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12、お返しは必要不可欠です
ユージムの概要説明が終わり、机に突っ伏していると、モニカが部屋に入ってきた。
「あらあら、フロウ様。大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないいい…」
これからのことを考えると暗い未来しか見えてこない。
この王宮の良いところは、ラスティム殿下が優しいことやモニカやギルが優しいことだけである。
「ふふふ、ではフロウ様に元気を出して頂かなくてはなりませんね」
「?なにかあるの?」
「移動しましょう。お外に出ますよ」
不思議に思いながら、根を張っていた椅子から立ち上がりモニカの後を追うように歩き始めた。
部屋を出て、中庭に続く渡り廊下のような所を進んでいくと、花の宮の建物よりは幾分か小さな建物が見えてきた。
ガラス張りになっており、中の様子が伺える。
「これって…」
「お気づきになられましたか? 殿下がフロウ様のために作らせたものでございます」
モニカはそう言いながら、ガラスのドアを開ける。 中には色彩溢れる花たちと、青々とした草木が所狭しと植えられていた。
「温室だ…」
感動して言葉が出なかった。アカデミーにもある温室だが、そこよりもたくさんの種類の植物が植えられているように見える。
「すごい…」
「こちらに椅子がありますので、ゆっくり休まれてください」
「あ、ありがとう」
真ん中にあるガーデンテーブルの椅子をモニカが引いてくれたので、腰掛ける。
モニカは紅茶を準備し始めると、はた、と気づいた。
「?モニカも一緒にお茶するの?」
ティーカップが2つある。 自分とモニカしか居ない温室で、モニカも飲むのかなと純粋に思って聞いた。
「いえ、私ではありませんよ。もうそろそろ到着されますので」
「到着…?」
すると、先程自分が入ってきた温室のガラス扉が開く。
「こんにちは、フロウ」
「ら、ラスティ様…」
ニッコリと微笑みながら王子が温室に入り、僕の対面の椅子に腰掛けた。
歩き方や立ち姿。座った後の姿全て、どんな花にも負けないくらいの凛とした佇まいに、暫し見蕩れてしまった。
ラスティム殿下はモニカが紅茶を淹れ終わると、手を挙げた。モニカは一礼して退室していった。
「お疲れ様、ユージムの話は終わった?」
「あ、はい。今日はとりあえず終わりだと…」
「ごめんね、妃教育は必須だから僕の一存じゃ止めれないんだ。でもつらかったらちゃんと教えてね」
絶望していたのがバレたのだろうか。ラスティム殿下に気を遣われてしまった。
ラスティム殿下の前でマナーも知らずに紅茶を飲んでいいのか、でもせっかくモニカが淹れてくれたのに、と悩んでいると、ラスティム殿下は気づいたのか、僕の様子を見て微笑んだ。
「私とフロウしか居ないから、大丈夫だよ。気にしないで飲んで」
「…すみません」
「いいの、今は楽しく飲んでね。それより、渡したいものがあって来たんだ」
ラスティム殿下はゴソゴソと、小脇に抱えていた小さな厚さの薄い袋を取り出した。
テーブルに置いて、僕の方へ引き寄せる。
不思議に思いつつ、開けてどうぞとジェスチャーされておずおずと袋を受け取った。
「わぁ……っ」
中に入っていたのは、綺麗な模様の描かれた封筒と便箋だった。
「ご両親とソフィー嬢にお手紙、書いてあげてね」
「ラスティ様……!」
昨日から涙腺がおかしくなったのか、胸が苦しくなるほど感動して目が滲んできた。
両親の前でも、ソフィーの前でも泣かないように気を張っていたのに、ラスティム殿下の前では容易く涙が零れてくる。
「ありがとうございます…、温室も、僕がアカデミーで植物専攻なのをご存知だったのですね」
「ふふ、ある程度調べなくちゃいけないからね。勝手に色々知っていてごめんね。フロウも知りたいことがあったら私に聞いてね」
僕は首をブンブン横に振って、不快でないことを示した。
「ラスティム殿下、小さな頃の記憶だけでここまで良くして頂いてどう感謝をすればいいか分かりません…」
「……ご両親から取り上げてしまったからね。フロウ、ちゃんと嫌な事は言ってね。もちろん楽しいとか嬉しい事も言ってくれると良いな」
「はい……!」
僕が涙を拭いながら笑って返事をすると、ラスティム殿下から、ぐぅっ、と胸を抑えて何か耐えるような声が聞こえてくる。
しかし直ぐに咳払いをしてラスティム殿下はまた僕を見てニコニコと微笑んだ。
「こんなに沢山頂いて、僕が返せるものはないので…なんだか申し訳ないです」
「んー、何か返してくれるの?」
「え?ええ、なにか僕にできるなら…」
ニッコリと微笑み、突然ラスティム殿下は席を立った。僕が殿下の行動に疑問を感じている最中、僕の横に殿下が歩いてくる。
「ら、ラスティ様……?」
「ふふ。少し返してもらおうかなぁ」
ラスティム殿下は僕の顎を指先でツー…と撫でる。驚いて肩を揺らすと、ラスティム殿下は、ふ、と笑った。
徐々に視界が、ラスティム殿下の綺麗な顔で埋まってくる。影がかかる程の距離になって、唇に何かが触れた。
「……ファーストキス?」
「な、なななな」
触れるだけの口付けだったが、僕は顔も首も耳も火照って、頭がパニックになった。
言語能力も失われたまま、ラスティム殿下に挙げられた顎の手が頬に移っていくのを、ぴくりと反応してしまう。
「んっ……」
「ふふ、かーわい。 もう1回していい?」
「んなっ…、んっ……」
もう一度、触れるだけのキスをされる。
ふわ、と温室からではなく、殿下からする薔薇の香りが鼻を擽った。
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