【完結】秘める華が暴かれる時

七咲陸

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番外編

居心地

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  カッツェさま、とは学園では周りの目もあってそう呼ぶようにしていた。2人きりの時…レゲンデーア家に呼ばれて行った時だけは「『さま』は外して呼んでください。実は私も初めての友人なんです。他人行儀は寂しいので」と言われ、恐れ多くもぼくは了承した。

  カッツェは物知りだった。それに教えるのも上手だった。子供に教えるように根気よく授業の内容を教えてくれて、万年最下位だったぼくの成績は、学園を卒業する頃には真ん中から少し下くらいの順位になるほど上昇していたのだ。
  カッツェは成績が少しでも上がる度に褒めてくれた。カッツェが褒めてくれると、レーヴェさまがどこからともなくやってきて、一緒にお祝いしてくれた。

  本当に幸せだった。学生生活は家から逃げるためだけの場所だったはずなのに、カッツェに会えてフレイ兄さまに会わなくてすむ、最高の居場所だった。

  けれど大人になるとやはり卒業がやってくる。優秀なカッツェは王城の文官勤めの打診があったようだけれど、全て断り、レゲンデーア領に戻ってレーヴェさまの補佐をするんだと言った。

  カッツェに「レーヴェさまのこと大好きなんだね」と言うと、カッツェがとってもびっくりしていた。

「……ど、どうして気づいたのですか?」

「? カッツェはいっつもレーヴェさまのことばっかりだったよ? レーヴェさまの話をする時は、目がキラキラしてる」

  後から聞いたら、カッツェはまさかぼくに見破られるとは思いもしてなかったのだと言う。確かにカッツェは学園ではたくさんの人に告白されていた。あんなに分かりやすいのに、みんなどうして知らないで告白するんだろうとは思ってた。

「……そういうセティも…フレイのことばかりですね」

「あ、あー!そういうのずるいぃ!」

「狡くありません。セティだけが弱味を握るのは平等では無いので」

「ううぅ……」

  友人になって、しばらくしてカッツェに色んなことを話すようになった。

  産まれのこと、家のこと、フレイ兄さまとのこと。たくさん話して、時には泣いて、それでも変わらず友人として、兄のような存在で接してくれた。

  カッツェがいなかったらきっと今のぼくはどこにも居ない。多分色んな人にイジメを受けていただろうし、学園も居られなかったと思う。

  フレイ兄さまとは別の意味で、カッツェが大好きだった。

「セティは……卒業後はどうするのですか?」

「……分かんない。お父さまは、好きにしろって…働くにしても、ぼく頭も良くないし、体力もないし……どうしようもなくて」

「まあ、無理に働かなくとも…暫くは良いのでは?たくさん遊びに来てください」

  そう言われ、ぼくはカッツェにたくさんたくさん甘えた。

  レーヴェさまがたまーに渋い顔をするくらいは甘えたと思う。それでも、レーヴェさまがぼくを許してくれたのは家庭の事情を理解してくれていたからだ。

  学園を無事に卒業したぼくは、益々イェステ子爵家に寄り付かなくなった。時折家に帰っても居ないモノとして扱われているし、お父さまとお義母さまの喧嘩が怖かったのもあって、カッツェの所に遊びに行くことが多くなっていった。

  カッツェが本を読んでいる横で、ぼくはお昼寝するか、たまに話しかけるか、押し花を作ったり図鑑を読んだりしているだけだ。それだけだけど、こころはとっても穏やかだった。カッツェの傍はとても落ち着いていて、居心地が良かった。

  そして、そんな日々を暫く過ごしていたある日の事だった。

「フレイ兄さまが、レーヴェさまの護衛に?」

「うん、そうみたい。フレイがお兄様に剣を捧げたと聞いたよ」

「……騎士団長になるんじゃ」

「その話もなくはなかった、のですが……やっぱり子爵での這い上がりは大変だったようですよ。後押ししてくれている御仁も居ないわけではなかった訳ではないのだけれども」

  その日、イェステ子爵家は大騒ぎだった。

  フレイ兄さまはお父さまとお義母さま、他のお兄さまやお姉さま達を必死に説得して、最後はレゲンデーア侯爵家ならば、とみんな納得していた。

  けれど、そのみんなの中にはお義母さまだけは入ってなかった。

「……お前、レゲンデーア侯爵家の次男と懇意にしていたわね。フレイが行くのならば、お前は行くのをやめてちょうだい」

「で、でも……ぼく」

「私がやめろと言っているの!」

「……ご、ごめんなさい」

  ぼくは暫くレゲンデーア家に行くのをやめた。お義母さまはフレイ兄さまとぼくが接触するのを快く思っていなかった。

  するとカッツェは、ぼくが来なくなった理由を察して、ぼく宛に招待状を送るようになった。

「……カッツェ様が望んでらっしゃる。フレイの勤め先に悪く思われるのは良くない。許可をする」

  お義母さまの反対は、お父さまが抑えてくれた。それは僕を庇ってくれた訳ではなく、レゲンデーア侯爵家という権力に恐れたからだと思う。

  そしてぼくはレゲンデーア家に再度出入りできるようになり、ホッとした所にぼくの部屋にフレイ兄さまが尋ねてきた。

  ぼくの部屋に入ってきたのは初めてだった。クローゼットと寝台と、学生時代の道具以外何も無いぼくの部屋を見て驚いていた。

「……なんで、なにも無いんだ」

「? あ! いえ、フレイ兄さまから頂いた物は全部クローゼットに保管して……」

「いや、そうではなく!」

  びくりと肩が震えた。声を荒らげたフレイ兄さまは初めて見た。いつも静かに言葉を紡ぐフレイ兄さま、僕の前では優しくて穏やかだったのに。怒らせてしまった。

「ご、ごめんなさい。ごめんなさい…っ」

「あ、いや、違う。違うんだ。怒った訳じゃ…いや。セティに怒ったんじゃない」

「……ぼくじゃない?」

  震えながらフレイ兄さまを見上げる。久しぶりに直視したフレイ兄さまは、前に見た時よりずっと精悍になられていた。

  これからフレイ兄さまは沢山の女性と出会い、可愛らしいお嫁さんを貰って、とっても素敵な家庭を築くんだろうとこの時はっきりと思った。

「……母上か。いや、父上も。まさか、ここまで…!」

「フレイ兄、さま?」

  フレイ兄さまは、すぐにぼくの部屋を出ていった。その日フレイ兄さまがぼくの部屋にもう一度尋ねてくることは無かった。


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