前世は仕事のやりすぎによる過労死を経験したので次の人生ではのんびり生きたい

ライ

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学園編

55話

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「喜ばしいようだが、私の話も聞いてくれないかな?」
恐る恐ると言った体で、ファルーア王国国王ジェイラス・ファルーア・ルクラは訊ねた。
「陛下!王たるあなたがそんな及び腰ではいけません。ここはビシッとしなくては」
王の様子に、スワイル騎士団長はそんなことではいけないと物申すが、王は青い顔になりながらこう言う。
「うむ、私もそうは思うのだが、ああなったティエールは刺激するとかなり恐ろしいことになる。私にはわかる。経験者だからな」
「ど、どういうことでしょう?恐ろしいこととはいったい?」 
顔面蒼白な王の言葉に得体の知れない恐怖を感じた騎士団長は、声を震わせながらもそう問うた。
「実はな、末の娘が産まれる丁度そのころ、少し面倒なことが起こったのだが、その面倒事が、とある貴族が税をごまかして私服を肥やしていたので、末の子が産まれるのを楽しみにしていたティエールに仕事を任せたのだ。
その仕事が原因で、娘が産まれるところを立ち会えなかったようで、その怒りを原因となった貴族にぶつけるのだが、その、言葉にできないほど恐ろしいことをその貴族にしたようでな、まず、爵位返上、財産没収はまあ順当で、当主本人は最も危険な採石場での一生強制労働になり、次期当主の長男は、あくどい金貸しで若い娘を借金のかたに奪い凌辱していたので、男娼館での一生強制労働で、税の限りを尽くして美貌を保とうとしていた夫人は、顔面全体を完治不可能なほどの火傷を負わせた上で、凶悪犯罪者の収容所に放り込み、その他の一族も一生強制労働になり、平民よりも下の扱いをするという罰だったのだ。何より恐ろしいのは、その罰のほうがましだと思うような事をティエールはしたようで、何の文句も言わずに、その罰をそやつらは受け入れたのだ」
当代の騎士団長は、二年前に就任したばかりで、王宮の力関係をいまいち把握できていない。
だからこその先ほどの発言であった。
「そ、そのようなことがあったのですか」
「うむ、私に怒りが向くことはないが、あの時のティエールは鬼気迫る顔で仕事をしていて、執務室が凍るようだった」
王はその時のことを思い出し、自分の身体 を抱きしめるようにした。
その身体は震えている。
「そ、それは…差し出がましいことを申しました」
「良い、スワイル騎士団長が知らぬのも無理からぬこと」
王と騎士団長の小声の会話が終了すると、王は改めて、言葉を発する。
「こほん。改めて、初めましてと言うべきかな。ティエールの末娘よ」
王は紫皇の腕の中にいる、グレーティエに挨拶をする。
グレーティエは王の言葉に背筋を正し、挨拶を返す。
「お初にお目にかかります、陛下。ティエール・ファルストーク・ギレストが末娘、グレーティエ・ファルストーク・ギレストと申します。このようなところから失礼させていただきます」
グレーティエは紫皇の腕に掴まりながら、五歳の歳からは想像できないほど、優雅な挨拶をしてみせた。
「ほう。これは丁寧な挨拶をありがとう。私はジェイラス・ファルーア・ルクラだ。公の場以外ではジェイラス伯父さんとでも呼んでもらいたいな」
「ちょ、陛下!俺の娘に何言ってんです」
ジェイラス伯父さん呼びにいち早く反応したのは、グレーティエの父である、ティエールだ。 
「ふむ確か、私の記憶によれば、私の甥のアルシェイドの婚約者候補だろう、グレーティエ嬢は」
「うぐっ、た、確かに候補ではありますが、候補は候補です。決まってはいません!」
「まあ、いいではないか。本人が決めれば」
それまで、ずっと押し黙っていたグレーティエの頭の中は混沌としていた。
心の声(うわー、王直々に伯父さん呼びを望まれるなんて、面倒事しかよばないよ。それに初耳ですよ!父様、私がアルシェイドの婚約者候補だって。マジで面倒な事しかないじゃないか。ど、どうしたらこの、面倒な事しか起こらないような状況から逃げる?)
ほぼ、無表情の裏ではこのようなことを考えていた。
その様子を見た紫皇は口の端を上げて笑いを堪えていた。
ここが城でなければ、紫皇は腹を抱えて大笑いしているだろう。
「あ、あの」
グレーティエは意を決したように、唾をのみ、間をあけて。
「陛下からそのような名誉なこと、身に余る光栄と存じますが、私はまだ年端もいかない子供ですので、その、あの、今はまだ陛下と呼ばせていただきたいです」
いい考えが思い浮かばなかったグレーティエは、問題の先送りという選択を選んだ。
「くくっティエール、流石はお前の娘だな。年端もいかない……とは」
先ほどグレーティエが見せた言葉使いや態度は、年端もいかない子供ができるわけがないと思うほどのものであった。
しかし、王はそのことには触れずにグレーティエの提案を受けることにしたようだ。
「ふむ、本人がそう言うのであれば、仕方ないな。それではグレーティエ嬢の口からジェイラス伯父さんと呼ばれるのは待つとしよう」
そう言い、王は余裕の笑みを見せた。
ティエール・ファルストーク・ギレストは娘のことになると、余裕を無くす親バカであった。
王がグレーティエに向けた感情が親愛の情であったから、ティエールも癇癪を起こす親バカな面を見せたのだった。
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