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二人の世界
しおりを挟むピチチ…と小鳥の囀りが微かに聞こえる窓辺では、眩しくない程度の陽光が差し込んでいる。
その採光を利用して照らす本をただひたすらに読んでいた。
カッツェ=レゲンデーアは本の虫だ。
本に書かれた文字を読み、意味を解き、インクの混じった紙の匂いを嗅ぎ、ペラペラと捲る音を聴いているとその世界で自分はたった1人なのかもしれないと錯覚を起こす。
本を好きになったのは、親に初めてプレゼントされたのが絵本だったからだ。正確には、物心ついた頃に初めて贈られたプレゼントだが。
嘘つきの主人公が、巡り巡って不幸になってしまうという絵本だったと思う。最後は謝って許して貰えた主人公が泣いている絵に子供ながら羨ましかった覚えがある。
嘘をつくことは悪いことなのに嘘をついても許されるなんて。
「カッツェ」
「…………お兄様」
カッツェは集中して深く入り込んだ思考を浮上させた。
扉の前にはいつの間にか部屋に入ってきていた人物、兄のレーヴェが立っていた。
レーヴェ=レゲンデーアは僕の年の離れた兄である。カッツェは二十歳で、レーヴェは二十九歳だ。
「お帰りなさい。お仕事お疲れ様です」
「ただいまカッツェ、良い子にしてた?」
カッツェのいる丸いテーブル席は特注だ。木の優しい手触りと意匠が凝らした彫り細工は途方もない時間と大きな宝石が買える金がかかっている。カッツェの身体を支える椅子も、座っているクッションも同様だ。全てこの兄、レーヴェがカッツェの為にと準備してくれたのだ。
その席の近くまでやってきて、頭を撫でられる。壊れ物に振れるように優しいその手つきに、子供扱いするな、なんて言葉は引っ込んでしまう。
「ええ。ゆっくりと休めました」
「そう、もう食事の時間だそうだけど。キリの良い所で来れそう?」
髪を撫でるように触れられ、心地良さに目を瞑って答える。
目を開けると兄の美貌が目に入る。
溶けるような銀糸の髪に、陽光が煌めきを与えてこの世の人ではないと思わせるほどの精巧な彫刻を見ているようだった。彫刻の目には蒼の宝石が入っている。
まるで絵本の王子様のようだ、とこちらは稚拙な感想になってしまう美貌の持ち主。
「お兄様。僕は子供ではないのでお兄様に言われればいつでも行きますよ」
くすくすと笑うと兄もフ、と小さく微笑んだ。
いつまで経っても子供扱いだ。けれどもカッツェとしてもこの居心地の良い関係を続けていきたいのだ。
そうすれば今だけは兄と二人だけの世界なのだから。
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