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学園編
帰省します
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三か月に一度のクラス替えが終わって一週間が経った今日は、長い帰省の時期。
私は、入学の時に弟ルークと約束した、帰省の時はすぐに帰るという言葉を守るため、久しぶりに黒影の全速力の速度を堪能した。
学園に行くときは急ぐ必要がないから三割程度の速度でセーブしていたけど、早く弟に会いたいので全速力で駆けるようにお願いした。
黒影も、久しぶりに全力で走るからか心なしか嬉しそうな顔をしている。
黒影の活躍のおかげで、半日程度で王都の端に位置する我が家に到着した。
今日帰るのは言ってあったからか、ルークは屋敷の前で庭師と話していたけど、蹄の音でこちらに気づいた。
ルークは私だとわかってすぐに喜色満面な顔で手を振ってくる。三か月ぶりの弟は今日も可愛い。
「ねえさま!おかえりなさい!」
黒影から降りた私に弾丸ダイブをする弟。
おっふ、た、たとえどんなに痛かろうが弟の前で情けない姿は見せられない。
お腹に一発いいのをくらったけど、姉としての意地で笑顔になる。
「っ、ル、ルーク、ただいま、良い子にしてた?」
「うん!僕、ねえさまの弟だもん!勉強もいっぱいしたよ!」
「ふふ、それは偉いわ。姉さまルークみたいに立派な弟を持てて幸せよ」
「僕もねえさまがねえさまでしあわせです!」
ぐりぐりと頭をこすりつける私の可愛い弟。
とても目の保養なのだけれど、お、お腹が。
私の現状を察したように、黒影が私とルークの間に入る。
「あ、ごめん。厩舎に行かなきゃだね」
「えーせっかくひさしぶりにねえさまにあえたのに」
「ごめんごめん、すぐに戻るから、ルークは屋敷のほうに行ってて」
「はーい」
黒影の機転により、お腹の痛みから解放された。
ぶつくさ言うルークも可愛い。
「じゃあ、行こうか、黒影」
私の言葉に素直に従った黒影を厩舎に連れて行って寝床などの世話をしてから屋敷に向かう。
屋敷に入る前に使用人と何度かすれ違い、帰宅の挨拶をしておく。
弟の部屋に行く前に、父の執務室に寄って父にも帰宅の挨拶をしておく。
「失礼します、父上、ただいま帰りました」
「あ、ああ、お帰り、リア。帰ってきてすぐのところ悪いんだけど、今日、国王陛下の誕生日祝いのパーティーがあるんだ。本当はリアを行かせたくはないんだけど、学園に行かせている以上は出席の義務があってね、ドレスとかの手配は済ませたから、君はマリシャのところにすぐに向かってくれる?」
帰宅の挨拶をするだけに来たはずなのに、いきなり過ぎる急展開が来た。
「えっと、と、とりあえずわかりました。マリシャのところに行きます」
慌ただしい父に何も聞けないまま、私はとりあえずマリシャのところに向かった。
「ああ!お嬢様、お帰りなさいませ、帰宅して早々ではありますが、旦那様からお話は聞きましたか?」
「うん、一通りは聞いたから早く着替えよう」
屋敷を忙しなく走っていたマリシャを見つけ、とりあえずの事情は聞いたことを言ってからドレスの支度のために部屋に突っ込まれる。
着せ替え人形よろしく、私の目の色に合わせたドレスを着せられた。
サイズが心配だったけど、怖いくらいにぴったしだった。
「わあ!ねえさまキレイ!」
「ルークもかっこいいよ、ありがとう」
ルークは髪の色に合わせた少年用の正装に身を包んでいた。
うん、姉の欲目を抜いても可愛い。弟の沽券のためにも口には絶対出さないが、めちゃくちゃ可愛い。
「さ、準備もできたから馬車に乗るよ。リアも今日は馬車に乗ってもらうから、厩舎行こうとしないで」
「え?いやいや、さ、流石にこの格好で黒影に乗ることはしないよ」
ちょっとこの格好で乗るのきつそうだなあとは思っていたけど、そういえば馬車があるんだった。
父の言葉でちょこっと厩舎に向きかけていた足を戻して、父とルークと一緒に馬車に乗る。
「?そういえば、母様は来ないんですか?」
「ああ、リサちゃんは今はどこだったかな、多分砂漠の国のサアルにいると思うよ。当然、来ないね。はは」
私とルークの生みの親リサ・モルトは、物凄い放浪癖があって、一つ所に長居しないというかできない性質らしく、家にいることの方が稀な人だ。
女性では珍しい、冒険者とか流れの用心棒みたいなもので、めっちゃ強いらしい。
戦ったところを見たことはないけど、あっち行ったりこっち行ったりしても五体満足で帰ってくるんだから強いことは確かなのだろうけど、こういう社交界とかの付き合いは一切合切無縁みたい。
まあ、私も今回のパーティーがほぼ社交界デビューみたいなもんだし、人のこと言えないな。
「あー、そう。えと、ごめん」
父は空笑いで誤魔化したけれど、パートナー同伴が普通のパーティーで一人ぼっちというのはまあまあ堪えるらしい。気まずいのでとりあえず謝っておく。
「うーん、僕は大丈夫だよ。いつものことだからね」
なんとなく自分に言い聞かせているように見えなくもないが、大丈夫と自分で言うのだから大丈夫だと思っておこう。
「ねえさまねえさま、パーティーってなにするの?」
父との会話が途切れたので今度はルークが話しかけてくる。
「うーんとね、大体は私達と同じような、貴族の人達が何かを祝ったりする、かな。今日のパーティーはこの国の王様の誕生日をお祝いしに行くんだよ」
「おうさまのたんじょうびをおいわいしに行くんだ。(へーなんかつまんなさそう)」
あんまり興味がなさそうで、後半は小さくて聞き取れなかった、
「えーっと、美味しい食べ物も用意されるから、姉さまと一緒にいっぱい美味しいもの食べよ?」
「ねえさまといっしゃならたのしそう!ぼくはおさかながすきだけど、ねえさまはなにがすき?」
「そうだねー、姉さまはあんまり食べ物にこだわりがないんだけど、魚も好きだよ」
「わーい!じゃあぼくとおんなじだ!」
にっこり笑顔でそんなことを言う弟に頬が緩むのが抑えきれない。
馬車で揺られながら、私は弟やたまに父との会話を楽しんだ。
私は、入学の時に弟ルークと約束した、帰省の時はすぐに帰るという言葉を守るため、久しぶりに黒影の全速力の速度を堪能した。
学園に行くときは急ぐ必要がないから三割程度の速度でセーブしていたけど、早く弟に会いたいので全速力で駆けるようにお願いした。
黒影も、久しぶりに全力で走るからか心なしか嬉しそうな顔をしている。
黒影の活躍のおかげで、半日程度で王都の端に位置する我が家に到着した。
今日帰るのは言ってあったからか、ルークは屋敷の前で庭師と話していたけど、蹄の音でこちらに気づいた。
ルークは私だとわかってすぐに喜色満面な顔で手を振ってくる。三か月ぶりの弟は今日も可愛い。
「ねえさま!おかえりなさい!」
黒影から降りた私に弾丸ダイブをする弟。
おっふ、た、たとえどんなに痛かろうが弟の前で情けない姿は見せられない。
お腹に一発いいのをくらったけど、姉としての意地で笑顔になる。
「っ、ル、ルーク、ただいま、良い子にしてた?」
「うん!僕、ねえさまの弟だもん!勉強もいっぱいしたよ!」
「ふふ、それは偉いわ。姉さまルークみたいに立派な弟を持てて幸せよ」
「僕もねえさまがねえさまでしあわせです!」
ぐりぐりと頭をこすりつける私の可愛い弟。
とても目の保養なのだけれど、お、お腹が。
私の現状を察したように、黒影が私とルークの間に入る。
「あ、ごめん。厩舎に行かなきゃだね」
「えーせっかくひさしぶりにねえさまにあえたのに」
「ごめんごめん、すぐに戻るから、ルークは屋敷のほうに行ってて」
「はーい」
黒影の機転により、お腹の痛みから解放された。
ぶつくさ言うルークも可愛い。
「じゃあ、行こうか、黒影」
私の言葉に素直に従った黒影を厩舎に連れて行って寝床などの世話をしてから屋敷に向かう。
屋敷に入る前に使用人と何度かすれ違い、帰宅の挨拶をしておく。
弟の部屋に行く前に、父の執務室に寄って父にも帰宅の挨拶をしておく。
「失礼します、父上、ただいま帰りました」
「あ、ああ、お帰り、リア。帰ってきてすぐのところ悪いんだけど、今日、国王陛下の誕生日祝いのパーティーがあるんだ。本当はリアを行かせたくはないんだけど、学園に行かせている以上は出席の義務があってね、ドレスとかの手配は済ませたから、君はマリシャのところにすぐに向かってくれる?」
帰宅の挨拶をするだけに来たはずなのに、いきなり過ぎる急展開が来た。
「えっと、と、とりあえずわかりました。マリシャのところに行きます」
慌ただしい父に何も聞けないまま、私はとりあえずマリシャのところに向かった。
「ああ!お嬢様、お帰りなさいませ、帰宅して早々ではありますが、旦那様からお話は聞きましたか?」
「うん、一通りは聞いたから早く着替えよう」
屋敷を忙しなく走っていたマリシャを見つけ、とりあえずの事情は聞いたことを言ってからドレスの支度のために部屋に突っ込まれる。
着せ替え人形よろしく、私の目の色に合わせたドレスを着せられた。
サイズが心配だったけど、怖いくらいにぴったしだった。
「わあ!ねえさまキレイ!」
「ルークもかっこいいよ、ありがとう」
ルークは髪の色に合わせた少年用の正装に身を包んでいた。
うん、姉の欲目を抜いても可愛い。弟の沽券のためにも口には絶対出さないが、めちゃくちゃ可愛い。
「さ、準備もできたから馬車に乗るよ。リアも今日は馬車に乗ってもらうから、厩舎行こうとしないで」
「え?いやいや、さ、流石にこの格好で黒影に乗ることはしないよ」
ちょっとこの格好で乗るのきつそうだなあとは思っていたけど、そういえば馬車があるんだった。
父の言葉でちょこっと厩舎に向きかけていた足を戻して、父とルークと一緒に馬車に乗る。
「?そういえば、母様は来ないんですか?」
「ああ、リサちゃんは今はどこだったかな、多分砂漠の国のサアルにいると思うよ。当然、来ないね。はは」
私とルークの生みの親リサ・モルトは、物凄い放浪癖があって、一つ所に長居しないというかできない性質らしく、家にいることの方が稀な人だ。
女性では珍しい、冒険者とか流れの用心棒みたいなもので、めっちゃ強いらしい。
戦ったところを見たことはないけど、あっち行ったりこっち行ったりしても五体満足で帰ってくるんだから強いことは確かなのだろうけど、こういう社交界とかの付き合いは一切合切無縁みたい。
まあ、私も今回のパーティーがほぼ社交界デビューみたいなもんだし、人のこと言えないな。
「あー、そう。えと、ごめん」
父は空笑いで誤魔化したけれど、パートナー同伴が普通のパーティーで一人ぼっちというのはまあまあ堪えるらしい。気まずいのでとりあえず謝っておく。
「うーん、僕は大丈夫だよ。いつものことだからね」
なんとなく自分に言い聞かせているように見えなくもないが、大丈夫と自分で言うのだから大丈夫だと思っておこう。
「ねえさまねえさま、パーティーってなにするの?」
父との会話が途切れたので今度はルークが話しかけてくる。
「うーんとね、大体は私達と同じような、貴族の人達が何かを祝ったりする、かな。今日のパーティーはこの国の王様の誕生日をお祝いしに行くんだよ」
「おうさまのたんじょうびをおいわいしに行くんだ。(へーなんかつまんなさそう)」
あんまり興味がなさそうで、後半は小さくて聞き取れなかった、
「えーっと、美味しい食べ物も用意されるから、姉さまと一緒にいっぱい美味しいもの食べよ?」
「ねえさまといっしゃならたのしそう!ぼくはおさかながすきだけど、ねえさまはなにがすき?」
「そうだねー、姉さまはあんまり食べ物にこだわりがないんだけど、魚も好きだよ」
「わーい!じゃあぼくとおんなじだ!」
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