巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します！

好き嫌いはしない

「穢らわしい、って魔物の肉が駄目なんですかね。味付けは大丈夫なのかな」
魔物の肉は、鳥の魔物や豚や牛に似たもの、兎や鹿など食肉される動物と似たものが提供されている。なお魚の魔物もいるらしいが、紗江はまだ見たことがない。
「あらサエ、いいのよ。あんなワガママ野郎どもなんかほっといて」
「でも騎士団って 肉体労働でしょう。お肉食べないと力が出ないんじゃないかな」
ドロップ品の肉には、皮も筋も脂身もない。均質でハムというかどちらかと言えばソーセージとかミートローフに近いかも知れない。
だが決して味は悪くないので、スライスし塩胡椒をふってさっと炙ったものをパンに挟んでみる。食べ慣れないものが嫌なのだろうと、既に使われている玉ねぎを合わせると、これはこれで悪くなかった。
「どうでしょう？」
「あいつらに食わせるには美味し過ぎるわね」
感想を聞いた魔法使い達は概ねそれに同意だったが、騎士団長経由で試食を頼んだところ大好評。是非騎士団の食堂に導入したいと土下座する勢いで頼み込まれた。
紗江は特にその辺り思うところはなかったが、逆に色々思うところのあるらしき魔法使い達はこれをネタにかなり騎士達をつついたらしい。
「結局、例の騎士団長のどら息子は、騎士団の中でも総スカンだっていうからねー。ザマミロ」
けらけら笑った女性の魔法使いは、紗江とかなり親しい。最初は品良く大人しかった彼女はリリという名前で、今はあっけらかんと声をあげて笑うくらいに仲良くなった。
彼女は一応貴族令嬢なのだが、次女でろくな縁談も見込めないし魔力もそこそこあったので、と魔法使いの道を選んだそうだ。栗色の髪と榛の瞳の、派手ではないが可愛い系の女性だ。紗江より少し年上。
「総スカンてどうなったの？」
「穢らわしいって食べないなら自分達の勝手だけど、他人にそれを強要するな、って騎士団長お父さんにも叱られて他の騎士からも敬遠されてるんだって」
「あー……」
主義主張で自ら節制するのは自由だが、それを他者に強要するのは確かに駄目だろう。増してその主義主張は既に排された女神の教義に基づくものらしい。色んな意味で他者には押し付け難い。
「ま、あの筋肉馬鹿は取り柄の筋肉ついたままじゃ廃女神の側に寄れないでしょうけど。……『創世の女神』様は、華奢な美形がお好きですもの」
皮肉っぽくリリが嘲る。
その辺りの事情は紗江も聞いた。旧い教義によれば女神が至上と認めるのは男女とも線の細い美形。だがこの世界、まだまだ未発達で『線の細い』つまり虚弱な人間は長生き出来ない。早逝する者はお飾り的に祭りあげられて保護されても平均より更に早死にする。それもあって女神神殿ならともかく、市井ではかなり長く女神への不満が燻っていたとか。