婚約破棄された魔女令嬢

あきづきみなと

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魔女令嬢、侯爵家を追い出される

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「それでは、わたくしに侯爵家を出て行けと」
ハーリット侯爵家の養女であり長女、セイラの立ち姿は決して悪くない。
華やかとは言えないものの真っ直ぐ癖のない黒髪、濃い青の瞳の整った顔立ちである。姿勢良くすらりとした身体は均整が取れており、質素なドレスは似合うものの、貴族令嬢としては些か質素に過ぎる。
養女である証拠に、彼女は父であるハーリット侯爵には全く似ていない。色彩も造型も似通ったところのない、それ以上に価値観が異なるのだ。
対照的にセイラの妹であり侯爵の実の娘、ノリエッタはその意味で父に良く似ている。華やかさと豪奢を好み、領地を良く治めるよりも領民から少しでも多く搾り取って豊かな生活を送る、それこそ貴族だと。その価値観を父から受け継いだ。
元々ハーリット侯爵領は、然程栄えてもおらず地味な土地だった。広さも侯爵領としてはギリギリ。
逆に隣接する森は常に実り豊かな、ただし強い魔獣が棲息する土地である。この森は古くから『魔女の森』と呼ばれ、ただびとの侵入を拒んできた。この森を所有できるのは『魔女』のみと言われ、事実上の空白地帯となっていた。
猟師や近隣の農民等が狩猟や採取に入るのは自由、ただし何が起こっても自己責任だ。近在の冒険者ギルドもそれを明記の上で採取の案件依頼クエストを出している。
そうした民間人の行動に制限はない、だが領主の私兵や国の軍隊など公の勢力がこの森に踏み入れば、強力な魔獣に襲われ異常な気象に見舞われて追い出されるのが通例だった。
それ故不可侵とされていたその森は、現在ハーリット侯爵領になっている。『魔女の森』の主というセイラが、養女になったためだ。そして彼女が侯爵家にきて十年、侯爵に言わせれば十年経てば『魔女の森』の所有権は正式に侯爵家のものになる、と。
この国の法律に則ればそれは間違いとは言えない。所有者の不明な土地は、十年統治すればその統治を行った貴族若しくは領主に帰属するものとなる、と法文に記載されている。
だがしかし、『魔女の森』は正確には『所有者が不明』ではなかった。その森は魔女のもの、というのは敢えて記載するまでもない不文律だったのだから。
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