあればすぐ連絡するように伝えてあったはずだったのだ。
しかし雫くんの初生配信から何日も経っているが、未だに振り返り配信や切り抜き動画を見ることが出来なかった。見逃した自分を許せなくて、推しの供給を現在進行形で断っていた。

SNSでは「どうやら蓮波綾人は藍くんの初生配信を見逃したらしい。見たやつは一生マウント取れるぞ」という呟きが万バズしていた。
解せぬ。

『……雫くんの生配信見たヤツら全員の目玉をくり抜きたい……』

『HAHAHA!! アヤト、日本人はみんなそんな怖いのかい?』

『そうだ。嘘をつくと針千本飲ませてくる』

ワオ!といって口を両手で抑えるリアム。だが笑っていて全然怖がっていない。

『じゃあさ、ここでそのアーカイブ観よう!』

『は?』

『アイザワシズクを一緒に観よう!』

そう言ってリアムは自分のスマホを取り出して操作し始めた。
俺は一瞬何を言われてるか分からなかったせいで動きが止まってしまったが、脳がようやく理解してリアムを止めた。

『やめてくれ! 俺の心の整理がつくまで観たくない!そもそも観るなら一人でこっそり正座して観たい!』

『セイザ? ジャパニーズドゲザ?』

『ドゲザしたら画面が見えない』

しかしリアムの方が体格の良さもあり止められず、スマホから聴きたかった声がする。
あの鈴のようにコロコロとした声。アイドルだった彼の、綺麗で涼やかな。


「あ、そうそう。相談なんだけど…と、友達の話しね!友達!あの、長いこと傍にいた人が突然居なくなったら、みんなならどうするかなぁ……って」


ピタリと動きを止める。息も止まった。

「あ、会いに行くのはちょっと……迷惑じゃないかな。ってこれ僕の話じゃなくて、友達!友達です!」

ワタワタと焦った様子の彼が、スマホを持つ手とは反対の手で頬を抑えている。その頬は赤く染まり、誰がどう見ても彼のそれは。


「待ってるだけって、凄く寂しいんだなぁって……」


体育座りをして、足の間に顔を埋めて顔が見えなくなってしまった。見えなくとも彼がどんな顔をしているのか想像出来てしまう。

『? 何の話をしてるんだ? コレ ちょっとよく分からない』

『……これは、多分』

赤く染った頬、潤んだ瞳、ちょっと色気のある声。配信画面は殺風景なのに輝いて見えている。そうこれは。

『恋の話だ』
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