28 / 33
ビーズ細工・7
しおりを挟む
「ねえ、ヴィオラ。あなたのこのビーズ、とても素晴らしいと思うの」
その日訪ねてきたアンリエッタがそう言い出すことはまあヴィオラの方も予想はしていた。見せたその日のうちに、目の色を変えていたのは記憶に新しいところだ。
「お気に召したなら幸いですね」
「それでね。……スキル持ちのあなたには、失礼だと思うのですけれど……この、ビーズ作りのスキル、他の者に教える気はなくて!?」
ぐっ、と互いを隔てる卓に身を乗り出して言うアンリエッタに、さすがにヴィオラも返す言葉に迷う。
このご令嬢、アンリエッタは可憐な美少女ではあるが、なかなか商売については鼻が効く。本人もそれが自分の成すべきこと、という自覚があるらしく、熱心に取り組んでもいる。
そしてその彼女がこう言い出すということは、それなりに準備を整えてきているのだろう。
「えぇと……確かに、私一人では手に余る部分もありますね」
苦笑を交えて肯定すれば、アンリエッタは目を輝かせた。
「……アンリエッタ様なら、教える職人にも心当たりがおありかと思いますが」
「ええ、そうなの。あなたのビーズを見たうちの職人たちも、是非やってみたいといって。……必要なスキルはあるかしら」
「出来れば『錬金術』スキルが。……細かい区分だとガラス細工、鉱石研磨や彫金のある人が望ましいかと」
この世界の職人は概ねスキルを持ち、それを研鑽して最終的には自分だけの固有スキルを目指している。そうした固有スキルは、その持ち主にしか出来ない超絶技巧を可能にすると言われ、また同じように研鑽を積んでも個人の資質によって顕現のしかたや効果は異なる。
つまりヴィオラが他の錬金術スキル持ちにビーズ作りを教えても、彼女と全く同等のスキルにはならないだろうし、最終的に出来る品も違う可能性が高い。
しかしその一方で汎用的な品なら、スキルを伸ばせば同じように作れるはずだ。また究極的な品はそれぞれが自分だけのものを作り出せるならば、それも良い。
アンリエッタお抱えの職人ならば、その職業上の基礎スキルは十分だろう。一番数が欲しい、色や形が均等な小粒ビーズならそこまで高いスキルは要らないとも判断している。
さすがにヴィオラが最近作れるようになってきた、クリスタルガラスのように透明感あって輝きの強いビーズの量産は難しそうだが、それは秘匿したいのでむしろ有難い。
「ご理解いただけるかと思いますが、お教えするのは基礎的なことだけにさせてもらえますか。スキルがある人なら、コツさえ掴めば自分でスキルを成長させられるでしょう」
「そうね……ええ、もちろん。逆にスキルが成長しなくとも、基礎的なことが出来るだけでも使い物になるでしょうし」
「或いは、独自のスキル進化が起こればその人だけのスキルが得られる可能性もあります」
「そうね、そう……嫌だわ、そう考えるとなんだかいいこと尽くめじゃない?」
眼をキラキラさせているアンリエッタは可憐なご令嬢なのだが、その目の輝きは商機を見出した熟練商人のそれだ。
その日訪ねてきたアンリエッタがそう言い出すことはまあヴィオラの方も予想はしていた。見せたその日のうちに、目の色を変えていたのは記憶に新しいところだ。
「お気に召したなら幸いですね」
「それでね。……スキル持ちのあなたには、失礼だと思うのですけれど……この、ビーズ作りのスキル、他の者に教える気はなくて!?」
ぐっ、と互いを隔てる卓に身を乗り出して言うアンリエッタに、さすがにヴィオラも返す言葉に迷う。
このご令嬢、アンリエッタは可憐な美少女ではあるが、なかなか商売については鼻が効く。本人もそれが自分の成すべきこと、という自覚があるらしく、熱心に取り組んでもいる。
そしてその彼女がこう言い出すということは、それなりに準備を整えてきているのだろう。
「えぇと……確かに、私一人では手に余る部分もありますね」
苦笑を交えて肯定すれば、アンリエッタは目を輝かせた。
「……アンリエッタ様なら、教える職人にも心当たりがおありかと思いますが」
「ええ、そうなの。あなたのビーズを見たうちの職人たちも、是非やってみたいといって。……必要なスキルはあるかしら」
「出来れば『錬金術』スキルが。……細かい区分だとガラス細工、鉱石研磨や彫金のある人が望ましいかと」
この世界の職人は概ねスキルを持ち、それを研鑽して最終的には自分だけの固有スキルを目指している。そうした固有スキルは、その持ち主にしか出来ない超絶技巧を可能にすると言われ、また同じように研鑽を積んでも個人の資質によって顕現のしかたや効果は異なる。
つまりヴィオラが他の錬金術スキル持ちにビーズ作りを教えても、彼女と全く同等のスキルにはならないだろうし、最終的に出来る品も違う可能性が高い。
しかしその一方で汎用的な品なら、スキルを伸ばせば同じように作れるはずだ。また究極的な品はそれぞれが自分だけのものを作り出せるならば、それも良い。
アンリエッタお抱えの職人ならば、その職業上の基礎スキルは十分だろう。一番数が欲しい、色や形が均等な小粒ビーズならそこまで高いスキルは要らないとも判断している。
さすがにヴィオラが最近作れるようになってきた、クリスタルガラスのように透明感あって輝きの強いビーズの量産は難しそうだが、それは秘匿したいのでむしろ有難い。
「ご理解いただけるかと思いますが、お教えするのは基礎的なことだけにさせてもらえますか。スキルがある人なら、コツさえ掴めば自分でスキルを成長させられるでしょう」
「そうね……ええ、もちろん。逆にスキルが成長しなくとも、基礎的なことが出来るだけでも使い物になるでしょうし」
「或いは、独自のスキル進化が起こればその人だけのスキルが得られる可能性もあります」
「そうね、そう……嫌だわ、そう考えるとなんだかいいこと尽くめじゃない?」
眼をキラキラさせているアンリエッタは可憐なご令嬢なのだが、その目の輝きは商機を見出した熟練商人のそれだ。
2
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~
冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。
「道路やばくない? 整備しよ」
「孤児院とか作ったら?」
「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」
貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。
不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。
孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。
元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち――
濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。
気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。
R8.1.20 投稿開始
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる