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番外編
暴かれて、壊れて
しおりを挟む次の日になって、フレイ兄さまは寝ていたぼくを起こすなりこう言った。
「セティ。俺の家に行こう」
眠い目を擦っていたぼくは、使い方があってるか分からないけれど、まさに寝耳に水状態だった。
物がほとんどないぼくの荷物はものの数分で簡単にまとめられ、あれよあれよという間にフレイ兄さまに手を引かれて連れられて行った。
「……今まで気づいてやれなくて悪かった。いつも会う度に笑顔だったから、上手くやっていたのかと。いや、そんなのはただの言い訳だ。怪しむべき点は沢山あった…少し考えれば分かるはずだったのに……!」
「ふ、フレイ兄さま。どうしてぼくをここに?」
これまでのことなんて、この時の僕には本気でどうでも良かった。それよりもどうしてフレイ兄さまが1人で住む邸宅に連れられてきたのか理解できなくて混乱した。
フレイ兄さまはとても苦しそうだった。またぼくを哀れんでくれているのが分かった。優しいフレイ兄さまをそんな顔にさせているのがぼくなのだと思うと、苦しくて辛くて仕方なかった。
「……もうあの家には戻らなくていい。俺と一緒に過ごそう」
「で、でもフレイ兄さま。フレイ兄さまだっていつか結婚を」
「そんな相手は居ない」
「え?」
お父さまとお義母さまは、フレイ兄さまを良家の娘と結婚させようと意気込んでいた。いくつか縁談を持ち込んだとも聞いたことがある。
その度に傷ついたけれど、でもそれが正しいんだと分かっていた。
「セティ。俺はお前が、セティが好きだ」
それなのに。
「最初は、腹違いのただの弟だと思っていた。だから兄として優しく接してきた。けれど、お前が大きくなるにつれてどんどん可愛く見えて仕方がなかった」
フレイ兄さまがおかしくなってしまった。
「セティ。俺はお前の目が、俺を好きだと伝えてきているのを知っている」
ぼくは逃げ出した。
ずっと秘密にしようと思っていた。
フレイ兄さまは卑しい踊り子だった母を持つぼくなんかが望んではいけない人だ。ぼくなんかじゃ、つり合わない。学もなければ得意なことも無い。フレイ兄さまにそんなぼくは相応しくない。ぼくはちゃんと身の程を分かっていた。だから、この気持ちに蓋をしてクローゼットの奥底に隠していたのに。
今日、全てを暴かれたのだ。
ぼくの行くところはカッツェの所しか無かった。フレイ兄さまの職場であると分かっていても、ぼくに行く所なんて他にどこもなかった。
「フレイ兄様が……ぼくを好きだって言うんだ。どうしよう。どうしようカッツェ…ぼくじゃ、ぼくじゃだめなのに……っ」
「落ち着いてセティ。落ち着きなさい。大丈夫。大丈夫ですよ。ここには貴方を責める人はどこにも居ませんよ」
「でも!でも……! フレイ兄さまは立派な人なんだよ! ぼくなんかを好きになっても……!今までくれたプレゼントのお返しだって、何にもしてないのに!」
ぼくはカッツェの膝でボロボロと、わんわんと泣き腫らした。もう大人だと言うのに、子供のように泣いて泣いて、泣き疲れて眠ってしまった。
苦しくて辛くて、そして何より申し訳なくてフレイ兄さまに心の中で謝り続けた。
不相応に浸っていた幸せは、フレイ兄さまの幸せを犠牲にして成り立っているのだと思った。
「ぼくなんか…ぼくなんかが好きになっちゃいけなかったのに。フレイ兄様はぼくを哀れに思って好きだと言っているんだ。どうすればいい?どうすれば……カッツェ、ぼく、もうイェステ子爵邸に居られない…」
ここ以外に行くところは、実家しかない。けれど実家こそがフレイ兄さまの居場所だ。みんなフレイ兄さまがイェステ子爵家のために良家の結び付きになることを望んでいる。
それなのにぼくが全部壊した。
「ぼくなんか、という言い方は気に入りませんが。そんなに嫌なら帰らなくて良いでしょう。好きなだけここに居ていいですよ」
「……ほんと?」
「ええ。私の遊び相手になってください。こう見えて私とっても暇なので」
カッツェはやっぱり優しく穏やかで、暖かかった。
カッツェの勧める通り、ぼくはレゲンデーアの隅の部屋に泊めてもらえるようになった。カッツェはレーヴェさまにもぼくが住み着いていることは内緒にしてくれていて、フレイ兄さまにもバレなかった。
でも、時折部屋の窓からフレイ兄さまを覗き見ると、なんだかどんどん痩せてきているように見えた。
倒れそうなほど真っ青な顔をして出てきた時には、いても立ってもいられなくて部屋の中を行ったり来たりして落ち着かなくなってしまった。
明らかに仕事に支障が来ている、とカッツェはレーヴェさまに相談を受けたようだった。何よりも優先しているレーヴェさまの言葉を聞いても、友人のぼくの気持ちを尊重してくれて、ぼくのことは隠してくれていた。
でもやっぱりぼくはフレイ兄さまが心配で、カッツェの所にどうしようと相談をしに行った時だった。
たまたま、フレイ兄さまがカッツェに用があって、部屋に入ってきてしまった。隠れようにも隠れる場所がなくて、結局見つかってしまったぼくはあたふたとしてたと思う。
そしてフレイ兄さまは具合の悪そうな顔と冷たい声で言った。
「セティ。お前は、俺とカッツェ様のどっちを好きなんだ。あれほど俺のことが好きだとうるさいくらい目で訴えかけてきたお前が…そんなにすぐ心変わりをしたのか」
ぼくはその凍った瞳が恐ろしくて、カッツェに泣きつくことしか出来なかった。
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