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番外編
初めての友人
しおりを挟むフレイ兄さまが帰ってくると、家の中はとても賑やかになってお義母さまもお父さまもみんな穏やかになる。
フレイ兄さまはイェステ子爵家みんなの誇りだった。
うさぎのぬいぐるみは、なんとなくぼくに似ている気がした。真っ白な毛はぼくの髪の毛そっくりだ。ライオンのぬいぐるみである『フレイ兄さま』も、うさぎのぬいぐるみの『セティ』もどっちも汚したくなくて持ち歩かないようにしていた。それよりも、お義母さまに見つかれば投げられ、ボロボロにして捨てられしまうと分かっていたのでクローゼットの奥に隠して夜寝る前にだけそっと見るようにしていた。
ぼくにとってそれは、小さな幸せだった。こんなにも嬉しいことはないと思った。ぼくのためだけに買ってくれたぬいぐるみで、毎晩見る度に幸せに浸った。
どんなに昼間が、現実が辛くても、『フレイ兄さま』と『セティ』は二人の世界でずっと一緒に居られるのだ。
それからも何度かフレイ兄さまは遠征から帰ってくる度にお土産をくれた。海岸近くの時はキラキラと光るガラス玉、鉱山付近の時は陶器の素材を使ったブローチ、森林深くに行った時は珍しい花を使った押し花の栞を。土地に合わせてこんなぼくの為に考えて持ち帰ってくれるフレイ兄さまが大好きだった。
きっと、これを買う時だけはぼくのことを考えてくれているのだと思うと、クローゼットを開ける時にほんのりと気持ちが高揚する。クローゼットの中は僅かな服と、フレイ兄さまがくれたお土産で徐々に埋まっていった。
そして、15の歳を迎えた時だった。
「……学園?」
お父さまが突然学園に入学しろと言い出した。
「そうだ。行くからにはちゃんと学んでくるように。……まぁ、そんなに期待はしていないが」
なんの教育も受けずに放置されていた子供が突然学校に行くとどうなるか、きっとお父さまは分かっていたと思う。それでも行かせないよりは世間的にはマシだった。
そう、ただ認知したはずの息子を家に飼い殺していると噂されるよりはマシだったと言うだけだ。
「うー……分かんない……」
当然授業は初っ端からついていけない。まず本をちゃんと読めない。先生が話していることもちんぷんかんぷん。何をどうすべきなのか、学生とはどういうものなのか、それすら分からないし教えて貰ってなかったぼくには学園のレベルが高すぎた。
それでも、家にいるよりはまだ良かった。お義母さまに怯えなくてすむし、お父さまに無視されて心が痛くなることもない。
そしてなによりも、フレイ兄さまに会う時間が減ったのが良かった。
「これが……ここの意味?なのかな。うーん……」
ぼくが学園に入る少し前にフレイ兄さまの階級が上がった。その階級は、ぼくには難しくて分からなかったけれど、とても偉くなるのだと言うことだけは分かった。
何も出来ないぼくと、何もかも上手くいっているフレイ兄さま。
この頃になると、頭の悪いぼくでも兄弟とは言え気軽に話しかけて良い人ではないのだ、という事はちゃんと分かっていた。
「あれ? でもそうするとこっちは?なんでこうなるの?」
それでもフレイ兄さまは遠征から帰ってくる度にお土産を渡してくる。そしてそれが、何となく高価なものに変わりつつあることに気づいた。
最後に貰った懐中時計は、ずしりと重く、精巧で綺麗な細工が施され、すぐにぼくは慌てて「受け取れません!」と顔を青くしてフレイ兄さまに返した。今までだってブローチやらブレスレットやら受け取っていたが、それはガラス玉のついた装飾品だと知っていた。けれどなんだか最近は、本物の宝石がついたアクセサリーや時計、高級菓子へと変貌していた。
子供用のクローゼットしか与えられていないぼくのクローゼットは、フレイ兄さまがくれたものでパンパンだった。
色んなものを施される度に嬉しかったのに、毎晩見る度に嬉しくて仕方なかったのに、最近は怖くて開けることが出来ない。
ぼくは、ぬいぐるみとか、栞とか、本当にそういう、フレイ兄さまの心が揺れ動いたもので良かった。大きなお金が動くものが欲しいわけじゃなかった。
ただ、プレゼントをくれる時にフレイ兄さまに会えることが嬉しかった。
「ううぅ……」
なのにもう、会うのが辛い。フレイ兄さまが好きで、辛くて、大好きで、苦しかった。
こんなぼくでも唯一優しく哀れんでくれるフレイ兄さまを、ぼくは愛していた。
「そこ、間違ってますよ」
机に突っ伏して泣いていたぼくに話しかけてくれたのは、カッツェさまだった。
「……ど、こ?」
カッツェさまは世間を知らないぼくでも、すぐに覚えた。
芙蓉の精霊、美少年、兄弟共に成績優秀で、侯爵家でもトップクラスの家柄。イェステ子爵家如きが話しかけていい存在ではない。
「……ここですよ。貴方は恐らく基本を知らないでしょう。ここからやっては絶対に分かりませんよ」
「あ……うぅ」
「最初のページから、一緒にやりましょう」
優しい声だった。慈愛に満ちた、温かい声。
ぼくの初めての友人が出来た瞬間だった。
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