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番外編
猫と獅子と兎
しおりを挟む「セティ。ちゃんとフレイと向き合いましょう。きっと大丈夫。大丈夫ですよ」
これ以上はセティを庇いきれないと、カッツェは判断したのだ。
「フレイ兄様を困らせたくない…やだ、やだぁ……」
「困らせると言うならもうとっくに困ってるでしょう?セティが逃げ続けたらもっとフレイは困りますよ」
だから頑張りましょう。そう幼子を諭すように言われ、やっとぼくはフレイ兄さまに向き合った。
ぼくの好きな人は、ぼくのせいでこんなに窶れてしまったのだと思ったら涙が止まらなくてとうしようもなかった。
カッツェは静かに部屋を出ていった。
2人きりで残されて、泣きながらぼくはフレイ兄さまに抱きついた。
「ごめんなさい…、フレイ兄さま、ごめんなさい。ぼくは、好きになっちゃいけなかったのに……!」
「お前、この期に及んで……!」
「……っ」
びくりと身体を縮こませた。抱きついていた手を離そうとしたけど、上手く離れられない。フレイ兄さまがぼくを強く抱きしめていた。
「セティ。俺はお前の笑顔にどれだけ救われてきたか…!魔物にいつ殺されるかも分からない状況で、お前だけがただ素直に、心の底から俺の帰還をいつだって喜んでくれていた!」
「だ、だってそれは」
「そうだ。俺だけがお前に優しくしていたからだろう?分かっている、分かってた。けど、それでも!」
背中が痛いくらい強く抱きしめられ、苦しいくらいなのに、ぼくは嬉しかった。
「俺を見つめる目がいつだってキラキラして、綺麗で、どうしようもなく好きになった…!」
フレイ兄さまが本気でぼくを好きなのだと伝わってくる。愛してくれているのだと分かる。
「けど、お前にカッツェさまという友人が出来た辺りから、セティを笑顔に出来るのが俺だけじゃないと分かって……更に俺を避けるようになって嫉妬した」
「あ……ぅ」
「逃げないでくれ、もうお前に避けられたくないんだ……セティ」
そう言ってもう一度強く抱きしめられた。
暫くして落ち着いた頃、ぼくはフレイ兄さまに今までのことを少しだけ話した。
本当はお父さまとお義母さまが怖いと思っていること、本当はイェステ子爵家に帰りたいと思ったことはないということ、そして、フレイ兄さまがずっと好きだったということも。
「フレイ兄さま。ずっと、ずっと好きでした……ぼくなんかが好きになってはいけない人だと、ずっと、そう思って…」
その先は言葉に出来なかった。喉がひくついて話せなかった。どこからこんなに出てくるのか、涙が止まらない。
フレイ兄がぼくの涙を指で優しくぬぐってくれるけど、後から後からとめどなく流れてきて追いつかない。それなのにフレイ兄さまは微笑んでいた。
「あのクローゼットの中身を出した時、本当は嬉しくて叫び出したかった」
「っく、ひっ、く……?」
「あんな……小さい頃に渡したお土産も、栞すら大切にしまってあって、死ぬほど喜びたかったんだ。……ありがとう」
お礼を言われてしまった。言うべきはぼくの方だ。あんなに沢山、いつもぼくを喜ばそうとプレゼントしてくれていたのはフレイ兄さまの方なのだ。
「セティ、これから先何があってもお前を守る。だから……ずっと一緒に居て欲しい」
キラキラとした瞳で言うフレイ兄さまは、本当に幸せそうだった。そんな姿を見て自然と頷き、フレイ兄さまに抱きついた。
それから暫くして、お義母さまがレゲンデーア侯爵家に突撃してきた事もあったけど、ぼくの就職先がとうとう決まった。
「という訳でセティ。どうだい? カッツェの侍従にならない?」
「カッツェの従者? でもぼく……あんまり頭良くないから……」
「カッツェより頭が良い人間は私も見たことないよ。そこは求めてないんだ。セティ、私はね。【カッツェがどれだけ心穏やかに過ごせるのか】が大切なんだよ」
「心が穏やか……?」
レーヴェさまの言葉が少しだけ分からなくて首を傾げる。
「カッツェは疑り深い所もあるから友人はなかなか居ないし、一度身内と思えば使用人にすら優しくなってしまう。きっと沢山心を砕き、気持ちを込め、時間を割いて色んなことに疲れてしまうだろうね」
「……それは、確かに」
身に覚えは沢山ある。主にぼくのせいだと思う。
「だろう? それで君の出番だ。カッツェは結局侍従になっても君に友人を求めるだろうし、それならばいっそ侍従兼友人として勤めてはどう?カッツェが心穏やかに出来るのは友人である君と私の前だけだし、君の就職先も見つかり、そしてイェステ子爵家からも身を守る事ができる」
一石三鳥だ。とニコリと微笑むレーヴェさま。ぼくはようやく意味が分かって、返事をする。
「やります! ぼく働きます!」
「うんうん、期待しているよ。セティ」
なんだかフレイ兄さまはすっごく複雑そうな顔をしていたけれど、どうしてだろうと思い尋ねた。
「……セティを守るのは俺の役目なのに、結局カッツェ様とレーヴェ様に盗られた気分だ」
と拗ねていた。いつもはカッコよくて頼りがいのある獅子のような人なのに、可愛くて仕方なかった。そういえば、僕が初めに持っていたのは猫のぬいぐるみだったな、なんて図鑑に書いてあった獅子の欄に猫科とあるのを見たのを思い出し、可愛いのはそういうことか、と納得する。
そんな可愛い獅子に、ぼくはキスをして抱きしめたのだった。
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セティ=イェステ
南地方の領地で踊り子をしていた母から産まれた。父はイェステ子爵で間違いないが、髪色、髪質、顔の造形や身体全てにおいて母親譲り。
セティとお近づきになりたい人間は沢山居たが、美しいカッツェの隣にずっと居るので高嶺の花感が増して友人が出来なかった。
今後は使用人の歳の近い人達と友人になるのだが、フレイではなくカッツェが嫉妬する。そしてカッツェとレーヴェが何をしているかちゃんと理解しており、使用人たちの噂話とかを聞いたりしてかなりの耳年増になった。
フレイ=イェステ
父親譲りの顔立ちに髪色。別に魔物を殺すこと自体は怖くもなんともないが、母や兄弟達からまるで自分をトロフィーのように扱われていることに気づき、心が荒み始めていた。そんな時にたまたま露天で見つけた獅子と兎のぬいぐるみが安かったので気まぐれにセティに渡した。たいそう喜ばれ、毎晩ぬいぐるみである『フレイ兄さま』と『セティ』に話しかけているとセティから聞き、(は?なんだそれ可愛すぎんだろ…)と思ってそれ以来プレゼントを渡すようになる。
セティが穢れなき天使に見えて中々手が出せない。
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