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魔女令嬢、領地へ帰る
しおりを挟む王都の屋敷を追い出されたセイラはその足で領地に向かい、侯爵夫人に面会を申し込んだ。その過程に於いて王子の婚約破棄の件とノリエッタおよび侯爵からの絶縁宣言について夫人だけではなく、使用人にも説明済みだ。
「あなたには迷惑をかけますね……」
寝台に身体を起こしているものの、その女性の顔色は悪い。
色々気苦労が絶えないのだろうと、セイラは他人事のように思う。まあある意味では確かに他人事ではある。
寝台の住人である女性はハーリット侯爵夫人、彼女の義理の母に当たる。自分で子どもを産めなかった夫人はセイラと義妹の二人を育てたが、どちらも子育てに成功したとは言えない。
侯爵領に隣接した『森の魔女』であるセイラはまだしも、侯爵の庶子であるノリエッタは貴族令嬢としては明らかに教育に失敗している。
礼儀も身分も弁えない振る舞いや姉を含む『魔女』に対する蔑視、そして彼女の婚約者である王子に向かいあからさまに媚を売る態度と、悪評が広がっている。
ノリエッタおよびその父親は認識していないが、この国に於いて『魔女』は蔑視の対象ではない。人外の異能者であり、畏怖はしても蔑みは出来ない、そういう存在だ。
もっとも父親、ハーリット侯爵の生国はこの大陸でも例外で、『魔女』を排除する傾向が強い。そのためもあってか、近年は弱体化が著しいという。
『魔女』は自身の持つ能力以上に大自然の驚異的な力を借りることができる。言わば大自然の申し子、その意思を具現する者。その存在を軽んずる者を世界は拒絶すると言われて久しい。
セイラは『魔女の森』で見いだされた純正の『魔女』だ。その能力は未知数ながら、貴重な薬草採取からの秘薬作成、森の魔獣との関わり方等、優れた能力を示している。貴族令嬢としての能力ではないが、そもそも『魔女』たる彼女にそれを求めるのは筋違いであると、義父と義妹以外(或いは彼等の影響を受けた者以外)は承知していた。
「侯爵閣下は、十年経ったので『魔女の森』が領地に含まれることになった、とお考えのようです」
「……あの人は馬鹿なの?」
淡々としたセイラの報告に夫人は真顔で返す。もちろん彼女も『魔女の森』の価値とそれ故の特殊性を承知している。例え『魔女の森』を領地として治めたところで、森の魔女たるセイラがいなければ何の意味もない。
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