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9、花の宮
両親と、ソフィー、ソフィーのご両親と沢山話して、たくさん抱き締めあって、夕方になりお別れをする時間になった。
「元気で頑張るのよ」
「お母さん…、うん。お母さんも元気で、お父さんも身体に気をつけて」
「大変なことがあったら、殿下にきちんと伝えなさい。 こんなにフロウの事を大切に想ってらっしゃるなら、きっと大丈夫だ」
「……うん。ありがとう」
父の言葉に、強く頷く。
殿下は僕を両親から無理矢理引き剥がすことも出来て、僕と交渉なんかしなくてもいいのに、そうしてくれた。
(なんとかやっていけそうな気がする)
きっと優しい殿下となら、大丈夫な気がした。
「お手紙、書くわ。元気でね」
「ソフィーも、元気で。ランベルト閣下とハイデマリー夫人も、これからよろしくお願いします」
「ええ、また会いましょう」
「何かあったらネッツェル公爵家に連絡しなさい。出来る限りのことをするよ」
ソフィーに似た、優しい両親にも挨拶をして、僕は馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。
「フロウ様。では、お部屋をご案内致します」
「は、はい」
「……申し遅れました。ラスティム殿下付きの侍従のギルと申します。今後もよろしくお願い致します」
ギルと言った侍従は、馬車が見えなくなるまで僕を待ってから話しかけてくれた。
「よろしくお願いします、あの…ご迷惑おかけします」
「存分に迷惑をかけてください。特にラスティム殿下には」
「え?」
「……冗談ではありませんよ。まぁ、きっと迷惑とは思わないでしょうし。しっかり甘えて大丈夫ですよ」
「あ、甘える……?」
なんだか、ラスティム殿下に甘えてる自分が想像できなくて苦笑してしまった。
ギルが歩き出したため、僕もその背中を追うように歩き始めた。
□■□
王城に戻り、煌びやかな雰囲気の中、居心地悪く廊下を歩く。しばらく歩いていると、どこか違う建物に入ったようだった。ギルの後ろについて行くのに必死だった。
はぐれたら、絶対に迷子になる。
やがてギルは扉の前で立ち止まった。
「こちらが、フロウ様のお部屋になります」
そう言って、ギルは扉を開けて、僕に部屋に入るように促してくれた。
「わ……広い」
「ちなみに、こちらの建物全てがフロウ様の宮となります」
「え?! 部屋の間違いじゃなく?!」
「はい。こちらは花の宮と呼ばれる建物で、全てフロウ様の宮です」
今歩いてきただけで違う建物に入ってしばらく歩き続けていた気がする。
こんな広大な建物が全て自分の物だと言われてもなんの実感も持てなかった。
(ここだけで充分暮らせる…と言うかそれでも広いくらいなのに)
貴族って凄い。お城って凄い。と語彙力の欠如を感じる感想しか出てこなかった。
あまり高そうなものは飾られておらず、質素な雰囲気にホッとした。来て早々何かを壊したりはしたくない。むしろ居心地悪く感じてしまうだろう。
「そして、フロウ様に侍女をお付けします」
「え?ギルさんじゃない方ですか?」
「申し訳ありません。私はラスティム殿下付きとなっておりますので」
話しやすい雰囲気があって良かったのにな、なんてちょっと残念に思うが仕方ない。
ん?と言うか、侍女? 侍従ではなく?
先程まで扉にいた女性にお辞儀をされる。
「じょ、せいなのですか?」
「ラスティム殿下より、侍女をつけろと言われております」
「あ…ああ、そうなんですね。えっと」
「モニカと申します。フロウ様、なんなりとお申し付けください」
モニカは僕よりも少し年齢の高い女性のようだった。20代後半くらいだろうか。
「よ、よろしくお願い致します」
「ふふ。丁寧なお言葉は嬉しいのですが、侍女には過ぎたお言葉ですよ」
「え? あ…よ、ろしく」
モニカがにっこりと笑ってくれたため、正解だったようだ。
ホッとしたところで、ギルがもう一度声をかけてきた。
「では、私はこれで失礼致します。あとはモニカや他の侍女になんなりと。後ほど殿下も参りますので」
「は、はい。ありがとうございま……あ、ありがとう」
モニカにさっき言われた言葉を途中で思い出して、言い換えるとギルも硬い雰囲気をなくして笑ってくれた。
なんだか、やっていけそうな気がする。
ギルが出て行ったあと、モニカがニコニコとこちらを見ながら迫ってくるのを感じた。
「フロウ様。では、もう夕方ですし、お食事と湯殿とお着替えを致します。先ずはお食事を」
「へ? あ、うん。お腹あんまり…」
「食べておいた方が良いですよ。軽食を準備しました」
食べておいた方が良いとは。
簡単に摘める食事がテーブルに準備される。
ここまでの展開で既にお腹いっぱいで、食べる気持ちにはなっていなかったが、せっかく準備してもらったので食べることにした。
少し食べて、やはりお腹があまり空いてないので残してしまったが、モニカは気にせず他の侍女を呼んで片付け始めた。
「では、湯殿へ参りましょう」
「う…うん」
お風呂にはネッツェル公爵家でひん剥かれたトラウマがある。ここでもそうなのかな、なんてトラウマを呼び起こしながらモニカの後について行った。
同じ建物の中だが、質素な雰囲気の部屋とは違い、全面タイル張りでどこにも汚れがない何人か一緒に入ることが出来そうな浴室が中心にあった。
「では、フロウ様。失礼致します」
「へ?」
モニカの他に、2,3人の侍女がにっこりと、僕を囲うように詰めてくる。
(あ、まさか……)
嫌な予感は当たるものだ。 トラウマが蘇りながら、いつか慣れるのだろうかと遠い目をするしかなかった。
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