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因果は巡る
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「ねえちょっと、どういうこと!?」
最初は連れ歩くにも自慢の可愛い少女だったはずなのに。金切声を張り上げる今となっては、ずいぶんと貧相に見えた。
「……女神の神託だ。おまえはここで森から湧く魔物どもを抑えろと」
「そんなこと、か弱い女の子が出来るわけないじゃない!」
わめく彼女の醜態に、バルディログの頭にも血が昇る。
「おまえが、その神託を黙っているから余計にこじれたんだろうが!」
神殿から訪ねてきた、それなりの地位にある者達は揃って神託を与えられたという。本来女神の神託を受けとるべき『聖女』に告げた言葉が、一向に他者に伝わらないため、特例としたとも伝えられたそうだ。
『聖女』としては使い物にならないと言われたも同然。この世界を司る女神は、その彼女にも勤めを与えた。それが、この不便で危険な地で世界の歪みを正すこと。とはいえ特に何かしろというのではなく、ただそこに在れば良いらしい。
それもつまりは、女神が当代の『聖女』を見限り、これ以上の加護は無意味と判断された、と少なくとも神殿ではそう認識している。反論したくともその反証の材料もない。
実際、『聖女』と名乗るアンジュは、その名に相応しいというより疑わしいことの方が多かった。容姿こそ可憐で可愛らしいが、我儘で高価なドレスや宝石を欲しがる。側近く仕える侍女達には当たりが強く、特にちょっと見た目の良い娘はいびり出す気の強さ。
口煩い貴族女性と渡り合うならこれくらいでなくては、とバルディログや彼の側近もむしろそれを推奨していたのだが。その彼等も、『聖女』の側近く仕えることを誓ったため一緒に魔境へ送り出されてしまった。
「くそ、こんなはずでは……」
歯噛みするバルディログだけでなく、彼と共に押し込められた青年達の顔色も揃って悪い。
彼等は彼等なりに、王の甥であるバルディログについて『聖女』を擁立することで自分達の地位の向上を図るつもりだったのだ。しかし色々な面で裏目に出、早々に離脱した者はまだ良い方。騎士だった男など部下全員からそっぽを向かれ上層部からも見放されて既に騎士団からは除籍されている。
ここでは魔物の襲撃が警戒され、武力は置かれているが正規の騎士団ではなく遊撃部隊が代わる代わる駐屯する形だ。その彼等も、『聖女』の屋敷やその住人とは距離を置いている。それがいっそう彼等の疑心暗鬼を煽っているが、上層部はじめ関係者はそこらを考慮する必要を認めていない。正直なところ、そこで大人しくさえしていれば最低限の仕事は全うできるのだから、実に恵まれた話ではないか、と面と向かって言われてそれで反論できない立場なのだ。
「そう言えば、『聖女』様はお元気でしょうか」
他者の存在を思い出せる程度には、紗江の状況も落ち着いた。先行きの不安もなくなったわけではないが、だいぶ薄らいでいる。
最初は連れ歩くにも自慢の可愛い少女だったはずなのに。金切声を張り上げる今となっては、ずいぶんと貧相に見えた。
「……女神の神託だ。おまえはここで森から湧く魔物どもを抑えろと」
「そんなこと、か弱い女の子が出来るわけないじゃない!」
わめく彼女の醜態に、バルディログの頭にも血が昇る。
「おまえが、その神託を黙っているから余計にこじれたんだろうが!」
神殿から訪ねてきた、それなりの地位にある者達は揃って神託を与えられたという。本来女神の神託を受けとるべき『聖女』に告げた言葉が、一向に他者に伝わらないため、特例としたとも伝えられたそうだ。
『聖女』としては使い物にならないと言われたも同然。この世界を司る女神は、その彼女にも勤めを与えた。それが、この不便で危険な地で世界の歪みを正すこと。とはいえ特に何かしろというのではなく、ただそこに在れば良いらしい。
それもつまりは、女神が当代の『聖女』を見限り、これ以上の加護は無意味と判断された、と少なくとも神殿ではそう認識している。反論したくともその反証の材料もない。
実際、『聖女』と名乗るアンジュは、その名に相応しいというより疑わしいことの方が多かった。容姿こそ可憐で可愛らしいが、我儘で高価なドレスや宝石を欲しがる。側近く仕える侍女達には当たりが強く、特にちょっと見た目の良い娘はいびり出す気の強さ。
口煩い貴族女性と渡り合うならこれくらいでなくては、とバルディログや彼の側近もむしろそれを推奨していたのだが。その彼等も、『聖女』の側近く仕えることを誓ったため一緒に魔境へ送り出されてしまった。
「くそ、こんなはずでは……」
歯噛みするバルディログだけでなく、彼と共に押し込められた青年達の顔色も揃って悪い。
彼等は彼等なりに、王の甥であるバルディログについて『聖女』を擁立することで自分達の地位の向上を図るつもりだったのだ。しかし色々な面で裏目に出、早々に離脱した者はまだ良い方。騎士だった男など部下全員からそっぽを向かれ上層部からも見放されて既に騎士団からは除籍されている。
ここでは魔物の襲撃が警戒され、武力は置かれているが正規の騎士団ではなく遊撃部隊が代わる代わる駐屯する形だ。その彼等も、『聖女』の屋敷やその住人とは距離を置いている。それがいっそう彼等の疑心暗鬼を煽っているが、上層部はじめ関係者はそこらを考慮する必要を認めていない。正直なところ、そこで大人しくさえしていれば最低限の仕事は全うできるのだから、実に恵まれた話ではないか、と面と向かって言われてそれで反論できない立場なのだ。
「そう言えば、『聖女』様はお元気でしょうか」
他者の存在を思い出せる程度には、紗江の状況も落ち着いた。先行きの不安もなくなったわけではないが、だいぶ薄らいでいる。
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