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ビーズ細工・8
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アンリエッタの実家から、その商会へ話が行き更にその傘下にいる職人たちに話が広まると状況はどんどん動いていった。
最初に試す、小粒ビーズは技術的に難しいものではない。だが使うガラスや鉱石を変えれば色合いや質感を変えるのも容易で、多種多様なものが出来る。しかも実際に使ってみれば数が多く必要で、練習として大量に作っても無駄にならない。
そして服飾関係に強いアンリエッタの家から、テグス代わりに細く丈夫な糸が提供された。細い鋼線も制作を進めているが、それより糸の方が扱いやすい。中には殆ど透明なものもあり、ヴィオラを喜ばせる。
「透明な糸なら、ビーズの色を邪魔しませんからね」
「ビーズも素材や作り方によってずいぶんいろんな色合いが出来てきたものね」
うんうん頷いているヴィオラに、アンリエッタはおっとりと微笑む。この、虫も殺さぬような柔らかな笑顔で百戦錬磨の商人たちを東奔西走させるのが、国内随一の流通経路を押さえるお嬢様である。
爵位はそれほど高くもなく、父の伯爵も重職に就いているわけではない。だがそれでも彼女の実家は国内有数の商会を有し、流通においては他の追随を許さない。
もちろんその交流は多岐にわたり、商人だけでなく各種の職人や農民たちとも縁をつないでいる。なかなか敵に回せない人物なのだ。もちろん極めて裕福でもある。蓄財、というよりは金の使い方を心得ている、と言うタイプで必要なら一時的な出費も厭わない。その場合は当然リターンも見込んでの行いになるわけだが。
その、貴族の当主と言うよりは商才ある商売人といった方が適切な彼は他の貴族たちにも話をもちかけた。商会を興して儲けている貴族はほんの一握りだが、大概の歴史がある爵位持ちは腕のいい職人を抱えたり或いはそうした者たちで組織されるギルドとつながりがある。その、ギルドに向かって誘いをかけたのだ。
『新しい装飾品を作ろうと思うが、それは自分たちだけでは間に合わない。希望する者は見てみるだけでもいいから、その装飾を見て確かめ、スキルが使えないか試して欲しい』と。
それに呼応した職人に、ヴィオラが作成した品やアンリエッタの家が抱える職人が作ったものなど、種類がずいぶん増えたビーズを見せて使い方を説明したり作品例を見せたりすると、面白いように皆興味を示した。
もともと細工職人を選んで声をかけているのだ、新しい素材とそれで作る新しい品は彼らの興味を惹くのが当然ではある。
そしてアンリエッタもその家の当主も、人の行いを自分のものにするような人間ではない。むしろ、その収益を
ヴィオラに渡す、と言うので頼んで魔法街への寄付にしてもらった。
もちろん、ヴィオラの方もその志を受け入れる以上は恩義を返したい。なので、そのビーズで作る細工を見せるのに合わせ、簡単な作り方の説明書も作成した。
色とりどりの小さなビーズと、半透明の糸だけで指輪や腕輪、ネックレスなどが作れる、というのはこの世界では画期的な技術なのだ。
最初に試す、小粒ビーズは技術的に難しいものではない。だが使うガラスや鉱石を変えれば色合いや質感を変えるのも容易で、多種多様なものが出来る。しかも実際に使ってみれば数が多く必要で、練習として大量に作っても無駄にならない。
そして服飾関係に強いアンリエッタの家から、テグス代わりに細く丈夫な糸が提供された。細い鋼線も制作を進めているが、それより糸の方が扱いやすい。中には殆ど透明なものもあり、ヴィオラを喜ばせる。
「透明な糸なら、ビーズの色を邪魔しませんからね」
「ビーズも素材や作り方によってずいぶんいろんな色合いが出来てきたものね」
うんうん頷いているヴィオラに、アンリエッタはおっとりと微笑む。この、虫も殺さぬような柔らかな笑顔で百戦錬磨の商人たちを東奔西走させるのが、国内随一の流通経路を押さえるお嬢様である。
爵位はそれほど高くもなく、父の伯爵も重職に就いているわけではない。だがそれでも彼女の実家は国内有数の商会を有し、流通においては他の追随を許さない。
もちろんその交流は多岐にわたり、商人だけでなく各種の職人や農民たちとも縁をつないでいる。なかなか敵に回せない人物なのだ。もちろん極めて裕福でもある。蓄財、というよりは金の使い方を心得ている、と言うタイプで必要なら一時的な出費も厭わない。その場合は当然リターンも見込んでの行いになるわけだが。
その、貴族の当主と言うよりは商才ある商売人といった方が適切な彼は他の貴族たちにも話をもちかけた。商会を興して儲けている貴族はほんの一握りだが、大概の歴史がある爵位持ちは腕のいい職人を抱えたり或いはそうした者たちで組織されるギルドとつながりがある。その、ギルドに向かって誘いをかけたのだ。
『新しい装飾品を作ろうと思うが、それは自分たちだけでは間に合わない。希望する者は見てみるだけでもいいから、その装飾を見て確かめ、スキルが使えないか試して欲しい』と。
それに呼応した職人に、ヴィオラが作成した品やアンリエッタの家が抱える職人が作ったものなど、種類がずいぶん増えたビーズを見せて使い方を説明したり作品例を見せたりすると、面白いように皆興味を示した。
もともと細工職人を選んで声をかけているのだ、新しい素材とそれで作る新しい品は彼らの興味を惹くのが当然ではある。
そしてアンリエッタもその家の当主も、人の行いを自分のものにするような人間ではない。むしろ、その収益を
ヴィオラに渡す、と言うので頼んで魔法街への寄付にしてもらった。
もちろん、ヴィオラの方もその志を受け入れる以上は恩義を返したい。なので、そのビーズで作る細工を見せるのに合わせ、簡単な作り方の説明書も作成した。
色とりどりの小さなビーズと、半透明の糸だけで指輪や腕輪、ネックレスなどが作れる、というのはこの世界では画期的な技術なのだ。
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