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9、メア=エルネストの慰め方
「ああああああ…」
「そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ、シュリ」
王城からの帰りの馬車の中でシュリは頭を抱えて蹲った。
またしてもやらかしてしまったのだ。
「だ、第二皇子の婚約者に向かってあんな暴言…僕殺されますよね!?一家全員路頭に迷いますよね!?」
「いやいや、あの後陛下が騒ぎに駆けつけてくださって収めて下さっただろう?私の事のあらましも謝ってくださるような陛下だ。君を断罪するなどありえないよ」
「いやでもあれは…後で二人が陛下に訴えたら…うううう」
そんなシュリを見て安心させようとメアはシュリの隣に座り直す。
肩を寄せ髪を撫ぜるようにシュリの頭を撫でた。
「大丈夫だよ。第二皇子もリリーとの婚約を考え直すようだし、君は冷静だったのか第二王子に対しての暴言も吐いていない。だから問題はないよ」
「で、でも…まだあの時は婚約者でしたよね…!」
「シュリ。大丈夫と言ったら大丈夫だ。何かあれば必ずエルネスト公爵家の力を使ってリリーの家をどうにか潰すから」
ニッコリと神の如く光のオーラを纏いながらメアは微笑むのに、言っていることはエゲツない。
シュリはちょっとだけ空気が冷えたのを感じた。
「それよりも、はっきりと婚約者だって言ってくれて嬉しかったよ」
「あ、あれは…まぁ…気が立って…」
「いつも自信無さそうにしていたから、嫌なのかもしれないと思っていたんだ」
「え!?」
シュリは大きく驚いて目を丸くした。
婚約者が嫌だと思ったことはない。確かに自信はなかったが。
伯爵家の中でも家格は下の方だし、男で子供は産めないし、そもそもこんな時限爆弾みたいな性格だし、仕事も目立つことは何もしていない。顔も外見も超美人で超可愛いと言うわけではないそこそこのシュリでは釣り合わないと思ったのだ。
決してメアの婚約者に不満があるわけではない。不満なわけがない。
「嫌なことなんて何もないです! ただ本当に僕で良いのかと…あ、あの場はついああ言ってしまいましたが…」
「どうして。私がシュリが良いと思っているのに。いや、もうシュリじゃなきゃ嫌なんだ」
「え…?」
瞳が真っ直ぐシュリを見据えた。深みのある静かなブルーがシュリを捉えて離さなかった。
メアの手がシュリの頬に優しく触れる。
触れた先からメアの心地よい体温が伝わってきて、シュリの身体がザワリと何か湧き立つものを感じた。
思ったより顔が近くなり、睫毛が長いんだな、とシュリが思っていると唇にそっと何かが触れた。
「~~~っ!」
「はは、真っ赤だ。初めてじゃないだろう?」
揶揄うような言いように、シュリは頭頂部まで真っ赤にしながらメアの胸部をポカポカと叩いた。
確かにファーストキスではない。
シュリは五人ほど同性と付き合ったことがある。
最初の一人目の時にファーストキスだったが、ほんの少し気恥ずかしいくらいで、こんなに真っ赤になる程恥ずかしがったことはなかった。
それなのに、メアと眼を合わせるだけで捕まえられて、触れれば身体中が歓喜して、啄むようなキスだけで熟れた果実のように真っ赤に頬どころか首まで紅潮してしまう。
まるで初恋をしているようだった。
「好きだよ、シュリ」
そして、微笑まれれば神々しくて眩しさに目を細めてしまいそうだった。
「メアさ…」
「もう様付けはやめて欲しい。そのまま呼んで」
「ひぇ…お、恐れ多い…」
「そんなことないよ。シュリに呼んで欲しいんだ」
シュリの頬に手を当てたまま、またキスをしてしまうかと思うほどに眉目秀麗な顔を近づけて言うメアに思わず尻込みしてしまう。
けれど、少しの間、あー…とかうー…とか小声でシュリが言っていると、目の前の顔がいい男の眉が下がり始めているのに気づいた。
「メ、メア…」
悲しい顔をさせていることに気づいて慌てて婚約者の名前を呼べば、先ほどの神々しいまでの光のオーラを纏いだす。
この婚約者が喜んでくれるなら、シュリの躊躇いなど糞食らえだと思うことにしたのだった。
「さ、もうそろそろ着くよ。早く夕食を取ろう」
「はい…メア」
「ふふ、シュリに呼ばれると嬉しいね。これからたくさん私の名前を呼んで」
そう言って、メアはもう一度シュリの唇を奪う。ちゅ、と音を立て触れるだけのキスに、シュリの頬はまた紅潮していく。
「メ、メア…!」
「今日は父と母も一緒に夕食をとりたいと言っていたから、きっとまだかまだかと待ってるよ」
「えっ!は、早く行かないとっ!」
「はは。そうだね。早く行って、今日の出来事を伝えないと」
メアはにっこりと微笑みながら言う。シュリは報告の義務があるのか、と思った。
「シュリがリリー子爵令嬢に向かって3回もブスと言ったことを伝えなくてはね」
帰りの馬車の中はギャーギャーと騒がしいな、と御者は後に呟いていたらしい。
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