39 / 42
この世界で
しおりを挟む
「色々お世話になりましたわ」
リリの姉という女性にも初めて会った。
貴族令嬢と言われて予想するタイプそのものの、上品で淑やかな美女だ。ドレスも派手ではなく、落ち着いた……しかし高価そうなものを嫌みでなく着こなしている。
「えーと、『お世話』と言われましても。特に何も、していないんですが……」
「あら、本当に謙虚な方」
コロコロと笑い声さえ品がある。リリも細かい仕草とかが上品な印象はあったが、姉は更に上だ。
「ですが確かにそうですわね。……実は私、婚約者がおりましたの」
「は、はい?」
彼女、ラーラが語るには。
彼女には幼い頃からの婚約者がいたという。それなりの身分の、年の近い異性。家同士の話し合いで決められただけの相手だが、子どもの頃から親交はあった。だが彼は野心家で、ラーラと婚姻することで得られる地位にあきたらず、更に高い地位と権力を求めていた。そのこと自体は構わないとラーラは言う。
貴族同士の政略結婚は、あくまで家同士のつながりで、個人の意思が介在する必要はない。政略結婚も、国や時代によって求める内容は変遷する、その時々で柔軟に対応すれば良いと考えるラーラに対し、婚約者はそもそも彼女が相手では自分の能力が十全に発揮できぬと苛立っていたらしい。
「そんな程度で発揮できない能力なら、その程度のことでしょうに」
相変わらず上品に笑うラーラだが、腹に据えかねていたらしい。当の婚約者が何事か企んでいるのを承知で内密に調査させていたという。その結果、異世界からの『聖女』の召喚を目論んでいることをわかっていて放置していた、と。
「ですから、サエ、貴女にはご迷惑おかけしました。リリはじめ、私どもも貴女の味方として、出来る限り協力させていただきますわ」
「あ、ああ……あの、最初に会った人、ですか……」
もうずいぶん前のような気がする。この世界に落ちてきた天使を『聖女』として選んだあの男が、ラーラのいう婚約者なのだろう。
「『聖女』に仕えるので婚約を破棄する、と仰ってね。遠慮なく、縁を切らせていただいたの。何でも今後は、『聖女』様と共に魔境で世界の歪みを正すのだとか」
「へぇー」
紗江は呑気に感心しただけで済ませたが、実は彼等の扱いは殆ど流刑に近い。人里離れた不便で危険な土地に、限られた者だけが魔物の襲来に怯えながら暮らすことになり、『聖女』に付き従うと明言したバルディログ及びその腰巾着達はそこから出ることも叶わなくなる。もちろん『聖女』天使も同様だ。
リリの姉という女性にも初めて会った。
貴族令嬢と言われて予想するタイプそのものの、上品で淑やかな美女だ。ドレスも派手ではなく、落ち着いた……しかし高価そうなものを嫌みでなく着こなしている。
「えーと、『お世話』と言われましても。特に何も、していないんですが……」
「あら、本当に謙虚な方」
コロコロと笑い声さえ品がある。リリも細かい仕草とかが上品な印象はあったが、姉は更に上だ。
「ですが確かにそうですわね。……実は私、婚約者がおりましたの」
「は、はい?」
彼女、ラーラが語るには。
彼女には幼い頃からの婚約者がいたという。それなりの身分の、年の近い異性。家同士の話し合いで決められただけの相手だが、子どもの頃から親交はあった。だが彼は野心家で、ラーラと婚姻することで得られる地位にあきたらず、更に高い地位と権力を求めていた。そのこと自体は構わないとラーラは言う。
貴族同士の政略結婚は、あくまで家同士のつながりで、個人の意思が介在する必要はない。政略結婚も、国や時代によって求める内容は変遷する、その時々で柔軟に対応すれば良いと考えるラーラに対し、婚約者はそもそも彼女が相手では自分の能力が十全に発揮できぬと苛立っていたらしい。
「そんな程度で発揮できない能力なら、その程度のことでしょうに」
相変わらず上品に笑うラーラだが、腹に据えかねていたらしい。当の婚約者が何事か企んでいるのを承知で内密に調査させていたという。その結果、異世界からの『聖女』の召喚を目論んでいることをわかっていて放置していた、と。
「ですから、サエ、貴女にはご迷惑おかけしました。リリはじめ、私どもも貴女の味方として、出来る限り協力させていただきますわ」
「あ、ああ……あの、最初に会った人、ですか……」
もうずいぶん前のような気がする。この世界に落ちてきた天使を『聖女』として選んだあの男が、ラーラのいう婚約者なのだろう。
「『聖女』に仕えるので婚約を破棄する、と仰ってね。遠慮なく、縁を切らせていただいたの。何でも今後は、『聖女』様と共に魔境で世界の歪みを正すのだとか」
「へぇー」
紗江は呑気に感心しただけで済ませたが、実は彼等の扱いは殆ど流刑に近い。人里離れた不便で危険な土地に、限られた者だけが魔物の襲来に怯えながら暮らすことになり、『聖女』に付き従うと明言したバルディログ及びその腰巾着達はそこから出ることも叶わなくなる。もちろん『聖女』天使も同様だ。
437
あなたにおすすめの小説
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
十二回の死を繰り返した悪役令嬢、破滅回避は諦めました。世界のバグである司書と手を組み、女神の狂ったシナリオをぶっ壊します
黒崎隼人
ファンタジー
十二回の死を繰り返した公爵令嬢オフィーリア。十三回目の人生で彼女が選んだのは、破滅の回避ではなく、世界の破壊だった。
「この世界は、女神の描いた三文芝居に過ぎない」
ループする度に歪む日常、完璧な仮面の下に狂気を隠した婚約者や聖女。全てが残酷な神の「物語」の駒でしかないとしたら?
これは、筋書きを押し付けられた悪役令嬢が、同じく運命に抗う謎の司書と「共犯者」となり、狂った世界のシステムに反逆する物語。断罪の先に待つのは救済か、それとも完全な無か。真実が世界を壊すダークミステリーファンタジー、開幕。
婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの
山田 バルス
ファンタジー
王宮の広間は、冷え切った空気に満ちていた。
玉座の前にひとり、少女が|跪い《ひざまず》ていた。
エリーゼ=アルセリア。
目の前に立つのは、王国第一王子、シャルル=レインハルト。
「─エリーゼ=アルセリア。貴様との婚約は、ここに破棄する」
「……なぜ、ですか……?」
声が震える。
彼女の問いに、王子は冷然と答えた。
「貴様が、カリーナ嬢をいじめたからだ」
「そ、そんな……! 私が、姉様を、いじめた……?」
「カリーナ嬢からすべて聞いている。お前は陰湿な手段で彼女を苦しめ、王家の威信をも|貶めた《おとし》さらに、王家に対する謀反を企てているとか」
広間にざわめきが広がる。
──すべて、仕組まれていたのだ。
「私は、姉様にも王家にも……そんなこと……していません……!」
必死に訴えるエリーゼの声は、虚しく広間に消えた。
「黙れ!」
シャルルの一喝が、広間に響き渡る。
「貴様のような下劣な女を、王家に迎え入れるわけにはいかぬ」
広間は、再び深い静寂に沈んだ。
「よって、貴様との婚約は破棄。さらに──」
王子は、無慈悲に言葉を重ねた。
「国外追放を命じる」
その宣告に、エリーゼの膝が崩れた。
「そ、そんな……!」
桃色の髪が広間に広がる。
必死にすがろうとするも、誰も助けようとはしなかった。
「王の不在時に|謀反《むほん》を企てる不届き者など不要。王国のためにもな」
シャルルの隣で、カリーナがくすりと笑った。
まるで、エリーゼの絶望を甘美な蜜のように味わうかのように。
なぜ。
なぜ、こんなことに──。
エリーゼは、震える指で自らの胸を掴む。
彼女はただ、幼い頃から姉に憧れ、姉に尽くし、姉を支えようとしていただけだったのに。
それが裏切りで返され、今、すべてを失おうとしている。
兵士たちが進み出る。
無骨な手で、エリーゼの両手を後ろ手に縛り上げた。
「離して、ください……っ」
必死に抵抗するも、力は弱い。。
誰も助けない。エリーゼは、見た。
カリーナが、微笑みながらシャルルに腕を絡め、勝者の顔でこちらを見下ろしているのを。
──すべては、最初から、こうなるよう仕組まれていたのだ。
重い扉が開かれる。
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる