推される覚悟、できてません!

七咲陸

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僕の俳優人生は二世俳優もびっくりの綾人さんにおんぶにだっこ状態が続いていた。
もはやテレビの番組でもそれをイジるくらいで、実力じゃないと暗に言われている。僕も身に覚えがあり過ぎるので特に気にしてなかったが、綾人さんの方が『俺のせいでなんかごめんね…雫くんに正当な評価がされてないよね』と落ち込んでいる。
綾人さんのファンからは『むしろ藍沢雫を育てたのはワシだってマウント取ってて欲しいまである』となんだかよく分からない反応をされる。

超絶イケメン俳優がパッとしなかった元アイドルを過激なほど応援している姿が世間的には面白いらしい。

「じゃあ練習しようか」

「はい!」

そして僕は絶賛演技指導をしてもらっている最中だった。

綾人さんも指導をしてもらった人を紹介してもらい、厳しいけれど充実した日々を送っている。『あの綾人が入れ込んでるアイドルってだけで期待してなかったけど、君、筋が良いね。演技向いてるよ』と言ってもらった。この演技指導の人は本音でしか話さない。蓮波綾人にですらダメ出しを散々しているくらいだ。そんな人に『綾人より俳優向いてる』とすら言われると嬉しくて泣きそうになった。

「うん。良いね。けどもう少しだけ感情入れ込める? ちょっと器用すぎる」

「はい!」

早く綾人さんと肩を並べて、恩返しをしたい。諦めて田舎で親の仕事を手伝おうとしていた僕でもそう思うほど仕事に精を出した。




「綾人さん!」

「っぐ…俺の推しが名前呼んでくれてる……」

「……いい加減名前呼ぶだけで泣かないで下さい」

今日は二人とも夜が空いていたので、食事に来ている。綾人さんの行きつけの場所で、後から本庄さんも合流予定である。

  綾人さんは僕の斜め前にいつも座る。横に座るのは烏滸がましく、目の前に座るのは直視するのが辛いという理由らしい。僕としては距離を取られているので悲しい。

「今日は本当に空いてた?俺迷惑かけてない?」

「はい。マネージャーも綾人さんに怒られて落ち込んでました」

マネージャーは蓮波綾人とご飯に行くためならむしろ僕の予定をキャンセルしちゃうのだ。まあ綾人さんのおかげで芸能界に残っているようなものだし、マネージャーの気持ちも分からなくもない。けれどそれは綾人さんの本懐ではないのだ。

「はー……最近はテレビで毎日雫くんを観れて本当に幸せ……」

「大袈裟ですねぇ」

そう。綾人さんはテレビやラジオ、雑誌に出ている僕をきちんと推したいらしい。マネージャーがキャンセルにした番組は小さな小さな番組で、あまり視聴率も良くなかった。だったら綾人さんと食事に行ってきた方がいいと勝手に出演をキャンセルしていた。綾人さんはどこからその情報を手に入れていたのか、マネージャーにブチ切れ、二度とするなと脅したらしい。権力のある過激派である。

「大袈裟なんかじゃないよ! 俺は雫くんが解散したって聞いた時、どれだけ悔やんだか……!推しは推せる時に推せって言われているって聞いたことあるけど、俺は身をもって実感したね!ちょっと1回心臓が止まったね!」

「よ、良かったです、無事に動いて」

雫くんに心配されてる、死んでもいい。と涙を流しながら言う。綾人さんの泣き顔は有料の国宝級なのに、僕の前ではその国宝も入場料無料レベルで見ている。

「この間の初共演再現ドラマも幸せで昇天するかと」

「あれ、すっごく楽しかったです!綾人さん本当にカッコ良くて……!」

「お、推しが、推しがきらきらおめめで俺を褒めてる……無理、無理……」

「綾人さん昇天しないでください!スーってなんか出てます!戻してください!」

あわあわとしていると綾人さんは更に何かを頭から出して微笑んでいる。神々しいが今は神々し過ぎてちょっと怖い。本当にそのまま昇天しそうである。

「はぁ…もう本当、雫くんが解散する前に発言してればなぁ……俺が名前を出して雫くんのアイドル生活に支障をきたしたらと思うと怖くて言い出せなかったんだ」

ため息をついて戻ると、本当に悔しそうな顔を見せる。そんな顔もキラキラとしていて関心してしまう。

「いえ、そんな。というか…たぶん綾人さんに推しだって言われても、どの道僕のグループは解散してたと思います」

四年も鳴かず飛ばず。事務所もテレビにゴリ押しで出演させてくれたが、それも最初だけ。僕達は事務所がくれたチャンスを生かせなかったのだ。その時点で先は見えていた。

「メンバーも一人ずつバラバラになっていったし、どうにもならなかったはずです。もし綾人さんが救いあげてくれても、きっといつか無理が来るのが想像つきます」

「雫くん…」

「それに今、僕はとっても楽しいです。アイドルしてた時はずっと苦しくて…演技をしてる時も大変だけど楽しくて仕方ないんです」

アイドルになりたくて上京した。最初は歌もダンスも毎日楽しくて練習してた。けどデビューが決まってからは、まるで溺れているような感覚から這い上がることが出来なくて苦しくて仕方がなかった。
でも今は、アイドルをしてた自分より演技をしている自分の方が好きだと気づいた。

僕は恵まれてる。多分どの芸能人たちよりもずっと。アイドルをしてた時だってデビューさせてもらえたし、そのおかげで綾人さんに出会った。そして今、綾人さんが僕を舞台の上やカメラの前に引き上げてくれた。もう二度とないと思っていたチャンスをもう一度くれた綾人さんに、僕は感謝しかない。

「僕、絶対諦めないで頑張ります。いつかまた…綾人さんと一緒に演技したいです」

そう言って微笑んだ。綾人さんは長いまつ毛のついた瞼を瞬き一つせずこちらをガン見していたと思ったら直ぐに顔を手で覆って天井を見上げてしまった。

「……俺、今死んでもいい……」

「え! 死んじゃダメです!僕ともう一度共演してくださいよ!」

「無理、無理……推しの笑みを最前席で直視するの無理……」

「僕、本当に頑張りますから!アイドルの時見たく簡単に諦めたりしないですから! 僕と一緒にドラマ出たり舞台出たり沢山しましょう、ね?」

「ひぐぅっ、無理、無理ぃ……」

ね?と首を傾げた瞬間綾人さんの喉から変な音がした気がした。


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