18 / 25
番外編
居心地
しおりを挟むカッツェさま、とは学園では周りの目もあってそう呼ぶようにしていた。2人きりの時…レゲンデーア家に呼ばれて行った時だけは「『さま』は外して呼んでください。実は私も初めての友人なんです。他人行儀は寂しいので」と言われ、恐れ多くもぼくは了承した。
カッツェは物知りだった。それに教えるのも上手だった。子供に教えるように根気よく授業の内容を教えてくれて、万年最下位だったぼくの成績は、学園を卒業する頃には真ん中から少し下くらいの順位になるほど上昇していたのだ。
カッツェは成績が少しでも上がる度に褒めてくれた。カッツェが褒めてくれると、レーヴェさまがどこからともなくやってきて、一緒にお祝いしてくれた。
本当に幸せだった。学生生活は家から逃げるためだけの場所だったはずなのに、カッツェに会えてフレイ兄さまに会わなくてすむ、最高の居場所だった。
けれど大人になるとやはり卒業がやってくる。優秀なカッツェは王城の文官勤めの打診があったようだけれど、全て断り、レゲンデーア領に戻ってレーヴェさまの補佐をするんだと言った。
カッツェに「レーヴェさまのこと大好きなんだね」と言うと、カッツェがとってもびっくりしていた。
「……ど、どうして気づいたのですか?」
「? カッツェはいっつもレーヴェさまのことばっかりだったよ? レーヴェさまの話をする時は、目がキラキラしてる」
後から聞いたら、カッツェはまさかぼくに見破られるとは思いもしてなかったのだと言う。確かにカッツェは学園ではたくさんの人に告白されていた。あんなに分かりやすいのに、みんなどうして知らないで告白するんだろうとは思ってた。
「……そういうセティも…フレイのことばかりですね」
「あ、あー!そういうのずるいぃ!」
「狡くありません。セティだけが弱味を握るのは平等では無いので」
「ううぅ……」
友人になって、しばらくしてカッツェに色んなことを話すようになった。
産まれのこと、家のこと、フレイ兄さまとのこと。たくさん話して、時には泣いて、それでも変わらず友人として、兄のような存在で接してくれた。
カッツェがいなかったらきっと今のぼくはどこにも居ない。多分色んな人にイジメを受けていただろうし、学園も居られなかったと思う。
フレイ兄さまとは別の意味で、カッツェが大好きだった。
「セティは……卒業後はどうするのですか?」
「……分かんない。お父さまは、好きにしろって…働くにしても、ぼく頭も良くないし、体力もないし……どうしようもなくて」
「まあ、無理に働かなくとも…暫くは良いのでは?たくさん遊びに来てください」
そう言われ、ぼくはカッツェにたくさんたくさん甘えた。
レーヴェさまがたまーに渋い顔をするくらいは甘えたと思う。それでも、レーヴェさまがぼくを許してくれたのは家庭の事情を理解してくれていたからだ。
学園を無事に卒業したぼくは、益々イェステ子爵家に寄り付かなくなった。時折家に帰っても居ないモノとして扱われているし、お父さまとお義母さまの喧嘩が怖かったのもあって、カッツェの所に遊びに行くことが多くなっていった。
カッツェが本を読んでいる横で、ぼくはお昼寝するか、たまに話しかけるか、押し花を作ったり図鑑を読んだりしているだけだ。それだけだけど、こころはとっても穏やかだった。カッツェの傍はとても落ち着いていて、居心地が良かった。
そして、そんな日々を暫く過ごしていたある日の事だった。
「フレイ兄さまが、レーヴェさまの護衛に?」
「うん、そうみたい。フレイがお兄様に剣を捧げたと聞いたよ」
「……騎士団長になるんじゃ」
「その話もなくはなかった、のですが……やっぱり子爵での這い上がりは大変だったようですよ。後押ししてくれている御仁も居ないわけではなかった訳ではないのだけれども」
その日、イェステ子爵家は大騒ぎだった。
フレイ兄さまはお父さまとお義母さま、他のお兄さまやお姉さま達を必死に説得して、最後はレゲンデーア侯爵家ならば、とみんな納得していた。
けれど、そのみんなの中にはお義母さまだけは入ってなかった。
「……お前、レゲンデーア侯爵家の次男と懇意にしていたわね。フレイが行くのならば、お前は行くのをやめてちょうだい」
「で、でも……ぼく」
「私がやめろと言っているの!」
「……ご、ごめんなさい」
ぼくは暫くレゲンデーア家に行くのをやめた。お義母さまはフレイ兄さまとぼくが接触するのを快く思っていなかった。
するとカッツェは、ぼくが来なくなった理由を察して、ぼく宛に招待状を送るようになった。
「……カッツェ様が望んでらっしゃる。フレイの勤め先に悪く思われるのは良くない。許可をする」
お義母さまの反対は、お父さまが抑えてくれた。それは僕を庇ってくれた訳ではなく、レゲンデーア侯爵家という権力に恐れたからだと思う。
そしてぼくはレゲンデーア家に再度出入りできるようになり、ホッとした所にぼくの部屋にフレイ兄さまが尋ねてきた。
ぼくの部屋に入ってきたのは初めてだった。クローゼットと寝台と、学生時代の道具以外何も無いぼくの部屋を見て驚いていた。
「……なんで、なにも無いんだ」
「? あ! いえ、フレイ兄さまから頂いた物は全部クローゼットに保管して……」
「いや、そうではなく!」
びくりと肩が震えた。声を荒らげたフレイ兄さまは初めて見た。いつも静かに言葉を紡ぐフレイ兄さま、僕の前では優しくて穏やかだったのに。怒らせてしまった。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい…っ」
「あ、いや、違う。違うんだ。怒った訳じゃ…いや。セティに怒ったんじゃない」
「……ぼくじゃない?」
震えながらフレイ兄さまを見上げる。久しぶりに直視したフレイ兄さまは、前に見た時よりずっと精悍になられていた。
これからフレイ兄さまは沢山の女性と出会い、可愛らしいお嫁さんを貰って、とっても素敵な家庭を築くんだろうとこの時はっきりと思った。
「……母上か。いや、父上も。まさか、ここまで…!」
「フレイ兄、さま?」
フレイ兄さまは、すぐにぼくの部屋を出ていった。その日フレイ兄さまがぼくの部屋にもう一度尋ねてくることは無かった。
43
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる