19 / 21
19
しおりを挟む『アヤト!』
呼びかけられて振り返る。自分とはまた違った方向性で売れる顔をしている男の姿がそこにあった。
海外で人気絶頂俳優、リアムである。
『なに』
『何って、冷たいなぁ。まぁそこがアヤトのイイところな訳だけど』
そんな風に言われ、少しゾワッとするけれどリアムの距離感はいつもこんな感じなので気にしないことにする。
はぁ、とため息をついて手に持っていたコーヒーをテーブルに置いた。さっきまでカフェスペースの端で川を眺めて居た。
『まだ落ち込んでるのかい?』
『……一生落ち込む』
『アヤトにそこまで言わせるなんて……凄いんだね、シズクって奴は』
手に額を乗せて俯き、またため息をついた。もう何度後悔したか分からない。
そう。俺は先日、記念すべき初生配信の雫くんを見逃した。
SNSでは見逃した人向けに、といくつも拡散されているのがあるが、生配信はリアルタイムだからこそ価値がある。それは今まで雫くん以外でファンをしたことが無い俺だって分かる。
雫くんが生配信中、俺が何をしていたかと言うと、
『仕方ないって、パーティー中だったんだからな!HAHAHA!!』
リアムの言葉にまたしても落ち込むことになった。
パーティーなんかめんどくさいだけだとずっと断り続けていたが、リアムに根負けし、仕方なく参加した日に限ってそんなことに。なぜあの日の自分は負けてしまったのか。なぜあの日に限ってスマホをサイレントにしていたのか。
『……君は仕方ないで神を無視できるのか?』
『無視じゃないさ!ちょっとだけ神よりも友人を優先しただけじゃないか』
『……友人……?』
『ワオ! 君ってやつは本当に冷たいんだな!』
それもアヤトのイイところだ!なんてリアムは笑っている。ちっとも笑えん。
『そんなに見たかったなんて、一体どんな内容だったんだ?』
『見てない……自分が……許せなくて』
次の日、すぐに雫くんのマネージャーに連絡して配信を知らせなかったことを責めた。雫くんのマネージャーには、何かあればすぐ連絡するように伝えてあったはずだったのだ。
しかし雫くんの初生配信から何日も経っているが、未だに振り返り配信や切り抜き動画を見ることが出来なかった。見逃した自分を許せなくて、推しの供給を現在進行形で断っていた。
SNSでは「どうやら蓮波綾人は藍くんの初生配信を見逃したらしい。見たやつは一生マウント取れるぞ」という呟きが万バズしていた。
解せぬ。
『……雫くんの生配信見たヤツら全員の目玉をくり抜きたい……』
『HAHAHA!! アヤト、日本人はみんなそんな怖いのかい?』
『そうだ。嘘をつくと針千本飲ませてくる』
ワオ!といって口を両手で抑えるリアム。だが笑っていて全然怖がっていない。
『じゃあさ、ここでそのアーカイブ観よう!』
『は?』
『アイザワシズクを一緒に観よう!』
そう言ってリアムは自分のスマホを取り出して操作し始めた。
俺は一瞬何を言われてるか分からなかったせいで動きが止まってしまったが、脳がようやく理解してリアムを止めた。
『やめてくれ! 俺の心の整理がつくまで観たくない!そもそも観るなら一人でこっそり正座して観たい!』
『セイザ? ジャパニーズドゲザ?』
『ドゲザしたら画面が見えない』
しかしリアムの方が体格の良さもあり止められず、スマホから聴きたかった声がする。
あの鈴のようにコロコロとした声。アイドルだった彼の、綺麗で涼やかな。
「あ、そうそう。相談なんだけど…と、友達の話しね!友達!あの、長いこと傍にいた人が突然居なくなったら、みんなならどうするかなぁ……って」
ピタリと動きを止める。息も止まった。
「あ、会いに行くのはちょっと……迷惑じゃないかな。ってこれ僕の話じゃなくて、友達!友達です!」
ワタワタと焦った様子の彼が、スマホを持つ手とは反対の手で頬を抑えている。その頬は赤く染まり、誰がどう見ても彼のそれは。
「待ってるだけって、凄く寂しいんだなぁって……」
体育座りをして、足の間に顔を埋めて顔が見えなくなってしまった。見えなくとも彼がどんな顔をしているのか想像出来てしまう。
『? 何の話をしてるんだ? コレ ちょっとよく分からない』
『……これは、多分』
赤く染った頬、潤んだ瞳、ちょっと色気のある声。配信画面は殺風景なのに輝いて見えている。そうこれは。
『恋の話だ』
93
あなたにおすすめの小説
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
Innocent Lies
叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』のリーダーを務める内海奏多。
"どんな時でも明るく笑顔"がモットーだが、最近はグループ活動とドラマ出演の仕事が被り、多忙を極めていた。
ひょんな事から、ドラマで共演した女性アイドルを家に送り届ける羽目になった奏多。
その現場を週刊誌にスクープされてしまい、ネットは大炎上。
公式に否定しても炎上は止まらず、不安を抱えたまま生放送の音楽番組に出演する事に。
すると、カメラの回っている前でメンバーの櫻井悠貴が突然、『奏多と付き合ってるのは俺や』と宣言し、キスしてきて…。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる